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『フェイク』(パロル舎)

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『フェイク』(パロル舎)
小沢正/文 ヘルマン・セリエント/画

先日訪れた青木画廊の書棚に並んでいて興味をもった1冊。

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青木画廊@銀座

まるで絵本とは言えない見事な絵画。青木画廊さんが何度も個展を開いたのも納得。
この異様な祭りのような世界感にゾクゾクする。

ストーリーは、謎めいていながらも、示唆にあふれ、現代社会の一面を切りとっている。


【あらすじメモ】
  

「ぼくの生まれ育った土地では、素顔をさらしたり、自分の本性をむき出しにしたりするのが、忌むべきことと考えられていました。」

だから皆、厚化粧したり、仮面をかぶったりしている。



この風習は、ある神話が元だという。
鳥の足を持つ魚に乗った騎士が、この土地に通りかかり、飢えに苦しんでいた民が、騎士を殺して、魚を食べてしまってから
亡霊を見るようになり、素顔を隠して暮らすようになったとか。

 

自分の顔に絶大な自信を持つハンスは、素顔のまま生きつづけることを決心したが、誰からも素顔だと信じてもらえず、
自分でも信じられなくなり、マスクをして、ペイントをしたら、心が晴れた。

「そうか、やはりこのほうが、ずっと楽なんだよなあ」

「ぼく」はママから「お面をかぶるのは、悪い空気を吸い込まないためだ」と言われている。

でも、子どもの頃、仮面を取り外した男のあとがカラッポだったのを見て、
「顔を隠すのは、私たちがカラッポだからだ」と思い始める。

 
アダムとイヴ



お面売りは大繁盛で、日に日に新製品が作り出されている

友だちのトーマスは、両親から「立派なお面をかぶっていれば、出世間違いなしだ」と超大型のお面をもらい、
得意になってかぶっていたら、首筋を痛めて、学校を休むようになり音沙汰がなくなった。



魔女風のおばさんは、変顔水「カワルーン」という薬を売り出して、評判を呼んだが、
いざとなると、客は変顔になる決心がなかなかつかず、注文は増えなかったとのこと。

 

この変わった風習の噂が広まり、観光客が押し寄せるようになり、
未来都市か巨大遊園地めいた雰囲気となった。

「ごらんなさりませえ。あれなるは、当地の資産家ボンザ氏のお住まい。
 自らを捨てて営々と働き続けること数十年、その成果が実り、
 あのように見事なマイホームを我が物とすることができました」

しかし、観光客も、テレビの取材班も、土地の魔力のせいか、自分の顔が次第に変わり始めることに気づいて逃げてしまった。



逆に、遊びのつもりでやって来て、居ついてしまう者もいた。親は泣いて戻るよう説得したが、

「ここへ来て分かったの。自分を隠して生きるほうが、ずっと楽だということが」

父の声はにわかに説教師か伝道師のようになり、

「我らはすべて、魚と鳥を殺し、肉を食べた者。
 百尋の布、千万の仮面をまとったとしても、その罪を覆い隠すことはできぬ。
 必要なのは、すべての装いを剥ぎ取り、真実の姿を取り戻すことなのだ!」


この言葉は「ぼく」の心も揺さぶった。

「一体、ぼくは、どのように生きていけばいのでしょう。
 このまま、ここにとどまり、居酒屋の亭主かなんかになるのも一つの道です。
 相手を見つけて、家庭をつくり、何人かの子どもたちにも恵まれて、
 そこそこ平穏無事な人生を送るはこびとなるのです」



「誰もが素顔で生きている世界。そこでの人々は、一体、どんな毎日を送っているのでしょう。
 そこに移り住めば、ぼくだって、生まれ変わったような新しい人間になれるのかもしれません」


休暇


ある月夜の晩、素顔らしきものがのぞいた観光客を見て、とてつもなく美しく思え、

「ぼくの中で、美の基準が狂いはじめたらしいのです」

「ぼく」は、外の世界への脱出を試みるも、すぐに魚の骨が目の前に現れ、
「どうあがいても、罪からは逃れられぬぞ」と言われた気がして、

その後、ママの声が聞こえて、

「あらあら、この子ったら、何を言うかと思ったら。さあ、風邪をひくといけないから、早く家へお帰り。
 明日また、新しいお面を買ってあげるからね」

と言われると、たちまちふにゃふにゃとなって、脱出は失敗に終わる。


「ぼく」は無念に思う一方で、ほっと安心していた。

「ほんとに一体、ぼくはどうしたらいいというのでしょう・・・」


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