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エーリッヒ・ケストナー『飛ぶ教室』(1933年)

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『飛ぶ教室』(1933年)(岩波書店)
エーリッヒ・ケストナー/著 ワルター・トリヤー/挿絵 高橋健二/訳
1985年 27刷

(以下は1997.3~のノートからの感想メモ

やっと本を読める休みがきて9日間で選んだのはケストナー2冊。
『いやいやえん』に似た素朴なイラストの描かれた自伝的作品で、
全編通じて重要なメッセージや、母親への想いがあふれる感動作。

「少年時代を忘れるな」

「子どもの涙は大人のより軽いとはいえない。むしろ重い時代だってある」

物語りをはじめる前の話まで書かれているところがケストナー作品のイイところ。
どんな状況で書かれたか、作者に血が通い、ライヴ感が伝わる。
母にせかされて、真夏の暑い最中、雪降る町の学校のことを書かなきゃならず苦労したことなど、
ケストナーの母想いは、苦労した分強いんだな。

書ききれない名文句の数々。まずはストーリー概要のみ。

▼あらすじ(ネタバレ注意

ドイツのギムナジウム(寄宿制の小学生上~高学年の学校)の面々。
xmas間近で演劇「飛ぶ教室」の稽古に励む仲間たち。

首席で、短気だが、正義感が強いマルチン、哲学肌のセバスチャン、
気の弱さを苦にしている小さなウリー、親友でボクサー志望、食いしん坊のマチアス。

母が家出し、父は「祖父母が待っている」と言って、息子ヨーニーを航海に出して、捨てた話から心が痛み涙が出る。

先生の息子クロイッカムが、近くの敵校の生徒に捕まり、書き取り帳を焼かれ、
一騎打ちはマチアスの圧倒勝利が条件。
それは守られず、敵側のリーダー、エーガーラントは、仲間に絶望し、自ら捕虜になるという。
マチアスらがクロイッカムを救出。その間、雪合戦で応戦。計画は大成功。

皆の尊敬の人、正義先生はいきさつを聞いて、罰の代わりに食事に招待し、
20年前、親友が、母が病気で学校を抜け出すたびに叱られ、身代わりに監禁された話をする。

その後、彼は医師となったが、妻子を失い、行方不明になった。
マルチンらは、もう1人の禁煙先生のことではないかと、2人を再会させる。



ウリーは、勇気を見せるため、梯子から飛び降り、脚を骨折する。
xmasには親が見舞いに来ることになる。

皆がなにより心待ちにしているxmasの帰省の日
家が貧しいマルチンは、「旅費がない」と親から手紙をもらい、泣かないと約束。
「泣くこと厳禁」と寝言にまでつぶやく姿はなんとも痛ましい。

xmas劇は大成功。
皆は帰ったのに1人だけ残ったマルチンから訳を聞いた正義先生は旅費を渡す。

悲しむ両親の前に現れる息子。
世界で一番幸福な家族のxmasで話は終わる



また丁寧な「あとがき」がある。
そこでは、作者がヨーニーと、養父になった船長が出会うというなんともフシギで楽しいエンディング。
話が本当になる瞬間、作家の頭の中では、もう書く前からすべての登場人物と物語りが詰まってるんだね。

ストーリーはシンプルながら、私はそのつどケストナーの言う言葉が好き。
できるだけ素晴らしい言葉をメモっておこう。

「なにかうまくいかないことがあっても、怖れず、不死身になりなさい。
 世の中は途方もなく大きなグローブをはめていますよ」


いつも同じシャレを言う老教師について
「教師はいつも変化してなくちゃならない。
 僕らには教師としての人間が必要で、2本足の缶詰が必要なんじゃない。
 僕らを発達させるなら、自分も発達する先生が必要なんだ」


ヨーニーが独り寝室で自分に言い聞かせる。
「5人の子を持ち、生活が美しくないなんて、そんなバカなことはない・・・」


全然、自分では笑わないのに面白いことを言うクロイッカム先生と、息子で生徒のルディとの会話も可笑しい。
「行われた一切の不当なことに対して、それを犯した者に罪があるばかりでなく、それを止めなかった者にも罪がある」

これは現代のいじめ教育にも十分使える言葉だ。


マルチンと母との手紙のやりとりは、泣かずにはいられない。
「ポストを空にした配達人は、鞄の中にどんなにたくさんの溜め息が飛び込んだか気づきませんでした」

ベク先生に「旅費でもないのかい?」と聞かれ、泣き崩れるマルチン。
「悲しさが少年のうなじをつかまえ、さんざんにゆすぶりました」


そして、とうとう家族のxmas。日本では勘違いな慣習になり下がっているが、
キリスト教徒にとっては、貧しさなど関係なく、
親子がたくさんの贈り物をし合う、本当に根深い儀式なんだね。

「クリスマスの天使、ベク」の描かれたハガキ2つの翼と、ふくらんだ財布を持つベク先生と、涙する少年の姿。
出発の合図をする駅長。感謝と尊敬の気持ちが率直に感動的に表われているこの絵と「10年後」の絵を見てみたい。


ゴットフリートという蝶に子牛のエドアルトも大切な登場人物。

なにより驚くのは、この物語りが学校生活の冬中のことでなく、
xmas間近の3~4日間にしぼられているにも関わらず、
たくさんのエピソードにあふれていること。

子どもの1日は、大人の1カ月か、それ以上に凝縮されているんだ。


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