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『風と木の詩』1巻(小学館叢書)

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『風と木の詩』1巻(小学館叢書)
竹宮惠子/著

とても有名とは知ってたし、もしかして昔読んだかも?ぐらいに思ってたけど、読んでなかったみたいだ
近所の図書館はマンガは扱わないのに、全10巻キッチリ揃ってるってことは、文学に値するからということだろうか。

いわゆるボーイズラヴものなんだろうけど、もっとも多感な少年たちを窮屈な寮生活に閉じ込めて、
規律だらけの生活で歪んでいく様は、現代の子どもたち、基地に閉じ込められた若い兵士らにも通じると感じた

セルジュが「カインとアベルだ」と自ら言うように、似て非なる2人が、今後どう展開していくのか、
全10巻だもんね、相当、覚悟して読まなきゃ。
図書館での貸し借りだから、返してしまったら、「アレ、そこどうだったっけ?」て見直せないし


【内容抜粋メモ】

「ぼくを満たしてくれるものは あのあつい肌と肌のふれあい ときめく心臓 愛撫さながらの呼吸」




[序章]
1800年。南フランス・プロバンス地方。
ジプシーの血が混ざった鳶肌の色で差別され続けてきたセルジュ・バトゥールは、
サン・クライザールのラコンブラード学院に転入してくる。

セルジュが3歳の時に結核で亡くなった父が青春を過ごした場所で、ここに来るよう遺言に残していた。
父はジプシーの娼婦と駆け落ちしたことは院長も知っている。





普仏戦争で片足を失った舎監のワッツは、父バトゥール子爵の後輩で、友だちだったといって驚く。母のことも知っていた。

「彼女はドゥミ・モンド(娼婦)の女性だった。だが聡明で、ぼくらはよく胸ときめかしたものだ。
 そして、アスラン(父)は、パイヴァ(母)と恋に落ちた」

セルジュは、母も父の死後、1年たたないうちに後を追い、叔母に引き取られ、バトゥール子爵を継いだと話す。
セルジュは、彼の肌のことを気にもとめないB棟監督生カール・マイセと仲良くなる。

ジルベール・コクトーは、ロクに授業にも出ず、食事も皆と一緒にとらず、1人部屋に生徒を呼んでは密会し、
レポートをもらうなど取引を繰り返し、すっかり学校の汚名扱いだが、院長ら上層部とも付き合っているため、誰からも咎められない。
カールは、ワッツに「もしかしてセルジュならジルベールを立ち直らせることができるかもしれない」と、同室にする。

ジルベールに執心だったスティンにいきなり殴られ、ジルベールはスティンの手を切る。


“ジルベール・コクトー わが人生に咲き誇りし最大の花よ
 遠き青春の夢の中 紅あかと燃えさかる 紅蓮の炎よ・・・
 きみはわが梢を鳴らす風であった 風と木々の詩がきこえるか 青春のざわめきが
 おお 思い出すものもあるだろう 自らの青春のありし日を・・・”


[第一章 薔薇]
3年連続落第生で雑学王、哲学者、事なかれ主義のパスカルは、カールに
「ジルベールは自分のからだで人を測るからね。級長さん、できるかい?」と言って、カールは動揺する。

 

その後、手足を縛られて傷だらけのジルベールを助けようとして、「チャンスさ、抱けよ」と言われ、
魔が刺したその瞬間逃げられる。その時からカールは自分の罪を責めて恥じるようになる。


“彼はきつく弦をはった黄金色の竪琴 選びぬかれた者のみに音色を聴かす・・・”



セルジュは父の形見のレッスン用の鍵盤も荷物の中に入れてきた

真夜中に部屋に戻ったジルベールは、吐いたものを喉に詰まらせて瀕死となり、パスカルに助けを請う。




“ぼくを否定する人間たち たとえそれが、ぼくを正しい道とやらに導こうとするものでも、ぼくは許さない
 ぼくがなに者かも知ろうとせず、そんな汚らしい思いで近寄ろうとするものなら、
 なおさら、このからだの中へ引き込んでやる!”

カトリック系の学校で必須科目のラテン語の試験で、カールは取り乱して抜け出してしまう。
心配したパスカルも「ラテン語は今や死語なり。人は世界の未来のために科学を学ぶべきなんです」と流暢なラテン語で語って席を立つ。

ジルベールは、乱暴者のジャック・ドレンに身を売る代わりに、また一人部屋になるよう、セルジュを痛めつけてくれと条件を出す。




北欧貴族の血をひき、「白い王子」と呼ばれる、生徒総監ロスマリネがトップ成績で、2位がセルジュだったために皆は注目する。
C級のセバスチャン・マイセ(カールの弟)は、そんなセルジュを尊敬し、挨拶にくる。

その夜、部屋に忍び込んだドレンは、ジルベールが約束を破ることを知っていて、セルジュにエーテルをかがせて眠らせ、ジルベールを襲う。
暴力にもひるまず、「人を呼ぶぞ!」と周囲を騒がせたことで、ドレンは破校処分となり、学校中から喝采を浴びるセルジュ。

ロスマリネ「わたくしロスマリネは、校長の名において私的制裁いっさいをまかされた生徒総監として厳重な処分を恐れぬものである!」
だが、ジルベールは被害者とみなされ無罪になったことに異を唱えるセルジュの意見は無視される。

「よせ、ロスマリネは優しい顔してるけど怖いんだから!
 学校ってものは縦社会なんだよ。校長―主事―舎監―監督生、上の者に逆らってはいけないと昔から決まっている」

その日から、ジルベールは授業に出たり、食堂に来たりして、周囲を驚かせる。
それは、セルジュを誘惑して陥れるためだと知っているカールに警告されるが、動じないセルジュ。

「大衆浴場」と呼ばれる談話室にもジルベールが現れ、たちまちイジメの対象とされ、火の中の栗を拾えと言われる。
助けようとするセルジュを「これは罠なんだ」と止めるが、その場もきりぬけるセルジュ。



[第二章 青春]

“彼らは青春のただ中にいる 性の境に立ち 大人への憧れと嫌悪を両手に
 未来へ続いていく万本の別れ道の前に立っている 自我を確立してゆく時 青春!”


ラコンブラード学院の生徒総数は1745名。うち約2/3が寮生。
A、B、C棟に分かれ、それぞれA棟(16歳~19歳)、B棟(12歳~15歳)、C棟(8歳~11歳)。
月に1度だけ外出許可が下りる。田舎の街はずれに遊びに行くのが生徒たちの唯一の楽しみ。

ジルベールが心配だと言って、気を悪くした友人たちに向かって、
「ぼくは別にジルベールを嫌いじゃない。だから話すよいつだって!聞きたくないなら僕と付き合うのを止めたらいい。
 どっちが重い? 僕と、君が嫌な思いをせずに済むことと。それを選んで決めてくれ」とその場を去る。

(いいなあ。この強さと優しさ、忍耐強さは、彼がずうっと差別を受けて育ったために身についた貴重な財産なんだ。
 私はセルジュの強さが欲しい。

街に友人とともに出かけようと誘うセルジュ。
ジルベール「ウソをつかないね? ほんとに僕を連れてくね?」

だが、友人に拒否され「どうしても連れて行きたいなら2人で行けよ」とパスカルに言われ、
「そうだね。仕方がない」と言った言葉に傷つき、「正義の味方の正体みたり。ご都合主義!」と戸を閉ざすジルベール。

“許しはしない! いったんぼくを傷つけたら弁解は認めない。屈辱の傷口は生涯癒えやしないんだから”

アルルの酒場で飲みほうける上級生。
ピアノを見つけて弾くセルジュのもとに、ジルベールそっくりな少女がやって来る。
「イレーネ嬢さま。人さまと気安くお話しするものじゃありませんよ」と先生に咎められる。



セルジュは上級生から、この酒場であった事件のことを聞く。

ジルベールは、ロスマリネと縁戚で、詩人のオーギュスト・ボウを叔父にもつ、インドシナ方面の大商人の一人息子。
11歳で転入してきた時は大人しく、その美貌に皆虜になった。

どうした理由か、上級生とこの酒場に来て、酔っ払った大人たちにからまれ、全身裸にされ、隙を見て、相手の手にフォークを突き刺した。
その話を聞いたセルジュは「ぼくなら、そんな屈辱には耐えられない」と皆の前で涙を流す。

“ぼくらは同類なんだ。君が僕に対してなんの罠を張ろうと、
 それは君が心を踏み荒らされまいとして懸命になって張り詰めている防御壁だ。
 それと分かっている限り、僕はそれを突き破るよ。罠ならそれに飛び込もう”



ジルベールは、セルジュが助けに来ると分かっていて、ブロウとアルルの街にやって来て、半裸のままキスを見せつける。
友人クルトはセルジュに怒る。
「まるで恋人をとられたみたいにすっとんでって、自覚がないなら言ってやるさ、
 君はあの汚いホモ野郎にイカレちゃってるんだ!」

カールにたしなめられて、自分も“汚らしい売女!”と言われてきたことを思い出すセルジュ。

「初めて僕を見る者は、この肌の色が僕の中身まで黒く染めると言わんばかりだ。
 ジルベールがあんなことをする裏側でどんな思いをしてるか知ろうともしないで!」

カールは自分も一度、罠にかかったことを告白する。

「彼に手をさしのべようとする者まで振り払って・・・それは彼が身を守ろうとする一つの方法じゃないのか?
 みんな攻撃されてうろたえる、そして逃げていく。そうやって彼は人を選んでいるんじゃないのか?
 もし、うろたえずに受け止めたら? 僕が知りたいのは、ジルベールの体じゃなくて心なんだ。
 大事なのは、罪を犯さないことではない。罪を犯すまいとして、真実を見誤ることだ。
 難しいけど、好きな言葉だ。父が日記に書いてたんだよ」

その夜、セルジュはジルベールにキスされ、夢と思われたが、翌朝、香水のかおりで抱き合ったことが真実だと分かる。
それでも食事に誘うセルジュ。



リリアス(上級生の間で人気トップのアイドル)は「からかい甲斐がありそうだ」と触手を伸ばす。
セルジュの郵便受けからリリアスの薔薇の封筒が出てきたのを見て、うろたえるジルベール。

リリアスの誘いを受けて、温室でキスされそうになって、争い、ガラスで手を切り失神するセルジュ。
ワッツの話だと、まるで犬が主人をどこかに案内するように、ジルベールが無言で温室に連れていったのだという。

 

“彼は見切っている。ぼくら・・・こちら側の人間すべてを!”

セルジュの疲れが精神的なものだから、こっちの部屋に越して来いというワッツの誘いを断る。

「ふつうの相手と違うんだよ」
「だからこそです。だからこそ裏切れない。彼にとって裏切りは死にも等しい」

セルジュのベッドに寝て、もう彼は戻らないと思っていたが、戻ってきたので困惑するジルベール。





[巻末イラスト集]あり

 
この2枚は、巻頭のカラーページより


[解説抜粋メモ~河合隼雄]
(誰々が死んでしまうとか、1巻目からのネタバレはツライんですけど・・・

児童文学に関心のある人たちの集いで、中年の女性が「先生がなぜあんな“変な”本を推薦されるのか分からない」と言った。
“変な”という表現は、不道徳な、という意味がこめられていたと思う。

日本が鎖国している時に、南極の話をしても、相手にしないか、“変な”ことを言う奴だと馬鹿にするくらいがオチだろう。
それは、自分の日常体験から類推するには、あまりに遠く離れすぎている。

本作は、少女の内界を描いた傑作だ。その深層には少年たちの群像がある。

セルジュとジルベールはまったく対照的な性格だ。
その対照的な存在は、内界において、もつれ、合体し、反発し、ねじれて存在している。
少女の内界は、実に凄まじいものだ。

男子の成長の物語は、もっと異なる形で語られるだろうし、マンガというジャンルは、あまり適当でないようにも思われる。

多くの少女たちは、このような内界の存在にあまりとらわれずに、そこを通り越してゆく。
少し、それに足をとられ、何かおかしいと思っているうちに通り越した女性もあろう。
しかし、少数の女性が、この世界にひきいれられる。

そうなると、その少女は、鎖国時代の日本で、南極のことを語らされる状況に陥り、
言葉を失い、せっかく表現しても、周囲から拒絶されるだけになる。
すると、その少女は登校拒否したり、無口になったり、食事をしなくなったり、
要は、大人の言う「困った状態」になる。

こんな時、本人が強かったら、一人で登校し、最小必要限のなすべきことをして自分の世界を守るだろう。
あるいは、表面的には普通の生活をしつつ、自分の世界を守ることのできる人もいる(私はこっちかなぁ

しかし、「困った状態」になった時、本人も困って、「自分は異常だ」「無能だ」と思いこんでしまうこともある。
そんな時、本書を見れば随分と救われるのではなかろうか。
自分は孤独ではなく、世界を分かち合える人がいると分かり、勇気づけられる。

本書を描いてから発表するには、7年間発表を待ったと竹宮さんは言った。

一人の少女が大人になるということは、これほどの酷さと痛ましさを背後に持っているのである。
それに気づかず、少女を早く大人にしようとする親や教師は、
その少女の魂を傷つけ、むごく痛ましいことをやってしまうのである。

長い長い、2人の少年の葛藤の末、生き残った一人は、死んだほうの少年を永久に忘れることなく生きるという筋道は、
適切に少女の成長の軌跡を物語っている。

そして、死亡した少年を忘れてしまった時、その人はまったく面白味のないオバサンになってしまうのである。

(なかなか深い心理分析だな。男性なのによく分かるね



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