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星野道夫『未来への地図 新しい一歩を踏み出すあなたに』(朝日出版社)

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『未来への地図 新しい一歩を踏み出すあなたに』(朝日出版社)
星野道夫/著・写真 ロバート・A・ミンツァー/訳

「作家別」カテゴリーにも追加しました。

※本書は、1987年3月に、星野氏の友人だった教師・遠田次郎氏から頼まれて行われた
 大田区立田園調布中学校での卒業記念講演「卒業する君に」(2003年 スイッチ・パブリッシング刊
 『魔法のことば 星野道夫講演集』に収録)に、英訳をつけて編集したものです。




肌寒い季節になると、星野さんの文章が読みたくなる。
主要な著書、写真集は読んでしまったから、亡くなった後は、
これまでの著書や写真のまとめ、重複が多いけれども、

本書は、中学校での講演をおこした本の抜粋なので、
同じ思い出、風景を語っても、まるで生の声をその場で聞いているようで、
新しい追加情報もあったり、別の表現があったりして嬉しかった。

なぜか、裏半分は、英訳で、裏表紙は英語ver.。

星野さんは、話も上手かったんだなってことが分かる。
気負わずに、仲間に話すような口調で、語りたいテーマの要点を具体的な例をあげて、
アラスカの圧倒的な魅力、自然への敬意、共存などについて、
星野さんが人生を通して一貫して伝えたかったメッセージが込められている。

話を聞いていると、私もその世界に入りこんだ気持ちになれるのがイイ。


そろそろ書店等では、早くも2016年のカレンダーを売り始めている。
ここ数年はずっと、山と渓谷社から出しているものを買って癒やされてたんだけど、
今年から止めてしまったようで、残念。

2015年は、文化堂印刷さんのを買ったけど、すでに見慣れてしまった写真が多かったので、
正直、ちょっと物足りなさがあった(すみません
来年はどうしようかなあ・・・また山と渓谷社から出して欲しいんだけど。


【内容抜粋メモ】

子どもの頃は、ジュール・ヴェルヌや、『デルスウ・ウザーラ』などを読んでいた

アラスカのシシュマレフという村の写真に惹かれ、「代表者」という意味の「Mayor」宛てでアラスカの村7箇所に手紙を出した
住所の宛名がメチャクチャだったせいで半分ほどはそのまま戻ったが、半年後、シシュマレフ村のエスキモー家族から返事が届いた。

ひと夏過ごして、あっという間に3ヶ月が過ぎた。
この経験でよかったことの1つは、地の果てのようなところにもヒトの生活があると実感できたこと。

もう1つは、自分で想像できる大きな自然をはるかに超越した、ものすごく大きな自然を見たこと。



大学3、4年になると同級生たちは、会社訪問や、就職について話していたが、僕の気持ちは全然違うところにあって、
時々こんな風でいいのだろうかと考えてしまうくらいでした。

その頃中学時代からの親友が山で遭難して亡くなった。このことが大きな転機になった。

自分の一生はこれからずっと続くと漠然と思っていた意識が崩れ、
ある日、突然、不慮の事故で死んでしまうということもあると気づいて、
自暴自棄にならず、だからこそ自分の気持ちに正直になり、人生を大切にしようと思った。



大学卒業後、写真家・田中光常さんの助手として2年間働いた。

僕は経済学部を卒業したが、改めて大学に再入学して自然について学びたいと思った。
調べると、アラスカ大学に「野生動物学部」があり、受験した。
が、30点足りずに不合格の通知が来た。

僕はそのまま日本を出てアラスカに行き、学部の教授に直談判し、入学が許可された。



アラスカ鉄道は、世界でたった1つ「フラッグストップ」ができる。
どこからでも手を振って乗ることができ、どこでも降りれる。
実にゆっくりとした遅い鉄道なのですが、毎日1便だけ走るこの鉄道が本当に大好きで毎年必ず一度は乗ります。



アラスカには無数の湖があって、カヤックで移動するにはいいところです。
アラスカのヒトたちにとって「遊ぶ」ということは、自然にどう相対するかということなんですよね。

「グレイシャーベイ」の水は温かそうなのですが、実際はものすごく冷たくて、
その海に落ちると15分で死んでしまいます。



こういう所を旅していると、水を得るのが非常に大変。そこで氷河が貴重な水になる。
ピッケルで砕いて、火にかけて、水に戻す。

氷河は何千年以上も前に山の上に降った雪が圧縮されて、氷となり、
氷河となり、また長い時間をかけて流れ出て、海に崩れ落ちる。
その水を自分が飲んでいるというのは、ものすごく大きな時間の流れを感じます。



アラスカの自然の中でも一番見てもらいたいのは、やはりオーロラ
オーロラを見ていると、僕らの持っている小さな悩みとかが本当に取るに足らないものに思えて、
宇宙の神秘さ、世の中の不思議さに心が満たされます。



アザラシはものすごく匂いの強い動物で、シロクマは10km離れたところから匂いを嗅ぎ分けることができる。



「ブッシュ・パイロット」
降りる時に一番最初にすることは、迎えに来てくれる日時を確認すること。
だいたい1回の撮影が3週間から1ヵ月なので、これをいい加減にしておくと大変なことになる。



「カリブー」は、陸上の哺乳動物の中で一番長い旅をする動物。
春は北のツンドラ地帯まで、秋は南の森林地帯まで、距離は大体1000kmほど。

移動の理由の1つは、出産。
同じ時期にオオカミも出産するから、カリブーはオオカミの生息地から離れる。

北極圏はすごく広く、天候状況によって移動のしかたは様々に変わるから、
カリブーに出合えるかどうかは、どこにベースキャンプを張るかがとても重要。
実際に会えたのは、4割くらい。



エスキモーやインディアンにとっては、アラスカの動物というのは見て楽しむものではなく、
生きていくために殺して食料にしなくてはいけない。

僕たちの生活ではスーパーマーケットに行って、きれいに包装された肉を食べるが、
彼らと一緒に狩猟をして、殺した動物をナイフで解体していくと、肉を食べるというのはこういうことなんだなと実感します。
僕らの生活では最後の部分しか知らないことが多いですよね。
(うん、大量生産&大量消費になってからおかしくなったんだ。鶏肉が食べたいなら、自分で殺して、羽や内臓をとって食べてた頃のほうがまだ正しい気がする




テントにクマが近づいてきたことは何度もある。クマもびっくりして一目散に逃げて行きました。
やはりクマも人間が怖いんです。クマも人間なんて襲いたくないんですね。

でも、急に出くわすと、クマは恐怖のあまり2つのうちどちらかの行動をとる。
怖くて逃げるか、怖くて襲うか。



クマの研究をしている友人がいて、ある日山を歩いているときに目の前にクマが出た。彼は落ち着いてクマに話しかけた。
「俺たちは大丈夫だ。何もしないから、向こうへ行きなさい」
クマはそのままゆっくりと森の中に消えた。

クマが人を襲う時はどういうときか。
こちらが妙に怖がっていたり、緊張していると、それはクマにも伝わる。

クマで一番気をつけなくてはいけないのは、やはり親子。
親子の間に知らずに入ってしまうと、親は子どもを守ろうとして100%に近い確率で人間を襲います。
アラスカでも毎年クマによる事故があるが、それは親子の間に入ってしまったケースが非常に多い。



クマは本当の意味での冬眠をする動物ではなく、うつらうつらしている。
本当の冬眠は、ホッキョクジリスのように0度近くまで体温を下げて、新陳代謝ももっと下げた状態。



アラスカの夏はずっと太陽が沈まない
日記をつけていないと何月何日なのか分からなくなってしまう。
キャンプをしている時はとくに困る。



アラスカの夏には、信じられないくらいのサケが上ってきます。
クマはサケの一番美味しいところしか食べない。どこだと思いますか。頭と卵なんですよね。

アメリカ人が魚を食べる時、どこを捨ててしまうかというと頭と卵なんです。
僕はアメリカ人に「あなたたちは魚の食べ方を知らない人種だね」とよく冷やかします。
この時期で一番の楽しみはサケを捕ってご飯を炊いてイクラ丼を作ることですね。

サケはエスキモーの大切な食料になる。
一番美味しい食べ物は、エスキモーの作る「ドライ・サーモン」。
サケを煮たり焼いたりしても3、4日で飽きてしまうが、スモークにすると毎日でも飽きない。





動物の種類がたくさんだと関係性は複雑になりますが、アラスカでは極寒に耐えられる動物しかいない。
種類が少ないので、まるで1本の線のように単純なのです。

1つ1つの動物は厳しい条件の中で生きているので強いですが、全体の生態系としてはとても傷つきやすい。
動物が1種類でも激減すると、全体に影響が出る。
ホッキョクジリスは他の動物によく食べられるので、その関係性がとくに表れる動物です。


カレンダーの10月は、私の大好きなホッキョクジリスさん。かなたを見て、何を考えてるの?


冬はマイナス50度まで気温が下がるので、大袈裟な話ではなくて、
人と話してニコニコにしていると顔の筋肉が戻らなくなって、笑顔のまま固まってしまうほどです

毎年、何月何日何時何分何秒に春が来るのか、アラスカ中で賭けが行われる。

冬至を境に、7、8分ずつ日照時間が長くなる。
3月頃に小春日和のような日が突然来ることがあるが、そんな日はアラスカの人々は
仕事も勉強も放り投げて、一日中太陽を浴びます。それほど春が待ち遠しいのです。



これから半年間ほど雪や土の上に寝なくてはいけないんですけれども、そういうことがまったく苦にならない。
嬉しくて嬉しくてしかたがない。

自分が本当に好きなことをやっていれば、他人がそれを見て辛そうだと思っても、本人にとってはそれほどではないですよね。
好きなことをやるというのは、そういうことなのだと思います。

いい大学に入って、いい会社に入る、そういう形も人間の生き方の1つでしょう。
でも、もっといろいろな生き方を選択する機会がある、というということをいつか分かってくれたらと思っています。

僕らの人生というのは、やはり限られた時間しかない。
本当に好きなことを思いきりするというのは、すごく素晴らしいことだと思います。




【解説内容抜粋メモ~心を耕してくれる永遠の人 柳田邦男

星野さんは、写真家であって、ただの写真家ではない。
エッセイストであって、ただのエッセイストではない。
探検家であって、ただの探検家ではない。
思索者であって、ただの思索者ではない。
それらすべてを兼ね備えた、行動する文明批評家とでも言おうか。スケールが大きいのである。



大きな夢を追う気持ちは、多くの場合、少年時代を過ぎて、青年期へと成長するにつれて、
だんだんしぼんでしまうが、彼は逆にどんどん膨らませていった。

実際に現地に行って、自分の目で確かめる、そううい感性や想像力が豊かな人だった。

3つ目は、勇気をもって行動を起こす人だった。

10代の若い時に、思いきったチャレンジを経験することは、
その人の生涯を通じての生き方にまで影響を与えるほど重要な意味を持つ。

4つ目は、行動中、撮影中でも、考える習慣を持っていたこと。
写真に、決して説明ではない深い思索をにじませた言葉を添えると、
途端にその写真が、命や、地球環境、地球生成の歴史などに関する
哲学的思索をも塗りこめた奥行きの深い作品として、メッセージ性を帯びてくる(そうなんだよね、そこが魅力

命、人生、大自然について深く考える、という心の習慣が、感性の豊かさと結びついて、
写真を撮る時の瞬間的な判断、動作に投影されるのだと、私は考えている。



本を読み、深く考える習慣は、言葉による表現者としても成長させた。
星野さんのエッセイなどを読むと、素晴らしい言葉や文章に頻繁に出合うので、
その都度、思わず傍線を引いてしまう(分かる!

本を読む習慣は、人生において本当に大事だと思う。
多読、乱読ではなく、好きな本をじっくりと読む。



私がとくに興味を引かれるのは、日常性を超えた大きなスケールの「時の流れの感覚」と、その意味するものについて。
自分の存在、過ごしている時間が、何千年というスケールの氷河と比べたら、実に小さく、
一瞬に過ぎないものだと全身で感じることができた瞬間に、
人は心底から謙虚な気持ちを持つようになるものである。

都会の慌しい生活の中で想像力が枯れてしまった私たちには、絶対に体験できないものだと思う。



また、生き物や自然界のすべてのものとの「共有する時間」についても鋭く感知し、大切にしていた。
「すべてのものに平等に、同じ時が流れている」と感じ、
命あるものだけでなく、山、川、吹く風さえも、自分と親しいつながりのあるものとして感じるようになる。

星野さんの文章と写真は、際限なく私の心を耕してくれ、慰めてくれる。座右の書として手離せないのである。
考えてみれば、星野さんの分身である著書や写真集と私との間にも「同じ時間が流れている」ではないか。


【おわりに 内容抜粋メモ~星野直子さん】
夫にとって最初の講演が、大田区立田園調布中学校で行われた。

夫には若い人へ伝えたい2つのメッセージがあった。

1つは、なるべく早い時期に、人間の一生がいかに短いものかを感じとってほしいということ。
もう1つは、好きなことに出合ったら、それを大切にしていってほしいということ。



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