■ハヤカワepi文庫『カメレオンのための音楽』(早川書房)
トルーマン・カポーティ/著 翻訳/野坂昭如
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
野坂さんは戸川純ちゃんがカバーした♪バージンブルース を書いたり、
『青いオウムと痩せた男の子の話』などの戦争童話集を書いたり、多才な人だなあ!
その野坂さんがカポーティを翻訳してるっていうのにビックリ。
前回読んだ『叶えられた祈り』(新潮社)が最後だと思っていたら、その後、短編を書いてたのか。
本書が生前出版された最後の著作なんだ。
未完になった『叶えられた祈り』の第2章になるはずだった「モハーベ砂漠」が収録されている。
冒頭には、著者がどのように作家の道を歩んできたかが完結に書かれているのがとても興味深い。
天才肌のように見えて、実は、さまざまな手法を幼い頃から書き続けて、挑戦、模索しつづけて、
それらの文体などをいち読者のように客観視しているのもスゴイ。
その結果、自分の作品のほとんどにダメ出ししちゃうのは、厳しすぎると思うけど、
それだけの本を読む目を持っているという自負の裏返しでもあり、同時に意外な謙虚さも感じた。
『叶えられた祈り』では、主人公だけがP.B.ジョーンズという名で出て来て、
他は実名だったり、名前を変えたりしていたのが斬新だったけれども、
この短編ではさらに進めて、自分と周りを日記のようにさらけ出して、かつ文学として成立させる試みをしているってことなのかな。
▼あらすじ(ネタバレ注意
Ⅰ カメレオンのための音楽
序:
あの頃、私の興味は4つ。読書、映画鑑賞、タップダンス、絵を描くこと。
文章を書き始めたのは8歳の時。
だが、書いたものの、出来不出来の差がいかにもはなはだしいと気づいて興味を失った。
若いうちは、日に4、5時間ペンでの修行をした。
音楽を聴く、絵画を観る、日常に眼を配る。
実のところ、当時の文の中で最も面白いものは日記。
『遠い声 遠い部屋』(1948)が好評で、ブックカバーに載せたエキゾチックな写真のせいで、
その後ずっと私についてまわるある種の名声のきっかけにもなった。
この本の商業的成功は写真のせいだという人は多い(驚
1948~1958の10年間、私はあらゆる小説作法を試みた。
成功して得るものより失敗して得るもののほうが多いという見込みは真実である。
本質的には1つの芸術形態と見なしているジャーナリズムに、以前より魅かれていた。
これまで紀行文か、自叙伝に限られていたという単純な理由で。
ジャーナリスティックな小説。
ヘンリー・ジェイムズ著『ザ・ミドル・イヤーズ』
「われわれは今暗闇にいる、できることはし尽した。あとは狂気の文学しかない」
自らをそこに投げ入れて「観る」しかない。
6年間神経をすり減らしながら体験をまとめた“ノンフィクション・ノヴェル”は、後にノーマン・メイラーらも取り入れた。
1968~1972までは、自分や他人の手紙、日記を改めて読んだり、整理することに費やした。
1972。まず最後の章から始めた『叶えられた祈り』は、事実を虚構らしく装う常套手段の、
ありふれた実話小説ではない。正反対、嘘いつわりを可能な限り排除した。
論争は文芸作品の価値と無関係な、社会的利害を巻き込むことでしかない。
もとより社会非難は覚悟。
しかし、私は1977に中断した。私は創作上の行き詰まりと私生活上の行き詰まりに悩んでいた。
事実と本当の真実との相違についての理解のしかたなどに新たな視界が開いた。
『冷血』も手抜き、鈍い、すべてを注ぎ込んでいないとよく判った。
私は書き続ける。
映画脚本、戯曲、ルポタージュ、詩歌、短篇小説、中篇小説、長篇小説。
『叶えられた祈り』に戻り、章を1つ削除し、2つ書き改めた。私は初心に戻らなければならなかった。
『冷血』で最も困難だったのは、私自身を完全に消し去ることだった。
後に、ノンフィクション中篇小説、短篇小説を書いた結果が本書である。
******************
「カメレオンのための音楽」
カポーティは夫人の部屋で知的な会話をしている。
夫人がピアノを弾くとカメレオンが大勢集まるってフシギ。
「カリブ海で蚊のいない島はマルティニーク島だけ。しかも、誰にもその説明がつかないの」(素晴らしい島だなあ!
カポーティの親友はここでポルトガル船員2人に撲り殺された。
マルティニークのカーニバルはケタ違いでひっちゃかめっちゃか。
「ジョーンズ氏」
1945。ブルックリンの下宿屋で数ヶ月暮らしていた時、隣りのジョーンズ氏は一風変わっていた。
ウォール街のオフィス勤めといった姿で、下宿から一歩も出ず、お客はなにかしら相談をして、彼はそれで生計を立てている。
そのジョーンズ氏が消えた。
10年後、モスクワの冬。地下鉄の前に座る男がジョーンズ氏だと気づく。
下宿では脚が悪かったのに、その足取りはしっかりした大股だった。
(眉村さんの書くSFみたい
「窓辺のランプ」
結婚式に招待され、酔った挙句、ケンカしてクルマを木にぶつけた時点で、
乗せてもらっていたTC(カポーティ)は慌てて降りた。
冬、やっと田舎家を見つけて、事情を話すと、白髪のお婆さんは快く泊めてくれた。
40年間連れ添った仲が良かった彼女の夫は、酔っ払い運転の車に轢かれて亡くなった。
とても話が合って、猫の話になり、見せてくれたのは、冷凍庫の中に冷凍され保存された数十匹の猫。
「私、いなくなってしまうのが耐えられなくて。少し、おかしいってお思いになってるんじゃありません?」
たしかに少し狂っている。いや輝いてる。あの闇の中の窓辺のランプのように。
「モハーベ砂漠」(これが『叶えられた祈り』の1つの章だとは思えないなあ・・・
精神分析医ベンツェンは、患者のサラと一線を越えた関係。
サラの友人で美容師のハイメイは、恋人カルロスが去ってしまい「カルロスを殺してしまおうと思ってるんです」と明かす。
「彼は従妹アンジェリータと結婚して普通の家庭を望んでるんです」しかも、アンジェリータは3人一緒に住もうという。
サラは、ベンツェンにメアリーがひどい夫をもったことを言う。
夫が子どもをつくってほしいと言い始めてからギクシャクしだした。
メアリーは子どもの頃から子どもが怖くて、1人産んだ後、精神に異常をきたした。
2番目は中絶したいと言ったが、離婚すると言われ、出産時、母子ともに生死をさまよい、それきり夫と疎遠になった。
サラは、去り際にベンツェンとの別れをサラっと言う。
「ぼくの踵、毛深くなんかないぜ」
「いいえ、そうなの。そこらの駄馬はみんな、踵に毛が生えてるの。奥さまにくれぐれもよろしく」
サラは、夫ジョージが、銃で自殺した父親似であることに惹かれていた。
ジョージは、アイヴォリー・ハンターの話をする。
モハーベ砂漠をカラカラになって歩いていた時、盲目の老人シュミットに会った。
妻のアイヴォリーに砂漠に置き去りにされたという。妻はメキシコ人の季節労働者フレディとグルだった。
クラブで女給をしているハルガは、2人の関係をシュミットにぶちまけた。
ある時、妻はトレーラーでもっと涼しいところに移ろうと言い出した。
そのトレーラーにフレディが隠れていた。
サラとジョージは、互いの不倫を全部話しあう仲で、夫の相手は妻がお膳立ていていた。
「もてなし」
TCの叔母メアリー・カーター夫人は、誰にでももてなす女性だった。
家に泊めた宣教師は、食べ物をあるだけ食べて、食人族の話などして、叔母は1ヵ月ほど具合が悪かった
囚人をもてなしたこともある。その2日後、その男は“二連発銃のバンクロフト”と呼ばれるお尋ね者だと判明。
次は、ジラという娘。夫が違う女と家を出て、子どもと一緒に探して歩いているという。
なかなか夫は見つからず、近所のやもめスミス氏を紹介し、2人は結婚した。
「くらくらして」
ファーガソン夫人には魔力があると噂があった。
夫人は6人の子連れの未婚女性。長男スキーターの父親は黒人だったため、父は公の場で娘に酷いお仕置きをした。
そんな下女であるにも関わらず、その魔力のおかげで、誰もが夫人を尊敬していた。
8歳のTCには、どんな人にでも言ってしまったらおしまいの秘密があって、相談したくてたまらなかったが、夫人には無視されていた。
TCの祖母は、若くして寡婦となり、3人の子を育て、TCをこよなく可愛がっていた。
夫人は、祖母がいつも肌身離さず身につけているなんてことない宝石に目をつけ、
スキーターがやって来て、TCに祖母の宝石を盗んできたら、母親に会わせると言った。
TCは迷った挙句に宝石を盗み、夫人宅に行き「男の子なんて嫌なの。女の子になりたいんです」と明かした。
私は、奇妙な性癖や風変わりな好みに蝕まれた中年となった。
祖母の葬式に出なかったことで、父に罵倒された。
「この愚か者。お前の写真を手にして亡くなったんだぞ」
Ⅱ 手彫りの柩
「手彫りの柩~アメリカ的犯罪のノンフィクション解釈」
(極上のミステリーなのにも関わらず、ノンフィクションであり、著者は明智探偵でもないため、終わり方がなんだかモヤモヤした。
1975年3月。TCは「プレーリー・モーテル」に滞在し、州捜査局の刑事ジェイクが知らせてきた事件に関わり始めた。
事件が起こる前、かならず本人のもとに手彫りの柩が送られてくる。中には、その人の日常のスナップ写真が入っている。
最初の被害者は、ジョージ&アメリカ・ロバーツ夫妻。クルマから飛び出してきたたくさんのガラガラ蛇に全身を噛まれて、
ハロウィンのような姿で発見された。ヘビにはアンフェタミンが注射されていた。
2番目の被害者は、その3ヶ月後。バクスター夫妻とホーガン夫妻。
地下室に閉じ込められて放火され、焼け死んだ。ホーガン夫妻は事件とは関係なく巻き込まれた。
3番目は、ジェイクの旧友クレム。クルマで自宅に戻る途中、首と胴体が真っ二つに切れた。
その死体の第一発見者は、彼の息子だった(涙
クレムは、事件の相互関係で「川が関わっているのではないか」と言った2日後のことだった。
自宅のそばには、ちょっと見分からないような針金がとぎすまされて張られていたという。
その4ヶ月後、パースンズという検視官は自殺と断定された。彼の妻は、夫によってモルヒネ中毒にされていた。
パースンズの飲んだのは液状のニコチン。非常に純度の高い、速効性のある、無色無臭の強力な毒物。
ジェイクは、書棚からマーク・トウェインを取り出して、引用した。
「神によって創造されたすべての生物のうちで、人間こそはもっとも忌むべき存在である。
すべての生物のうちで、悪意を有しているのはただただ人間のみである。
そしてそれは、あまたある本能、感情、悪徳のうちでもっとも醜悪なものである。
人間は、意識的に苦痛を与えることのできる唯一の生物である。
同時に、自然界で卑劣な心をもつのは人間だけである」(残念ながら、ある意味真実だな
ジェイクは、犯人がクウィンだという。
蛇を売るスネーク・ファームの1つの女主人に写真を見せたら、クウィンだとハッキリ答え、
蛇にアンフェタミンを注射する方法を教えたのも彼女だった。
ジェイクは、小学校教師アデレイド・メイスンに心底夢中で、2人は来年の夏に結婚する約束をしている。
アディいわく
「1年生を教えるということは、人生の第一歩を踏み出すのを見守ること。
全教科を教えることができるし、その中にはしつけも入る。
いまどき家でちゃんとしつけを学ぶ子はほとんどおりませんしね」(同感
そのアディのところにも柩が来たが、もう5ヶ月が経つ。
アディは、未亡人の姉メアリリーと同居していて、姉だけでなく、地域のほとんどはクウィンを尊敬している。
クウィンは、第二次世界大戦中、海兵隊の大佐で、広島に落ちた原爆犠牲者よりも多くの日本人を殺害した。
その戦時の手柄のために英雄だった(なんて英雄だ・・・
終戦直後、クウィンは所有するBQ牧場に入って牛を盗もうとした2人組を射殺。
だが、2人は牛泥棒ではなく、ギャンブラーで、クウィンは莫大な借金をしていた。
ジェイクは、TCをアディに紹介する。アディもクウィンが犯人だと確信している。
殺害動機は、ブルー・リヴァーという川。
支流には川に頼っている多くの牧場経営者がいて、ブルー・リヴァーに分水路を設けるべきだと言い、クウィンは猛烈に反対した
その後、2年間、干ばつに襲われ、町議会で票決を下した。被害者は全員そのメンバーで、川の方向転換を決議した者だった。
反対したのはトム・ヘンリーだけ。まだ殺されていないのは、アディ、トム、郵便局員のオリヴァー・ジェイガーの3人。
オリヴァーはクウィンの又従兄にあたる。
ジェイクは今では、クウィンと仲良しのようにチェスをやったりしているが、
事件の糸口を探し、必死にアディを守っている。
アディに長い船旅をすすめたこともあったが、「鮫を捕まえるためには、餌がなくちゃ」と言われたという。
TCは、ジェイクとともにクウィンの屋敷にチェスに招かれる。
クウィンを見たTCは遠い昔に一度会っている気がした。
クウィンは従妹のアニタと結婚したが、遠くに愛人がいて子どもが4人もいることが後で分かる。
チェスの最中の会話で、クウィンがライカでスナップを撮るのが趣味だと分かる。
TCは、5歳の時、ボビー・ジョー・スノーという牧師に無理やり川に投げ込まれて洗礼されたことを思い出し、
その男がクウィンにソックリだと分かり身震いする。
その後、TCは各国を渡り歩くうちに、ジェイクとアディの結婚式に出るのを忘れていたことに気づき、電報を打った。
やっとNYに戻って、ジェイクからの手紙を受け取り、8月にアディが死んだことを知る。
姉妹でブルー・リヴァーで泳いでいて溺死したという
姉は「祖母は絶対に“死”という言葉を使いませんでした。いつも“呼び戻された”と言っていた。
人は永遠に消えてしまうのではなく、幸せな幼少時代の王国へ呼び戻されるのだと」
ジェイクは、TCにとうとうジェイガーのもとにも柩が届いたと知らせる。
そして、アディの事件が起きた場所は、クウィンの所有地を通ることも。
TCは、推理をたてる。姉妹が川へ向かうのを見たクウィンは後を追った。
姉が本を読んでいる間、アディが滝のほうに1人で行ったのを幸いに、銃で脅し、そのまま川に沈めた。
“いかなる高級な精神科医も言うように、精神的な不安というものは心理的な抑圧によって引き起こされる。
が、2度目の診察の際、追加料金を払えば、同じ医者が教えてくれるように、
心理的な抑圧というものは、精神的な不安によって引き起こされる。”
このような問題を抱え込んだ時の唯一の解決策は、ジタバタしないこと。
不安を受け入れ、心理的な抑圧に抗わず、リラックスした気分で、
波が自分を運んでくれるところへ運ばれていくことである。
後にジェイクと会った時、ジェイガーに届いた写真はクウィンが撮ったものだと分かった
しかし、後に、ジェイガーは長年の夢だった世界への放浪の旅に出て、ジェイクは事件からおろされた。
メアリリーはサラソタに引っ越して穏やかに暮らしている。実質的に捜査は打ち切られた。
アニタ・クウィンが亡くなった。
葬儀・埋葬は行われず、火葬した後、灰をブルー・リヴァーに撒いてほしいとの遺言だったという。
その後、クウィンは子連れの愛人と再婚し、これには保守的な道徳観を持つ地域住民も眉をひそめた。
TCとジェイクは仲たがいをしてしまうが、最初にジェイクを紹介してくれたフレッドの話だと肺気腫ができて、近々退職するという。
TCは再びクウィン家を訪ねると、末娘が迎えに来た。
ジェイクがオレゴン州で息子家族と暮らすと聞いて残念がるクウィン。アディについては
「あれは神の御手のなし給うわざ、神の思し召しだったんだよ」
(何も解決しない『X-FILES』みたいな余韻が残る
Ⅲ 会話によるポートレート
「一日の仕事」
時給5ドルの掃除婦メアリーに1日くっついていくことにしたTC(プライバシーもへったくれもないね/怖
メアリー「ブラックと呼ばれて喜ぶ人はあまりいないね。一部の若いコや、過激な連中はどうか知らないけどさ。
でも、なぜニグロじゃいけないの? あたしはそのことをすごく誇りに思っている」
最初は、トラスク氏のアパート。酒の飲みすぎで妻に逃げられ、家の中はメチャクチャで汚れ放題。
これでパイロットって・・・ で、失業中(そりゃそーだ
次は週刊誌編集者のエディス。堕胎した時から親しくなった。メアリーは堕胎に反対。
何度もメアリーからマリワナタバコを勧められて断れず、妄想世界に浸るTC。
TCの母が昔住んでいた部屋を過ぎる。
「美しくて、聡明な人だったけど、ただ、絶えず死にたがっていた。義父のことで苦しんでたみたいだ。
ギャンブルで借金して、シンシン州立刑務所にほうりこまれてしまったんだ」
「うちの息子もそう」
「母は正装してパーティを催し、終わるとセコナールを30錠飲んで、二度と目を覚まさなかったんだ」
次はメアリーがもう辞めようと思っているパーコウィッツ家。オウムがひっきりなしに喋っている。
2人はマリワナを吸って、冷蔵庫の豊富な食材を食べて、音楽を聴いて踊っているところに、
夫妻が帰ってきて激怒し、メアリーを解雇する。
TCはタクシーを拾うというが断るメアリー。
「タクシーの運ちゃんたちは黒人(カラード)を嫌がるんだよ。あたしは地下鉄で帰るわ」
彼女は、教会に寄り、トラスク氏や、エディス、息子らのことを神に祈る。
「ちゃんとお祈りしてる?」
「うん、あんたのために祈ってるんだよ」
「あたしのために祈らないで。あたしはもう救われてんだから。あんたのお母さんのために祈るのよ。
暗闇の中で迷い子になっているすべての魂のためにも」
「見知らぬ人へ、こんにちは」
旧友ジョージからランチに誘われて行ってみると、見る影もないほど太ってしまっていた。
彼は働き過ぎと過労で会社には行っていない。
妻は、1日中部屋に閉じこもって、窓外の景色ばかり描いているという。
きっかけは、ある日、ロングアイランド海峡で泳いでいたら、手紙の入った瓶を拾った。
「見知らぬ人へ、こんにちは。あたしの名前はリンダ。年は12歳。
もしこの手紙を見つけたら、いつどこで見つけたかを教えてください。そしたら、自家製のファッジを1箱贈ります」
ジョージはシャレで返事を出したら、本当にファッジの箱が送られてきた。
そこにはポラロイドの水着姿の写真まで入っていた。
友だちがなく、寂しさ紛れに書いて、返事をくれたのはジョージだけだと切々と返事が書かれていた。
ジョージは妻を愛していたが、ある日、その写真を見つけられて、なぜか通勤列車で一緒になる男の娘さんだとウソをついた。
その後、リンダから電話があり、“手紙に感激した。犬のジミーだけが友だちなのに親に殺されてしまう。
ラーチモントで会ってくれないか”と言われる。後にジミーはとりあげられてしまったという。
その後、妻が家に警官が来ているという。
内容は、リンダが52歳の男からいかがわしい手紙をたびたび受け取って、署に苦情を言ってきた。
事情を正直に話したが、妻は「これからも二度とウソだけはつかないで」と言い、それ以来ずっと部屋で絵ばかり描いている。
7年前の冬、警官が来て、ジョージが若い娘の前で露出狂となり、
その娘はナンバープレートを覚えていて、ジョージのクルマだという。
「あんたはおれを信じてくれるだろう?」
サングラスを外した彼の眼は、ふかい精神的苦悩が永久に彫りこまれていた。
「もちろん、あんたを信じるよ」
「秘密の花園」
ポンタルバ館内のアパートに住めるようになるのは、死亡した住民によって遺贈を受けた場合か、
アパートが空き、ニューオルリーンズ市がごくわずかな金額でそれを傑出した市民に提供した場合に限られる。
TCはビッグ・ジューンバッグ・ジョンスンと偶然再会する。
彼女は16歳になる前、エドにレイプされて、夜が明けたら髪が真っ白になっていた。
B.J.Jの酒場は評判がいいため、やっかまれていた。
TCはその当時“ジョッキー”というあだ名を付けられていた。
B.J.Jは20歳ほど年下のオライリー夫人となった。
金目当てだろうと噂もたったが、B.J.Jに惚れていた。
温和で教養ある建築家クレイ・ショーの話になる。
卑劣な郡検事ギャリスンによって、ケネディ暗殺計画の中心人物だと告発され、
2度も法廷で争い、無罪放免になったが文無しになり、数年前、病死した。
TCはヴェニスを描写する。
このような町の包装をといて中味を見るためには、人はその町で生まれなければならない。
ヴェニスはそういう町だ。
入り組んだ血縁関係のゆえに、この町には従兄弟姉妹が百人以上も住んでいる。
それを守るために編み出された建築様式なのだ。
「命の綱渡り」
ロスの空港でNY行きの飛行機に乗ろうとしているTCを、刑事が逮捕状を持ってゲート入り口で待ち伏せている。
ロバート・Mという聡明な精神病者が、他人に話さない約束で、人生観、犯罪観をインタビューで聞かせてくれたことで、
大量殺人犯の調査をしている警察に追われているTC。
法的な手続きの理由で、連邦政府裁判所はロバートの判決を取り下げたことで、
刑事はTCに、彼の検察側の証人として出廷するよう召喚令状を持ってきてTCは激怒した
カリフォルニアを離れれば、法廷侮辱罪による引渡し処分は適用されない。
その代わり、もう二度とカリフォルニアには戻れない。
警察はTCを全州に指名手配した。
さびれた村を隠れ場所に選び、ベネット夫人に電話すると、NY行きの便に別名で席をとり、送ってくれるという。
だが、見張りがあるから飛行機に乗り遅れてしまうかもしれない。
その危機を救ったのは、女優のパール・ベイリーだった。
パールに事情を話すやいなや、取り巻きの1人ジミーとトイレで服を取り替えて来いという。
すると、1つのトイレに4本の脚が見えるのはワイセツ行為だから警察を呼ぶと管理人とモメる。
2人はパールの映画のエキストラで、着替え室がもらえないからここで衣装替えをしていると誤魔化す。
やっと飛行機に乗れたはいいが、遅延し、さっきの刑事が見回りに来る。
パールは病人のフリをしてもたれかかれと命令する。TCはなんとかNYに脱出成功
ロバートの再審は予想通り第一級殺人で有罪判決となったが、カリフォルニア州裁判所はTCを恨み続けた。
1年後、もう忘れてると思って用事で赴くと、5000ドルの罰金と、不定期懲役を言い渡される。
だが、逮捕令状に誤りがあると釈放された。NYの住民となっていたからだった。
「そしてすべてが廻りきたった」
カリフォルニアの独房棟で、ロバート・ボーソレーユと話すTC。
中年ミュージシャン、ゲイリーの殺害がきっかけ。
ロバートは子役としてハリウッド映画に出演し、現在31歳。チャールズ・マンソン教団に入っていて、
マンソン・ファミリーによる殺戮行為の謎を解く鍵を握る存在だった。
ロバートは青リンゴ色の小部屋を見たいという。死刑囚が桃の香りのガスで窒息死する部屋。
TCは控え部屋の隣りに、たくさんの遺留品が置いてあることを教える。
TCは絞首刑を2回見たことがある。
すぐに死なずに、15~20分くらいはもがいている様子を見て吐いたという。
RB「人をバラす人間の半分は、世間に知られたいのさ。新聞に自分の写真を出してもらえるだろうが」
TC「私は、サーハン、R.ケネディ、オズワルド、J.ケネディを知っていた。
1人の人間がこの4人全員を知ってるだけで仰天ものですよ」
テート家で殺された5人中4人も知っていた。
TC「奇妙なんです。連続殺人を犯した数百人の男と面接したが、共通点は刺青しか見当たりませんでした。
彼らの80%は刺青をしていた」
RBの独房にギターがあることに驚く。弦を外すと武器になり得ると持ち込みが許されない刑務所もある。
RB「何が起きようと、起きることは起きるんだ、すべて善なのさ。
てめえ自身の正義ってものがある。世間自体が世間の法を無視してるからよ。
行くものは帰ってくる。上がるものは下がるさ。運命の流れはそんなもので、おれはそれに従う」
「おれ達が人種戦争を始めようともくろんでいるから、事件が起きたと皆が信じるようマスコミが企てた。
善良な白人市民を傷つけまわっているのはニガーだとね。
オレの兄弟姉妹がやったんなら、それは善。人生の何事もすべて善だ。
もの皆廻るのさ。すべて善きこと。すべてが音楽なのさ。殺しを善いことと思っているわけじゃない」
「君はアーリア人結社の首謀者だと言ってましたね。
いつか仮出獄できるってことは充分考えられる。考えてるよりずっと早い時期に。
ゲイリーをやるつもりはなかった。だけどたまたまある事態が起こった。次いでまた。
そしてすべてが廻りきたった。そしてそれはそれはすべて善きこと」
RB「すべて善きこと」
「うつくしい子供」(この短編集の中で一番好き
英国生まれの女優で享年75歳のコンスタンス・コリアーの葬儀に来たTCは、だいぶ遅刻している友人マリリン・モンローを待っている。
マリリンは必ず遅刻する。コリアーにマリリンを紹介したのはTC。
コリアー:
「あの娘って、うつくしい子供なのよ。女優なんかじゃなく、あの存在感、聡明さ、才気煥発は、けっして舞台では表に出ないわ。
カメラしかその趣を固定できない。なんだか、あのコ、長生きしないだろうなって思うの」
そう言っていたコリアー女史は亡い。
マリリンは黒づくめのノーメイクでやって来て、後悔した。
TC「ずいぶんと僕は間抜けだな。たった今まで本物のブロンドだって思ってた」
M「本物よ。でも、あそこまで天然ではいかないわ。やーねえ。
私は葬式なんていらない。もし子どもがいたら、遺骨を波の上に投げてくれるだけでたくさん。
フィリス(お手伝い)はヘップバーンさんと暮らすらしいわね。運がいいわ。
ヘップバーンさんてすっごい女性だもの、ほんと素晴らしい人」
「みんなはあたしに演技なんてできないって言うの。エリザベス・テイラーのことも。
わかってないのよ。『陽のあたる場所』ではたいしたものだったわ」
TCにベスが本当はどんな人って聞かれたら、どう答えるか聞くマリリン。
「君と似てるところがあるよ。率直に話して、辛らつなことを言う人だね」
式場から出たら、マスコミに見られるのを嫌がって、しばらく喋る代わりにシャンパンをおごると約束するが、
彼女はいつもお金を持たないので、エリザベス女王と同じだと言うTC。
「許されてないんだ。不浄な金が、女王の手を汚さぬよう、法かなにかで決まってるのさ」
やっと外に出ると誰もいない。
M「あたしも指輪をはめられたらいいんだけど、手を見られるのが嫌なのよね。全然ほっそりしてないもの。
テイラーの手もそうよ。でもあの目でしょう、誰も彼女の手なんか見やしないわ。
あたしは家を持ったことがないの。でも、もう一度結婚して、お金をたくさん稼げたら、
車2、3台雇って、何から何まで買い漁るわ」
占い師が気になるマリリンに、新しい恋人のことを聞きたいのだろうと思ったTCは、なんとか名前を聞きだそうとする。
M「ロケは嫌ね。『ナイアガラ』なんて、あんなの最低だわ。ウッフッフ。
あなたの知ってる人の中で一番魅力的なのは誰?」
TC「バーバラ・ペイリイさ。文句なしにね」
TCは、秘密の話をして、気に入ったら、恋人の名前を教えるよう条件を出して話し始める。
18か19の頃、エロール・フリンと一晩過ごした話。
M「そんなの、ちっともたいした話じゃないわよ。エロールとタイロンがしてることをマッサージ師が話してくれたわ」
「ジョーは悪くなかった。今でも愛してるもの。誠実な人よ」
TCは、相手は作家アーサー・ミラーだと言い当てる。
マリリンは激怒して、トイレに行く。
彼女は化粧室に行くと象の妊娠ぐらい長い間戻って来ない。
覚せい剤を致死量飲んでいるか、手首でも切っているのではと覗きに行く。
彼女は、フェリー乗り場に行こうと言い出す。
「あそこが好きなの。外国の香りがするし、カモメに餌をあげることだってできるでしょ」
タクシーが信号で止まると、震える手で窓を拭いて駄賃を求める男を見て、我慢できないと泣き出すマリリン。
フェリー乗り場に着くと、犬を散歩させている男からサインを求められ、妻に言っても信じてもらえないだろうと言われる。
M「去年、クラーク・ゲーブルにナプキンにサインしてほしいって頼んだのよ」
(この件には号泣してしまった。この憧れの大スターとの共演が、マリリンの遺作になったから。
M「あたしが本当はどんな女か聞かれたら、なんて答えるつもりなの?
とんまだって言うんでしょ。お菓子のバナナ・スプリットみたいだって」
TC「当然ね。だけど、それに付け足して・・・」
彼女は空や雲とともに闇にまぎれ、遠ざかっていくように見えた。
私はカモメより大きな声を出して彼女を呼び戻したかった。
マリリン! 何もかもがなんで決まりきったように消えてなくなるのだろうか。
人生ってなんでこんなに忌々しく、くだらないのだろうか、と。
「えーとね、きみはうつくしい子供だとね」
「夜の曲がり角、あるいはいかにしてシャム双生児はセックスするか」
睡眠薬も酒も効かず、眠れないTCは、自分同士で喋り合う(
そこで“めちゃくちゃ嫌悪リスト”を発表し合い、やたらとビリー・グラハムが出てくる。
TC「好きな人はみんな死んじゃったよ。何人かは最近だし、何人かは何世紀も前にね。
プルースト、サラ・ベルナール、オスカー・ワイルド、アガサ・クリスティ」
2人(?)は自己インタビューを始める。
Q:体験の中でもっとも驚いたことは?
A:裏切り。見捨てること。動物園でライオンが2匹檻から逃げた時、乳母は僕を置いてけぼりにして、身を翻し走って行った。
僕にとって本当に恐ろしいことは、自分の心の中の廊下を歩く足音だね、それらがつくりだす煩悶、幽霊のように浮かぶもの。
Q:不得意なことは?
A:アルファベットが暗誦できない。
Q:『名探偵登場』で映画俳優デビューしましたね。どうでした?
A:僕は俳優じゃないし、おふざけでしたのさ。
ふつうはサインするのは嫌じゃないんだ。けどね、サインをくれと頼む大人の男は例外なく、女房か娘か女友だちのためだという。
けして自分のためだと言わないんだよ。
話は青い目のアイザック・ディネーセンというペンネームのブリクセン男爵夫人のことになる。
作家になりたいと言うと、アメリカの作家で誰が好きかと聞かれ、
「本当に好きなのは、ウィラ・キャザー」だと言うと「それを書いたの私なんですのよ」と言った。
彼女は、文学ではなく音楽が好きだった。
彼女の作品をけなす言及を聞くと、意気消沈してしまうという。
「自分にある欠点を、他人の中にも見出して、それを非難するのが世の常じゃなくて?
私は生きてるのよ。脆い存在だわ。あたり前のことよ」
Q:自殺を考えたことは?
A:無論あるさ。誰にだってある。僕の知ってる日本の著名な作家・三島由紀夫の自決後、彼の伝記の引用で驚いた。
“自殺についてはよく考えますね。自殺するだろうと確信している人は大勢いますよ。トルーマン・カポーティとかね”
彼が何をもってこの結論を導いたのか想像つかない。彼はいつも愉快で、心温まる時を過ごせたものだ。
ただ、彼は傷つきやすく、直観力があって、軽はずみに論じる人物じゃない。
でも、彼がしたようなことをする勇気など僕にはあり得ない。
死後の世界は信じる。生まれ変わりに賛成なんだ。
Q:死後、何に生まれ変わりたいですか。
A:鳥、ノスリがいい。格好つける必要がない。醜いし、どこでも歓迎されない。
そのおかげで許される自由には、大いに利点がある。
Q:願い事が1つできるとしたら?
A:自分が恨み、復讐心、その他、無意味で子供っぽい感情と縁のない大人になっていたい、ということ。
たしかに神は信じていたけど、その後信じなくなった。それから聖書そのもの。
多少の常識のある奴なら信ぜよという言葉を信じられるわけがない。
フロベールの小説『聖ジュリアン伝』を例にあげる。
ジュリアンはどんな動物も大好きだったが、父が馬や弓矢を買ってやり狩猟を教えたら、殺生が嫌いじゃないことに気づいちまった。
ジュリアンは両親を殺した。その後村八分にされ、胸糞悪い不気味な人物に化けた神にテストされる。
毛布に入れてあげ、最後の頼みだといって、ただれた唇に口づけをと乞うと、ジュリアンはそれに応えた。
そのため、聖ジュリアンとなったんだ。
神は救ってくれたかい?
うん、そりゃもう。でもまだ聖者じゃないけどね。
アルコール中毒だし、麻薬常習だし、同性愛だし、天才だし。
[訳者あとがきメモ]
翻訳小説を読んで、翻訳の上手下手について、僕なりに見当がついた。
引き受けたのは、自分の文体を新しくするために有効じゃないかと考えたから。
意味は判っても、日本語でどう表現すればいいかというもどかしさは少ない。
彼は彼なりに彫心鏤骨の文体を心がけていて、その迫力に気押された。
彫心鏤骨:心に彫りつけ骨に刻み込む意で、非常に苦心して詩文などを作り上げること。また、単にたいへんな苦労をすること。
*
以上が、約20年前に訳した本書の「訳者あとがき」。
文庫版になると知らせを受け、読み返すとなんとも具合の悪い感じがまだ残っていた。
およそ僕は、自分の作品について、くよくよすることがない。うぬぼれも、悩みもしない。
彼は喋っていない、ただそこにいる。そしてミテいる。
彼の眼を僕のものにすれば、それでいい。
カポーティはむつかしい。だが、どれほど拙劣な訳でも、カポーティはおもしろい。
[狂気を前にして文学は可能か~文芸評論家・川本三郎 抜粋メモ]
1999年の映画『オール・アバウト・マイ・マザー』に本書が登場する(驚
主人公は文学好きな息子に本書をプレゼントし、少し読んでみてと言われ、序文を読む。
「神が才能を授け給うにしろ、必ず鞭を伴う。
いや、鞭こそ才能のうちなのだ、自らを鞭打つ」
『冷血』の成功があまり大きかったため、次作を書くのが困難になった。
それ以上のものを書かなければというプレッシャーで押し潰されそうになる。
『冷血』から14年たってようやく、この新作を発表できた。
『カメレオンのための音楽』は至高の、神技に近い集中力の産物だった。
アメリカではノンフィクションのジャンルに入っているが、
実際は、フィクションともノンフィクションともいえない領界上の作品が多い。
私小説の伝統のある日本では、間違いなく短編小説といえるもの、など。
現実のカポーティというより、脚色されたカポーティ。
現実が虚構化し、虚構が現実化する。
都会的でスマートな作家と思われがちだが、アメリカ南部の出身で、内面に潜む暗い闇に敏感な作家だ。
後年はゲイを公にしてはばからなかったが、'40~'50年代、アメリカ社会がゲイに対して非寛容だったため苦悩した。
『遠い声 遠い部屋』は、その苦しみを描いている。
追。
本の冒頭に、「日本語版翻訳権独占 早川書房」とある。
翻訳にも独占なんてのがあるのねぇ・・・
トルーマン・カポーティ/著 翻訳/野坂昭如
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
野坂さんは戸川純ちゃんがカバーした♪バージンブルース を書いたり、
『青いオウムと痩せた男の子の話』などの戦争童話集を書いたり、多才な人だなあ!
その野坂さんがカポーティを翻訳してるっていうのにビックリ。
前回読んだ『叶えられた祈り』(新潮社)が最後だと思っていたら、その後、短編を書いてたのか。
本書が生前出版された最後の著作なんだ。
未完になった『叶えられた祈り』の第2章になるはずだった「モハーベ砂漠」が収録されている。
冒頭には、著者がどのように作家の道を歩んできたかが完結に書かれているのがとても興味深い。
天才肌のように見えて、実は、さまざまな手法を幼い頃から書き続けて、挑戦、模索しつづけて、
それらの文体などをいち読者のように客観視しているのもスゴイ。
その結果、自分の作品のほとんどにダメ出ししちゃうのは、厳しすぎると思うけど、
それだけの本を読む目を持っているという自負の裏返しでもあり、同時に意外な謙虚さも感じた。
『叶えられた祈り』では、主人公だけがP.B.ジョーンズという名で出て来て、
他は実名だったり、名前を変えたりしていたのが斬新だったけれども、
この短編ではさらに進めて、自分と周りを日記のようにさらけ出して、かつ文学として成立させる試みをしているってことなのかな。
▼あらすじ(ネタバレ注意
Ⅰ カメレオンのための音楽
序:
あの頃、私の興味は4つ。読書、映画鑑賞、タップダンス、絵を描くこと。
文章を書き始めたのは8歳の時。
だが、書いたものの、出来不出来の差がいかにもはなはだしいと気づいて興味を失った。
若いうちは、日に4、5時間ペンでの修行をした。
音楽を聴く、絵画を観る、日常に眼を配る。
実のところ、当時の文の中で最も面白いものは日記。
『遠い声 遠い部屋』(1948)が好評で、ブックカバーに載せたエキゾチックな写真のせいで、
その後ずっと私についてまわるある種の名声のきっかけにもなった。
この本の商業的成功は写真のせいだという人は多い(驚
1948~1958の10年間、私はあらゆる小説作法を試みた。
成功して得るものより失敗して得るもののほうが多いという見込みは真実である。
本質的には1つの芸術形態と見なしているジャーナリズムに、以前より魅かれていた。
これまで紀行文か、自叙伝に限られていたという単純な理由で。
ジャーナリスティックな小説。
ヘンリー・ジェイムズ著『ザ・ミドル・イヤーズ』
「われわれは今暗闇にいる、できることはし尽した。あとは狂気の文学しかない」
自らをそこに投げ入れて「観る」しかない。
6年間神経をすり減らしながら体験をまとめた“ノンフィクション・ノヴェル”は、後にノーマン・メイラーらも取り入れた。
1968~1972までは、自分や他人の手紙、日記を改めて読んだり、整理することに費やした。
1972。まず最後の章から始めた『叶えられた祈り』は、事実を虚構らしく装う常套手段の、
ありふれた実話小説ではない。正反対、嘘いつわりを可能な限り排除した。
論争は文芸作品の価値と無関係な、社会的利害を巻き込むことでしかない。
もとより社会非難は覚悟。
しかし、私は1977に中断した。私は創作上の行き詰まりと私生活上の行き詰まりに悩んでいた。
事実と本当の真実との相違についての理解のしかたなどに新たな視界が開いた。
『冷血』も手抜き、鈍い、すべてを注ぎ込んでいないとよく判った。
私は書き続ける。
映画脚本、戯曲、ルポタージュ、詩歌、短篇小説、中篇小説、長篇小説。
『叶えられた祈り』に戻り、章を1つ削除し、2つ書き改めた。私は初心に戻らなければならなかった。
『冷血』で最も困難だったのは、私自身を完全に消し去ることだった。
後に、ノンフィクション中篇小説、短篇小説を書いた結果が本書である。
******************
「カメレオンのための音楽」
カポーティは夫人の部屋で知的な会話をしている。
夫人がピアノを弾くとカメレオンが大勢集まるってフシギ。
「カリブ海で蚊のいない島はマルティニーク島だけ。しかも、誰にもその説明がつかないの」(素晴らしい島だなあ!
カポーティの親友はここでポルトガル船員2人に撲り殺された。
マルティニークのカーニバルはケタ違いでひっちゃかめっちゃか。
「ジョーンズ氏」
1945。ブルックリンの下宿屋で数ヶ月暮らしていた時、隣りのジョーンズ氏は一風変わっていた。
ウォール街のオフィス勤めといった姿で、下宿から一歩も出ず、お客はなにかしら相談をして、彼はそれで生計を立てている。
そのジョーンズ氏が消えた。
10年後、モスクワの冬。地下鉄の前に座る男がジョーンズ氏だと気づく。
下宿では脚が悪かったのに、その足取りはしっかりした大股だった。
(眉村さんの書くSFみたい
「窓辺のランプ」
結婚式に招待され、酔った挙句、ケンカしてクルマを木にぶつけた時点で、
乗せてもらっていたTC(カポーティ)は慌てて降りた。
冬、やっと田舎家を見つけて、事情を話すと、白髪のお婆さんは快く泊めてくれた。
40年間連れ添った仲が良かった彼女の夫は、酔っ払い運転の車に轢かれて亡くなった。
とても話が合って、猫の話になり、見せてくれたのは、冷凍庫の中に冷凍され保存された数十匹の猫。
「私、いなくなってしまうのが耐えられなくて。少し、おかしいってお思いになってるんじゃありません?」
たしかに少し狂っている。いや輝いてる。あの闇の中の窓辺のランプのように。
「モハーベ砂漠」(これが『叶えられた祈り』の1つの章だとは思えないなあ・・・
精神分析医ベンツェンは、患者のサラと一線を越えた関係。
サラの友人で美容師のハイメイは、恋人カルロスが去ってしまい「カルロスを殺してしまおうと思ってるんです」と明かす。
「彼は従妹アンジェリータと結婚して普通の家庭を望んでるんです」しかも、アンジェリータは3人一緒に住もうという。
サラは、ベンツェンにメアリーがひどい夫をもったことを言う。
夫が子どもをつくってほしいと言い始めてからギクシャクしだした。
メアリーは子どもの頃から子どもが怖くて、1人産んだ後、精神に異常をきたした。
2番目は中絶したいと言ったが、離婚すると言われ、出産時、母子ともに生死をさまよい、それきり夫と疎遠になった。
サラは、去り際にベンツェンとの別れをサラっと言う。
「ぼくの踵、毛深くなんかないぜ」
「いいえ、そうなの。そこらの駄馬はみんな、踵に毛が生えてるの。奥さまにくれぐれもよろしく」
サラは、夫ジョージが、銃で自殺した父親似であることに惹かれていた。
ジョージは、アイヴォリー・ハンターの話をする。
モハーベ砂漠をカラカラになって歩いていた時、盲目の老人シュミットに会った。
妻のアイヴォリーに砂漠に置き去りにされたという。妻はメキシコ人の季節労働者フレディとグルだった。
クラブで女給をしているハルガは、2人の関係をシュミットにぶちまけた。
ある時、妻はトレーラーでもっと涼しいところに移ろうと言い出した。
そのトレーラーにフレディが隠れていた。
サラとジョージは、互いの不倫を全部話しあう仲で、夫の相手は妻がお膳立ていていた。
「もてなし」
TCの叔母メアリー・カーター夫人は、誰にでももてなす女性だった。
家に泊めた宣教師は、食べ物をあるだけ食べて、食人族の話などして、叔母は1ヵ月ほど具合が悪かった
囚人をもてなしたこともある。その2日後、その男は“二連発銃のバンクロフト”と呼ばれるお尋ね者だと判明。
次は、ジラという娘。夫が違う女と家を出て、子どもと一緒に探して歩いているという。
なかなか夫は見つからず、近所のやもめスミス氏を紹介し、2人は結婚した。
「くらくらして」
ファーガソン夫人には魔力があると噂があった。
夫人は6人の子連れの未婚女性。長男スキーターの父親は黒人だったため、父は公の場で娘に酷いお仕置きをした。
そんな下女であるにも関わらず、その魔力のおかげで、誰もが夫人を尊敬していた。
8歳のTCには、どんな人にでも言ってしまったらおしまいの秘密があって、相談したくてたまらなかったが、夫人には無視されていた。
TCの祖母は、若くして寡婦となり、3人の子を育て、TCをこよなく可愛がっていた。
夫人は、祖母がいつも肌身離さず身につけているなんてことない宝石に目をつけ、
スキーターがやって来て、TCに祖母の宝石を盗んできたら、母親に会わせると言った。
TCは迷った挙句に宝石を盗み、夫人宅に行き「男の子なんて嫌なの。女の子になりたいんです」と明かした。
私は、奇妙な性癖や風変わりな好みに蝕まれた中年となった。
祖母の葬式に出なかったことで、父に罵倒された。
「この愚か者。お前の写真を手にして亡くなったんだぞ」
Ⅱ 手彫りの柩
「手彫りの柩~アメリカ的犯罪のノンフィクション解釈」
(極上のミステリーなのにも関わらず、ノンフィクションであり、著者は明智探偵でもないため、終わり方がなんだかモヤモヤした。
1975年3月。TCは「プレーリー・モーテル」に滞在し、州捜査局の刑事ジェイクが知らせてきた事件に関わり始めた。
事件が起こる前、かならず本人のもとに手彫りの柩が送られてくる。中には、その人の日常のスナップ写真が入っている。
最初の被害者は、ジョージ&アメリカ・ロバーツ夫妻。クルマから飛び出してきたたくさんのガラガラ蛇に全身を噛まれて、
ハロウィンのような姿で発見された。ヘビにはアンフェタミンが注射されていた。
2番目の被害者は、その3ヶ月後。バクスター夫妻とホーガン夫妻。
地下室に閉じ込められて放火され、焼け死んだ。ホーガン夫妻は事件とは関係なく巻き込まれた。
3番目は、ジェイクの旧友クレム。クルマで自宅に戻る途中、首と胴体が真っ二つに切れた。
その死体の第一発見者は、彼の息子だった(涙
クレムは、事件の相互関係で「川が関わっているのではないか」と言った2日後のことだった。
自宅のそばには、ちょっと見分からないような針金がとぎすまされて張られていたという。
その4ヶ月後、パースンズという検視官は自殺と断定された。彼の妻は、夫によってモルヒネ中毒にされていた。
パースンズの飲んだのは液状のニコチン。非常に純度の高い、速効性のある、無色無臭の強力な毒物。
ジェイクは、書棚からマーク・トウェインを取り出して、引用した。
「神によって創造されたすべての生物のうちで、人間こそはもっとも忌むべき存在である。
すべての生物のうちで、悪意を有しているのはただただ人間のみである。
そしてそれは、あまたある本能、感情、悪徳のうちでもっとも醜悪なものである。
人間は、意識的に苦痛を与えることのできる唯一の生物である。
同時に、自然界で卑劣な心をもつのは人間だけである」(残念ながら、ある意味真実だな
ジェイクは、犯人がクウィンだという。
蛇を売るスネーク・ファームの1つの女主人に写真を見せたら、クウィンだとハッキリ答え、
蛇にアンフェタミンを注射する方法を教えたのも彼女だった。
ジェイクは、小学校教師アデレイド・メイスンに心底夢中で、2人は来年の夏に結婚する約束をしている。
アディいわく
「1年生を教えるということは、人生の第一歩を踏み出すのを見守ること。
全教科を教えることができるし、その中にはしつけも入る。
いまどき家でちゃんとしつけを学ぶ子はほとんどおりませんしね」(同感
そのアディのところにも柩が来たが、もう5ヶ月が経つ。
アディは、未亡人の姉メアリリーと同居していて、姉だけでなく、地域のほとんどはクウィンを尊敬している。
クウィンは、第二次世界大戦中、海兵隊の大佐で、広島に落ちた原爆犠牲者よりも多くの日本人を殺害した。
その戦時の手柄のために英雄だった(なんて英雄だ・・・
終戦直後、クウィンは所有するBQ牧場に入って牛を盗もうとした2人組を射殺。
だが、2人は牛泥棒ではなく、ギャンブラーで、クウィンは莫大な借金をしていた。
ジェイクは、TCをアディに紹介する。アディもクウィンが犯人だと確信している。
殺害動機は、ブルー・リヴァーという川。
支流には川に頼っている多くの牧場経営者がいて、ブルー・リヴァーに分水路を設けるべきだと言い、クウィンは猛烈に反対した
その後、2年間、干ばつに襲われ、町議会で票決を下した。被害者は全員そのメンバーで、川の方向転換を決議した者だった。
反対したのはトム・ヘンリーだけ。まだ殺されていないのは、アディ、トム、郵便局員のオリヴァー・ジェイガーの3人。
オリヴァーはクウィンの又従兄にあたる。
ジェイクは今では、クウィンと仲良しのようにチェスをやったりしているが、
事件の糸口を探し、必死にアディを守っている。
アディに長い船旅をすすめたこともあったが、「鮫を捕まえるためには、餌がなくちゃ」と言われたという。
TCは、ジェイクとともにクウィンの屋敷にチェスに招かれる。
クウィンを見たTCは遠い昔に一度会っている気がした。
クウィンは従妹のアニタと結婚したが、遠くに愛人がいて子どもが4人もいることが後で分かる。
チェスの最中の会話で、クウィンがライカでスナップを撮るのが趣味だと分かる。
TCは、5歳の時、ボビー・ジョー・スノーという牧師に無理やり川に投げ込まれて洗礼されたことを思い出し、
その男がクウィンにソックリだと分かり身震いする。
その後、TCは各国を渡り歩くうちに、ジェイクとアディの結婚式に出るのを忘れていたことに気づき、電報を打った。
やっとNYに戻って、ジェイクからの手紙を受け取り、8月にアディが死んだことを知る。
姉妹でブルー・リヴァーで泳いでいて溺死したという
姉は「祖母は絶対に“死”という言葉を使いませんでした。いつも“呼び戻された”と言っていた。
人は永遠に消えてしまうのではなく、幸せな幼少時代の王国へ呼び戻されるのだと」
ジェイクは、TCにとうとうジェイガーのもとにも柩が届いたと知らせる。
そして、アディの事件が起きた場所は、クウィンの所有地を通ることも。
TCは、推理をたてる。姉妹が川へ向かうのを見たクウィンは後を追った。
姉が本を読んでいる間、アディが滝のほうに1人で行ったのを幸いに、銃で脅し、そのまま川に沈めた。
“いかなる高級な精神科医も言うように、精神的な不安というものは心理的な抑圧によって引き起こされる。
が、2度目の診察の際、追加料金を払えば、同じ医者が教えてくれるように、
心理的な抑圧というものは、精神的な不安によって引き起こされる。”
このような問題を抱え込んだ時の唯一の解決策は、ジタバタしないこと。
不安を受け入れ、心理的な抑圧に抗わず、リラックスした気分で、
波が自分を運んでくれるところへ運ばれていくことである。
後にジェイクと会った時、ジェイガーに届いた写真はクウィンが撮ったものだと分かった
しかし、後に、ジェイガーは長年の夢だった世界への放浪の旅に出て、ジェイクは事件からおろされた。
メアリリーはサラソタに引っ越して穏やかに暮らしている。実質的に捜査は打ち切られた。
アニタ・クウィンが亡くなった。
葬儀・埋葬は行われず、火葬した後、灰をブルー・リヴァーに撒いてほしいとの遺言だったという。
その後、クウィンは子連れの愛人と再婚し、これには保守的な道徳観を持つ地域住民も眉をひそめた。
TCとジェイクは仲たがいをしてしまうが、最初にジェイクを紹介してくれたフレッドの話だと肺気腫ができて、近々退職するという。
TCは再びクウィン家を訪ねると、末娘が迎えに来た。
ジェイクがオレゴン州で息子家族と暮らすと聞いて残念がるクウィン。アディについては
「あれは神の御手のなし給うわざ、神の思し召しだったんだよ」
(何も解決しない『X-FILES』みたいな余韻が残る
Ⅲ 会話によるポートレート
「一日の仕事」
時給5ドルの掃除婦メアリーに1日くっついていくことにしたTC(プライバシーもへったくれもないね/怖
メアリー「ブラックと呼ばれて喜ぶ人はあまりいないね。一部の若いコや、過激な連中はどうか知らないけどさ。
でも、なぜニグロじゃいけないの? あたしはそのことをすごく誇りに思っている」
最初は、トラスク氏のアパート。酒の飲みすぎで妻に逃げられ、家の中はメチャクチャで汚れ放題。
これでパイロットって・・・ で、失業中(そりゃそーだ
次は週刊誌編集者のエディス。堕胎した時から親しくなった。メアリーは堕胎に反対。
何度もメアリーからマリワナタバコを勧められて断れず、妄想世界に浸るTC。
TCの母が昔住んでいた部屋を過ぎる。
「美しくて、聡明な人だったけど、ただ、絶えず死にたがっていた。義父のことで苦しんでたみたいだ。
ギャンブルで借金して、シンシン州立刑務所にほうりこまれてしまったんだ」
「うちの息子もそう」
「母は正装してパーティを催し、終わるとセコナールを30錠飲んで、二度と目を覚まさなかったんだ」
次はメアリーがもう辞めようと思っているパーコウィッツ家。オウムがひっきりなしに喋っている。
2人はマリワナを吸って、冷蔵庫の豊富な食材を食べて、音楽を聴いて踊っているところに、
夫妻が帰ってきて激怒し、メアリーを解雇する。
TCはタクシーを拾うというが断るメアリー。
「タクシーの運ちゃんたちは黒人(カラード)を嫌がるんだよ。あたしは地下鉄で帰るわ」
彼女は、教会に寄り、トラスク氏や、エディス、息子らのことを神に祈る。
「ちゃんとお祈りしてる?」
「うん、あんたのために祈ってるんだよ」
「あたしのために祈らないで。あたしはもう救われてんだから。あんたのお母さんのために祈るのよ。
暗闇の中で迷い子になっているすべての魂のためにも」
「見知らぬ人へ、こんにちは」
旧友ジョージからランチに誘われて行ってみると、見る影もないほど太ってしまっていた。
彼は働き過ぎと過労で会社には行っていない。
妻は、1日中部屋に閉じこもって、窓外の景色ばかり描いているという。
きっかけは、ある日、ロングアイランド海峡で泳いでいたら、手紙の入った瓶を拾った。
「見知らぬ人へ、こんにちは。あたしの名前はリンダ。年は12歳。
もしこの手紙を見つけたら、いつどこで見つけたかを教えてください。そしたら、自家製のファッジを1箱贈ります」
ジョージはシャレで返事を出したら、本当にファッジの箱が送られてきた。
そこにはポラロイドの水着姿の写真まで入っていた。
友だちがなく、寂しさ紛れに書いて、返事をくれたのはジョージだけだと切々と返事が書かれていた。
ジョージは妻を愛していたが、ある日、その写真を見つけられて、なぜか通勤列車で一緒になる男の娘さんだとウソをついた。
その後、リンダから電話があり、“手紙に感激した。犬のジミーだけが友だちなのに親に殺されてしまう。
ラーチモントで会ってくれないか”と言われる。後にジミーはとりあげられてしまったという。
その後、妻が家に警官が来ているという。
内容は、リンダが52歳の男からいかがわしい手紙をたびたび受け取って、署に苦情を言ってきた。
事情を正直に話したが、妻は「これからも二度とウソだけはつかないで」と言い、それ以来ずっと部屋で絵ばかり描いている。
7年前の冬、警官が来て、ジョージが若い娘の前で露出狂となり、
その娘はナンバープレートを覚えていて、ジョージのクルマだという。
「あんたはおれを信じてくれるだろう?」
サングラスを外した彼の眼は、ふかい精神的苦悩が永久に彫りこまれていた。
「もちろん、あんたを信じるよ」
「秘密の花園」
ポンタルバ館内のアパートに住めるようになるのは、死亡した住民によって遺贈を受けた場合か、
アパートが空き、ニューオルリーンズ市がごくわずかな金額でそれを傑出した市民に提供した場合に限られる。
TCはビッグ・ジューンバッグ・ジョンスンと偶然再会する。
彼女は16歳になる前、エドにレイプされて、夜が明けたら髪が真っ白になっていた。
B.J.Jの酒場は評判がいいため、やっかまれていた。
TCはその当時“ジョッキー”というあだ名を付けられていた。
B.J.Jは20歳ほど年下のオライリー夫人となった。
金目当てだろうと噂もたったが、B.J.Jに惚れていた。
温和で教養ある建築家クレイ・ショーの話になる。
卑劣な郡検事ギャリスンによって、ケネディ暗殺計画の中心人物だと告発され、
2度も法廷で争い、無罪放免になったが文無しになり、数年前、病死した。
TCはヴェニスを描写する。
このような町の包装をといて中味を見るためには、人はその町で生まれなければならない。
ヴェニスはそういう町だ。
入り組んだ血縁関係のゆえに、この町には従兄弟姉妹が百人以上も住んでいる。
それを守るために編み出された建築様式なのだ。
「命の綱渡り」
ロスの空港でNY行きの飛行機に乗ろうとしているTCを、刑事が逮捕状を持ってゲート入り口で待ち伏せている。
ロバート・Mという聡明な精神病者が、他人に話さない約束で、人生観、犯罪観をインタビューで聞かせてくれたことで、
大量殺人犯の調査をしている警察に追われているTC。
法的な手続きの理由で、連邦政府裁判所はロバートの判決を取り下げたことで、
刑事はTCに、彼の検察側の証人として出廷するよう召喚令状を持ってきてTCは激怒した
カリフォルニアを離れれば、法廷侮辱罪による引渡し処分は適用されない。
その代わり、もう二度とカリフォルニアには戻れない。
警察はTCを全州に指名手配した。
さびれた村を隠れ場所に選び、ベネット夫人に電話すると、NY行きの便に別名で席をとり、送ってくれるという。
だが、見張りがあるから飛行機に乗り遅れてしまうかもしれない。
その危機を救ったのは、女優のパール・ベイリーだった。
パールに事情を話すやいなや、取り巻きの1人ジミーとトイレで服を取り替えて来いという。
すると、1つのトイレに4本の脚が見えるのはワイセツ行為だから警察を呼ぶと管理人とモメる。
2人はパールの映画のエキストラで、着替え室がもらえないからここで衣装替えをしていると誤魔化す。
やっと飛行機に乗れたはいいが、遅延し、さっきの刑事が見回りに来る。
パールは病人のフリをしてもたれかかれと命令する。TCはなんとかNYに脱出成功
ロバートの再審は予想通り第一級殺人で有罪判決となったが、カリフォルニア州裁判所はTCを恨み続けた。
1年後、もう忘れてると思って用事で赴くと、5000ドルの罰金と、不定期懲役を言い渡される。
だが、逮捕令状に誤りがあると釈放された。NYの住民となっていたからだった。
「そしてすべてが廻りきたった」
カリフォルニアの独房棟で、ロバート・ボーソレーユと話すTC。
中年ミュージシャン、ゲイリーの殺害がきっかけ。
ロバートは子役としてハリウッド映画に出演し、現在31歳。チャールズ・マンソン教団に入っていて、
マンソン・ファミリーによる殺戮行為の謎を解く鍵を握る存在だった。
ロバートは青リンゴ色の小部屋を見たいという。死刑囚が桃の香りのガスで窒息死する部屋。
TCは控え部屋の隣りに、たくさんの遺留品が置いてあることを教える。
TCは絞首刑を2回見たことがある。
すぐに死なずに、15~20分くらいはもがいている様子を見て吐いたという。
RB「人をバラす人間の半分は、世間に知られたいのさ。新聞に自分の写真を出してもらえるだろうが」
TC「私は、サーハン、R.ケネディ、オズワルド、J.ケネディを知っていた。
1人の人間がこの4人全員を知ってるだけで仰天ものですよ」
テート家で殺された5人中4人も知っていた。
TC「奇妙なんです。連続殺人を犯した数百人の男と面接したが、共通点は刺青しか見当たりませんでした。
彼らの80%は刺青をしていた」
RBの独房にギターがあることに驚く。弦を外すと武器になり得ると持ち込みが許されない刑務所もある。
RB「何が起きようと、起きることは起きるんだ、すべて善なのさ。
てめえ自身の正義ってものがある。世間自体が世間の法を無視してるからよ。
行くものは帰ってくる。上がるものは下がるさ。運命の流れはそんなもので、おれはそれに従う」
「おれ達が人種戦争を始めようともくろんでいるから、事件が起きたと皆が信じるようマスコミが企てた。
善良な白人市民を傷つけまわっているのはニガーだとね。
オレの兄弟姉妹がやったんなら、それは善。人生の何事もすべて善だ。
もの皆廻るのさ。すべて善きこと。すべてが音楽なのさ。殺しを善いことと思っているわけじゃない」
「君はアーリア人結社の首謀者だと言ってましたね。
いつか仮出獄できるってことは充分考えられる。考えてるよりずっと早い時期に。
ゲイリーをやるつもりはなかった。だけどたまたまある事態が起こった。次いでまた。
そしてすべてが廻りきたった。そしてそれはそれはすべて善きこと」
RB「すべて善きこと」
「うつくしい子供」(この短編集の中で一番好き
英国生まれの女優で享年75歳のコンスタンス・コリアーの葬儀に来たTCは、だいぶ遅刻している友人マリリン・モンローを待っている。
マリリンは必ず遅刻する。コリアーにマリリンを紹介したのはTC。
コリアー:
「あの娘って、うつくしい子供なのよ。女優なんかじゃなく、あの存在感、聡明さ、才気煥発は、けっして舞台では表に出ないわ。
カメラしかその趣を固定できない。なんだか、あのコ、長生きしないだろうなって思うの」
そう言っていたコリアー女史は亡い。
マリリンは黒づくめのノーメイクでやって来て、後悔した。
TC「ずいぶんと僕は間抜けだな。たった今まで本物のブロンドだって思ってた」
M「本物よ。でも、あそこまで天然ではいかないわ。やーねえ。
私は葬式なんていらない。もし子どもがいたら、遺骨を波の上に投げてくれるだけでたくさん。
フィリス(お手伝い)はヘップバーンさんと暮らすらしいわね。運がいいわ。
ヘップバーンさんてすっごい女性だもの、ほんと素晴らしい人」
「みんなはあたしに演技なんてできないって言うの。エリザベス・テイラーのことも。
わかってないのよ。『陽のあたる場所』ではたいしたものだったわ」
TCにベスが本当はどんな人って聞かれたら、どう答えるか聞くマリリン。
「君と似てるところがあるよ。率直に話して、辛らつなことを言う人だね」
式場から出たら、マスコミに見られるのを嫌がって、しばらく喋る代わりにシャンパンをおごると約束するが、
彼女はいつもお金を持たないので、エリザベス女王と同じだと言うTC。
「許されてないんだ。不浄な金が、女王の手を汚さぬよう、法かなにかで決まってるのさ」
やっと外に出ると誰もいない。
M「あたしも指輪をはめられたらいいんだけど、手を見られるのが嫌なのよね。全然ほっそりしてないもの。
テイラーの手もそうよ。でもあの目でしょう、誰も彼女の手なんか見やしないわ。
あたしは家を持ったことがないの。でも、もう一度結婚して、お金をたくさん稼げたら、
車2、3台雇って、何から何まで買い漁るわ」
占い師が気になるマリリンに、新しい恋人のことを聞きたいのだろうと思ったTCは、なんとか名前を聞きだそうとする。
M「ロケは嫌ね。『ナイアガラ』なんて、あんなの最低だわ。ウッフッフ。
あなたの知ってる人の中で一番魅力的なのは誰?」
TC「バーバラ・ペイリイさ。文句なしにね」
TCは、秘密の話をして、気に入ったら、恋人の名前を教えるよう条件を出して話し始める。
18か19の頃、エロール・フリンと一晩過ごした話。
M「そんなの、ちっともたいした話じゃないわよ。エロールとタイロンがしてることをマッサージ師が話してくれたわ」
「ジョーは悪くなかった。今でも愛してるもの。誠実な人よ」
TCは、相手は作家アーサー・ミラーだと言い当てる。
マリリンは激怒して、トイレに行く。
彼女は化粧室に行くと象の妊娠ぐらい長い間戻って来ない。
覚せい剤を致死量飲んでいるか、手首でも切っているのではと覗きに行く。
彼女は、フェリー乗り場に行こうと言い出す。
「あそこが好きなの。外国の香りがするし、カモメに餌をあげることだってできるでしょ」
タクシーが信号で止まると、震える手で窓を拭いて駄賃を求める男を見て、我慢できないと泣き出すマリリン。
フェリー乗り場に着くと、犬を散歩させている男からサインを求められ、妻に言っても信じてもらえないだろうと言われる。
M「去年、クラーク・ゲーブルにナプキンにサインしてほしいって頼んだのよ」
(この件には号泣してしまった。この憧れの大スターとの共演が、マリリンの遺作になったから。
M「あたしが本当はどんな女か聞かれたら、なんて答えるつもりなの?
とんまだって言うんでしょ。お菓子のバナナ・スプリットみたいだって」
TC「当然ね。だけど、それに付け足して・・・」
彼女は空や雲とともに闇にまぎれ、遠ざかっていくように見えた。
私はカモメより大きな声を出して彼女を呼び戻したかった。
マリリン! 何もかもがなんで決まりきったように消えてなくなるのだろうか。
人生ってなんでこんなに忌々しく、くだらないのだろうか、と。
「えーとね、きみはうつくしい子供だとね」
「夜の曲がり角、あるいはいかにしてシャム双生児はセックスするか」
睡眠薬も酒も効かず、眠れないTCは、自分同士で喋り合う(
そこで“めちゃくちゃ嫌悪リスト”を発表し合い、やたらとビリー・グラハムが出てくる。
TC「好きな人はみんな死んじゃったよ。何人かは最近だし、何人かは何世紀も前にね。
プルースト、サラ・ベルナール、オスカー・ワイルド、アガサ・クリスティ」
2人(?)は自己インタビューを始める。
Q:体験の中でもっとも驚いたことは?
A:裏切り。見捨てること。動物園でライオンが2匹檻から逃げた時、乳母は僕を置いてけぼりにして、身を翻し走って行った。
僕にとって本当に恐ろしいことは、自分の心の中の廊下を歩く足音だね、それらがつくりだす煩悶、幽霊のように浮かぶもの。
Q:不得意なことは?
A:アルファベットが暗誦できない。
Q:『名探偵登場』で映画俳優デビューしましたね。どうでした?
A:僕は俳優じゃないし、おふざけでしたのさ。
ふつうはサインするのは嫌じゃないんだ。けどね、サインをくれと頼む大人の男は例外なく、女房か娘か女友だちのためだという。
けして自分のためだと言わないんだよ。
話は青い目のアイザック・ディネーセンというペンネームのブリクセン男爵夫人のことになる。
作家になりたいと言うと、アメリカの作家で誰が好きかと聞かれ、
「本当に好きなのは、ウィラ・キャザー」だと言うと「それを書いたの私なんですのよ」と言った。
彼女は、文学ではなく音楽が好きだった。
彼女の作品をけなす言及を聞くと、意気消沈してしまうという。
「自分にある欠点を、他人の中にも見出して、それを非難するのが世の常じゃなくて?
私は生きてるのよ。脆い存在だわ。あたり前のことよ」
Q:自殺を考えたことは?
A:無論あるさ。誰にだってある。僕の知ってる日本の著名な作家・三島由紀夫の自決後、彼の伝記の引用で驚いた。
“自殺についてはよく考えますね。自殺するだろうと確信している人は大勢いますよ。トルーマン・カポーティとかね”
彼が何をもってこの結論を導いたのか想像つかない。彼はいつも愉快で、心温まる時を過ごせたものだ。
ただ、彼は傷つきやすく、直観力があって、軽はずみに論じる人物じゃない。
でも、彼がしたようなことをする勇気など僕にはあり得ない。
死後の世界は信じる。生まれ変わりに賛成なんだ。
Q:死後、何に生まれ変わりたいですか。
A:鳥、ノスリがいい。格好つける必要がない。醜いし、どこでも歓迎されない。
そのおかげで許される自由には、大いに利点がある。
Q:願い事が1つできるとしたら?
A:自分が恨み、復讐心、その他、無意味で子供っぽい感情と縁のない大人になっていたい、ということ。
たしかに神は信じていたけど、その後信じなくなった。それから聖書そのもの。
多少の常識のある奴なら信ぜよという言葉を信じられるわけがない。
フロベールの小説『聖ジュリアン伝』を例にあげる。
ジュリアンはどんな動物も大好きだったが、父が馬や弓矢を買ってやり狩猟を教えたら、殺生が嫌いじゃないことに気づいちまった。
ジュリアンは両親を殺した。その後村八分にされ、胸糞悪い不気味な人物に化けた神にテストされる。
毛布に入れてあげ、最後の頼みだといって、ただれた唇に口づけをと乞うと、ジュリアンはそれに応えた。
そのため、聖ジュリアンとなったんだ。
神は救ってくれたかい?
うん、そりゃもう。でもまだ聖者じゃないけどね。
アルコール中毒だし、麻薬常習だし、同性愛だし、天才だし。
[訳者あとがきメモ]
翻訳小説を読んで、翻訳の上手下手について、僕なりに見当がついた。
引き受けたのは、自分の文体を新しくするために有効じゃないかと考えたから。
意味は判っても、日本語でどう表現すればいいかというもどかしさは少ない。
彼は彼なりに彫心鏤骨の文体を心がけていて、その迫力に気押された。
彫心鏤骨:心に彫りつけ骨に刻み込む意で、非常に苦心して詩文などを作り上げること。また、単にたいへんな苦労をすること。
*
以上が、約20年前に訳した本書の「訳者あとがき」。
文庫版になると知らせを受け、読み返すとなんとも具合の悪い感じがまだ残っていた。
およそ僕は、自分の作品について、くよくよすることがない。うぬぼれも、悩みもしない。
彼は喋っていない、ただそこにいる。そしてミテいる。
彼の眼を僕のものにすれば、それでいい。
カポーティはむつかしい。だが、どれほど拙劣な訳でも、カポーティはおもしろい。
[狂気を前にして文学は可能か~文芸評論家・川本三郎 抜粋メモ]
1999年の映画『オール・アバウト・マイ・マザー』に本書が登場する(驚
主人公は文学好きな息子に本書をプレゼントし、少し読んでみてと言われ、序文を読む。
「神が才能を授け給うにしろ、必ず鞭を伴う。
いや、鞭こそ才能のうちなのだ、自らを鞭打つ」
『冷血』の成功があまり大きかったため、次作を書くのが困難になった。
それ以上のものを書かなければというプレッシャーで押し潰されそうになる。
『冷血』から14年たってようやく、この新作を発表できた。
『カメレオンのための音楽』は至高の、神技に近い集中力の産物だった。
アメリカではノンフィクションのジャンルに入っているが、
実際は、フィクションともノンフィクションともいえない領界上の作品が多い。
私小説の伝統のある日本では、間違いなく短編小説といえるもの、など。
現実のカポーティというより、脚色されたカポーティ。
現実が虚構化し、虚構が現実化する。
都会的でスマートな作家と思われがちだが、アメリカ南部の出身で、内面に潜む暗い闇に敏感な作家だ。
後年はゲイを公にしてはばからなかったが、'40~'50年代、アメリカ社会がゲイに対して非寛容だったため苦悩した。
『遠い声 遠い部屋』は、その苦しみを描いている。
追。
本の冒頭に、「日本語版翻訳権独占 早川書房」とある。
翻訳にも独占なんてのがあるのねぇ・・・