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『目で見る世界の国々 63 スイス』(国土社)

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『目で見る世界の国々 63 スイス』(国土社)
ロリ・コールマン/著 吉野美耶子/訳

【ブログ内関連記事】
『ナショナルジオグラフィック世界の国 イタリア』(ほるぷ出版)
『世界の子どもたちはいま2 フランスの子どもたち』(学研)

上記のシリーズにないので、また似たものを探してたどりついたのがこちらのシリーズ。
ナショジオシリーズより文字数が多く、モノクロ写真とカラーが半々くらい。

なんといっても「中立国(永世中立主義)」として、第一次世界大戦にも第二次世界大戦にも参戦しなかったというのが素晴らしい。
どうやって「中立」を保っているのか、また、日本と同じ資源の少ない小さな国ながら、生活の質が良いのはなぜか。

こないだの「パナマ文書」のニュースでも出てきて、
そういえば、銀行に大金を預けるというとスイスってイメージだなってところにも興味をもった。

“税金逃れ”に世界が怒り! パナマ文書って何? @週刊ニュース深読み

実際は、公用語が3つあって、それぞれの国の影響を受け、スイス独自の文化はないものの、
時計、乳製品などを輸出、観光で国を豊かに、安定させていると分かった1冊。

まとめ方はナショジオシリーズのほうが分かりやすいから、そのスタイルでメモります。
2002年初版のため、今は変化している部分もあるかと思われ。


*****************概略

[国旗]
1339年の戦争で使われ、1848年に公式に採用。


[気候]
と雪が多い。高山に囲まれた深い谷は少ない。
ベルンの7月の平均気温は21度。
冬は、各地で雪が深く積もる。


[人口密度]
スイスは、民族、言語も、ヨーロッパでもっとも多様な国の1つ。
全人口716万人の20%が外国籍。移民の多くは、スペイン、イタリア、ドイツ、フランスなど。

出生率も、死亡率も低いため、人口増加はゆるやか。
アルプスと、ジュラ山脈にはさまれた高原ミッテルラントに国民の大部分が住む。

「ジュネーブ」は、国際機関が集まる大都市。
国連ヨーロッパ本部、国際赤十字、国際労働機関、世界保健機関、世界教会協議会。


[公用語]


ドイツ語(65%)、フランス語(18%)、イタリア語(10%)。
スイス人はたいてい、2ヶ国語かそれ以上を話す。
スイスドイツ語には、さらに数多くの独特な方言がある。


[政治]
連邦国家。大統領は閣僚の中から毎年、順繰りに選ばれ、任期は1年。特別に強い権限はない。

最大の特徴は、「直接民主制」と、各州の権限が強いこと。
「直接民主制」は、国民が投票でさまざまな問題を決定する「国民投票」+国民が連邦憲法の改正を要求する「国民発議」。

「国民投票」は、法で定めた署名数が集まれば実施される。憲法の改正に必要なのは10万人。
中には、住民が広場に集まり、手をあげて評決する、昔ながらの「州民集会」を行う所もある。

(これいいシステムだな。せっかく「マイナンバー」作ったんだから、政治家じゃなくて、全部、国民投票で決めればいい。


[宗教]
国教を定めていない。
大半がキリスト教徒。ローマカトリックとプロテスタントの割合は半々。

昔から、政治と宗教を分離する努力をしてきた。
聖職者が連邦合同議会に選出されることは、憲法で禁止されている。


[産業]
20C前半は、時計、電気機械などが中心、第二次世界大戦後は、金融、観光が拡大した。
スイスの冬は長いため、昔から労働者は何ヶ月も屋内で作業をし、精巧な製品を作る技術を磨いて、有能な職人となった。

第二次世界大戦中、中立を守ったため、経済はほぼ影響を受けなかった。
連合国は「国際連合」に加入させようとしたが、スイスは断った。

1950年代、経済はチョコレートや時計などで急速に発展。
労働力確保のために、外国人労働者を大勢雇った。

1970年代、世界的石油不足により、工場が閉鎖、物価上昇、失業率7%となり、
外国人労働者を20万人解雇するよう求め、労使関係が悪化した。

今日の主要産業は、機械、建築資材、印刷製品、宝石、時計、化学薬品など。
スイスで製造される時計は、ほぼすべて輸出される。

時計の組み立てに忙しい労働者



[観光]
毎年、約135億ドルの収入をもたらし、スイス経済に必要不可欠な財源。

リゾート地シャイデックのホテル(私の両親もスイスに行ったけど、この山が圧倒的すぎて、ちょっと圧迫感があるんだよね


ベルンの「クマ公園」も名所(なんだかよさげな名前


[貿易]
主な相手国は、EU加盟国。最大相手国はドイツ。
輸出より輸入が多く、貿易収支は赤字だが、観光、金融業が埋め合わせている。


[経済]
スイスはヨーロッパの中央にあるので、昔から多くの通商の十字路にあたった。


[金融]
中立主義、銀行の秘密保持制度のおかげで、昔から世界中の企業が集まった。
銀行口座の公表は禁止されている。


[文化]
スイス独自の文化は育っていないが、昔から、世界的に有名な詩人、作家、画家、音楽家が祖国の動乱、迫害を逃れて移住した。

スイス人の書いた本でもっとも有名なのは、ヨハン・バイスの『スイスのロビンソン一家』。
(『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』だ!
ヨハナ・シュピーリの『ハイジ』。

作家は、H.ヘッセら哲学的主題を扱う者が多い。
画家ではパウル・クレー()ら。

彫刻家アルベルト・ジャコメッティ作の歩くネコのブロンズ像(カワイイ


スイスアコーディオン、チター、ダルシマーなどは、スイスで生まれた楽器。
アルペンホルン、カウベル、ヨーデルは「スイスの自然の声」として親しまれている。
アルペンホルンは、昔、警告の合図、山岳地方で兵士を召集するために使われた/驚


[スポーツ]
もっとも人気なのは、スキー、クロスカントリースキー

ホルヌッセン



[食べ物]
高級料理と、伝統的な家庭料理に分けられる。

「ラクレット」や「チーズフォンデュ」が有名。
美味しそう~!

朝食は普通、ココア(コーヒー、ミルク)、パン、バター、ジャム。
メインはランチ。夕方に焼き菓子、チョコレートのおやつを食べ、夕食は軽い(親近感もつなあ

生クリームとココアのおやつを食べる子どもたち



[交通]
高低のある地形に関わらず、道路、鉄道が網の目状にあり、世界でもっとも発達している。
アルプスを貫くトンネルが何百とある。
この莫大な量の交通により、大気汚染、騒音が増えるのを危惧する人が多い

唯一の航空会社「スイス航空」は国営


[教育]
スイスの教育制度は、昔から世界最良の1つとされている。
“近代教育の父”と呼ばれるヨハン・ペスタロッチのおかげと言われる。


家庭教育の重要性を話し、実用的な技術を身につけさせなければならないと説き、日本の教育にも強い影響を与えた。



学級は少人数制、識字率は全人口の99%。
小中学校の就学期間は州により異なるが、小学校は6年制、中学校は3年制。
高校を終えると、公立大学に無試験で入学できる。スイス市民は授業料は無料。
チューリヒの工科大学からは、ノーベル賞受賞者をもっとも多く輩出している。


[保健制度]
政府により、病気、出産、一時的障害に対して、無料か低額の医療を提供。
乳児死亡率が低く、平均寿命は78歳で、世界でも長寿な国の1つ。


*****************自然

国の面積は、九州とほぼ同じ。

「マッターホルン」


ヨーロッパでもっとも高い山は、フィンスターアールホルン(4274m)、ユングフラウ(4158m)。

「川」
山岳地帯から流れ出る水路の恩恵をこうむる。

「森林」
森林が国土の25%を占める。
近年、酸性雨の被害が酷く、多くの森林が死滅しかけていて、そのままにしておくと病原菌が広がるので、伐採して放置されている。


「植生」
南部は気候が温暖で雨が多いため、植生が豊か。

「農業」
農業人口は、全労働力の5%にすぎない。農地の約40%は牧草地。
牧畜業から得られる収入は、総農業収入の75%を占める。

「原子力発電所」
エネルギー需要の約60%は水力発電だが、原子力発電所もわずかながらエネルギーを供給している。
安全性を危惧する声が高まり、新しい原発の建設は10年間中止された。

原子力エネルギーの危険性を訴えるため、原発に十字架を立てるグリーンピースの人たち


「工業汚染」
1986年、化学薬品倉庫が火事になり、約30tの有毒な化学消化剤がライン川に流出し、ウナギなどの魚が被害を受けた。
その後、厳しい「環境法」が作られた。

大量に死んだウナギを川から救い出している




*****************野生生物

マーモット


こうした動物も、何百年にわたる狩猟、土地開発で数が減った。
今は、法律により保護され、広大な国立公園がある。


*****************歴史(年表がないため、前後してるかも

スイスは、2つの世界大戦どちらにも参戦しなかったため、150年間、平和が続いている。

「ギルド時代」
チューリッヒにある「スイス国立博物館」には、先史時代~現代までのさまざまな展示品がある。


祖先は、主に5Cにスイスを征服したフランス人、ドイツ人。

紀元前500年 ケルト文明が定着。「ヘルベチア教」を通じてヨーロッパに広がる

紀元前58年 ローマ帝国、神聖ローマ帝国が統治

4C ゲルマン民族による統治

9C カール王(のちのカール大帝)が統一、大帝国が誕生
領地には、諸侯の下に家老、職人、小作人がいて「階級制度」があった。
小作人は「農奴」と呼ばれ、無報酬で働く代わりに、食料をもらい、保護を受けた。
この「封建制度」は数百年続いた。

11C 勢力をつけた諸侯が統治。

13C サボイア家、ツェーリンゲン家、キブルク家、ハプスブルク家が大部分を支配。

1273年 ハプスブルク家のルドルフ1世が神聖ローマ帝国の皇帝になる

1291年 3つの自治州がゆるい同盟を結び、連邦を形成した(ゆるいのがイイね

1315年 「モルガルテンの戦い」でハプスブルクが敗北

14C末 「スイス同盟」が広がる
スイス兵は戦いに熟練していたので、他国へ兵士として働きに出るようになる

「宗教改革」
カトリックとプロテスタントの宗教戦争が幾度も起こった
金持ちの僧侶が権力争いを始める。

1531年 スイス人に信仰の自由が認められる。

「カルバン」
彼が罪深いと考えた行為(飲酒、ゲームなど)が禁止された

1582 日本の少年4人がローマのカトリック教皇のもとに派遣された

1618~1648 ヨーロッパの「30年戦争」でも、スイスは中立を保った

1798年 フランスで革命が勃発。ナポレオンの支配下に入る

1803年 「スイス連邦」成立

1815年 ナポレオンが連合国に敗れた時、スイスは国際間の対立に一切関与せず、永久に中立を維持する政策を認められた。

1848年 新憲法成立。将来、ヨーロッパでいかなる紛争が起きても、中立を守るため、外敵の攻撃に備える軍隊、防衛制度をつくった。
(軍隊、軍備はあるのね

19C 「自由貿易政策」で景気が一気に向上。政府の制約を受けないスイスの商業は一気に発展。

1902年 ベルンにある連邦議会議事堂が完成


2つの世界大戦で、スイスは、亡命者を保護し、負傷兵に医療を提供。
国際連盟の加盟国は、自分たちが危険とみなす国に経済制裁を加えたりして、中立を保持するのに困難が生じた。

1935年 ムッソリーニは「ファシズム」帝国を広げる計画をたてる。ヒトラーと領土の征服を狙う。
「枢軸」という連合を作ったのがきっかけで、第二次世界大戦勃発。

スイスは国境防衛のため、85万人(市民の4人に1人)を集めた。
スイス銀行は、ユダヤ人の預金を守るため、利用者の秘密を守った。
枢軸国と連合国のスパイ諜報活動の土地にもなった。

1945年 終戦。スイスが中立を守り通したのは「20世紀の奇跡」と言われる。

終戦後に、収容所から解放され、スイスに移送されるユダヤ人難民の中には幼い少年もいた


1981 スイス憲法改正。婦人参政権、職場・教育における男女平等が認められる(男女の中立は遅いのね



*****************現代の問題

「麻薬」
ヘロイン常用者数は、ヨーロッパでもっとも多い国の1つ。
(こんなに恵まれたように思える環境で、なぜ麻薬がはびこるんだろうか???

「HIV」
新たに感染した数は、ヨーロッパでもっとも多い。
原因は、麻薬常習者が注射針を消毒せずに使いまわしたこと。

「移民制限」
「国民投票」に何度も取り上げられたが、すべて否決されている(否決されるんじゃ、国民の声もムダになるな

「銀行口座の秘密厳守」
犯罪者に関しては、特別許可があれば、取り引き記録を公開することに同意した。

「EU加盟」
「中立と独立の伝統が失われる」vs「ヨーロッパでの影響力を失い、経済損失を受ける」と対立している。
2000年に部分的協定が「国民投票」で決定。

「軍事訓練」
20~50歳の男子は、一定期間、軍務につく義務がある。




【訳者あとがき 内容抜粋メモ】

スイスと日本の関係は、時計を通して始まったらしい。
鎖国時代にもオランダ人によりスイス製の時計が入ってきた。

スイスの政治制度は、幕末の日本にもっとも望ましいと考えた学者もいた。

福沢諭吉は『条約11カ国記』(1867)と『世界国尽』(1869)でスイスを紹介し、高く評価した。

1904、『地上の理想の国スイス』が書かれ、「自由、平等、平和のあふれる国」と賛美した。

第二次世界大戦中、アメリカ、イギリスなど20カ国は、日本での自国民の利益の保護をスイスに依頼した。

当時は、スイスをモデルに日本を復興させよう「東洋のスイスになろう」という気持ちがあった。
戦後、日本は、EU、アメリカに次ぐ3番目に重要な市場になった。

日本人にとって、スイスは行ってみたい国の1つ。
日本からの観光客数は、ヨーロッパを別にして、アメリカに次ぐ2位。

資源不足を補うため、国民が勤勉なところが似ていることは、多くの国が認めている。

憲法に「戦争放棄」を規定する日本には、スイスの「永世中立主義」は無視できないのではないだろうか。

1940年 スイスは周囲をドイツ軍に囲まれ、経済も大打撃を受けた。
ドイツに「順応」するか、「抵抗」するか、国民の意見は分かれ、分裂の危機となる。

「砦作戦」
この時、アンリ・ギザン将軍が、全部隊長をリュトリに集合させ、同盟を宣誓した。
戦争になったら平野部を諦め、アルプス山脈を砦にたとえてたてこもる作戦。
これにより、ドイツのスイス攻撃は後回しにされ、イギリスを攻撃して敗北した。

その後、終戦までの2年間も中立を守り続けたことは、まさに「20世紀の奇跡」である。



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