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『原子力発電を考える』(岩崎書店)

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いますぐ考えよう! 未来につなぐ資源・環境・エネルギー1『原子力発電を考える』(岩崎書店)
田中優/著 山田玲司/画

2012年3月の発行だけに、震災後に起きた原発事故も踏まえて、専門用語もしっかりまじえつつも
分かりやすくエネルギーのこれからのあり方を示している1冊。シリーズは全3巻ある。

【内容抜粋メモ】

「目的」の下にある「手段」にあたるモノが資源。資源は、時代によって変わっていくもの。
ポケベルが消えたように、より便利なものが出てきて使われなくなったり、
健康に悪い、危険すぎるとわかって見直されたりするものもある。
今ある資源やエネルギーがすべてだと考える必要はない。

1986年、旧ソ連で起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故がきっかけで著者は原発について調べるようになった。
この事故の2週間後、日本にも放射能を含んだ雨が降り、その植物を食べた牛に濃縮され、牛乳にも含まれていた。
当時、2人目の子どもを妊娠していた奥さんを経由して、子どもにも汚染された牛乳を飲ませていた。


【原子力発電のしくみ】
 
ウランを燃焼して水を沸騰し、蒸気を発生させてタービンを回して電気をつくる。
沸騰水型炉、加圧水型炉などがある。福島第一原子力発電所は沸騰水型炉タイプ。


************************************福島第一原子力発電所の事故

津波が原因なら防波堤や防護壁で対処できる。
地震の揺れが原因なら発電所そのものの耐震性能を上げなければいけない。
2000年以降、世界で発生している地震は約10倍多くなり、地球は地震の活性期に入っている。

メルトダウンが起きたことが発表・報道されたのは、事故から2ヶ月も経ってからだった。
この崩壊熱が下がるまでには、まだ10年ほどの時間が必要。

【メルトダウン】
原子力発電の重大な事故のひとつ。


津波は、万一のために用意していた発電機を水没させた。
海水を入れたら発電所は二度と使えなくなるので入れなかった。
そこで、放射能をたくさん含んだ蒸気を「ベント(放出すること)」にした。

第一、第三、第四号機が「水素爆発」を起こし、建物を壊して放射能を飛び散らせた。

日本は偏西風地域で、一年中強い西風が吹いている。
一番東端の発電所だったことで、放射能の大半は太平洋へと流れた。
しかし「人が住むのに適さないレベル」とされる年間1ミリシーベルト以上の被爆を余儀なくされる汚染が国土の3%に広がった。

【シーベルト】
放射線被爆による生き物の体への影響の大きさを表す単位。Sv。
7000ミリシーベルトを浴びると、ほとんどの人が死亡するとされている。


************************************原子力発電のあゆみ

原子力は、そのそも発電用でなく、核爆弾を作るための技術だった。発見したのはアインシュタイン。
原子力潜水艦は、燃料の補給が何ヶ月も不要なため、長く海底にいることができ、敵に見つかりにくい。

その次に作られたのが、原子力発電所。


1963年「電源三法」が作られ、原発が推進され、今では日本に54基ある。
世界では2011年現在436基あるから、日本には世界全体の12%あることになる。

「反対運動」
原発設置の話が出ると、町は推進派反対派に分断され、互いに話すこともできなくなり、伝統的な祭りが中止になったりする。
芦浜原発は2000年に中止された。反対派は嫌がらせを受けたり非難されることもあるが、人々は抵抗してきた。


2011.9.19、「さようなら原発5万人集会」に集まった6万人の人々(東京の明治公園)


「先進国で売れなくなったから途上国に」と、ヨルダンやベトナムに輸出しようと進めている。
設置後に数百、数千年という単位の管理費用、使用済み核燃料の保管も必要。

「六ヶ所村再処理工場」「高速増殖炉もんじゅ」も事故で止まったまま、反対運動に直面している。


●ウラン

世界のウラン資源の分布

オーストラリア、カナダからの輸入に頼っている。
2011年、日本の貿易収支が赤字になり、その最大の理由はエネルギー資源の輸入。


●なぜ海沿い?
冷却水が必要だから。
原発では、わずか33%しか電気に換えることができず、残りは「温排水」になる。
温排水は、海の生物に影響を及ぼしている。


白く見える部分が排出口から流れ出る温排水(浜岡原発)


************************************放射能汚染

今回の福島原発の場合、日本は偏西風地域のため、漁場の多くは汚染を免れたことと、核爆発でなかったことが幸いした。

肺から吸い込むと危険性の高い「プルトニウム」は、原発周辺の20km圏内、飯館村など一部を汚染するにとどまった。
危険性の高い「ストロンチウム」も飛散量が少ない。
多くは「ヨウ素」と「セシウム」。
ヨウ素は寿命が短く、8日で半数が安定化して減る「半減期」→半年で1/1千万以下に減った。

【ヨウ素】
ナポレオン戦争の際、海藻から火薬を製造している時に偶然発見された元素。ヨードともいう。
体内においては、ほとんどが甲状腺に存在している。


●セシウム
ホコリとともに飛んでくる。ホコリはしみこまず地表を汚染した。
その後、どんどん粘土質に取り込まれ、地下に浸透せず、残ったのは1年に1cm以下。
セシウムは花粉症用のマスクでほぼ100%防げる。


野菜の処分を行う農家

「生体濃縮」
日本のニワトリやブタは、ほとんどアメリカ産の配合飼料を与えられていたため、汚染は少ない。
しかし、海に流された汚染水はレベルが高かった。

「外部被爆」
外から飛んでくる放射線にあたること。

「内部被爆」
内側からあたるもの。外部被爆より被害が数百倍大きい。食べ物、飲み物の汚染に注意が必要。

放射能に安全なレベルはなく、浴びた量に比例して被害が増える。
細胞分裂し続けている子どものほうがより注意が必要

放射線の被害は「酸化反応」だから、「抗酸化物質」を摂ることが大事。
緑黄色野菜、乳酸菌、味噌などの発酵食品、食物繊維、果物にふくまれるペクチンなど。

【ベクレル】
放射性物質が放射線を出す能力を表す単位。
1ベクレルは1秒間に1つの原子核が崩壊して放射線を放つ放射能の量。


************************************原子力発電は必要か?

●推進された3つの理由
・二酸化炭素の排出量が少ない
・発電コストが安い
・一度燃料を装填すれば1年間はそのままでよく、燃料価格の上下に左右されにくい
と言われつづけてきた。


●二酸化炭素の排出量が少ない?
原発からは毎日微量の放射能が出る。事故になれば桁外れの放射能が出る。
「二酸化炭素を出さないから放射能のほうがいい」というのは、本来比べられないものを比較していることになる。


●発電コストが安い?
これまでの試算では「1kw時当たりのコストは5.7円〜5.9円」とされていたのが、
2011年8月の報道では「1kw時15.8円〜20.2円」と報道された(当然算入されるべき費用が漏れていた


●燃料価格は安定している?
原発に必要な費用は再処理や管理も入れて74兆円と莫大。
事故で止まると費用は増す。


中国電力島根原発の原子炉建屋から運び出される使用済み核燃料


************************************原子力発電にたよらない方法

●「原発から自然エネルギーへ」にある2つの前提
1.原子力がなければ電気が足りず、今の暮らしが維持できない。
2.自然エネルギーで原子力発電に代わることができる。→まだ欠点も多い


●電気消費量
家庭の電気消費量は全体の22%のみ(2011年の1年間)。事業者がもっと努力すべき。
(東京電力は日本の1/3の電気を届けている)


「従量電灯」が家庭消費にあたる

電気はためられない
最大電力消費のピーク時に合わせて発電所を建設しなければならない。
→最大消費量のピークを下げなければならない。

電力消費のピークが出るのは、1年間でわずか10時間程度(10%)。
そのピークは「夏場の平日・日中、午後1時〜3時、気温が32.3度を超えた時」だけ
→企業にお昼休みを2〜3時間ずらしてもらえば充分ピークを下げられる。


●電気料金のしくみを変える
今の事業者の電気料金は、基本料金が高い一方、1wあたりの金額は一定。
つまり、使えば使うほど単価は安くなるため、消費を増やしてしまっている。
→使えば使うほど高くなる電気料金に変えれば節電は進む。
→ピーク時だけ高くするだけでもピークを下げられる。


「ライフスタイル」ではなく「しくみ」を変える。

●省エネ製品に入れ替える
「LEDランプ」にすると、電力消費量は1/10〜1/20に減る。
日本の省エネ製品は、世界一の節電を実現しているので、単に省エネ製品に買い替えるだけでも電力消費は半減する。
→日本の原発設備率は20%程度だから1基もいらなくなる。

【設備率】
原子力発電における原子炉の運転状況を表す代表的な数字。低いほど、無駄が多いことになる。
2003年頃から下がり続け、震災後は20%を下回るまでになっている。


●原発稼働率

原子力は約20%

日本の1年間の平均で6割程度しか働かない→消費の波の上下が激しいから
もしドイツや北欧と同様に上下の波をなだらかにすれば、ピークは25%下がる

フランスは、事業者の夏場・平日・日中の電気料金を家庭より11倍高くしているため、みんな節電している。

アメリカでは、2本の送電線のうち1本をエアコンにつなげ、ピーク時に5分ずつ消していく。
→もしエアコンのリモコンに5分間送風に変える回路を組み込めば、ピークは下げられる


デマンドサイド・マネジメント

「サプライサイド・マネジメント」
日本は電力消費(デマンドサイド)に合わせるために、発電所(サプライサイド)で管理(マネジメント)する。
→今の発電所の発電量に、電気の消費量を合わせるのが「デマンドサイド・マネジメント」。海外ではこちらが主流。

カルフォルニアのスマッド電力会社では、冷蔵庫を省エネにかえると3万円もらえる
白熱球をタダで蛍光灯ランプにかえてくれる。
新たに原発をつくれば5000億円かかるため、みんなに省エネ製品を配ってピークを下げれば、
たとえ4000億円使っても1000億円安くなるという考え方。
日本は発電所を作りすぎたため、稼働率(負荷率)が下がっている。


●原子力発電は必要悪か?
「ネガワット」
海外では電気の消費を減らすことをこう呼ぶ。
エアコンや電気ストーブ→ガスのヒートポンプの暖房、窓を断熱する、ペレットストーブ、薪ストーブにする など

【国際放射線防護委員会(ICRP)】



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