■『密会』(新潮社)
原題 THE TRIST by Michael Dibdin
マイケル・ディブディン/著 成川裕子/訳
※1993.9~のノートよりメモを抜粋しました。
※「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
▼あらすじ(ネタバレ注意
なんとも不思議で、かつ悲しいまでに現実的な面ももった、現代のサイコ・サスペンス。
ストーリーを反復して再確認したほうがいいと思うけど、
日常でありがちな事が、いざ小説という媒体になって、
それをまた第三者に客観的に伝えようとするとややこしい。
現在。心理カウンセラーのエイリーンが「殺される」と妄想を抱いている少年スティーヴンをまかされて
施設においておけるたった数日間で、その理由を突き止めようとする
つまり、これが本筋だけど、そこにスティーヴンの過去-身元は全く不明
社会において“消えている人間”であるホームレス生活、
同じホームレスのグループのデイヴ、アレックス、ジミー、トレイシーらとの共同生活、
そしてふと見つけた新聞配達のバイトで知り合った独り暮らしの奇妙な老人
この老人の昔話、どうして、あのニヤニヤ笑いの男をそれほど怖がるのか、
第一次世界大戦前の18Cまでさかのぼった話、
そして、エイリーンの過去
レイモンドと10代の頃に知り合い、恋に落ちた後、子どもを身ごもったが、ハングライダーの事故で先立たれ、
ドラッグで自殺を図り、かなりの高さから取り降りたが奇跡的に助かり
その代わり、子どもを亡くすという、アメリカでの悲惨な思い出を今もひきずっている
これらが交互に、次から次へと展開し、しまいには互いが融合しあって、
それぞれの区別がつかなくなるラストは、やっぱり意外
SFか、幽霊物語にでも発展してしまうのか?!と思ったほど
また、同時に、愛情ではなく、何か“相互作用の機能化”している夫婦の姿も哀しいほどリアルに描かれている
“どんなに見た目が不釣り合いでも、その夫婦がもし長年続いているのなら、
それはうまく機能しているからだといえる”
本当にそんな保たれた天秤でしかないのかしら?
イギリスにもふくれあがる無職で、帰るべき家のない路上生活の子どもたちの生活も細かく描かれている
スティーヴが最後まで店の名前を“OOD S ORE”(看板の文字が剥がれている)という単なる記号としかとらえていない文盲者であり、
イギリスにも、アメリカにも、その人数は世界においても断然多いことが、この少年たちに代表されている
彼がプライベートでリラックスできる一番お気に入りの場所が、公園の公衆トイレの個室で
そこに書かれた意味のない猥雑な落書きの一節から「EAT, SHIT, DIE, BOX」だけを
街のあちこちに書き残していくというくだり
エイリーンが偶然にも何箇所かに目を留めて、教養ある彼女は「食う、排泄する、そして埋葬される」という
人の一生を端的に言ったようなものだと深く読んでいる、この2人の違い
無知であることの恐ろしさを鋭く暗喩している
サスペンス映画を観るように、読者もこのカルマの謎解きに参加できるのが、この作品の面白さの1つでもある。
レイモンドそっくりのスティーヴは、実は彼の本当の息子だった。
レイは麻薬の密売人で、エイリーンがいかにも普通の英国人風なのをただ利用していたに過ぎなかったこと、
それから、老人の話の中の真犯人探し、大農場地主の館の双子ルパートとモーリスという正反対の性格で
常に仲たがいしていた兄弟のモーリスを殺したのは、やはりその親友のダヴィールだったのか?
そしてモーリスが見た幻の女性、それは白いワンピースを着たエイリーンの姿ともダブって
この辺りを追求すればするほど、デヴィッド・リンチ流、出口のない迷路にハマっていってしまう
ダヴィールそっくりの男を、スティーヴもエイリーン他もちゃんと見ている
彼(ハズケム)は何者なのか?
猫のように道路を横切って、無惨に車に轢かれるスティーヴの幻想を、
その事故現場でエイリーンが目撃するシーンはショッキング
その時、後から本人の気づかない程度にゆっくりと現実が歪んだ方向へ、とめどもなく進み続け、
ラストは、彼女が初めてトリップした体験から、その後も夢などで、時々繰り返してきた
この作品中でも重要なキーであると思われる“飛ぶ”イメージそっくりに、
廃墟、それも例の事件の舞台となっていた、たぶん老人が育った家の屋根裏から転落するシーンで終わる
作者がイギリス人で、この作品の舞台がロンドンなのも興味深い
原題 THE TRIST by Michael Dibdin
マイケル・ディブディン/著 成川裕子/訳
※1993.9~のノートよりメモを抜粋しました。
※「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
▼あらすじ(ネタバレ注意
なんとも不思議で、かつ悲しいまでに現実的な面ももった、現代のサイコ・サスペンス。
ストーリーを反復して再確認したほうがいいと思うけど、
日常でありがちな事が、いざ小説という媒体になって、
それをまた第三者に客観的に伝えようとするとややこしい。
現在。心理カウンセラーのエイリーンが「殺される」と妄想を抱いている少年スティーヴンをまかされて
施設においておけるたった数日間で、その理由を突き止めようとする
つまり、これが本筋だけど、そこにスティーヴンの過去-身元は全く不明
社会において“消えている人間”であるホームレス生活、
同じホームレスのグループのデイヴ、アレックス、ジミー、トレイシーらとの共同生活、
そしてふと見つけた新聞配達のバイトで知り合った独り暮らしの奇妙な老人
この老人の昔話、どうして、あのニヤニヤ笑いの男をそれほど怖がるのか、
第一次世界大戦前の18Cまでさかのぼった話、
そして、エイリーンの過去
レイモンドと10代の頃に知り合い、恋に落ちた後、子どもを身ごもったが、ハングライダーの事故で先立たれ、
ドラッグで自殺を図り、かなりの高さから取り降りたが奇跡的に助かり
その代わり、子どもを亡くすという、アメリカでの悲惨な思い出を今もひきずっている
これらが交互に、次から次へと展開し、しまいには互いが融合しあって、
それぞれの区別がつかなくなるラストは、やっぱり意外
SFか、幽霊物語にでも発展してしまうのか?!と思ったほど
また、同時に、愛情ではなく、何か“相互作用の機能化”している夫婦の姿も哀しいほどリアルに描かれている
“どんなに見た目が不釣り合いでも、その夫婦がもし長年続いているのなら、
それはうまく機能しているからだといえる”
本当にそんな保たれた天秤でしかないのかしら?
イギリスにもふくれあがる無職で、帰るべき家のない路上生活の子どもたちの生活も細かく描かれている
スティーヴが最後まで店の名前を“OOD S ORE”(看板の文字が剥がれている)という単なる記号としかとらえていない文盲者であり、
イギリスにも、アメリカにも、その人数は世界においても断然多いことが、この少年たちに代表されている
彼がプライベートでリラックスできる一番お気に入りの場所が、公園の公衆トイレの個室で
そこに書かれた意味のない猥雑な落書きの一節から「EAT, SHIT, DIE, BOX」だけを
街のあちこちに書き残していくというくだり
エイリーンが偶然にも何箇所かに目を留めて、教養ある彼女は「食う、排泄する、そして埋葬される」という
人の一生を端的に言ったようなものだと深く読んでいる、この2人の違い
無知であることの恐ろしさを鋭く暗喩している
サスペンス映画を観るように、読者もこのカルマの謎解きに参加できるのが、この作品の面白さの1つでもある。
レイモンドそっくりのスティーヴは、実は彼の本当の息子だった。
レイは麻薬の密売人で、エイリーンがいかにも普通の英国人風なのをただ利用していたに過ぎなかったこと、
それから、老人の話の中の真犯人探し、大農場地主の館の双子ルパートとモーリスという正反対の性格で
常に仲たがいしていた兄弟のモーリスを殺したのは、やはりその親友のダヴィールだったのか?
そしてモーリスが見た幻の女性、それは白いワンピースを着たエイリーンの姿ともダブって
この辺りを追求すればするほど、デヴィッド・リンチ流、出口のない迷路にハマっていってしまう
ダヴィールそっくりの男を、スティーヴもエイリーン他もちゃんと見ている
彼(ハズケム)は何者なのか?
猫のように道路を横切って、無惨に車に轢かれるスティーヴの幻想を、
その事故現場でエイリーンが目撃するシーンはショッキング
その時、後から本人の気づかない程度にゆっくりと現実が歪んだ方向へ、とめどもなく進み続け、
ラストは、彼女が初めてトリップした体験から、その後も夢などで、時々繰り返してきた
この作品中でも重要なキーであると思われる“飛ぶ”イメージそっくりに、
廃墟、それも例の事件の舞台となっていた、たぶん老人が育った家の屋根裏から転落するシーンで終わる
作者がイギリス人で、この作品の舞台がロンドンなのも興味深い