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講談社の翻訳絵本『百年の家』(講談社)

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講談社の翻訳絵本『百年の家』(講談社)
J.パトリック・ルイス/著 ロベルト・インノチェンティ/絵 長田弘/訳

NAVERまとめ 美しくて切なくて温かい。心に響く、大人向け絵本、25選。
こんなサイトを見つけて、数冊借りた中の1冊


石やレンガで家を造る文化を持つ国は、木造りの日本とちょっと違うということを知った
1回造れば、それ以上かえられないのかと思っていたら、
継ぎ足したり、窓をつけたり、デザインも替えられるし、屋根も頑丈に造りかえることができるんだ

戦時中でも、直接、砲弾を浴びたりしないかぎり、燃えてしまう木造よりは残りやすい
童話『三匹の子ブタ』の家を思い出した

この家が最初に建てられたのは1656年
ヒトが住むには、まず、自然破壊から始めなければならない
ずっとそこに立っていた木を切り倒し、咲いている草花をむしって畑や井戸を作る

そして、ヒトの歴史というものは、戦争の歴史でもある
第一次世界大戦、第二次世界大戦を経て、どんどんと家の形、周囲の様子も、それに合わせて変わっていく

戦時中の場面で、兵士が子どもにお菓子をあげたり、
戦車に乗っている姿を見上げて、手作りの銃を持って遊ぶ男の子たちを見ていると、
こうして戦士を英雄視して、子どもの心に戦争が美化されて、引き継がれているのでは?などとも思えてきた

レイモンド・ブリッグズ『風が吹くとき』(篠崎書林)で、「けっこう楽しいこともあったわ、あの戦争は」というセリフも思い出した

ロベルトさんが描く細部にわたる絵は、ペラペラと何度も見比べると、まるで間違い探しをするような楽しみ方もできるほど/驚
毎日暮らしていると、住んでいるヒトですら見えてこないことも、
こうして家の時間で見ると随分と変わっていくことが分かる


家はヒトが住むところ
ヒトが消えると、家はすぐに廃墟に変わる
大抵は、その家の女性が毎日使うことでメンテナンスされているということだ

生まれて、生きて、死ぬという、シンプルな命のサイクルもこの1冊の中に凝縮されている
ここでまたツイッタの「Abandoned Pictures」の写真を思い出す



ヒトの文明もいつか土に還る
それは全然悲しいことじゃなく、自然の大きな営みのサイクルなんだ

最終的には、最初に伐られてしまった松の木が、いつのまにか雄々しく立っている
動物の親子が元気に走り回っている

ヒトがいなくても、自然の美しい営みは続いてゆく
(ブドウの木は手入れを止めると枯れてしまうの?

富豪の避暑地に生まれ変わっても、どことなく最初の外観の雰囲気が残っているのが面白い


▼あらすじ(ネタバレ注意



わたしがつくられたのは1656年。それはペストが大流行した年だった
この本は、古い丘にはじまり、二十世紀を生きることになった、わたしのものがたりである。 2009年


1900年 ずっと廃屋だったわたしを、やっと見つけてくれたのは、子どもたちだった


(そこから家と周辺には手を加えられ、ヒトが住むようになる
 
(ヒトはブドウや小麦を植えた


丘のむすめは、じぶんで、じぶんの未来をえらんだ。
花むこはふもとのレンガ職人で、兵士だった。




1918年 第一次世界大戦終戦

妻は夫をうしなった。・・・なんという悲しみ

子どもたちは学校にゆく。
みんなが無邪気でいられた時間は、すてきだった。でも、短かった。

 




1942年 第二次世界大戦下


わたしは最後の避難所になった。何もかもなくした人たちの(表紙はこのもっとも悲惨な場面なんだ

農民たちは抵抗運動の兵士たちに、感謝の気持ちをもっていた。
かれらの勇敢さに。そして、ときに、銃撃を中断してまで、
農民たちの、日々の作業を助けてくれたことに。

 


1958

母親のもとを離れて、街へ移り住む息子が、
昨日までの名残りをすべて、バッグに詰め込んでしまったのだ。




1967

母親の柩を乗せた車が、わたしの前を通り過ぎてゆく。
心をなくした家は、露のない花のようなものだ。




1973

いままでの暮らし方を継がない。それが新しい世代だ。


(フラワーチルドレンたちは自然を愛していたよね


1993

二十年後のわたしは、墓の土になっているだろう。
わたしをささえる玉石は崩れ落ち、跡形もなくなるだろう。




1999

けれども、つねに、わたしは、わが身に感じている。
なくなったものの本当の護り手は、日の光と、そして雨だ、と。






最後のページのインターフォンは、上の避暑地とも違う
もしかしたら、また別のヒトが住んでいる未来なのかもしれない




追。
「繙く」ひもとく、って漢字がステキ。入力すると「紐解く」のほうが出てくるから、この字を知らなかった



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