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ガブリエル・バンサン『たまご』(ブックローン出版)

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『たまご』(ブックローン出版)
ガブリエル・バンサン/作


「作家別」カテゴリーに追加しました。


【まえがき 内容抜粋メモ】

この『たまご』は『アンジュール』につづくデッサン絵本だが、
『アンジュール』が鉛筆デッサンであるのに対し、
『たまご』は木炭で描かれており、一層の深みが感じられる

『たまご』『セレスティーヌ』の2作品は、ボローニャ国際児童図書展でグラフィック賞を受賞
ほかにも、キャラバンとともにサハラ砂漠を旅して描き続けたデッサンとエッセイによる画集『砂漠』などがある


【今江祥智さんによるあとがき~眼と光 内容抜粋メモ】

子どもの本の専門店クレヨンハウスから原書5冊を送ってもらい、
同じくメリーゴーランドで訳書3冊を入手して読んだ
それが『くまのアーネストおじさん』シリーズだった

ベルギー生まれ、美術学校卒業以来ひたすらデッサンに専念し、
54歳(!)にして『アンジュール』で絵本の世界に入ったことにも感銘を受けた

『たまご』の作者は、モニーク・マルタンとあるが、これはバンサンの本名
十数冊の絵本で一躍国際的に名を知られたバンサンが、改めて本名で出版した1冊

読んで分かる通り、この1冊には強いメッセージがこめられている

なぜ巨卵が産み落とされたのか
なぜ、巨鳥が人と戦わず、仲間とともに無数の巨卵を産みつけて去っていったのか

おしまいの巨鳥の眼の怖さの向こうに、何を読みとるか
光なのか闇なのか

そこに増えつづける人間の象徴を見ようと
増えつづける核の象徴を見ようと
それは読者の判断に委ねられている

この1冊こそ、優れた1人の画家、バンサンの、子ども大人両者への魂からのメッセージが托された
まさに現代の絵本なのである 1986



▼あらすじ(ネタバレ注意

広大な砂漠にポツンとある巨卵を見つけた1人の人間
彼は大勢を引き連れてくる

やがてマスコミが報道し、車が列をなし、団地まで建てられ、観光地のようになる





ある日、砂漠に真っ黒い雨雲がきて、人間の作った飾りなどをいっぺんになぎ倒して去る

その後、卵の親と思われる巨鳥が現れ、人々を追い払う 逃げ惑う人々



親鳥はしばし卵に寄り添うが、なぜか卵を置いて去る



とうとうヒナが孵る
外に出たものの、わずか数キロ体を引きずっただけでそのまま倒れて死ぬ



哀れんだ人々はトラック数台でヒナを十字架のように吊るす





そこに再び巨鳥が今度は群れで現れ、それぞれが巨卵を産み、また去ってゆく






この1冊の中に一体どれほどの驚きが詰まっていることか!

まず、ネットにはないガブリエル・バンサンの情報が少しずつ分かってきた

バンサンが本名じゃないのね しかも54歳から絵本を出版てビックリ
まあ、75歳から描き始めたグランマ・モーゼスもいるけど
なにかを始めるのに年齢なんて関係ないんだ

それを知ると、1冊目、2冊目にしてこの哀愁、画力に納得
そこにこめられた、たくさんの想いも、バンサンが歩んだ人生経験の中で培われたものが滲み出ている

水彩画シリーズもあるそうだけれども、私はやっぱりこのシンプルなデッサン、
無言劇シリーズこそ、バンサンしか生み出せないオリジナルだと思う
他のも読んでみないと比べるのはまだ早いけれども


そして、このストーリーにビックリ

表紙をチラッと見ただけだと、フツーの卵の話だと思っていたのが
実は、下に小さな人がいて、恐ろしく巨大だと分かる 恐竜の卵!?

それにストゥーパのように飾り付けて、団地まで造って、観光地化しちゃうヒトの愚かさにビックリ

巨鳥はなぜ卵を温めないのかフシギに思ったけど、そういえば、産んで放っておく鳥もいるよね
鳥の生態をほとんど知らないことにも気づかされた

ヒナが孵って可愛いと思った矢先に死んでしまったのはなぜか? 病気? ヒトのせい?
そのヒナの死体をキリストの磔みたいにしてしまう発想にまたビックリ???


あとがきを読んで、この卵を核や人口拡大に例えるなんて思いもよらなかった
親は卵を見て、中のヒナの命が短いことにすぐに気づいたんじゃないかな
それとも、ヒナが孵って、何も食べずに月日が経ったから死んでしまったのか?

卵は生命の象徴で、その自然を金儲けに利用し、最後は壊してしまうヒトの愚かさだと私は思った

親鳥の鋭い眼の意味か
それぞれの解釈があっていい


改めて鉛筆と木炭の違いにも注目してみた

横長の本の形態を効果的に使って、広大な砂漠にポツンとある卵を描き
真っ黒に襲ってくる雲、巨鳥の群れは、ヒトのつくったものなどこっぱ微塵にしてしまう
自然の大きさが炭でうまく表現されている

もっともっと他の作品をみるのがまた楽しみになった



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