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Channel: メランコリア
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芸術劇場 スクリーンのない映画館・マルセ太郎の『泥の河』

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▼あらすじ(ネタバレ注意

昭和31年
日本が高度経済成長期の4~5年前 まだ貧しかった頃

川岸に建ち並んだ倉庫に紛れた1軒のうどん屋の一人息子ノブと
ある日、船がやって来て、そこに住んでいる吉ちゃんという少年との友情の物語り

吉ちゃんの父はとうに亡くなり、苦しく不安定な生活は、
その母親(加賀まりこ)が売春をして生計を立てている
近所の評判とは関係なく友情を深めていくノブと吉ちゃんとその姉


ある晩、うどん屋に招かれた姉と弟
常連客の心ないセリフ「このガキだって客引きやってんだぜ」に傷つく吉ちゃん
あげると言われたワンピースを断る姉


祭りの夜、50円玉を預かった吉ちゃんは、ポケットが破れていて
2枚ともなくしたことが悔しくてならず、ノブを船に呼んで
カニに火をつけてなんとか楽しませよう、償おうとする

そこでノブは思わず覗いてしまう
吉ちゃんの母親と刺青をした男の情事の様子

2人とも泣きながら別れ、次の朝、また別の場所へと船を移動させてゆく
それを追って呼びかけるが、結局、応答もないまま船は遠ざかる





一番感動したシーンは、やはりマルセ太郎さん本人が強調したとおり
子ども、とりわけ少年の心を、この映画の監督が鮮やかにとらえたという場面

テレビを持っている金持ちの子どもに誘われていたにも関わらず、
吉ちゃんは断られたためにノブも行かないと言った時
吉ちゃんは何も言わずどうしたか

2度のでんぐり返し


子どもが経済的、また、複雑な状況に置かれながらも
無償の友情によって結ばれ、また別れざるを得なかったひと夏の様子

日本映画は、戦後の貧しさを強調するじめじめしたリアル主義のものがほとんどで
私はこれまで興味をもって観たことがないが、

一人の浅黒い、この演技者によって、こうもリアルに再現されただけでなく
映画の映像としてではなく、観る側の想像力も充分加わって
より深く広くイメージがふくらむ

それぞれの少年の表情や、その他の登場人物の心理描写、情景、微妙な状況説明も簡潔に伝わる
映像とはひと味違った、新しい楽しみ方
それなりのユーモアもあって、一級のパフォーマンスを観た感じ




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