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『ロスト・シング』(河出書房新社)

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『ロスト・シング』(河出書房新社)
ショーン・タン/著 岸本佐知子/訳
先日読んだ『ラストリゾート』(BL出版)と並んで置いてあって、テイストも似ていたから一緒に借りた。

「もしかしたら、飼い主なんかいないのかもしれない。
 最初から帰る場所なんかないのかもしれない。
 そういうものってのも、世の中にはあるもんさ。つまり・・・」

ピートはそこでたっぷり間をおいた。

「ただ居場所がないものってのがさ」


ぼくの王冠コレクション

▼あらすじ
ぼくは夏のある日、海辺で得体の知れないモノを発見する。どうやら迷子のようだった。
家に連れて帰ると、父母は「元の場所に捨ててきなさい!」と言った。
途方に暮れていると、こんな広告を見つける。

“想定外のものに日々の規律を乱されてしまったとお困りのあなた!当局にてまとめて保管いたします”

 
着いたところは、背の高い、窓のない灰色のビル。中は薄暗くて、消毒液みたいなにおいがした。

「用紙に記入して」

そこに清掃夫が来て、矢印のついた名刺を渡される。

「ここは捨て去り、忘れ去るための場所。初めからなかったことにするための場所なんだから」

矢印に沿って着いたところは、たくさんのモノが楽しく暮らしていて、そこで迷子と別れた。

今でもときどき、あの迷子のことを思い出す。
ちょっと周囲から浮いたように見えるものの姿を見かけたときには、特に。
そう、どこか風変わりで、さびしげで、途方にくれたような様子をしている、そんなものの姿を。

でも最近では、そういうのもだんだん見かけなくなってきた。
もう迷子なんていうものは、この世からいなくなってしまったのかもしれない。
いやもしかしたら、ぼくの眼に見えなくなっただけなのかもしれない。
ぼくも他のことをやるのに忙しすぎるんだろう、きっと。

 

 


【訳者あとがき】
あらゆるものがコントロールされ、無駄や逸脱を認めない社会では、
この迷子のように無意味で分類不能なものは居場所を与えられない。
人々のセンサーからこぼれ落ち、姿さえ見えなくなってしまう。

絵を取り囲むセピア色のコラージュは、著者の父が学生時代に使っていた物理と数学の教科書を切り貼りしたもの。
裏表紙には。この絵本が当局の検閲を受けたことを示すスタンプや検閲官のサインが入っている。



本書は作者自身によってアニメーション化され、2011年度アカデミー賞短編アニメーション賞を受賞した。

  


社会の規律から逸脱して、居場所を見つけられない迷子か・・・今の自分みたいだな。
最後に行き着ける場所はあるだろうか?





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