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『あの真珠色の朝を・・・』 眉村卓/著(角川文庫)

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■『あの真珠色の朝を・・・』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和49年初版 昭和59年15版)

「作家別」カテゴリーに追加しました。


[カバー裏のあらすじ]

われわれは、すでに深夜にしか生きられない種族なのだろうか──。
"深夜族"と呼ばれることに秘かな満足を覚えていたシナリオライターの岩上。だがその生活もすでに2年。
ある日突然、<あの真珠色に明けていく朝に>渇望を感じた。
失われた朝を取り戻そうとしたとき、その人間の生活に何が起こるか……。
管理された現代の都市文化の中で必死にもがく人間達を描いた眉村卓のSF傑作集、他に8編収録。


ときどき、私の好きなテイストと違うカバーもあって、
きっと違う方のデザインなんだと思っていたら、一貫して木村さんだったということに気づいた/驚
こういう抽象的なスタイルも出してたんだなあ 失礼しました

以前の解説文に、学園ものには爽快な若者の正義感を感じるとともに
サラリーマンものにはペシミスティックな感じのものが多いとあったが、ほんとに

以前は、どちらも楽しく読めたけれども、今となっては、
世の中の不条理感、主人公のやるせなさに共感し過ぎて、身につまされて切なくなる


追。
眉村さんの小説には「馬鹿な・・・」てセリフが必ず出てくることが分かったw



▼あらすじ(ネタバレ注意

「あの真珠色の朝を…」

飯干
「明日の午前9時に、打ち合わせをやりたいんですがね
 スポンサーがそう言うんです
 よくご存知でしょうが、連中は、自分たちの生活こそ正統的だと信じていますからね」

今度担当するドラマは、有名企業をスポンサーとする全国ネットの番組で逃したくないが
岩上は、1時間後、この深夜スナックで別のディレクターと会う約束がある

我々はこの店の幻想のような空間を、あの水槽の熱帯魚みたいに泳いでいる生物にすぎないのだ
自分が「深夜族」と呼ばれることにも満足さえおぼえたものだが、今は倦怠と疲れがあるだけだ

自信はないが、妻に頼むなり、目覚ましをかければなんとかなるだろう

遅刻というものは、知らない人が考えるように、上司に怒鳴られるような、そんな単純で陽性なものではない
もっと陰湿だ 回数を重ねるにつれて、少しずつ会社にいづらくなる
そこから逃げ出そうとして、彼はシナリオを書き始めたが、これまで以上に体に負担をかけることになった

ディレクターが若手女性タレントと、作家・桑村とともにやって来た 事情を話すと桑村は

「そんなことは不可能だ 我々はもう深夜しか生きられない種族なんだ
 世の中もそれを必要としている
 昔のように朝起きて、昼働き、夜は眠るなんて一斉行動に戻ることはないんだ」

そんなはずはない
朝を本当に働かねばならない人間の生活を知らぬ桑村たちの論理なのだ
このところ、快い目覚めは絶えて経験がなかったが、自分はまだ、取り返すことができる
魂まで深夜に売り渡しているわけではない


翌朝 時計を見ると午後1時 いつもの起床時刻だ

「多岐子! なぜ起こさなかった? 言ってみろ

「私、何回も起こしました あなたは・・・気違いみたいに暴れたじゃないですか
 私が逃げたら、また布団で眠ってしまったんです 片付けるのが大変でしたわ」

飯干に電話すると、怒りを抑えつつ「今からでも来てください」

「実は明日、スポンサーの所へ行ってほしいんですよ
 今日の打ち合わせでOAは確定したけれども、社長自身が話したいという」

「番組の内容にタッチしたいわけですな」

「では、明日9時 これは最後の名誉挽回のチャンスです
 またやったら、シナリオライターを替えなければならない」


岩上は、徹夜することにした
本を読み、妻子の寝顔を見ても、まだ午前4時 眠気覚ましの錠剤もある

深夜スナックに電話すると桑村が出た

「変に郷愁を起こすのはよせ 朝なんて、我々には存在していないんだよ
 白状するが、僕も何度戻りたいと思ったか知れないが無駄だった
 ヨーロッパに行った時、時差を利用してもダメだった
 午前の世界は、観念としても実体としても存在しちゃいないんだ」

思ったより長い電話になり、窓の外が青色に染まりかけている もう夜明けだ
だが、眉をひそめた さっきからもうだいぶ経っているのに、空の色はちっとも変わらない
時刻は5時半少し前

本を読み、朝刊を見に行き、トイレに行き、妻子の寝顔を見た
それでも5時半にはならない
時計の秒針は、チクタクと同じ場所でふるえていた




「魔力」

松岡は1本のネクタイを締めた
登志子と結婚した時、クミから無名で送られてきたものだ

クミは、本名も素性も何も言わなかった
「私、魔女なのよ」

遊び相手としては最高だが、家庭状況も込みで評価されるビジネスマンが一緒になるのは大冒険だ

「私には、男女が結婚しなきゃないない理由がよく分からないわ」
「君とは、もうお別れだ」

松岡は、常識的で安全な、上司の遠縁にあたる登志子と結婚した


ネクタイを締めると奇妙なことが起きた
自分がもう一度新鮮になり、生まれ変わった気分だ

いつもならラッシュを目にするだけでウンザリし、
ああ、今日も1日仕事をやらなきゃならないのかという倦怠感に包まれるのだが、今朝は違う
負けやしないぞ、と闘志をかきたてたれる

会社でも次々と妙案が浮かび、久しぶりに自信が生まれていた
入社したての、怖いもの知らずでやみくもに仕事に取り組み、
やがて、あちこちで頭を打ち、妨害されて喪失した自信
他人並みに働く処世術を覚え、平凡な社員に変身してしまった前に


翌朝、ネクタイを替えると、また元の自分に戻ってしまう
「ほんとに松岡さん、昨日はどうかしてましたよ でもまあ、これで安心した」と同僚も言う

たしかにこのネクタイには魔力が潜んでいるのだ

「あなた、またそのネクタイをして行くの? 誰から送ってきたのよ?」
「知らないと言ったじゃないか」
「そんなに愛用するなんておかしいじゃない 誰のプレゼントなの?


同じネクタイを締め続け、松岡は、課内の目立つ仕事を指名されるが
他の連中には得点稼ぎだといわれる

もう2ヶ月になる頃、スポーツカーに乗ったクミに会う

「これは幸運のネクタイだ」

「ネクタイに魔力があるのは本当だけど、お礼を言われる筋合いはないわ
 ちっとも変わっていないのね もうこれきり会わないわ」


登志子は日々冷ややかになっていった
社内では、彼に恨みを抱く者が増え、人事異動で昇進に洩れた
いくらファイトマンでも、身だしなみに欠け、他の社員に評判のよくない者を昇進させたら社内の士気が下がるからだ

彼はネクタイを換えた
あのネクタイは切り捨てた

彼にしばし栄光の夢を見させ、それを決定的に奪い去った
おそらく死ぬまで欲求不満に悩まされるだろう
それがクミの復讐だったと、身に染みて感じている



「真昼の断層」

今日は岡山の工場へ日帰り出張しなければならない
僕は机の上の、昨日届いたばかりの自分の本も持っていくことにした

給料が安く、社宅を飛び出して公団住宅に入り、毎月赤字で、妻の退職金を食い潰している有様なのだ
そうした事情を反映し、最初の本も脱出願望の塊だった
銀河系宇宙を股にかけて、大宇宙戦団が飛び回る、キンキラキンな物語になっていた

学校を卒業し、会社に就職すると同時に、古い漁港のH町の工場へ赴任
働いている人の大半が地元の人間で、最初は馴染めなかったが
やがて慣れにつれ、都会の連中が絶えず新しいものを追いかけて齷齪しているのが馬鹿げて見えるようになった

だから、大阪本社に転勤になり、現代感覚を取り戻そうとして、追いつかず
楽しみで書いていた小説に本気で取り組んだ

これをあの眠ったような町に持ち込んだらどうなるだろう?
多少は見せびらかしの気分もあった

何人かがストーブにあたって雑談している

「久しぶりじゃの 都会はどうもいかん デパートのエスカレーターを走ってのぼったりして
 あないにバタバタせんと暮らしていけんのかの なにやら妙な恰好をして、町中をフラフラしよって」

みんな笑った

話が小説の話になり、今だ、と思った

「こういう本は、どうですか?」と自分の本を見せた

「なにか突拍子もない小説じゃが、君、こんなのが好きか?」

「裏表紙の写真、どうですか? 似てませんか?」

「似とる! 似とる! そっくりじゃが!」

「それ・・つまり、僕なんです」

突然、労務の主任がゲラゲラ笑いはじめた

「もうちょっとで一杯食うとこじゃった! うちの社員が本など書くわけないわのう!」
「本当に書いたんです

それは余計にみんなの哄笑を誘うだけだった


翌朝、家で僕は昨日のことを思い出し、机を見るとそこには何もなかった
本はおろか、原稿すらない

「僕の本、どこにある?」
「あなたの本て・・・そんなもん、あらへんやないの」

本を題名を言うと、
「それ・・・返されて来た作品やない あなた、大丈夫?」
「違う!」


だしぬけに、僕は悟った これは、今までの現実ではないのだ ねじ曲げられたのだ
あの時間の停止したような町、新しいものを何も受けつけようとしない風土は
僕を別の世界に放り込んだのだ 町は、僕の挑戦にあっさり報復したのだ
僕は茫然と突っ立っていた




「狂った夜明け」

ラストナンバーが終わりかけ、永田はお別れの挨拶の文句を考え、ゆうべの新聞記事を思い出した

「ある政治家が、深夜放送にイチャモンつけてましたねえ 不健全だそうです
 若者に悪習慣をつけるだけって本当でしょうかねえ」

ディレクターの大島は笑っている

「でも、僕はこうして言いたいことを言わせてもらっている 他のDJも似たようなものです
 その中には、お偉方に都合の悪いことも一杯混じっているはずです
 ひょっとしたら、それがお気に召さないんじゃありませんかねえ」


その後、流れてくるはずの午前4時のCMと時報が、ない

大島「反応がないんですよ おかしいなあ」
西が「様子を見てきます」とスタジオの外に出て行った

大島
「104番に問い合わせても、番号案内じゃないって言うんですよ
 おまけに、いま何時だと思ってるんだ!、ともの凄い剣幕で怒鳴られまして
 西くん、遅いな」

永田「行ってみましょう」

受付まで行ってもガランとしてまるで人気がない
そこにガチャ、ガチャという響きの靴音が響いてきた

ガードマンでも警察でもなく、胸章と肩章をつけ、ピストルらしい武器がベルトにさがっている
「この建物が一般人立入禁止なのを知らんはずはあるまい こんな時間に何をしている?」

大島が抵抗すると
「貴様! 国家の特殊警察官に反抗するつもりか?

大島は、学生時代、ラグビーで鍛えた体で体当たりし
男は階段に叩きつけられ、動かなくなった

大島「こいつの仲間が来る前に逃げるんだ 逃げなきゃ殺される!」

永田は、あわよくば、あのスタジオに戻ることで、何もかも以前に還るかもしれないと迷う

大島「あの連中が局舎を押さえているのは間違いない どこか手薄な所があるはずだ」

窓からは、植え込みと、広場が見え、その先は林だ
大島「ぐずぐずしていられない 夜があけたら一巻の終わりだ」

永田が迷ううちに大島は飛び出し、あっという間に光条が何千も大島の体を貫いた
永田が我に返ると、広場に人影はなかった 彼らはこちらが2人だと知らないのでは?

クルマの合間を縫って、やみくもに林の中に踏み込み、そのまま倒れこんだ


だいぶ眠り、だるさは取れたが、ひどくノドが乾き、小屋のような粗末な家を見つけて
水道の水を飲んでいると、30歳くらいの屈強な男が立っている 「あんた、なんだ?」

「僕は、その・・・深夜放送をやっている者で・・・」

「まさか・・・あの頃は、あらゆるマスコミが、あんたたちのことを報じたのを知らないのか?
 もう16年も前だ あんたとディレクターは、深夜放送の真っ最中に蒸発してしまったんだ
 わしもいっぱしの深夜放送のファンだったから」

「説明してください 特殊警察とは何なのです?」

「一切の民間放送は、政府に接収されてしまった この10年間で、日本はすっかり全体主義国家になった
 一人ひとりが厳しく監視されている みんな、健康な秩序正しい暮らしというやつを強制されているんだ」

「なぜそうなるのを食い止めなかったんです? 僕たちだって警告を発していたつもりなのに・・・」

「あんたが? あんたたちは、聴いてる人間が期待する線に上手く乗っていただけじゃないのかね?
 世の中への怒りや公憤とか、実は、そういうアクセサリーで恰好つけていただけじゃないのか?
 というより、アクセサリーがなければサマにならなかったんじゃないのかねえ
 DJにとっては、告発だって、季節のお喋りと大差ない商売だったんだ

 もっともあんたたちばかり責めても仕方がない
 罪は、本気の少数の人たちに耳も貸さず、一方的に与えられるものを、
 ただ楽しんでいた私たちのほうにもあると言えるけれども

 あんたの、そのアウトサイダーを気取った姿も売り物かもしれないが、
 今どき、そんな長い髪、もみあげ、ヒゲまで伸ばしていたら、それだけで逮捕されてしまうんだ」

男は、自動バリカンを持ってきた
「丸刈りにして、ヒゲも剃ってやろう」

僕は、依然としてぼんやり宙を見つめていた




「教えてくれ」

出張先の小さな町で、圭吾は幟がパタパタ鳴っているのを見た

“この世はもうおしまいだ”

“滅びの時がやって来た”

1週間の出張の最後の夜なのだから、この程度の見世物でも見て、あとは宿へ帰るしかなさそうだ

入ると、十数本のロウソクだけで暗く、壁際の席は呆れたことに満員だった

顔に白粉を塗った白装束の男女が、呻くような声でゆっくりうごめいていた
これは近頃よくあるアングラ演劇とかいうものに違いない
こんなものに金を払って集まっている町の人々を憐れに思った

役者たちは憑かれたように跳ね回り、2、3人が太鼓を叩いた どろどろ、どんどん
三角形を額につけた人々は、一心不乱に踊り狂う

「三途の川、渡るゥ」

観客は亡者たちに次々と金を投げる
圭吾は忌々しく思いながらポケットをさぐったが小銭がなかった

「後悔しなさるな」

もうこれ以上は辛抱できなかった こっちまで気が狂ってしまいそうだ

この世の終わりか 最近、そんなことを言う手合いが増えているとは聞いていた

PCBとか水銀とか大気汚染などで、人類は長く生きられないだろうというのと
今のゴチャゴチャした世相とが結びついて、一種の世界破滅ムードに変わり始めているようだ

もちろん彼はそんなものを信じなかった
良い時も悪い時もあるもので、のらくらと適当に生きていけばいいのだ

宿に戻ると、女中が待っていた

「お芝居どうでした?」
「この町、いつもこうなのかい? この旅館もそうだけど、よく商売が成り立つねぇ」
「商売なんて、もうどうでもいいのです どうせ世の中がおしまいになるのだし」
この女も滅亡教の信者らしい


翌日、ローカル線の急行に乗ると、学生風の若者が2人、やけに丁寧な挨拶をして前に座った
しばらくすると、衝撃を感じた

「何だろう」

「やはり、飛び込み自殺のようです まあ気持ちも判りますね こんな時なのですから
 この世がおしまいだと分かれば、あくせく生き続けるより、あっさり自殺するほうが楽かもしれません」

この2人もそう信じているのか? いつの間にこんなに流行するようになったのだ?
見ると、他の客も、席を立つ者、残る者が互いに深々とお辞儀し合い、挨拶を交わしている

急に礼儀を取り戻したみたいじゃないか
世の中が終わりになるなら、もっとメチャクチャをやるのが本当じゃないだろうか

あの芝居小屋の亡者のセリフを思い出した
「善根を施さないと、三途の川を渡れない」と

なにより気味が悪いのは、自分が疎外されていることだ
みんな、何を知っているのだ?


会社に着くとみんな仕事をしていた それ見ろ やはり錯覚だったのだ

「あんたも早く仕事を片付けたほうがいいよ」
「課長はどこだ?」

「課長は屋上から飛び降りて死んだよ 部長もさっき飛び降りましたよ
 あんなにたくさん仕事を抱えてちゃ間に合いっこない」

「間に合わないって・・・何に?」
「決まってるじゃないか、その時にさ」

「教えてくれ いつ終わりになるんだ?」
「どういうつもりだ? 嫌がらせをするつもりか?


家に帰ればなんとかなる 妻のエリカは整理が下手で、いつもののしっていた圭吾だが
今日ばかりは、あのゴミ溜めのような中に入れば、きっと感覚が戻るだろう

しかし、帰ると、部屋は見事に整頓され、エリカは三つ指ついて頭を下げていた
「お疲れでしょう お風呂わいております」

「なぜだ? なぜ、誰も僕には知らせてくれないんだ?」

エリカは、言わないほうがいいのだという目で、静かに笑っているだけだった


芝居小屋で倒れていた男の死因は、心臓発作だと判明した
男の身体からぼんやりした姿が抜け出したという話を、警察は額面通り受け取ることはできない
気の変な奴らとそのファンなのだ 嘘か集団幻覚に決まっている、と結論を下したのである




「錯視症」

柴田が校門を出ると、「ヤッサン、おたっしゃでぇ~」と生徒の一人が手を振っていた
近頃は、生徒のほうが、教師の安月給よりずっといい生活をしていて、ろくすっぽ言いつけに従おうとしない
妻の令子は、人並み外れて金銭に淡泊な夫に愛想を尽かして、死にもの狂いでマネービルにつとめている

売店に人だかりがあり、背後から覗くと、老婆が手に紙切れを持っていきまいている

「どうして、あたしにゃタバコを売らないんだよ!
「タバコぐらい売ってやったらいいじゃねえか」

「だって、お金も出さずに売れって言うのよ!」
「金なら、さっきからこうして出しているじゃないか

大きさは千円札ぐらいだが、いくら見ても白紙だった
鉄道公安員が老婆を連れて行く間も、老婆は本気のようにしか見えない

前を行くサラリーマン風の2人連れの会話が耳に入った

「僕はどうも白紙じゃなかったような気がするんだ」
「君もか? 実は僕も・・・錯覚かと思って黙っていたんだが」


おかしな記事が出ていた
この2、3日、都内で紙切れでものを買おうとする人間が増えていて
相手から指摘されても、当人はお金だと主張するという

出勤前に令子に小遣いをせがむと「二千円でいいのね?」
令子が出したのは、1枚は千円札だが、もう1枚は白紙だった

「冗談はよせよ 本物を2枚欲しいんだ」
「あなた、何を言ってるの? いるの? いらないの?


会社に行くと、みんながテレビに釘付けになっている
白紙がお金に見えるというニュースだった

この現象は散発的だったが、今朝になって大都市で爆発的に増加し、増え続けている
全国民の20%、東京では50%以上が「錯視症」に罹っているとのこと

日本在住の外国人にこの症状はなく、心理学者は一種の集団催眠現象ではないかと推測
医師は、新種の知覚をおかす伝染病ではと言い、
評論家は「エコノミック・アニマルである日本人への天の報復」だと断言した


学校に行くと、事務室では、生徒が授業料を納めに来ていたが、その紙幣の何割かは白紙なのだ
こんな状態なのに、なぜ自分だけはちっとも変わらないのだ?

その後も原因は不明で、患者には他に何の異常は見つからず
大蔵省の印刷局で白紙の紙幣が流れ出たのではという想定が出たり
偽札グループが、逮捕される前に逃亡したとかいう噂もある
海外では急成長を誇っていた日本株式会社のそんな姿が面白くてたまらない様子だった

すると今度は、意識してニセ札を造る連中が出てきた
千円札だけでなく、1万円札、五千円札にも白紙が出回り始めた
ついに政府は、当分、紙幣の流通を停止し、小切手、手形、硬貨に限ることにした

だが、一般はそういうわけにはいかない
物価が上がるほど、現金を使わないではいられないのが人情だ


「ね、また見分けてくれない?」

令子が見せた札を白紙と本物に分けると

「こんなにたくさん? やあね、もっと本物が多いかと思ったのに」
「どっちも金として使えるんだからいいじゃないか」
「いつかは元通りになるんだから、白紙ばかり持っていたらしょうがないって、何回、同じことを言わせるの?

「でも、そのうちには、現金不要の世の中になるかもしれないじゃないか」

「私はそんな話は信じやしないわ お金はいつの世でも使われるわよ
 大体、あなたが今みたいに、まだ見分けられるのも、
 あなたが私たちの暮らしのことを真剣に考えていなかったせいでしょう?

ある学者が調査し、共通点は、暮らしやお金に執着を持たない、世捨て人的な感覚だと突き止めた
「錯視症」は、戦後の日本を急速に支配した「拝金主義」「エコノミック・アニマル」的風潮に
原因があるのでは、という仮説を発表した

ブザーが鳴り、紳士が訪ねてきた

「錯視症にかかっていらっしゃらない柴田さんで?
 ぜひ、わが社に定期的においで願って、顧問になっていただきたいのですが・・・」

「つまりお金を見分けろ、ということでしょう?」

こういう申し出は増え、それが予想外の収入になっていた

圭吾には、それより新しい楽しみが出来ていた
学校に出なくても、今では楽に暮らせるが、だからこそ、きちんと学校に来るのだ

今では、全生徒が、彼のことを知っていた
札を見分けられることで、あらゆる所で大切にされ、金を稼ぎまくっていることは
生徒たちにしてみれば、現代に、そんな欲のない人間が実在したことすら信じられなかったのだ

どう考えても理解できず、柴田は有体に言えば「妖怪変化」のたぐいなのである
そのたびに、ざまを見ろ、と思う

これまで一人前の人間としてみてもらいたいという自尊心ぐらいは持っていた
もう誰も彼の後ろからクラクションを鳴らしたりしないだろう

こんな状況がいつまで続くか分からないが、その間は、彼は得体の知れない化け物でいられるのだ
日本経済がどうなろうと、知ったことではなかった

(まあ、「本物」の紙幣だって、それぞれの国が「これが通貨です」てゆってるだけで、紙には変わりないもんね
 それも「電子マネー」となって、空気みたいなものに変わってしまったし



「ブルー・ブラック」

吉岡「宇津野さん? ちょっと話があるから、すぐにこっちへ来てくれ」

T工業宣伝部の吉岡とは知り合いの気易さとともに上下関係もあった
T工業は、第一部上場の大会社で有力な顧客、こちらは50人弱の広告会社SSプロダクション

吉岡「この間の新聞広告に課長がクレームをつけたんだ」
宇津野「まさか・・・」

あれはこれまでの中でも最優秀のもので、吉岡も認めて喜んだほどだ
コピーを書いたのは、1ヶ月前に入ってきた山崎という新人だが、ベテランも舌を巻いたぐらいなのだ

アイデアをきらめかせたタイプではなく、地味なうちに説得力がある
SSプロダクションの求めていた堅実なライターだった

宇津野と山崎がT工業へ行くと、課長は
「これが広告かね こんなものが通用するほど、わが社は甘くないよ」

課長が出ようとした時、山崎が「今、書きます そうしたら、見ていただけますか?」と言い出した
止めようとしたが、もうペンを走らせ、課長にさしだすと
「ほう どうしてはじめからこういうのを書かなかったんだ?」と明らかに満足した様子

見ると、丸いくせのある字で書かれて、コピー自体は前のものとほとんど同じだった
宇津野にはサッパリ分からなかった



社長の大沼から会議室に呼ばれた
SSプロダクションは、仲間数名からはじめたもので、いまだグループ的雰囲気が強い

「山崎の仕事のやり方に、営業の連中がブツブツ言い出しているんだ」

この前の一件から3週間経ち、山崎はあの時のやり方が習慣になっていた
担当者は問題なくパスするが、上役から苦情が来て、出向いて、その場で修正稿を書くことが続いていた

会議室に山崎が偶然入ってきて、「もしよかったら、このどちらがいいか、判断してほしいんです」

宇津野らは2つを見比べたが、どちらも同じコピーで筆跡が異なっている
1つはいつもの山崎の字、もう一方は太いペンで書いたけっこう魅力的な字体だった

変なことを言う男だ でも比べてみると、字体によって読んだ感じが随分変わるものだ
「僕はこちらのほうが好きだね」太い乱暴な字のほうを選んだ「君のでなくて悪いが」
「いえ、どちらも僕が書いたんです これからは字を変えるつもりです」

字はその人の性格のようなもので、そうやすやすと変更できないだろう 筆跡は顔という言い方もある

山崎は封筒から十数枚を出して前に並べた
「これはみんな僕が書いたんです」

すべて同一人物の字とは到底思えなかった

「僕の字は、人の心をとらえるんです
 色彩が人の心理に影響を与えるのは知られています
 形状も同じく 斜めの建物に人は不安を感じるし、流線型はスピードを感じさせる
 文字にも同じことが言えるんじゃないでしょうか

 僕の父は書道をやっていて、いろんな文字を描くことを覚え、
 文字によって高く評価されたり、けなされたりするのに気づいたんです
 自分の心理状態をコントロールすることで一定の筆跡を保つことに成功しました
 この字体は、タバコをたて続けに吸いながら、海で泳いでいる気持ちになると書けるんです」

「それじゃ、最適の字体をひとつ書けばそれでいいだろう?」

「人の心は時代とともに変化するからです」

宇津野の頭に光がさした気がした それならそれでいいではないか その魔力を利用すればいいのだ

「そんなに効果のある君の字を、活字にすることないじゃないか! そのまま印刷すればいいんだ!
 うちは人間を規格化し、歯車化する大企業じゃないんだぞ」

やりたくてもやれなかったような冒険ができるかもしれない
今まで泣かされてきた大企業――大資本の力でまかり通り、人間を組織の一員に仕立て上げ
弱小会社を痛めつける巨大企業と互角に渡り合えるかもしれない

だが、はたしてそうだったのだろうか?


広告主に山崎の字をイラストの一部と思わせなければならない
この話は内輪だけにしたほうが安全だ
“生文字コピー”のチームを組み、標的はT工業に定めた

普通、広告は、投下量と効果の相関度などなかなか分からないが、今度は違った
広告を出した地域の売り上げが上昇し、連続投下でますます顕著になった

目の回るような忙しさになったが、ようやく、宇津野は自分たちが地獄に足を踏み入れたことに気づいた
T工業の売り上げの伸びが、わずか3ヶ月で鈍りはじめた

字体がマスコミに乗って広まるほど、急速に魔力を失うことになり
そのたび新字体を生み出さなければならない

山崎は、自棄酒の中でやっと新字体をつかんだが、
制作費を増やさなければ採算がとれないほどSSプロダクションは膨張していた
今や、字体が生命を消耗していることはハッキリと分かった


山崎はもう4日も出社していないが、何のために行方不明になっているかよく分かっていた
宇津野は苛立ちつつ、開いた新聞記事に釘付けになった
麻薬パーティの現場で逮捕された中に山崎の名前があった ついに麻薬に手を出したのだ

自分たちは、自由な集団だと信じていた 大企業とは違う生のグループだと
だが、山崎はその一人として己を追い詰め、滅ぼしていったではないか

宇津野は、山崎のいる警察を調べ、行き先を黒板に書いて、部屋を出た




「工場」

小説を書いて飯を食うようになってから、僕は随分いろんな経験をして、
今じゃ少々の刺激では何も感じなくなっている

この計画はやはりよかったのかもしれない
多感な時代をサラリーマンとして過ごした×県にある工場を訪ねるという計画だ

学校を出て、型どおり就職し、あの工場にすぐ赴任し、何年か勤めてから本社勤務となり
その後、宮仕えから足を洗って、今の稼業になった

以前の職場に行き、かつての上司・同僚に、己の自由な立場を見せつけて
快感に耽ってやろうという下心もあったのも事実だ

あの工場、あの人たちは、以前のままだろうか?
おそらく時代の中で変貌しただろうが、何か往時のものが少しぐらいは残っているに違いない
それらもいずれ消えるのなら、今こそ訪ねるべきではないか?


会社にいた頃、よく宴会で来た料理旅館に入り、2、3日泊めて欲しいと言った
老主人は亡くなり、息子は僕を胡散臭げに眺め、それでも部屋に案内した

僕は早速工場に向かった
現代的な運搬車が走っているものの、その基本的な印象は厳然として生きていた

今の僕は、ここで使われている人間ではない
大都会のど真ん中で、厳しくめまぐるしいかもしれないが
現代とともに生き、自分のやりたい仕事を続けている人間なのだ


門を通り抜けようとして守衛に呼び止められた 僕は苦笑しながら受付に歩み寄った

「通門証を 公用の者は、みんな携行しています」
「ありません」
「それでは私用なんですね? どこへ行きますか? どこの、誰の所へ行くんですか?」

仕方なく、工場にいた頃の直属上司の名を出した

「誤魔化そうったって、そうはいかんぞ
 お前のような髪の長い、ネクタイもしていないだらしない奴が
 総務部長のお客だなんてことがあるものか!」

「分かったよ」 きびすを返そうとすると
「待て! 無事に逃げられると思ったら大間違いだ!」

前にここにいた者だと言うと、違う守衛が3人来て
「どうも、いろいろと失礼しました どうぞこちらへ」

ざまを見ろ、とはじめの守衛に憎々しげな視線を投げ、工場に入った

3人の守衛が連れて行ったのは事務所ではなく、原料粉砕場のほうである
僕は、附設のシャワー室に引きずられて行った
「離せ! 何をするんだ?」

リーダーが来て
「間違いない その男は、たしかに前、うちにいた人間らしい
 誰に頼まれて、わが社のことを調べに来た?
 お前が産業スパイだということは分かっているんんだ とっとと吐いてしまえ!」

ザァっと頭から水が降りかかった
このままでは殺される、と直感した

「助けてくれえ!」

死に物狂いで、事務所にたどり着くと、「おや 君じゃないか どうしたんだね?」
総務部長は、笑いを噛み殺していた 事務所の全員がクスクスと笑っていた

「最近はうちも企業秘密が多くなったし、中途退職者が遊びに来たと称して
 秘密を探りに来るケースが増えているし、自衛のためなんだ
 それにしても、君には気の毒だったなあ」

総務部長はもう何の遠慮もなくゲラゲラと笑い、事務所の男女も腹を抱えて笑いこけていた


不意に、あることに気がついて、目を虚空に据えた
あれは、本当に間違いだったのだろうか?

僕は思い当たった あれこそ、中途で会社を辞めた人間
それを見せびらかそうとする者、世の脱サラ志向の風潮に対しての
法に触れない復讐の仕方ではなかったか?




「マリオネット」

会社の創立記念祝典が終わり、栗田さんが「どうだ、その辺でもう少し飲まないか?」と言った
僕はどっちつかずの返事をした 栗田さんの話の退屈さは想像以上なのだ

仕事以外は何もご存知ないのである とても38歳の係長とは思えない
僕は栗田さんのたった一人の部下だから、そのお役目を引き受けるよりほかはない
まったく、ツイてない

「また、ひさご屋でも行くとするか」

うちの社の連中のたまり場のおでん屋で、きっと会社の人間とも会うだろう
そんな中でご高説を聞かされるのは願い下げにしたかった

「どこか、よそにしませんか キャバレーなんかどうです? この辺に1軒、知っている所があるんです」

ボックスに案内されると、栗田さんはしきり周囲を見回している
「どうも何だか夢かなにかで見たような気がする」
おそらく、初めてだと白状するのが照れ臭かったのだろう

ホステスたちがやって来ても、栗田さんはちっとも陽気にならず、口数が少なくなり、なにか考え込んでいる

かなりの歳のホステスが

「あの人、ひどいわよ 私を覚えているはずなのに、全然知らないって言うんだから
 もう10年も前になるけど、あの人、よく遊びに来たわ 私が歳をとったから分からないのかしら
 このごろはいつもああなの? 以前はもっとスマートで洗練されていたのに
 まるで変わったわ しょぼくれて・・・見ているのも気の毒なくらい」


そのホステスは、栗田さんに「ね、私よ 覚えているでしょう?」と腕をとって呼んだ
「ここまで出てきてるんだが 思い出そうとすると頭が割れそうになる」


外に出ると「こっちに、あの店がある・・・ような気がする」
と人波をかきわけて進み続ける そんな栗田さんをほったらして帰るわけにはいかず
やむを得ず、ついて行くと、路地裏の小さなビルに「マリオネット」と看板がある
どこかで聞いたような名だな

一時はジャーナリストになろうとした僕にとって、それは懐かしい響きを持っていた
たしか、芸能人や、作家などのアウトサイダーたちが集まる店だ

「これはまあ、栗田さん! ずいぶん久しぶりじゃありませんか!
 ときどき皆さんでお噂はしていたんですよ!」

新聞やテレビでおなじみの有名人たちが立ち上がって栗田さんを迎える
「よく来たなあ また前の仕事に戻るの?」

栗田さんは、だしぬけにのけぞって仰向けに倒れた


「ここは・・・マリオネットだな?」

遠い、失われたものに再び巡り合ったかのような静かな微笑だった そして苦笑でもあった
今さらどうしようもないと自覚した人間だけが浮かべる苦笑

「僕は戻って来たんじゃない 今日、ここへ来たのは、まったくの偶然なんだ
 僕は、ここに自分がいられないということをよく知っている すぐに引き揚げるよ」

「なにも、そんなに固く考えることないじゃありませんか ここは地獄でも、オリンポスでもありませんよ
 ただのバーです バーで昔の友達に会って、1杯やって、なぜいけないんです」

「もう昔の仕事はすっかりやめてしまったの?」
「やめろよ 彼にはどうしようもなかったのさ」

「そうかしら? 逃げようとすれば、逃げられたんじゃない?」
「そんな話はやめにして、愉快にやりましょうや」

「栗田さん、歌を聞かせて下さいよ 以前のように」

栗田さんが歌う? 彼はひどい音痴で、歌うのはいつも枯れすすきに決まっている
社員らがリクエストするのは、ゲラゲラ笑いたいからに過ぎない

だが栗田さんは歌い、朗々たる声で、人の心に沁みこんでいく

次第に座が乱れ、論争したり、歌ったり、ワルプルギスの狂宴だった


暁近くになり

「おれは帰る 家へ帰れば、また今の俺にされてしまう
 お前らに・・・俺の気持ちが分かってたまるか
 俺が生涯・・・どんな気持ちで・・・さらばだ みんな元気でな」


「どういうことなんです?」

「あいつは、きわめて優秀な俳優だったんだ
 一般に名は知られていなかったが、専門家はその天才的素質を認めていた
 サラリーマンの生活に馴染んではいけないと、給料のありったけをつぎ込んで遊びまわっていた・・・

 だが、父親が半身不随になり、母親が交通事故で動けなくなり、正業に本腰を入れなければならなくなった
 彼は諦め、普通の結婚をして、子どももできて、彼にできる演技は1つだけ 良きサラリーマンとしての演技さ

 彼は苦しみ、専門の催眠術師に頼んで、記憶を消してもらったんだ
 けれども、ふとした拍子に破れることがある そして一切が元に戻ってしまう」

「今夜がそうだったんですね? と、すると・・・また催眠術をかけて、サラリーマンに還るのでしょうか?」
「多分ね」


栗田さんは、翌日ちゃんと出社していた いつも通りの調子で
僕が前夜のことを話そうとしても
「申し訳ないんだが、キャバレーに行った後は、よく覚えていないんだ」と笑うだけなのだ

この間、僕は一人であの店に行こうと試みたが、どうしても探し出せなかった
あの店はとうになくなったのではないか? 栗田さんの失われた世界と同じく

あの晩、栗田さんにもう一度帰還のチャンスを与えるべくよみがえったのでは?
そう考えるほかはないのだ




【小久保実解説 内容抜粋メモ】

この作品集は、SF作家眉村卓のこれまでの作品とは異なる新しいイメージを与えるに違いない
サラリーマン小説といった感触を強くもっているだけでなく
簡単な経歴を知る読者には、氏を重ね合わせたい誘惑にとらわれる「私」性が濃い

眉村氏のサラリーマンたちは、惨めな脱落者の印象からは程遠い
エリートとは言わないまでも、平社員であっても、努力型で有能でもある

風潮に敏感に反応する安直な合理主義者でもなければ、
頽廃や虚無のポーズの模倣者でもない

まことに健康な精神の所有者で、けして組織に自己を売り渡したりはしない
だからこそ逆に、今のこの病んだ世界から、自然に異次元の世界に入り込める

眉村氏の小説は、広い層の読者に人気がある

眉村氏の講演を聴いた女性たちが、みな眉村ファンになるのはなぜだろう
新刊が出るたび、お互いに連絡し合い、テレビやラジオに出演したといっては電話をかけあう始末なのだ
(SNSもないもんね


眉村氏は折り目の正しいひとだ
2年余り深夜番組のDJをつとめ「チャチャ・ヤング」を聴いた
近畿・四国・中国地方の青年たちなら肯定してくれるだろう

ショート・ショートのコーナーを設け、投稿作品を丹念に読み
ランキングをつけるという大作業を敢行し、優秀作品をまとめたパンフまで発行された
青年や女性を惹きつけるのは、彼の健康な精神に帰着するだろう


大学時代の眉村氏は、同人詩誌「捻子」の中心的存在だった
昭和30年代の前半、組織と人間、戦争責任の問題、論議のテーマには事欠かなかった

日常生活という言葉は、<すべて世は事もなし>といった楽観的情緒をまとっているが
本質的にはさまざまな危険な断層を含んでいる
健康な精神は、それだけ自己に対して醒めている




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