■『なぞの転校生』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和50年初版 昭和58年28版)
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
中学二年生の広一君のクラスに転校してきた美しい少年。
スポーツ万能、成績抜群、あっという間にクラスの人気を独占してしまった。
だが時折見せる彼の謎の部分―雨やジェット機の爆音への度はずれた恐怖。
停電の時に手にしていた超能力のペンライト。
そして突然悲痛な声で世界の終末を予言する……。
クラス一同の深まる疑惑と不安の中で広一君が握った少年の秘密とは…?
SF界の鬼才、眉村卓が描くジュニア小説の傑作。
再度、amazonで1冊1円(関東への配送料 ¥257)で買った第2弾は14冊(1冊だけ4円だった
前回も今回ももっとも多かったのは「もったいない本舗」さんの在庫
一体、眉村さんの角川文庫を何冊持っているのかフシギになるほど
以前調べてなくても、時間を置いて調べると入荷していることや
値段も見るたびに若干変わることも分かった 古書売買の仕組みっていろいろフシギ
そして今回届いたほとんどは、どれも新刊のように状態がよくて驚いた
もしや、新しいのが届いたのでは?と奥付を見ると、昭和50年代の版数を重ねたものだと分かる
私の好きな木村光佑さんのカバーデザインも、次第に変わって、いろいろ試みている
こうして1人の作家さんの文庫本を長年にわたって
同じ規格、同じデナイナーで出版しているのは、作家さんと出版社の深い関係性も伺える
ラックに1段に並べていたのを、数が増えた分、前後に2段にしてみた
ズラっと並ぶ、まちまちに経年劣化で変色した文庫本は、
それぞれの歴史を感じさせて、とても感慨深い
*
今作は、タイトルは有名だし、ドラマ化されていることも最近知ったのに、まだ読んでいなかったんだな/驚
学園もののSFシリーズ
次元をわたりあるいている人々を
平凡ながら、勇気と知恵、行動力のある少年が助けて、ひいては日本中も納得させてしまうなんて
当時、同じ年齢の子どもたちが読んだら、きっと元気や夢を持ったことだろう
まだまだハンパな科学力を批判され、それでも平気でいる私たちへの痛烈な比喩もあることも見逃してはならないし
その中でも、自分たちの力で変えていけるんだ、と訴える眉村さんの信念も伝わった気がした
解説が手塚治虫さんでビックリ/驚×5000
▼あらすじ(ネタバレ注意
「なぞの転校生」
クラス委員の岩田広一がクラス対抗試合に行こうとして家から出ると、
昨日まで空き部屋だった部屋に急に引っ越してきた人がいて驚く
中からギリシア彫刻のような整った顔立ちの少年が出てきた
2人は偶然、一緒のエレベーターに乗ったが、一時的な停電に少年はパニックになり
見慣れないライトをドアに向けて焼き切ろうとしている その顔は憎悪に醜く歪んでいた
翌日、昨日の少年が転校生として広一のクラスに来てまた驚く 山沢典夫という
進学率のいい阿南中学校の大谷先生は厳しいが、典夫はノートをとらないばかりか、教科書も開いていない
太陽について聞かれると、先生も驚くほどの知識を話し出した
隣りの席の香川みどりは、卓球の学校代表選手で、広一との仲の良さが噂になっている
みどりは典夫も卓球に誘うと、もの凄い球を打ち返してきたが、卓球をやったのは今日が初めてだという
典夫はすっかりクラスの人気者となったが、心を開かないのは変わらなかった
秋の運動会のことで打ち合わせに1人だけ参加しないことで広一と口論になる
その理由が
「もうじき雨になる 僕は傘を持ってきていないんだ
あの雨の中には原水爆実験による放射能が含まれている 僕は怖い 致命的なんだ
みんな、なんて馬鹿なんだ
この世界で一番怖いのは、科学のいきすぎによる人類の自滅じゃないか
我々にとれば、文明世界より原始世界のほうがよっぽどましだ」
クラスメートとモメてから、典夫は3日も登校しなかった
大谷先生は、広一と典夫を訪ねる
部屋から20人ほどの家族連れが一斉に出てきて、彼らは一様にギリシア彫刻のような顔立ちをしている
典夫は広一らを拒絶して部屋を閉ざしてしまう
「山沢くんはひょっとすると・・・どこか別の世界から来たんじゃないでしょうか」
「まさかねえ」大谷先生は笑い出した
クラス対抗意識の高い阿南中学の運動会は、クラスごとに応援用のアーチ作りに力を入れている
典夫のデザインが素晴らしいとみんなが褒めた後、ほかにもほとんど似たデザインがあることに気づいて皆驚く
典夫は「偶然だ!」と言い、みどりがかばった
典夫の活躍は抜群だったが、広一の両親は、同じアーチを作ったクラスにも同様にずば抜けた生徒がいることをフシギがる
「それがいずれも転校生だそうだ」
かけっこでは、その天才少年少女たちがいずれもアンカーで、人並み外れた速さで走っていた
だが、その上空にジェット機が飛んできた時、彼らは一斉に校内に逃げてしまった
その後、札付きの3年生のグループが典夫に文句をつけているのを見かける広一
「転校生のくせに、気に食わなかったんだ!」
典夫がポケットから例のライトを取り出すのを見て、広一は慌てて間に入って止める
「生意気な!」 広一はボコボコにされてしまうが、後にクラスメートから典夫をかばったと好印象を与えることになった
しかし、広一は、追い詰められた時の典夫の、まるで世の中のすべてに絶望したかのような表情が忘れられなかった
大谷先生が救護室で話すには、大阪市内の十数校で同じような転校生のために、いろんな事件が起きていて
しかも、みな同じに転居してきて、本籍を調べるとすべて千代田区にあるという
教室で大谷先生が「山沢くん、岩田くんにお礼を言ったの?」と聞くと
「そんな必要はないと思います 僕はパラライザーという神経麻痺銃を持っているから、あんな連中なんでもないんだ
みんなは僕のことを笑うが、なぜおかしいんだ? あんな激しい音を聞いて平気なほうがおかしいんじゃないのか?(まったく同感
原子爆弾、水爆、ニュートロン爆弾、ミサイル、、、いつ頭上に落ちるか分からない世界でよく平気でいられますね
このD-15世界も、遅かれ早かれ核戦争は起こるんだ ここなら起こらずに済むと思ったのに・・・
核戦争の恐ろしさを知っている者がいるか? 倒れる何百万の人々、迫ってくる死の灰
血だ! 焼けただれた裸だ! 助けてくれ!」
典夫は先生にうながされて早退した
「あいつ、本物の核戦争を見たんだ・・・」
その日の夜 両親は夕刊を見せた 「大阪に出現した天才少年少女」と書いてある
広一「僕、隣りに行ってみるよ 連絡もあるし」
ドアを叩いて「できるなら、一度ゆっくり話したいんだ」
2DKの団地の部屋に入れてもらうと、何人かの大人が座って話していた
外から見えない場所には、複雑な金属製の見慣れぬ道具が並んでいた
典夫の父
「私たちはある集団なのだ 秘密結社とかスパイじゃなく、ごく平和な目的なんだよ
このD-15世界でとけあって暮らしていくつもりだったが、私たちは不適応者に見えるかね?」
「とんでもない ただ、普通の人間なら、もう少しのんびりしています
みなさん優秀すぎるんです それにすごく神経が細い」
「1つの世界で安全に暮らすには、何事にもずばぬけているのが一番じゃないだろうか?
でも、もっとみんなと馴染むようにしなきゃならないようだ
このことは誰に話してくれてもいい それくらいはするべきだった」
翌日、典夫が欠席して、広一が責められる
そこに広一の母がきて、典夫の家が酷い騒ぎで典夫は広一にだけ会いたがっているという
一緒に行きたがるみどりに「君は山沢が好きなんだな」 彼女はうなずいた
男が酷い火傷を負って病院に連れていかれたという 広一が部屋に入ると
典夫
「信じられるのは君だけだ 僕らを人間らしく扱って、特別な目で見なかったのは
留守番をしていたら、知らない男がドアを開けて入り、写真を撮りまくったから
僕はレーザーで撃ってやったんだ 目盛りは最低にしたから警告程度だ それを・・・」
「わかった 僕に任せるんだ」
広一は外に出て「怪我をした人の知り合いはいますか?」 誰もいない
レーザーのことは伏せて、事情を話し、目撃者に問い、典夫のせいじゃないと言い張った
警察官が来て、部屋を開けると、典夫の両親がいた (さっきまで家に入った人はいないのに・・・)
典夫「僕らはもうこの世界にはいられない でも、君のことはけして忘れない」
典夫の父「今夜、団地の屋上へ来てくれ 夜9時だ その時、話す」
翌日、国語の先生が入ってきて、全クラスの天才少年少女たちが一斉に消えたという
新聞には、大阪市内の天才少年少女も消えたと書かれていた
典夫らを守るため、大谷先生も屋上に同行することに決めた
しかし、団地にはすでに大勢のテレビや新聞の取材陣らが殺到していた
部屋を開けたら、中には何ひとつなかったという
屋上から無事に送り出すには、彼らに帰ってもらう必要があると考えた広一は、言える範囲で取材に答えた
無意識に過去形で喋っているのに気づいて、不意に悲しくなった
広一が解放されたのは8時前だった
クラスの誰かが話してしまうのでは、と心配したが、みどりがみんなに言わないよう説得してくれていた
蛍光を帯びた球状の物質が降りてきて、典夫が出てきた
「行きたくないんだが、でも、もうここともお別れだ」
典夫の父
「私たちは別の次元へ行かねばなりません 私たちは“次元ジプシー”と呼ばれる一族なんです
宇宙は限りなく重なり、交錯して同時に存在している そこをこの移動機で別の世界に移ります
これは残念ながらタイムマシンではない どうも時間は第5の軸らしく、別次元に移る機械しか作れなかった
私たちの世界は高度に進んだ戦争のために壊滅したため、別の世界へ飛んだ
しかし、無限に歴史があっても、結局どこも全面戦争を始めて、そのたびに逃げ回っているのです
平和で安心して住める世界を探して もう戸籍は次の世界に作ってあります」
典夫「僕、今度の世界より、ここのほうがいいんだがなあ」
広一は、このままこの人たちを去らせてはいけないという考えにせきたてられた
「別世界に行って、ここより住みやすい保証はあるのですか?
そうやって、次々と移って、どこか理想の世界を見つけるんですか?
理想の世界なんて本当にあるんでしょうか? 住む人の心持ち次第でどうにもなるんじゃないでしょうか?」
典夫の父
「君の言うことは分かる いい勉強になった しかし、もうすべての手続きは終わっている
もうみんな、あっちのあっちの人間になっているんだ」
典夫
「もうたくさんだ! やっと友人ができたというのに、何年も何年も・・・
このレーザーを持っていてくれ また、ここに戻ってきたら、仲間に入れてくれるだろうね?
いつか戻ってくる そう考えて一生を送るよ さようなら」
*
多くの学者や文化人がこの事件を論じた
一部は肯定し、これまでの常識がどれだけ偏っていたか論証しようとしたが
他の大多数は、あり得ないという見地から、広一らがウソを言っているか、幻覚だと決めつけた
広一の父「どうせマスコミなんて気が短いんだ そのうち忘れてしまうよ」
その通り、1ヶ月も経つと、ほとんど噂されないようになった
しかし、直接、関係した中には忘れられない者もいた みどりもだ
今では成績も落ち、かつての精彩がまったくなくなっている
補習の1日目、みどりと広一が教室に入ると、教壇の下にボロボロの服を着た典夫がいた
「僕はまた戻れたんだな・・・」
大谷先生も来て、救護室に運ぶよう指示した
典夫
「僕らはD-26世界へ行った 次元ジプシーは僕らだけじゃなかったんだ
何万人もいて、人間狩りを始めた 戦争の代わりに闘争本能を満足させていたんだ!
僕らは散り散りになり、撃たれ、捕えられ・・・ やっぱり、ここへ帰ってきたのは僕だけだったのか」
学校中は典夫の話でもちきりになった
職員会議でも、戸籍のことなど問題はあったが、典夫を守るために府立病院に入院させた
広一の隣りの部屋には、もう別の家族が引っ越している 「あいつ、どこに住むつもりだろう」
そこに屋上から音がして、典夫の父らがやはりボロボロになって戻ってきた
典夫の父
「私たちは、もう自分たちだけの生活に閉じこもるつもりはありません
私たちは随分多くの世界を見てきました 動物たちと共存共栄してる人たち(いいなあ
しかし、どの社会もゆっくり、あるいは急速に、科学の時代に入ってゆく
私たちは逃げ回るのではなく、勇気をもって未来に立ち向かい、自身の未来を作り上げること
最終戦争の恐怖に怯えるより、なんとか起こらないよう力を合わせることだったんですね
この岩田くんのように これがあるかぎり、この世界は大丈夫です
与えられた問題に手をとりあってやりぬくこと 私たちはここに永住したいと思います」
広一の父は、とりあえず彼らを会社の寮に泊まるよう手配した
典夫「さようなら また、あした」
明日 それは誰にでもあるのだ 素晴らしい明日を作るのは、僕たち自身でなければならないのだ!
彼らは世論の同情を集め、日本国民として、受け入れられた
典夫
「僕は、来学年から東京に住むことになりました
僕たちは、この世界で仕事を見つけて全国に散りました
父もこの世界の役に立ちたいと、東京で技師の仕事が見つかったんです」
3人は校舎を振り返ると、桜がもうちらほら咲き始めていた
「侵された都市」
ローカル空港の飛行機で羽田に向かっている新聞記者・古川彦二
客は少なく、あと30分で着くという時、機体がすうっと沈んだ
エアポケットかと思ったがまたずうんと沈みこんだ
「あと10分で着陸いたします・・・」というアナウンスで一応落ち着いたが
外を見ると、ここは僕の知っている東京湾じゃない
恐ろしく広い空港で、はるか向こうにあるのは、どう考えてもロケットに違いない
後ろにいた中年紳士はスチュワーデスに「どうなってるんだ!」と怒鳴る
操縦士が現れ、
「機長の有田です 私たちは突然悪気流にあい、今の空港に着いていました
いくら呼んでもコントロールタワーからの応答がありません」
反射的に「僕が調べますよ」と言うと「僕も行きます」と副操縦士・桜井節も言った
外に出るととてつもない寒さ 今は7月で、離陸した時は汗だくだったのに
大きな建物は、近づくにつれ、窓が割られ、錆びたり、剥げ落ちたりしている廃墟だと分かった
何かの爆発で吹き飛ばされているようだ
眼下に広がるのは、ぎっしりとビルの建ち並ぶ大都市で
それらの間の縫っているのはハイウェイだろうか
まるで未来の超大都市のようだが、生き物の気配はまったく感じられない
東京タワーを見つけて、ここがまぎれもなく東京だと知り唖然とする2人
見慣れぬ飛行体が、ドームのほうから飛んできて、突然、頭の中が燃え上がるのを感じた
そして、自分が円盤を尊敬しきっているのを知った
円盤の言う通りにすれば、何もかも素晴らしくなると考え始めていたのだった
(ワタシタチノトコロヘ キナサイ)
乗客たちも円盤のドアに歩いていき、乗り込んだ
だが、先を争った僕と桜井は、くずれかけた階段とともに下へ落ち
円盤はもう去ってしまい、意識が遠のいた
「2人ともコントロール線を浴びたらしいわね」
女の声がして、気づくと幾人かに取り囲まれ、地下に連れられ、針のようなものを刺された
目が覚めると、普通の白衣ではない生地を着た人々に囲まれている
「説明しなさい なぜあんなところにいた? あの航空機はどうしたの?
あなたは人間だし、私たちの仕事に協力する義務があります」
事情を話すと、いかにも頭のよさそうな男クニオが言った
「タイムポケットだ この男たちは1960年代から来たのだ」
女性の第二行動隊責任者イワセ「ここは1999年よ」
クニオ
「君が見たのは、バーナード星系に住む宇宙人の円盤だ
あれは、人間の脳に働きかけて奴隷にするコントロール線を出している
地球の人々は、ほとんどがバーナードの奴隷になっているんだ」
初老の男が言った
「君の仲間といっしょに映画を観てほしい 宇宙人らを攻撃する前には必ずそうするんだ
わしは医者でね こうした闘志のかきたて方には賛成しかねるが わしはリーダーじゃない」
室内には100人近くがイスに座り、スクリーンを見つめている
「これが、つい7ヶ月前の東京です」
何百というビル、天候制御、原子力発電所、食料合成工場群・・・
そこに何十という黒い点が現れた
奴隷にされた人々は、窓を割り、壁をめちゃめちゃに壊している
「偶然、地下深くで仕事をしていた者以外は、みんな奴隷にされたのです!」
流れている音楽はもう耐えられないほど低い不気味な音になっている
「殺せ! 殺せ!」部屋の人々は声を合わせて叫んでいる
巨大ドームから、怪物が出てきた 大きな飛び出した目、べろんとした大きな口
僕は吐きそうだったが、バーナード人に強い憎しみを感じていた
(映像と音で操作してるんだな プロパガンダ映画といっしょだ
「我々は今夜、一番近くにあるバーナード人居住区を襲撃する!」
医師
「やつらの居住区は、東京、横浜などのほか、世界各地に散らばっている
世界各地には、我々と同じような団体はあるだろうが、連絡手段がないんだ」
2人は会議室で、なぜこの時代に来たか説明される
透明な壁の向こうは工場があり、先のとがった帽子のようなものなどがズラリと並んでいる
クニオ
「いっさいの責任は我々にある 我々はバーナード人に対抗できるような技術を研究していた
やつらのやっているのは重力コントロール方式なんだ 地球の引力をさえぎれば
飛行機は他の天体の引力によって浮かぶことができる
だが、スイッチの操作を誤って、重力を反対側にかけてしまった結果
実験物の上空に過去の空間ができた
タイムポケットは、君らの時代にもあったかもしれない 戦闘機が突然消えたり
人がいなくなる事件の何割かはそれだ 君たちは帰れるかもしれない」
だが、円盤に捕えられたスチュワーデスらを見殺しにすることはできない
「僕はこれからの攻撃に参加するぞ 仲間を助け出してやる 僕はあの映画を観たんだ」
桜井も同意見だった
2人は工場で造られていたヘルメットを渡される
「これはコントロール線を完全にさえぎることはできない
2分も浴びると頭がやられる 少しでも気づいたら、すぐ岩陰などに飛び込み
ボタンを押せば、強力な麻酔薬で失神し、あとは救助され治療を受けられる」
指揮をとるのはイワセ この時代の人々は、一番能力のある者を選び、男女などにこだわらないらしい
近づくとドームの大きさは異様だった
新しい反重力船が攻めかかるまで待ち、一斉に攻撃する計画
不格好だが、堂々とした飛行機が3台だけ、まっすぐにドームに突っ込んでいく
僕は大声をあげながら、奴隷にされている人々を麻酔銃で撃ちまくった
1人でも多く眠らせ、あとで助け出し、治療をほどこすのだ
うず巻き状の廊下のような所に来ると、20人以上の宇宙人がかたまって立っていた
(バーナード人の家族か?)
彼らにも麻酔弾が効き、床に倒れた
「大勝利だ! 円盤は慌てて別の居住地へ逃げていったぞ!」
ドーム内の人間は、何十万人という数だった
地下運動の人々は、みんな眠らせ、順番に治療を始めた
コントロール線も手に入れ、バーナード人にも有効だと分かった
「我々は、必ず地球を取り戻してみせるよ」
僕は、イワセ、クニオ、医師らが好きになっていたが、僕には自分の世界でやらなければならない仕事がたくさんある
「ねえ、バーナード人にかぎらず、宇宙人が地球を襲うという予言をした人はいなかったんだろうか?」
医師「知らんな だからこそ、簡単に侵略された」
桜井「なぜあんなことを聞いた?」
30年後の未来といえば、僕たちは恐らくまだ生きている
桜井
「分かるぞ 過去に戻ったら、今度の事件を公表するつもりなんだな
30年後の災厄を予言し、被害を最小限に食い止めようというんだな?」
飛行機は再び沈む感覚になり、もとの羽田空港に戻っていた
【手塚治虫解説 内容抜粋メモ】
最近は、主観の世界、内的宇宙を追求したテーマが、「ニューウェーヴSF」として若いマニアの関心を集め
日本陥没のようなパニックや、政治事件などがベストセラーになり、
SF分野は、純文学と大衆文学の中に広く滲み込みつつある
「企業SF」というジャンルの作品もいつくかあるが、その嚆矢は眉村氏だといって差し支えない
もの書きは、自由人で、企業内部の実態などは書けても
人間の喜怒哀楽、人情機微に触れるのは経験者でないと難しい
漫画家ではサトウサンペイ氏や、作家の源氏鶏太氏など
眉村氏は、一時「サラリーマンSF作家」と評されていたことがある
数年間会社員だったことが経歴をユニークにしている
風変わりに見えるのは表向きで、元来リベラリストで、ロマンチストなのだ
「インサイダー文学」をさかんに吹聴し、このムードも次第に薄れ
本来のスタンダードSFを書くようになったのは、
やはりインサイダーからアウトサイダーに転換しつつある彼の姿勢の表れかもしれない
『なぞの転校生』の広一はむしろ狂言回しで、典夫という謎めいた美少年が
スーパーマンぶりを発揮するのは、学園ものとしてよくあるパターンだ
典夫と同じ仲間が大勢登場するあたりは、SFマニアなら『ダンウィッチの怪』
(『呪われた村』として映画化された)と勘ぐる人も多かろう
眉村氏はテレビっ子のためにセリフをうんと増やし、会話劇に近い手法をとっているが
彼がテレビ漫画のシナリオもかなり手がけていることの影響だろう
眉村氏自身、漫画を描いていた時期もあるのだ(驚
学生時代、当時有名な新人養成雑誌『漫画少年』に、本名の村上卓児で投稿しつづけていた
僕もそれを拝見し、手紙のやりとりをした間柄だったが
こいつは大物になるかもという期待を裏切り、雑誌の廃刊と同時に姿を消してしまった
10年後、SF作家として登場した時、よもやかつての少年とは想像もしなかったわけである
同じ関西出身のSF作家の小松左京もかつて漫画を2、3冊描いた
筒井康隆氏は、今も道楽に立派な漫画を描いている
この御三家がいずれも同時期に『SFマガジン』にプロデビューしたことはフシギである
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和50年初版 昭和58年28版)
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
中学二年生の広一君のクラスに転校してきた美しい少年。
スポーツ万能、成績抜群、あっという間にクラスの人気を独占してしまった。
だが時折見せる彼の謎の部分―雨やジェット機の爆音への度はずれた恐怖。
停電の時に手にしていた超能力のペンライト。
そして突然悲痛な声で世界の終末を予言する……。
クラス一同の深まる疑惑と不安の中で広一君が握った少年の秘密とは…?
SF界の鬼才、眉村卓が描くジュニア小説の傑作。
再度、amazonで1冊1円(関東への配送料 ¥257)で買った第2弾は14冊(1冊だけ4円だった
前回も今回ももっとも多かったのは「もったいない本舗」さんの在庫
一体、眉村さんの角川文庫を何冊持っているのかフシギになるほど
以前調べてなくても、時間を置いて調べると入荷していることや
値段も見るたびに若干変わることも分かった 古書売買の仕組みっていろいろフシギ
そして今回届いたほとんどは、どれも新刊のように状態がよくて驚いた
もしや、新しいのが届いたのでは?と奥付を見ると、昭和50年代の版数を重ねたものだと分かる
私の好きな木村光佑さんのカバーデザインも、次第に変わって、いろいろ試みている
こうして1人の作家さんの文庫本を長年にわたって
同じ規格、同じデナイナーで出版しているのは、作家さんと出版社の深い関係性も伺える
ラックに1段に並べていたのを、数が増えた分、前後に2段にしてみた
ズラっと並ぶ、まちまちに経年劣化で変色した文庫本は、
それぞれの歴史を感じさせて、とても感慨深い
*
今作は、タイトルは有名だし、ドラマ化されていることも最近知ったのに、まだ読んでいなかったんだな/驚
学園もののSFシリーズ
次元をわたりあるいている人々を
平凡ながら、勇気と知恵、行動力のある少年が助けて、ひいては日本中も納得させてしまうなんて
当時、同じ年齢の子どもたちが読んだら、きっと元気や夢を持ったことだろう
まだまだハンパな科学力を批判され、それでも平気でいる私たちへの痛烈な比喩もあることも見逃してはならないし
その中でも、自分たちの力で変えていけるんだ、と訴える眉村さんの信念も伝わった気がした
解説が手塚治虫さんでビックリ/驚×5000
▼あらすじ(ネタバレ注意
「なぞの転校生」
クラス委員の岩田広一がクラス対抗試合に行こうとして家から出ると、
昨日まで空き部屋だった部屋に急に引っ越してきた人がいて驚く
中からギリシア彫刻のような整った顔立ちの少年が出てきた
2人は偶然、一緒のエレベーターに乗ったが、一時的な停電に少年はパニックになり
見慣れないライトをドアに向けて焼き切ろうとしている その顔は憎悪に醜く歪んでいた
翌日、昨日の少年が転校生として広一のクラスに来てまた驚く 山沢典夫という
進学率のいい阿南中学校の大谷先生は厳しいが、典夫はノートをとらないばかりか、教科書も開いていない
太陽について聞かれると、先生も驚くほどの知識を話し出した
隣りの席の香川みどりは、卓球の学校代表選手で、広一との仲の良さが噂になっている
みどりは典夫も卓球に誘うと、もの凄い球を打ち返してきたが、卓球をやったのは今日が初めてだという
典夫はすっかりクラスの人気者となったが、心を開かないのは変わらなかった
秋の運動会のことで打ち合わせに1人だけ参加しないことで広一と口論になる
その理由が
「もうじき雨になる 僕は傘を持ってきていないんだ
あの雨の中には原水爆実験による放射能が含まれている 僕は怖い 致命的なんだ
みんな、なんて馬鹿なんだ
この世界で一番怖いのは、科学のいきすぎによる人類の自滅じゃないか
我々にとれば、文明世界より原始世界のほうがよっぽどましだ」
クラスメートとモメてから、典夫は3日も登校しなかった
大谷先生は、広一と典夫を訪ねる
部屋から20人ほどの家族連れが一斉に出てきて、彼らは一様にギリシア彫刻のような顔立ちをしている
典夫は広一らを拒絶して部屋を閉ざしてしまう
「山沢くんはひょっとすると・・・どこか別の世界から来たんじゃないでしょうか」
「まさかねえ」大谷先生は笑い出した
クラス対抗意識の高い阿南中学の運動会は、クラスごとに応援用のアーチ作りに力を入れている
典夫のデザインが素晴らしいとみんなが褒めた後、ほかにもほとんど似たデザインがあることに気づいて皆驚く
典夫は「偶然だ!」と言い、みどりがかばった
典夫の活躍は抜群だったが、広一の両親は、同じアーチを作ったクラスにも同様にずば抜けた生徒がいることをフシギがる
「それがいずれも転校生だそうだ」
かけっこでは、その天才少年少女たちがいずれもアンカーで、人並み外れた速さで走っていた
だが、その上空にジェット機が飛んできた時、彼らは一斉に校内に逃げてしまった
その後、札付きの3年生のグループが典夫に文句をつけているのを見かける広一
「転校生のくせに、気に食わなかったんだ!」
典夫がポケットから例のライトを取り出すのを見て、広一は慌てて間に入って止める
「生意気な!」 広一はボコボコにされてしまうが、後にクラスメートから典夫をかばったと好印象を与えることになった
しかし、広一は、追い詰められた時の典夫の、まるで世の中のすべてに絶望したかのような表情が忘れられなかった
大谷先生が救護室で話すには、大阪市内の十数校で同じような転校生のために、いろんな事件が起きていて
しかも、みな同じに転居してきて、本籍を調べるとすべて千代田区にあるという
教室で大谷先生が「山沢くん、岩田くんにお礼を言ったの?」と聞くと
「そんな必要はないと思います 僕はパラライザーという神経麻痺銃を持っているから、あんな連中なんでもないんだ
みんなは僕のことを笑うが、なぜおかしいんだ? あんな激しい音を聞いて平気なほうがおかしいんじゃないのか?(まったく同感
原子爆弾、水爆、ニュートロン爆弾、ミサイル、、、いつ頭上に落ちるか分からない世界でよく平気でいられますね
このD-15世界も、遅かれ早かれ核戦争は起こるんだ ここなら起こらずに済むと思ったのに・・・
核戦争の恐ろしさを知っている者がいるか? 倒れる何百万の人々、迫ってくる死の灰
血だ! 焼けただれた裸だ! 助けてくれ!」
典夫は先生にうながされて早退した
「あいつ、本物の核戦争を見たんだ・・・」
その日の夜 両親は夕刊を見せた 「大阪に出現した天才少年少女」と書いてある
広一「僕、隣りに行ってみるよ 連絡もあるし」
ドアを叩いて「できるなら、一度ゆっくり話したいんだ」
2DKの団地の部屋に入れてもらうと、何人かの大人が座って話していた
外から見えない場所には、複雑な金属製の見慣れぬ道具が並んでいた
典夫の父
「私たちはある集団なのだ 秘密結社とかスパイじゃなく、ごく平和な目的なんだよ
このD-15世界でとけあって暮らしていくつもりだったが、私たちは不適応者に見えるかね?」
「とんでもない ただ、普通の人間なら、もう少しのんびりしています
みなさん優秀すぎるんです それにすごく神経が細い」
「1つの世界で安全に暮らすには、何事にもずばぬけているのが一番じゃないだろうか?
でも、もっとみんなと馴染むようにしなきゃならないようだ
このことは誰に話してくれてもいい それくらいはするべきだった」
翌日、典夫が欠席して、広一が責められる
そこに広一の母がきて、典夫の家が酷い騒ぎで典夫は広一にだけ会いたがっているという
一緒に行きたがるみどりに「君は山沢が好きなんだな」 彼女はうなずいた
男が酷い火傷を負って病院に連れていかれたという 広一が部屋に入ると
典夫
「信じられるのは君だけだ 僕らを人間らしく扱って、特別な目で見なかったのは
留守番をしていたら、知らない男がドアを開けて入り、写真を撮りまくったから
僕はレーザーで撃ってやったんだ 目盛りは最低にしたから警告程度だ それを・・・」
「わかった 僕に任せるんだ」
広一は外に出て「怪我をした人の知り合いはいますか?」 誰もいない
レーザーのことは伏せて、事情を話し、目撃者に問い、典夫のせいじゃないと言い張った
警察官が来て、部屋を開けると、典夫の両親がいた (さっきまで家に入った人はいないのに・・・)
典夫「僕らはもうこの世界にはいられない でも、君のことはけして忘れない」
典夫の父「今夜、団地の屋上へ来てくれ 夜9時だ その時、話す」
翌日、国語の先生が入ってきて、全クラスの天才少年少女たちが一斉に消えたという
新聞には、大阪市内の天才少年少女も消えたと書かれていた
典夫らを守るため、大谷先生も屋上に同行することに決めた
しかし、団地にはすでに大勢のテレビや新聞の取材陣らが殺到していた
部屋を開けたら、中には何ひとつなかったという
屋上から無事に送り出すには、彼らに帰ってもらう必要があると考えた広一は、言える範囲で取材に答えた
無意識に過去形で喋っているのに気づいて、不意に悲しくなった
広一が解放されたのは8時前だった
クラスの誰かが話してしまうのでは、と心配したが、みどりがみんなに言わないよう説得してくれていた
蛍光を帯びた球状の物質が降りてきて、典夫が出てきた
「行きたくないんだが、でも、もうここともお別れだ」
典夫の父
「私たちは別の次元へ行かねばなりません 私たちは“次元ジプシー”と呼ばれる一族なんです
宇宙は限りなく重なり、交錯して同時に存在している そこをこの移動機で別の世界に移ります
これは残念ながらタイムマシンではない どうも時間は第5の軸らしく、別次元に移る機械しか作れなかった
私たちの世界は高度に進んだ戦争のために壊滅したため、別の世界へ飛んだ
しかし、無限に歴史があっても、結局どこも全面戦争を始めて、そのたびに逃げ回っているのです
平和で安心して住める世界を探して もう戸籍は次の世界に作ってあります」
典夫「僕、今度の世界より、ここのほうがいいんだがなあ」
広一は、このままこの人たちを去らせてはいけないという考えにせきたてられた
「別世界に行って、ここより住みやすい保証はあるのですか?
そうやって、次々と移って、どこか理想の世界を見つけるんですか?
理想の世界なんて本当にあるんでしょうか? 住む人の心持ち次第でどうにもなるんじゃないでしょうか?」
典夫の父
「君の言うことは分かる いい勉強になった しかし、もうすべての手続きは終わっている
もうみんな、あっちのあっちの人間になっているんだ」
典夫
「もうたくさんだ! やっと友人ができたというのに、何年も何年も・・・
このレーザーを持っていてくれ また、ここに戻ってきたら、仲間に入れてくれるだろうね?
いつか戻ってくる そう考えて一生を送るよ さようなら」
*
多くの学者や文化人がこの事件を論じた
一部は肯定し、これまでの常識がどれだけ偏っていたか論証しようとしたが
他の大多数は、あり得ないという見地から、広一らがウソを言っているか、幻覚だと決めつけた
広一の父「どうせマスコミなんて気が短いんだ そのうち忘れてしまうよ」
その通り、1ヶ月も経つと、ほとんど噂されないようになった
しかし、直接、関係した中には忘れられない者もいた みどりもだ
今では成績も落ち、かつての精彩がまったくなくなっている
補習の1日目、みどりと広一が教室に入ると、教壇の下にボロボロの服を着た典夫がいた
「僕はまた戻れたんだな・・・」
大谷先生も来て、救護室に運ぶよう指示した
典夫
「僕らはD-26世界へ行った 次元ジプシーは僕らだけじゃなかったんだ
何万人もいて、人間狩りを始めた 戦争の代わりに闘争本能を満足させていたんだ!
僕らは散り散りになり、撃たれ、捕えられ・・・ やっぱり、ここへ帰ってきたのは僕だけだったのか」
学校中は典夫の話でもちきりになった
職員会議でも、戸籍のことなど問題はあったが、典夫を守るために府立病院に入院させた
広一の隣りの部屋には、もう別の家族が引っ越している 「あいつ、どこに住むつもりだろう」
そこに屋上から音がして、典夫の父らがやはりボロボロになって戻ってきた
典夫の父
「私たちは、もう自分たちだけの生活に閉じこもるつもりはありません
私たちは随分多くの世界を見てきました 動物たちと共存共栄してる人たち(いいなあ
しかし、どの社会もゆっくり、あるいは急速に、科学の時代に入ってゆく
私たちは逃げ回るのではなく、勇気をもって未来に立ち向かい、自身の未来を作り上げること
最終戦争の恐怖に怯えるより、なんとか起こらないよう力を合わせることだったんですね
この岩田くんのように これがあるかぎり、この世界は大丈夫です
与えられた問題に手をとりあってやりぬくこと 私たちはここに永住したいと思います」
広一の父は、とりあえず彼らを会社の寮に泊まるよう手配した
典夫「さようなら また、あした」
明日 それは誰にでもあるのだ 素晴らしい明日を作るのは、僕たち自身でなければならないのだ!
彼らは世論の同情を集め、日本国民として、受け入れられた
典夫
「僕は、来学年から東京に住むことになりました
僕たちは、この世界で仕事を見つけて全国に散りました
父もこの世界の役に立ちたいと、東京で技師の仕事が見つかったんです」
3人は校舎を振り返ると、桜がもうちらほら咲き始めていた
「侵された都市」
ローカル空港の飛行機で羽田に向かっている新聞記者・古川彦二
客は少なく、あと30分で着くという時、機体がすうっと沈んだ
エアポケットかと思ったがまたずうんと沈みこんだ
「あと10分で着陸いたします・・・」というアナウンスで一応落ち着いたが
外を見ると、ここは僕の知っている東京湾じゃない
恐ろしく広い空港で、はるか向こうにあるのは、どう考えてもロケットに違いない
後ろにいた中年紳士はスチュワーデスに「どうなってるんだ!」と怒鳴る
操縦士が現れ、
「機長の有田です 私たちは突然悪気流にあい、今の空港に着いていました
いくら呼んでもコントロールタワーからの応答がありません」
反射的に「僕が調べますよ」と言うと「僕も行きます」と副操縦士・桜井節も言った
外に出るととてつもない寒さ 今は7月で、離陸した時は汗だくだったのに
大きな建物は、近づくにつれ、窓が割られ、錆びたり、剥げ落ちたりしている廃墟だと分かった
何かの爆発で吹き飛ばされているようだ
眼下に広がるのは、ぎっしりとビルの建ち並ぶ大都市で
それらの間の縫っているのはハイウェイだろうか
まるで未来の超大都市のようだが、生き物の気配はまったく感じられない
東京タワーを見つけて、ここがまぎれもなく東京だと知り唖然とする2人
見慣れぬ飛行体が、ドームのほうから飛んできて、突然、頭の中が燃え上がるのを感じた
そして、自分が円盤を尊敬しきっているのを知った
円盤の言う通りにすれば、何もかも素晴らしくなると考え始めていたのだった
(ワタシタチノトコロヘ キナサイ)
乗客たちも円盤のドアに歩いていき、乗り込んだ
だが、先を争った僕と桜井は、くずれかけた階段とともに下へ落ち
円盤はもう去ってしまい、意識が遠のいた
「2人ともコントロール線を浴びたらしいわね」
女の声がして、気づくと幾人かに取り囲まれ、地下に連れられ、針のようなものを刺された
目が覚めると、普通の白衣ではない生地を着た人々に囲まれている
「説明しなさい なぜあんなところにいた? あの航空機はどうしたの?
あなたは人間だし、私たちの仕事に協力する義務があります」
事情を話すと、いかにも頭のよさそうな男クニオが言った
「タイムポケットだ この男たちは1960年代から来たのだ」
女性の第二行動隊責任者イワセ「ここは1999年よ」
クニオ
「君が見たのは、バーナード星系に住む宇宙人の円盤だ
あれは、人間の脳に働きかけて奴隷にするコントロール線を出している
地球の人々は、ほとんどがバーナードの奴隷になっているんだ」
初老の男が言った
「君の仲間といっしょに映画を観てほしい 宇宙人らを攻撃する前には必ずそうするんだ
わしは医者でね こうした闘志のかきたて方には賛成しかねるが わしはリーダーじゃない」
室内には100人近くがイスに座り、スクリーンを見つめている
「これが、つい7ヶ月前の東京です」
何百というビル、天候制御、原子力発電所、食料合成工場群・・・
そこに何十という黒い点が現れた
奴隷にされた人々は、窓を割り、壁をめちゃめちゃに壊している
「偶然、地下深くで仕事をしていた者以外は、みんな奴隷にされたのです!」
流れている音楽はもう耐えられないほど低い不気味な音になっている
「殺せ! 殺せ!」部屋の人々は声を合わせて叫んでいる
巨大ドームから、怪物が出てきた 大きな飛び出した目、べろんとした大きな口
僕は吐きそうだったが、バーナード人に強い憎しみを感じていた
(映像と音で操作してるんだな プロパガンダ映画といっしょだ
「我々は今夜、一番近くにあるバーナード人居住区を襲撃する!」
医師
「やつらの居住区は、東京、横浜などのほか、世界各地に散らばっている
世界各地には、我々と同じような団体はあるだろうが、連絡手段がないんだ」
2人は会議室で、なぜこの時代に来たか説明される
透明な壁の向こうは工場があり、先のとがった帽子のようなものなどがズラリと並んでいる
クニオ
「いっさいの責任は我々にある 我々はバーナード人に対抗できるような技術を研究していた
やつらのやっているのは重力コントロール方式なんだ 地球の引力をさえぎれば
飛行機は他の天体の引力によって浮かぶことができる
だが、スイッチの操作を誤って、重力を反対側にかけてしまった結果
実験物の上空に過去の空間ができた
タイムポケットは、君らの時代にもあったかもしれない 戦闘機が突然消えたり
人がいなくなる事件の何割かはそれだ 君たちは帰れるかもしれない」
だが、円盤に捕えられたスチュワーデスらを見殺しにすることはできない
「僕はこれからの攻撃に参加するぞ 仲間を助け出してやる 僕はあの映画を観たんだ」
桜井も同意見だった
2人は工場で造られていたヘルメットを渡される
「これはコントロール線を完全にさえぎることはできない
2分も浴びると頭がやられる 少しでも気づいたら、すぐ岩陰などに飛び込み
ボタンを押せば、強力な麻酔薬で失神し、あとは救助され治療を受けられる」
指揮をとるのはイワセ この時代の人々は、一番能力のある者を選び、男女などにこだわらないらしい
近づくとドームの大きさは異様だった
新しい反重力船が攻めかかるまで待ち、一斉に攻撃する計画
不格好だが、堂々とした飛行機が3台だけ、まっすぐにドームに突っ込んでいく
僕は大声をあげながら、奴隷にされている人々を麻酔銃で撃ちまくった
1人でも多く眠らせ、あとで助け出し、治療をほどこすのだ
うず巻き状の廊下のような所に来ると、20人以上の宇宙人がかたまって立っていた
(バーナード人の家族か?)
彼らにも麻酔弾が効き、床に倒れた
「大勝利だ! 円盤は慌てて別の居住地へ逃げていったぞ!」
ドーム内の人間は、何十万人という数だった
地下運動の人々は、みんな眠らせ、順番に治療を始めた
コントロール線も手に入れ、バーナード人にも有効だと分かった
「我々は、必ず地球を取り戻してみせるよ」
僕は、イワセ、クニオ、医師らが好きになっていたが、僕には自分の世界でやらなければならない仕事がたくさんある
「ねえ、バーナード人にかぎらず、宇宙人が地球を襲うという予言をした人はいなかったんだろうか?」
医師「知らんな だからこそ、簡単に侵略された」
桜井「なぜあんなことを聞いた?」
30年後の未来といえば、僕たちは恐らくまだ生きている
桜井
「分かるぞ 過去に戻ったら、今度の事件を公表するつもりなんだな
30年後の災厄を予言し、被害を最小限に食い止めようというんだな?」
飛行機は再び沈む感覚になり、もとの羽田空港に戻っていた
【手塚治虫解説 内容抜粋メモ】
最近は、主観の世界、内的宇宙を追求したテーマが、「ニューウェーヴSF」として若いマニアの関心を集め
日本陥没のようなパニックや、政治事件などがベストセラーになり、
SF分野は、純文学と大衆文学の中に広く滲み込みつつある
「企業SF」というジャンルの作品もいつくかあるが、その嚆矢は眉村氏だといって差し支えない
もの書きは、自由人で、企業内部の実態などは書けても
人間の喜怒哀楽、人情機微に触れるのは経験者でないと難しい
漫画家ではサトウサンペイ氏や、作家の源氏鶏太氏など
眉村氏は、一時「サラリーマンSF作家」と評されていたことがある
数年間会社員だったことが経歴をユニークにしている
風変わりに見えるのは表向きで、元来リベラリストで、ロマンチストなのだ
「インサイダー文学」をさかんに吹聴し、このムードも次第に薄れ
本来のスタンダードSFを書くようになったのは、
やはりインサイダーからアウトサイダーに転換しつつある彼の姿勢の表れかもしれない
『なぞの転校生』の広一はむしろ狂言回しで、典夫という謎めいた美少年が
スーパーマンぶりを発揮するのは、学園ものとしてよくあるパターンだ
典夫と同じ仲間が大勢登場するあたりは、SFマニアなら『ダンウィッチの怪』
(『呪われた村』として映画化された)と勘ぐる人も多かろう
眉村氏はテレビっ子のためにセリフをうんと増やし、会話劇に近い手法をとっているが
彼がテレビ漫画のシナリオもかなり手がけていることの影響だろう
眉村氏自身、漫画を描いていた時期もあるのだ(驚
学生時代、当時有名な新人養成雑誌『漫画少年』に、本名の村上卓児で投稿しつづけていた
僕もそれを拝見し、手紙のやりとりをした間柄だったが
こいつは大物になるかもという期待を裏切り、雑誌の廃刊と同時に姿を消してしまった
10年後、SF作家として登場した時、よもやかつての少年とは想像もしなかったわけである
同じ関西出身のSF作家の小松左京もかつて漫画を2、3冊描いた
筒井康隆氏は、今も道楽に立派な漫画を描いている
この御三家がいずれも同時期に『SFマガジン』にプロデビューしたことはフシギである