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『地球への遠い道』 眉村卓/著(角川文庫)

■『地球への遠い道』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑 イラスト/谷俊彦(昭和51年初版 昭和56年9版)


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[カバー裏のあらすじ]
暗黒の宇宙を飛び続ける1つの宇宙船があった。
それには100年以上も前、人口爆発に悩む地球を逃れ、アルファ・ケンタウリ星に移民した人々の子孫が乗っていた。
しかし今の彼らは、もはや希望に燃えた開拓者ではなく、異星での生活に敗れて地球へ戻ろうとする人々であった。
だが、長い飛行の末に、太陽系に入ったとたんに彼らは、正体不明の宇宙船につかまってしまった。
そして彼らの前には、冷たい微笑を浮かべ、重力を自由にあやつる美少女が……。
眉村卓の傑作サスペンスSFジュブナイル。他に「さすらいの終幕」を併録。



▼あらすじ(ネタバレ注意

「地球への遠い道」

ナオミ:もうすぐ地球に着くわね どんなところかしら
タダシ:さあ

2人とも地球のことは立体映画でしか見たことがない

タダシ:
僕たちは敗北者だ アルファ・ケンタウリ星系に植民地を築いたけれども
自分たちでやっていけずに地球に逃げて帰るんだ そんな僕たちを温かく迎えてくれると思うか?
きっと責められるんだ あれだけの長い年月、労力、費用をかけた植民地を見捨ててきたんだもの

100名あまりの男女、子どもを乗せた宇宙船はすでに地球を目指して2年間飛び続けている

人口は爆発的に膨張を続け、太陽系内の植民地にも収容しきれず、新世界を求めて、初めての恒星間旅行に出た
地球に似た惑星に基地を作り、開拓し、町を作った

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開拓と、凶暴な大動物に対抗するために、定期的に地球から無人ロケットで資材機器が送られてきた
他の恒星にも植民地が出来、基地ができて70年経った重要な時期に定期便がぱったり途絶えた

大自然から一歩ずつ後退せざるを得ず、ついに他の世界への放棄が始まった
人々はロケットを作り、その頃には減少していた植民者を収容し、それぞれの恒星系へと向かった

タダシらは期待と不安を半々に抱きつつ地球に帰還する道を選んだ
彼らのうち誰も本物の地球を見た者はいない

「全員、パイロット室に集合せよ!」

乗組員ほぼ全員の100人が集まり、大きなスクリーンを見ると、太陽が見える
「我々は太陽系に入ったのだ!」 歓声が上がった

船長は沈痛の面持ちで
「連絡が取れないのだ 冥王星には大規模な基地があるはずなのに
 太陽系内のどこにも電波は届いているはずだが、なんの応答もないのだ! きっと異変が・・・」

それでも、このまま地球に向かおうとした時、少女の声が響いた
「エンジンを止めよ! 今から曳航に行く 黙って我々の指示に従いなさい!」

船長:理由を説明しろ!

少女:あなた方人間に話しても、すぐに理解できるとは思えません

船長:総員、戦闘配置につけ!

しかし、5秒も経たないうちに床が揺れ、矢のような光が飛び出し、
エンジンが停止し、船はコントロール不能になり、無人パトロール船に包囲された

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「地球だけじゃなく太陽系全体が、よその星の生物に征服されたんだ!
 我々はそいつらの奴隷になるんだ」

「そんな目に遭うくらいなら、とことん戦って死んだほうがましだ」

タダシ:待ってください! そんなことをしても・・・

船長:しばらく様子を見るほかない 相手の科学のほうがはるかに上だ

首席パイロット:月に向かっているようです

少女:
あなた方の船は、空気を充満したドームの中にいます
これから、私がそちらへ行きます

ハッチを開くと、光る膜でできた球体の中に、14、5歳くらいの
どきりとするような美しい少女がいた

球体に触った隊員は苦痛の声をあげて倒れた

少女:
私はあなた方の仲間じゃないのよ この船の代表を出しなさい
本部に連れて行き事情を聞き、対処を決定するのです

船長、首席パイロット、そして反抗を止めようとしたタダシが選ばれた
タダシ(なぜ僕だと分かったんだ?)

3人は操り人形のように歩かされた

少女:私たちは、重力を思いのまま操ることも出来るのよ

3人は部屋に着くが、タダシたちの知っているものとはまるで違う
人々は上下左右もなく行き来している

2人の男がいて、黙ってじいっと見つめた
タダシ(まるで人間に観察される下等動物じゃないか)

男:きみの報告通りだ、セネア

セネア(少女):
この人間たちには、それほど危険と思えない面もあります
しばらく観察してみたらどうでしょう

男:
だが、最終処置は、中央委員会が行うことになるよ
その場合、もし全員消去処分の決定が出ても覆すことは出来ない

セネア:
虹の入り江の古い居住区に住ませてみるつもりです

首席パイロットは、これまでの事情を話そうとすると
男:みんなわかっている すぐ引越しの仕度にかかるんだ

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エレベーターと思っていたものは、実体化装置で
物体を瞬間的に分子単位に分解し、離れた地点に復元させるのだと説明するセネア
映画『ザ・フライ』みたい

セネア:
あなた方が切断重力論や超心理学などを知らないのは明らかだわ
入り江に住み、そこでの生活態度によって、処置を決定するのです
私たちに従順でないと判断されたら、全員、原子破壊銃で消されてしまいます

船の人々の憤激は猛烈だったが、とにかく言われたとおりにするほかないと胸に言い聞かせた
謎も解けて、いつか地球に帰れるかもしれないと納得するほかなかった

ここは昔、初めて月面にテストケースとしてつくられた都市で
記念物として保存されていたのを、ロボットを使って、短時間で修復したという
セネアは1日に2、3回前触れもなく来て見回った

観望ドームからは地球が見える

ナオミ:タダシ、あのセネアという人が好きなの?

タダシ:
そんなものじゃない
彼女の能力を見れば、恐れに近いものだ 彼女は人間ではないんだ

ナオミ:
よかった このままだとタダシは仲間はずれにされるところだった
反乱の計画があるの 準備も終わったし、明日の夜、行動に移すわ
でもセネアと親しい船長、首席パイロット、タダシは外されていたの 通報するかもしれないから

タダシ:そんなことしたら、みんな殺されてしまう あの連中の恐ろしさが分かっていないんだ!

観望ドームに十数名の男が来て「お前を監禁する」
ザイルで縛られ、狭い倉庫に入れられると、
船長、首席パイロットほか20名ほどの反対者がいた

遠くで叫び声があがった 武器を手に、宇宙服を着て、ロケットのある格納庫へ向かい
修理して地球に出発する計画だ

倉庫にセネアが来てザイルに棒で触れると溶けた
セネア:辛かったでしょう?
セネアがこんなに人間的な言葉を言ったのは初めてだった

セネアはテレビを見せて説明した
「今日、反乱があることは分かっていました 未然に防ぐのは簡単です」

人々の行く手に、人間ほどの大きさの機械が次々と現れ
光条が頭上を覆うと、巨大な半球ができて、人々はその中に閉じ込められた

セネア:これで、あの人たちも反省するでしょう

この前、奇妙な部屋にいた男が来た

「テレパシーを使わず、音波で話し合おう
 わざわざ遠い道を帰ってきたんだから、たしかに気の毒だが
 この連中は滅ぼさねばならないのが原則ではないか
 どのみち地球に戻っても、人間は完全に滅んでいるんだ」

セネア:
あなた方のように太陽系以外に植民した子孫は生き残っているでしょうけど、
この太陽系にもう人間はいないわ

男:
セネアはルールを破り、市民権をなくすかもしれない
それだけの価値がこの連中にあるのか?
かつて、我々を滅ぼそうとしたやつらの同族なんだよ

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突然、一人がわめいた 「なにかこっちに近づいてくるぞ!」
ドームに捕えられた人々も死に物狂いで逃げてくる
その後ろに山のように光る巨大な機械がかなりのスピードで接近してくる

首席パイロット:あれは物体を原子に分解してしまう武器だ!

船長:
今は真相とかはどうでもいい こうなった以上、自衛のために抵抗するまでだ
倉庫にレーザー発生装置がある あれを引き出せ!

球体の化け物に小型ロケットを突っ込ませると、穴が開き、
そこにレーザー光線を浴びせると四散した

「やったぞ!」

しかし、今と同じで巨大な機械がまた正確に進んでくる

船長:
全員、宇宙服をつけてこの居住区から逃げるんだ このままいて消されることはない!

そこに白い光点が現れた セネアが自分の武器で機械を破壊した

「あなたたちはすぐ宇宙服をつけて、ここを出るのよ!
 私はあなたを助けるために、仲間のミュータントを裏切ったの」

みんなは宇宙服で月面に出て、怪物と反対の方向に逃げた

タダシ
(もう太陽系にも人間は一人もいないのだ
 すると、自分たちはなんのためにこれほど必死で逃げているのだろう)

全員が天を仰ぐと、六角形の飛行体が視野いっぱいに浮かんでいた

「我々はミュータント 人間から生まれた超人類だ
 人間たちは、我々を怖れ、絶滅させようと人間狩りをはじめた

 私たちは対決を避けて共存しようと月に逃げ
 我々だけの世界をつくり、平和に暮らそうとしたが
 利己的で、好戦的な人間はなおも攻撃し、我々を皆殺しにしようとした

 やむを得ず防衛し、人間の遺伝子に入り込み、遺伝の作用を果たせなくなるウイルスを
 ロケットに仕込み地球に打ち込んだ

 人間たちは子どもを産むことはもちろん、生きる力も失った
 定期航路から太陽系内の植民地に広がり、人間は滅んだ

 残ったのは、おまえたちのような遠い星にいた連中だけだ
 しかし、おまえたちも我々に攻撃し、復讐するだろう
 そうした帰還船は消すことにしている」

セネア:違います! この人たちは私たちと同じ平和を愛する・・・

男:黙れ! まず、裏切った君から消えてもらう

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タダシは、反射的にセネアの球に飛びついた
「この人は、僕たちと一緒に消される必要はない やめてください!」

船長、首席パイロットも叫んだ
「この少女は、あんたたちの一員だ 我々への憎悪のあまり、仲間まで消すことはない!」

息詰まるほど長い時間のはてに、胸を打たれたようなつぶやきが返ってきた

「君たちには、明らかに高等生物としてのこころがある
 君たちは、滅んだ人々と同じことはしないだろう いや、できないだろう
 今、決定が下された 君たちは地球へ戻ることを許されたよ」

ロケットは原子力エンジンをつけかえられた(まだ原子力に頼っているのか・・・

男:
我々は定期的に無人の地球を調べて記録している
かつての文明は廃墟になり、ジャングルにはさまざまな猛獣が横行している

君たちは、遠い昔、人類が独り立ちしたことと同じことをやらなければなるまい
とにかく、健康な文明をつくりあげてもらいたい
その時、我々は敬意をもって再び接触するだろう

セネア:
私は主張が認められて、罰は免れたの
それにはあなたに事実を言う条件がついていたわ

私はあなたに好意を抱いている いえ、いたわ
でも、それは対等の愛情ではなく、人間が飼っている犬に対するようなものだったと言うようにと・・・

うそだ!とタダシは思った

セネア:やめて では、さようなら

船長:
セネアにそんなことを言わせたミュータントの誇りに意外に弱点があるかもしれんな
たしかに彼らは超人類だが、それに寄りかかっている間は、
我々にも対等、それ以上のものを生み出せるかもしれない

スクリーンいっぱいに地球の姿が映っていた
水色の月面とは比較にならない美しい眺めだ

ナオミ:終わるのね 私たちの長い長い旅

タダシ:そして、すべてが、また始まるんだな


(これだけ科学が進めば、憎しみすら超えた存在なはずだ
 人間狩りをされた悲劇があっても、ウイルスでの大量虐殺には違いない
 異性人じゃなくて、ヒトから派生したミュータントなら
 憎しみを憎しみで仕返しするのも性か



「さすらいの終幕」

(最初の“ふしぎな老人”てサブタイトルが少年探偵団ぽくてもうドキドキする

佐竹隆は、中1の終わりに今の家に移ってから、中学まで電車で通わなければならなくなった

早朝の人気のない国道を1人の老人がよたよた走ってきて、
2台の黒いオートバイにひっかけられて路上に放り出された

「大丈夫ですか?」と助けると、老人は妙な言葉遣いで警察への通報はやめてくれという
着ている服も奇妙だ


半年ほど前に転校してきた同じB組の橘英子は、ほとんど毎日遅刻してくる
タカシを見ると「珍しいわね」と今まで見たことのない微笑にドキっとする

ガリ勉タイプのクラス委員長の津川晴信と、柔道部で活躍している副委員長のタカシは真逆のタイプでいつも対立している
ホームルームで津川は「最近、遅刻する人が多いようなのでみんなで話し合おう」と言い出す

津川と仲の良いガリ勉の女子生徒は

「遅刻するのは、その人がだらしないからだと思います
 これからは遅刻するたびに理由書を出すといいと思います」

エイコ:
止めて! 人には言えない事情があるかもしれないじゃないですか
どうしてみんなそんな言い方をするの・・・ なぜどこへ行っても・・・

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すすり泣くエイコにみんなはがやがやし出した

タカシはエイコにも謝らせて、なんとかその場を押しきった

電車を降りて、国道に沿って歩いていると、またあの奇妙な老人に会った

「あなたは、今朝、私を助けてくれた少年 どうか、私をあなたがたの家へ連れて行ってください
 私は追われているけれども、この世界でしなければならないことがありますので・・・」

そこにまたオートバイが来て「助けて」としがみつく老人
やはり奇妙な服を着た男は「君には関係ないことだ その老人を引き渡したまえ」

タカシはなかば本能的に迫ってきた男を柔道の技で見事に跳ね飛ばす
男は銃身の細いピストルのような武器を出そうとしているのが見え、タカシは老人を連れて逃げた
老人の笑顔はエイコにそっくりでぎくりとする

家に帰り、父母に事情を話したが、急に見知らぬ老人を泊めるわけにもいかず、
とりあえずあがってもらおうということになった

「こんな好意的な待遇を得ることができて・・・
 私は孤独を終わらせようとさすらい、合法的に高効率の労働契約が結べず、
 餓死の恐怖に脅えてきました」

老人は泣いていた

母が焼いたサンマを出すと、老人は後退して震えた

老人:
サカナです! 
この世界ではサカナが常食という事実は記憶していました
でも・・・目の前に出てくると・・・大丈夫です もう順応しました

老人はゴハンを手づかみで口の中に突っ込みはじめた

老人:
この48時間、食事をし得なかったので助かりましたです
私は仕事をしに出かけます 時間が貴重なのです

父は呼びとめようとしたが、老人は行ってしまった


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エイコはこないだの一件以来、タカシになにかというと接近してきて
案の定、クラスメートに冷やかされた

とくに津川らは、運動部のレギュラーで、成績も上位のタカシは癇に障る存在だ

まだ始業ベルが鳴らないうちに担任の太田先生が入って来た

太田:エイコさん、職員室に君を訪ねて家族の方が来ている すぐに行きなさい

エイコ:
いやです! 私と母を追い回している人です
私たち、その人につかまりたくなくて逃げ回ってきたんです
母がけして会っちゃいけないと・・・

その時、老人が教室に入ってきた 「エイコ!」

老人:
あなたが教育単位の責任者ですね 私にエイコを連れ出す許可を与えてください

太田:
とにかく今は教室から出て、保護者と一緒にでも来ていただけませんか?

老人:
ダメです! 私は再び捕えられ、拘束されます

老人の目に涙があふれだした

老人:
やっと時間の中を旅行して来たというというのに・・・
あれは私の娘です この世界に取り残された妻と娘をやっと発見したのです
時間旅行は、時空連続体の内在エネルギーを蓄積することで可能です

私はタイムマシンに乗り、この20Cを見にやって来ました
ところが、事故を起こし、家族は行方不明になり、タイム・パトロールに捕えられて
もとの時代へ強制的に連れ戻され、長い間ひとりで暮らし、ついにマシンを盗んで家族を探しに・・・

そこにあの男2人組が入ってきた

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タカシを見て「君はもう邪魔をしないでくれ」と言い、武器を向けた
鈍い発射音とともに、胸に注射針のようなものが刺さり、意識を失った
麻酔弾かなにかに違いなかった

気づくと、老人と男は行ってしまったという
あの男たちは老人の言うタイム・パトロールではないのか

エイコは勉強道具を片付け、慌しく早退して行き、その後学校に来なくなった


1週間後、タカシは意外にも津川から声をかけられた

津川:
太田先生は、無届け欠席しているエイコの家に行ったが、なにも喋らなかったらしい
僕は老人の話したことに関する本をいろいろ読んでみた
ひょっとすると本当のことを喋っているのではと考えてみたんだ
エイコは、また転校する

タカシは津川に老人との出会いから話した

津川:
エイコの家に一緒に行こう
この問題はまだ尾をひきそうな感じがする


エイコの家に近づくと、向こうからエイコと母が来るのが見えた
いつのまにか微光を放つ高さ3mほどの円筒形の機械が立っていた

例の男が武器で示して「あれに乗りたまえ」

津川:タイムマシンだ!

男:君はあまりに知りすぎた 君の記憶を消さなければならない

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エイコが叫ぶと、もうそこには何も残っていなかった

エイコ:お母さんは知っているのね 言ってよ! どうして私たちこんな目に遭っているのか

そこに老人がいた しかし、その顔は1週間前よりずっと老けこんでいた

老人:
私には、もはやお前たちと帰還する意思はない
今度捕えられれば生涯が閉じるまで拘束される
もう一度だけ対面の機会を得たかったのです

エイコの母:
この人は、あなたのお父さんなのよ
お父さんは私たちをこんな住みにくい世界に置き去りにして帰ってしまったの

老人:
そうではない お前たちが離れている時に、時間航行法違反で捕えられてしまった

母:
たとえそうでも、私たちはもう27Cには戻れない人間になってしまった
このことをエイコには知られたくなかった

老人:
私はお前たちにお別れを述べに脱走してきたのだ


タチハナ・シンと名乗る老人の話した物語は、想像をはるかに越えていた

タチハナは“反省室”という牢に入れられていた
監視ロボットが行き交い、牢内での時間の進むスピードは外より200倍早いため、
何の刺激もない生活を続けているうちに髪は白くなり、皺も深くなる

重力緩和ベッドで眠ると、いつもの夢を見る

夫婦と産まれたばかりのエイコとともにタイムマシンで
ギリシャ文明を見物した帰りに機器の調子が悪くなった

母:
ここはたしか、やたらに原水爆実験が行われている20Cよ
航行禁止時域じゃなかったの?

タチハナが修理中に、母子は見物に降りて、そこにパトロール員が来た
原子破壊銃でマシンを消して、母子を置いて、タチハナだけをもとの世界に連れ戻した

人工裁判機:
1年間の時間航行の権利停止
妻子は調査している あの時代は、我々にもほとんど分かっていないのだ

歳をとりながら反抗をやめず、心理調査機の判断はマイナスで、さらに長い時間「解放不能」

男:君は社会に適応できていない

老いたタチハナは、きっと妻子を救いだしてやるぞと脱走した
しかし妻子は自分を恨んで逃げていて、鬼ごっことなり、また反省室に戻される
絶望の30年間だった

たとえ歴史が変わろうと構わない 時間よ飛び去れ!
タチハナは再び妻子に会うためマシンに乗った


最初に老人を轢こうとしたパトロール員が来た
「君たちは彼に同情しているようだが、それは感情論だ それでは何も解決しない」

津川がだしぬけに言い返した

「あなた方は自分で知性のかたまりと信じているが、僕に言わせれば矛盾だらけだ
 1つはこの老人1人で、社会全体の方向が簡単に変わりゃしない

 なぜ、君たちは、その前の時点で脱走を防ごうとしない?
 君たちは自分たちの失策を誤魔化そうとしてるんだ

 妻子を20Cに残して、気づいたら訂正できなくなり、口封じのために老人を追い回しているんだ
 つまり、君たちの上に、もっと上級のパトロールがあって、君たちの行動を監視しているんだ」

男:君の記憶と、野蛮な戦闘力も奪ってやる

その時、あたりが真昼のように明るくなった
周りの風景がなくなっている

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頭の中で異様な音が鳴りはじめた
それが消えると、テレパシーらしいとても爽やかな音が聞こえた

(我々はすでに検討し、結論を出している
 お前たち最下級パトロール員の失策による過去の歪みは、5、60年で自動的に修正されるが
 パトロール員でありながら過去を歪めた罪は大きい)

パトロール員はぱったり地に倒れた

(タチハナ・シンはこのまま20Cに留める)

津川が問うと

(我々はせいぜい500万年の時域をパトロールする存在だ
 我々の上にまだ組織があり、その上の組織もある
 最高級パトロールは宇宙全域にわたり、我々にもよく分からない

 我々には肉体はなく、精神的存在だ
 タイムマシンもない 時間を切り取り、動かすだけだ 今の時間は停止させている)

声が途切れ、風景が歪み、消えてしまった

老人:すべては終わったのだ!


学校で、太田先生がタカシと津川を呼んだ
教師らも事情を聞いたが、あまりに奇怪で信じきれない様子だった

エイコの母:私たち、やはり一緒に暮らすことにしました

エイコ:
きっとみんな相手にしてくれないわ 私たちの知らない学校へでも行って・・・

タカシ:ばか! どうして逃げたがるんだ

津川:そうだ 君は自分を自分で差別していたんだ 強くなるんだよ


とにかく、彼らにはもう一度新しいスタートが用意されたのだ




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