■『カリーナのりんご チェルノブイリの森』(子どもの未来社)
今関あきよし/原作 堀切リエ/文
とてもストーリー性のあるドキュメンタリーだと思いながら読んでいたら、巻末についてた冊子をみて、
もとは2003年に撮った映画(公開は2011年)の絵本化だと分かって納得。
映画オフィ
▼trailer
▼story(ネタバレ注意
“カリーナ”は大好きなおばあちゃんがつけてくれた呼び名で、とても丈夫で、食べると元気が出る木の名前と同じ。
夏休みには、ホイニキにあるおばあちゃんの家に遊びに来るのが大好き。
庭にはリンゴの木がなっていて、ニワトリ小屋で卵を2つもらって、井戸の水を汲む。「さあ、朝ごはんのしたくができた!」
湖沿いには、よく遊んだユーリャの家があるけど、みんな遠くの町に引っ越してしまった。
他の友だちも同じ。だから、村には子どもがいないの。
村の教会で、私はキレイな石を拾って、神さまの代わりにお守りにした。
夏休みはもう終わり。叔父さんがクルマで向かえにきた。
今住んでいるアーニャ叔母さんの家は、高いビルのあるミンクス。
叔父と叔母はケンカしていて、夕ご飯の時、みんな黙っていた。
おばあちゃんがお土産にくれた庭のリンゴとキノコは、ゴミ箱につっこんであった。
叔母さんは、ホイニキのものは食べないと決めているみたい。
とっても美味しいのに・・・神さまなら、分かってくれるよね?
学校には行きたくない。ここでは「ホイニキから来た」と言うと、遠ざかっていく子がいるの。
血液のがんになって入院しているお母さんに会いに行った。
入院費がかかるから、お父さんは、遠いモスクワへ働きに行っている。
冬、おばあちゃんが病気になったと聞いて、急いで駆けつけた。
私は、カリーナの実の瓶詰めをおばあちゃんに渡した。
おばあちゃんは、少しずつ元気になっていった。
「ずっと、ここにいられたらいいのに」と言うと、おばあちゃんは答えなかった。
春に家の前で撮った写真
叔父さんがやって来て「お母さんの病気が悪くなった。すぐに帰ろう」
ずっと前に「なぜ、お母さんは病気になったの?」と聞いたことがある。
お母さんは、少し考えてから
「ホイニキからちょっと離れた所にチェルノブイリという所があってね。
その森に、悪い魔法使いのお城があって、毒をまきちらしているのよ。
おばあちゃんの家は、毒でひどく汚れた村の隣りなの。だから長くいないほうがいいのよ」
「そんなことないよ! ホイニキは、空も木も草も湖もキレイだし、リンゴも、キノコも、美味しいもの!」
お父さんは、こう話していた。
「チェルノブイリにある原子力発電所が、爆発事故を起こしたんだ。
黒い煙がもうもうと出て、14日間燃え続け、放射性物質という、とても危険なものをたくさん噴き上げた。
それが、風にのって、ホイニキにも飛んできたんだ。
それは、目には見えないし、臭いもしないから、雨と一緒に土の中にもしみこんで、今も危険な放射線を出し続けている」
夜、咳が止まらなくなって、喉が痛くなった。
たくさんの検査をして、喉の手術をすることになった。
先生に話を聞いた後、おばあちゃんは泣いていた。泣いちゃだめだよ、おばあちゃん。
隣りのベッドのターニャちゃんは、ずっと入院してるんだって。
「薬のせいで、髪の毛が抜けてしまったの」
お母さんと同じ、血液のがんなんだって。
私のは、喉にある甲状腺のがん。
お医者さんは、「これから毎日、薬を飲んでいれば大丈夫」と言った。ほんとうかしら?
隣りの部屋のマーシャちゃんが、昨日、亡くなった。
私は、その夜、考えた。
「なぜ、神さまは助けてくれないの? もし、何もしてくれないのだったら・・・わたしがやらなくちゃ!」
私はバスに乗って、終点まで行った。
私はずっと歩いて行くんだ。
この先に、悪い魔法使いのいる森があるから、魔法使いに会って頼むんだ。
「病気になって苦しんでいる人がたくさんいる。
自分の家に住めなくなって、悲しんでいる人がたくさんいる。
家族がバラバラになって、寂しい思いをしている人がたくさんいる。
だから、おねがい。もう、毒をまきちらすのはやめて!」て。
もし、私が神さまだったら、毒をすっかり消して、空も、海も、川も、湖も、村中きれいにしてあげるのに。
それから病気になった人たちを治してあげて、よく頑張ったね、って褒めてあげたい。
みんなの笑顔を取り戻したい
私はカリーナ。カリーナの木のように、つよい子だもの。
***************************************
ベラルーシだけでなく、ウクライナ、ロシア、そして、日本にもカリーナがいます。
堀切リエ
群読の会「すいれん」メンバー。映画の試写会を観て、絵本化を企画した。
[今関あきよしさんのメッセージ]
現在も、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの病院には、がんに冒された子どもたちが運びこまれています。
事故後、北へ吹く風に乗って、隣国の大地が激しく汚染されたのです。
ベラルーシの小児血液学センターに取材に行き、甲状腺がんや血液のがん(白血病)で苦しむ子どもたちにたくさん会いました。
10歳くらいの少女は、目をそむけてしまうくらいの奇病で、顔が変形していました。
2度目に取材に行った時、その少女はすでに亡くなっていました。
抗がん剤の影響で髪の毛が抜けている子も多く、付き添う母親は皆決まって
「髪があった時は、こんなに可愛かったのよ」と写真を見せてくれます。
医師から「患者の子どもの前では、絶対に泣かないでください」と注意を受けていたので、正直辛かったです。
取材はたくさんしましたが、カリーナの話は実話ではありません。
1人の少女の視点から、原発事故の恐ろしさを描きたいと思ったのです。
チェルノブイリ原発事故から25年たち、映画の公開準備をしている時に、東日本大震災が起きました。
今では、福島が重なって見える状況になってしまったのです。
映画の公開には反響が多く驚きました。
千葉で3人のお子さんを育てている20代のお母さんは、
「上映後、今まで溜めてきた辛い気持ちがあふれて、たくさん泣いてしまいました」と長い感想を送ってくれました。
なにかに「すがる思い」で観に来てくださる方々が多い気がするのです。
今、わたしにできることはなにか。
それをこれからもずっと考え続けていきたいと思います。
今関あきよし/原作 堀切リエ/文
とてもストーリー性のあるドキュメンタリーだと思いながら読んでいたら、巻末についてた冊子をみて、
もとは2003年に撮った映画(公開は2011年)の絵本化だと分かって納得。
映画オフィ
▼trailer
▼story(ネタバレ注意
“カリーナ”は大好きなおばあちゃんがつけてくれた呼び名で、とても丈夫で、食べると元気が出る木の名前と同じ。
夏休みには、ホイニキにあるおばあちゃんの家に遊びに来るのが大好き。
庭にはリンゴの木がなっていて、ニワトリ小屋で卵を2つもらって、井戸の水を汲む。「さあ、朝ごはんのしたくができた!」
湖沿いには、よく遊んだユーリャの家があるけど、みんな遠くの町に引っ越してしまった。
他の友だちも同じ。だから、村には子どもがいないの。
村の教会で、私はキレイな石を拾って、神さまの代わりにお守りにした。
夏休みはもう終わり。叔父さんがクルマで向かえにきた。
今住んでいるアーニャ叔母さんの家は、高いビルのあるミンクス。
叔父と叔母はケンカしていて、夕ご飯の時、みんな黙っていた。
おばあちゃんがお土産にくれた庭のリンゴとキノコは、ゴミ箱につっこんであった。
叔母さんは、ホイニキのものは食べないと決めているみたい。
とっても美味しいのに・・・神さまなら、分かってくれるよね?
学校には行きたくない。ここでは「ホイニキから来た」と言うと、遠ざかっていく子がいるの。
血液のがんになって入院しているお母さんに会いに行った。
入院費がかかるから、お父さんは、遠いモスクワへ働きに行っている。
冬、おばあちゃんが病気になったと聞いて、急いで駆けつけた。
私は、カリーナの実の瓶詰めをおばあちゃんに渡した。
おばあちゃんは、少しずつ元気になっていった。
「ずっと、ここにいられたらいいのに」と言うと、おばあちゃんは答えなかった。
春に家の前で撮った写真
叔父さんがやって来て「お母さんの病気が悪くなった。すぐに帰ろう」
ずっと前に「なぜ、お母さんは病気になったの?」と聞いたことがある。
お母さんは、少し考えてから
「ホイニキからちょっと離れた所にチェルノブイリという所があってね。
その森に、悪い魔法使いのお城があって、毒をまきちらしているのよ。
おばあちゃんの家は、毒でひどく汚れた村の隣りなの。だから長くいないほうがいいのよ」
「そんなことないよ! ホイニキは、空も木も草も湖もキレイだし、リンゴも、キノコも、美味しいもの!」
お父さんは、こう話していた。
「チェルノブイリにある原子力発電所が、爆発事故を起こしたんだ。
黒い煙がもうもうと出て、14日間燃え続け、放射性物質という、とても危険なものをたくさん噴き上げた。
それが、風にのって、ホイニキにも飛んできたんだ。
それは、目には見えないし、臭いもしないから、雨と一緒に土の中にもしみこんで、今も危険な放射線を出し続けている」
夜、咳が止まらなくなって、喉が痛くなった。
たくさんの検査をして、喉の手術をすることになった。
先生に話を聞いた後、おばあちゃんは泣いていた。泣いちゃだめだよ、おばあちゃん。
隣りのベッドのターニャちゃんは、ずっと入院してるんだって。
「薬のせいで、髪の毛が抜けてしまったの」
お母さんと同じ、血液のがんなんだって。
私のは、喉にある甲状腺のがん。
お医者さんは、「これから毎日、薬を飲んでいれば大丈夫」と言った。ほんとうかしら?
隣りの部屋のマーシャちゃんが、昨日、亡くなった。
私は、その夜、考えた。
「なぜ、神さまは助けてくれないの? もし、何もしてくれないのだったら・・・わたしがやらなくちゃ!」
私はバスに乗って、終点まで行った。
私はずっと歩いて行くんだ。
この先に、悪い魔法使いのいる森があるから、魔法使いに会って頼むんだ。
「病気になって苦しんでいる人がたくさんいる。
自分の家に住めなくなって、悲しんでいる人がたくさんいる。
家族がバラバラになって、寂しい思いをしている人がたくさんいる。
だから、おねがい。もう、毒をまきちらすのはやめて!」て。
もし、私が神さまだったら、毒をすっかり消して、空も、海も、川も、湖も、村中きれいにしてあげるのに。
それから病気になった人たちを治してあげて、よく頑張ったね、って褒めてあげたい。
みんなの笑顔を取り戻したい
私はカリーナ。カリーナの木のように、つよい子だもの。
***************************************
ベラルーシだけでなく、ウクライナ、ロシア、そして、日本にもカリーナがいます。
堀切リエ
群読の会「すいれん」メンバー。映画の試写会を観て、絵本化を企画した。
[今関あきよしさんのメッセージ]
現在も、ウクライナ、ベラルーシ、ロシアの病院には、がんに冒された子どもたちが運びこまれています。
事故後、北へ吹く風に乗って、隣国の大地が激しく汚染されたのです。
ベラルーシの小児血液学センターに取材に行き、甲状腺がんや血液のがん(白血病)で苦しむ子どもたちにたくさん会いました。
10歳くらいの少女は、目をそむけてしまうくらいの奇病で、顔が変形していました。
2度目に取材に行った時、その少女はすでに亡くなっていました。
抗がん剤の影響で髪の毛が抜けている子も多く、付き添う母親は皆決まって
「髪があった時は、こんなに可愛かったのよ」と写真を見せてくれます。
医師から「患者の子どもの前では、絶対に泣かないでください」と注意を受けていたので、正直辛かったです。
取材はたくさんしましたが、カリーナの話は実話ではありません。
1人の少女の視点から、原発事故の恐ろしさを描きたいと思ったのです。
チェルノブイリ原発事故から25年たち、映画の公開準備をしている時に、東日本大震災が起きました。
今では、福島が重なって見える状況になってしまったのです。
映画の公開には反響が多く驚きました。
千葉で3人のお子さんを育てている20代のお母さんは、
「上映後、今まで溜めてきた辛い気持ちがあふれて、たくさん泣いてしまいました」と長い感想を送ってくれました。
なにかに「すがる思い」で観に来てくださる方々が多い気がするのです。
今、わたしにできることはなにか。
それをこれからもずっと考え続けていきたいと思います。