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名著複刻日本児童文学館 第1集 『一房の葡萄』(ほるぷ出版)

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■名著複刻日本児童文学館 第1集 『一房の葡萄』(ほるぷ出版)
有島武郎/著

図書館巡りで見つけた1冊。
ネットで探すと、この名著複刻シリーズはなかなかヒットしないところを見ると、
こうゆう名前の新刊じゃないのかな? いまいち経緯が分からない。
かといって、ほんとに「大正十一年発行」には見えないほど、
装丁デザインは当時のままで、本自体も損傷ないし。

有島武郎さんと言えば、長男は私の大好きな森雅之さん。
写真によっては、やはり父子とっても似てる!

一房の葡萄


【あらすじ】
横浜の外国人居留区の学校に通っている絵がうまい少年は、
同じクラスメイトのジムが持っている12色の絵の具がうらやましくて仕方ない。
あの絵の具さえあれば、海を見たまま描けるのになあ。
思いつめるうちに、夢遊病にかかったように、ある時、彼の机から絵の具の藍と洋紅の2色を盗んでしまうが、
すぐにバレてしまい、大好きな女教師のもとに連れていかれる・・・


もしかしたら、その昔、国語の授業とかで取り上げたかもしれないなあ(忘れたけど
この平易で、日常を切り取った短い物語で、読者を感動させ、泣かせ、じっくり考えさせるってやっぱりスゴイ。
それに昔の大人対子ども、教師対生徒、人対人同士には、誠意や互いを尊敬する気持ちがあった。

ところで、ジムはなぜ翌日、少年に謝らせようとせずに、逆に友情の手をさしのべたのか?
女教師は「よく分かってくれましたね」的なことを言っているけれども、
「明日、少年が来たら許してあげなさい」みたいなことは一切言わなかったはず。
ただ双方から事実を聞いて、そのまま帰しただけ。

子どもの中にもともとある“過ちを許す優しさ”を信じたんだ。
そうゆう時代だったとも言える。
いろいろ豊かになって、便利になって、結果荒んでしまった現代の子どもたちには難しいかもしれない。
一晩で解決してしまったこの話は奇跡のよう。

それでも信じるということは、教師にも勇気がいる。
2人の少年のそれぞれの一晩の内観が、
それぞれの心をもとの正直で真っ直ぐなものに変換した。

絵の具に象徴される貧富の差、ひと房の葡萄に象徴される、人がもともと持っている良心が
見事に対照的に描き出されている。
また旧漢字や旧仮名づかいがステキすぎ

旧仮名づかい
教場=教室のことかな
ポツケツト
迚も=とても
マーブル球=ビー球
取りかへしのつかない
階子段=はしごだん
委しく=くわしく
吃度=きっと


溺れかけた兄妹


土用波

【あらすじ】
兄妹と友人Mは大人の言うことを聞かずに3人だけで海に行く。
最初は波打ち際でちゃぷちゃぷと遊んでいたが、夢中になるうちに新しい遊びを思いついて、
気づいたら胸のあたりまでの深さに来ていて、波がくれば脚が浮くようになっていた。
そこに大きな波が来るのが見えて、心臓がドキンとする。

3人は大波をやりすごして、泳げばすぐ岸に戻れると思ったが、3人とも10代の上、泳ぎも覚えたばかり。
Mは最初に岸にたどり着くが、兄は遅れ、妹がどんどん沖に流されてゆくのを見ながらも
助けに行けば、2人とも流されて死んでしまうから、
いったん岸に着いたら、大人を呼んでこようとする。
Mが青年を呼んできて、妹と青年は命からがら助かる。

こないだ「あさイチ」でも波でどんどん沖に流されてしまう現象をやっていて、
そうゆう時はいったん平行に横移動してから直線に岸まで泳ぐと引き潮に流されないと言っていた。
今作がまさにそう。土用波って怖いんだなあ!
子どもならとくに気をつけなきゃ。子どもだけで海に行くのはいけないな

兄妹、M、青年のココロに深いトラウマが残ったのも事実。
兄妹の信頼関係、兄の自責の念もとれないしこりとなった。
どんどん知らぬまに逃げられない状況になってゆく様子が息もつけない描写と文章のテンポで
読んでいるほうまで息苦しくなってくる凄みがある。
どういうわけか、友人Mはその後、人に殺されて運命なのもフシギ。

旧仮名づかい
而(そ)して
めんかき(平泳ぎのことかなあ???
横のし泳ぎ
曲泳ぎ
如何(どう)しても


碁石を呑んだ八っちゃん

今度は3歳の弟・八っちゃんが碁石を飲んじゃった話。
子どもって一瞬たりとも目が離せないなあ!
さっきまで機嫌よく遊んでいても、口に入るものならなんでも食べてしまって死の恐怖に陥ってしまう
これで万一死んじゃったりしたら、兄も母も婆やも自分を責めて一生悔やむだろう。

家族でも丁寧な言葉で話しているのが気持ちいい。
今みたく母親が子どもに「うるせえ黙れ、バカ」なんて言ったりしないんだ
婆やが八っちゃんにお乳を飲ませるって、婆やっていくつ

旧仮名づかい
入用(いら)ない
先刻(さっき)
夫(それ)
だまかし船


僕の帽子のお話

僕のお気に入りは、父が東京で2円80銭で買ってきてくれた帽子。
寝ている時も握って離さないため、からかわれるがお構いなし。
でも、ある夜、手に帽子を握ってないことに気づいて焦る。

“手の平と手の甲と、指の間とをよく調べても見ました”
“僕は「泣いたって駄目だよ」と涙を叱りつけながら・・・”
家の中を探すと、帽子が勝手に外に飛び出して行くではないか。

学校まで着いて、中では先生が「1銭銅貨を何枚呑むとお腹の痛みがなほりますか」と聞いている(
とうとう帽子は月みたいにぶら下がって手が届かない
僕は、狸に騙されているのではないかと疑う。
“東京の店が狸の巣で、おとうさんがばかされていたんだ”

母は僕を探して“箪笥の引出しを一生懸命に尋ねていらつしやるし、
おとうさんは涙で曇る眼鏡を拭きながら、本棚の本を片端から取り出して見ていらつしやいます。
「どうもあれがこの本の中にいない筈はないのだがな」”

僕は父母に話しかけるが通じないばかりか、抱きつこうとすると通り抜けてしまう。
“もう帽子に化けている狸おやぢを征伐する外はない”と
「レデー・オン・ゼ・マーク・・・ゲツセツト・・・ゴー」と跳ね上がると空の帽子に届いた。

お気づきのとおり、これは夢の話。
夢ってほんとにおかしなことがたくさん起こるのに、おかしいとも思わないのが面白いよねw

旧仮名づかい
中の口
をばさん
神鳴り=雷!
びつくらして


装丁及び挿絵も有島さんなんだ/驚
それに、ほるぷ出版刊が昭和49年9月って書いてあるのを発見。
てことは復刻シリーズを出したのも随分前ということだ。
今まで見たことがなかったけど、最近特別に集めて蔵書として出したってことか???


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