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『デッド・ゾーン(上下巻)』 スティーヴン・キング著

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『デッド・ゾーン(上下巻)』 スティーヴン・キング著

 


映画

(以下は、当時の感想メモです


1990年1月1日。とうとう下巻を読み終えた。

いい本っていうのは、読み終えると、まるで自分の人生までが半世紀も過ぎた気にさせられるものだね、キングさん。
でも、私は批評したいために、この日記を書いてるんじゃない。

だって、私はすっかりジョニーのいい友だちか、親友の気になって、
郵便受けに彼からの私信が届くかもしれないと信じきっちゃってるんだもの。

この週末にでも墓場まで行けば、ジョン・スミスと刻まれた墓石が実際建ってるって信じちゃってるんだもの。

一生に一度、こんなエキサイティングな本を読まない手はない。
上下巻を神棚にでも祀り上げたい気分だ。

映画化したのは大正解だったと思う。
クリストファー・ウォーケンがこの台本を受け取って、ジョン役に選ばれたのも必然だ。

自分にやれることをやる。

自分の肉体を破壊してまで、人に尽くそうとする男が、
一人の女性に「できる限り思い出してくれ」ということだけを望んで死んでゆく。
この矛盾が、どうしても私には理解できないんだ。

いかにも日常にいそうなジョン・スミスという男を見事につくりだしたS.キング。
他人の中で自分をどう生かせるか。
とても大事なことなのに、なんてくだらなくて空しい考え方なのか。
ああ、なんてナンセンスな気違いじみた冗談だろう!?

*********

ジョンのことを最近、1日に何度も考える。
昏睡から醒める瞬間のように、死の暗い不安な穴へとまた戻っていったジョニー。

「あすこから出るべきじゃなかったんだ。僕はまたあの暗い穴へと帰ろう。
 そうすればきっと僕はまた歩けるようになるだろう。
 具体的にどうかは分からないけれども」


彼のアンフェアな運命は、クルマの事故のせいでなかったのは、
ひどく見事な逆転を食らった気持ち。

「事故に遭わなかったとしても、遅かれ早かれ、僕は、この呪わしい弾を渡されていただろう」


ジョニーのセーラに対する愛は、本物の愛のような気がする。
とても身近に感じるのに、手の届きそうもないもの。

冗談を言い、人に奉仕することに生き甲斐を求め、
誰も傷つけたくないと思い、本気で一人の女性を愛し、
死の直前まで他人と、国と、自分の行く道と、母のことを冷静に考えながら死んでゆく男。

運命と、長すぎた期間のゆえに、セーラは彼をダンの時のように、
いや、それよりも、もっと深い忘却の沼へと葬らなければならない。
夫と子どもに愛され、年老いてゆく。
美しい金髪、澄んだ緑色の眼をしたセーラは、まったく客観的に眺めてみる。
おざなりな一生を描いてみる。

「こんなはずじゃなかったんだわ。最初から全てこうなるはずじゃなかった、そうでしょう、ジョニー?」
「僕はきっと何十年も前、たぶん氷の上で転んだ時に死んでいてもよかったんだ」
「ジョニー、神から授かった力から隠れたりしてはダメよ」
「ああ不公平よ、不公平すぎます、神さま!」


夢だったというには、あまりにも長く、大きな試練を受けたけれども、
キラキラした、誰よりも大切な思い出が残った。
たとえ、それら全てを忘却の沼に落とさなければならないとしても。


ジョン・スミスという、いかにもありきたりで、そこら辺にいそうな男。
占い師を頼って、あらゆる未来を尋ねようと群がる女性たちも、
本当に確実な未来が分かってしまうのは恐ろしいに違いない。

吉なる未来予測だけを信じて、不吉なものはさっさと忘れようとする。
私たちは、これからもずっとそうすることだろう。

目に見えるものだけを信じ、脳で理解できないことはさっさと忘れてしまおうとするだろう。
私たちは、きっとこれからも忘れ続けるだろう。
忘れなくては生きていけないことだってあるから。

私はなぜか日に何度も思う。
ある国の墓地に、ひっそりと自分のかつての恋人が眠っていると。
その苦しさ、素晴らしい思い出を、墓のより奥底へと埋めてしまわなければならなかったとしても。

でも、私には私の現実がある。
目では感じとれない未来がある。

「僕には、時に年月など、ほんの手の届くところにあるような気がする」


1990.1.4 記



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