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大島弓子短編集1『雨の音がきこえる』(小学館)

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大島弓子短編集1『雨の音がきこえる』(小学館)
大島弓子/著

けっこう以前から友だちの影響でちょこちょこと借りて読んだりしていたけれども、
『グーグーだって猫である6』からまた大島さん熱が復活v
猫マンガ以外の、初期作品も読んでみたくなった。

解説にもあるけど、ふんわりとしたタッチの少女マンガの王道でありながら、
ストーリー構成、詩的さ、叙情性は、文学、映画にも劣らない、大島さんならではの余韻が残る。

叶わぬ恋の設定もそうだけど、日本なのに、ドイツのギムナジウムを思わせる絵や、
なぜか“両親を亡くした”をはじめ、家族の欠如が多いのはなぜだろう?

エレクトラコンプレックス
ゲルピン=学生仲間の言葉で、金がないこと。文(もん)なし。

大島さんの知識の幅広さ、奥深さは尊敬してしまう。
時代設定が古いせいなのか、10代で恋人の話を公に話して、卒業したら結婚ってストーリーが多い。


【解説抜粋メモ~高取英(劇作家)「大島弓子の詩情には“永遠の時”も潜んでいる。」】
大島弓子の作品が抒情として感じられるのは、例えば、バイロン詩集や、ヘルマン・ヘッセ、
ヴェルレーヌ、ファウストなどを持ち出さなくとも、大島弓子が詩人だからである。
それだけでなく、プラトニックな性倒錯を潜ませたことが、この作家の秀でた作風を確立し、人気を得た秘密だと考えられる。

大島弓子の詩情には“永遠の時”も潜んでいる。
収録された作品の主人公の多くが、少年少女であることに原因の一つがあり、
大島弓子が少女のままの感性を保ち続けていることに原因の一つがあるだろう。

例えば、その昔、「結核」にロマンティシズムな感情を与えた文学の1つの形態に似たものがある。
ある時期、ロマンティックなものとして、文学に表れる結核に憧れた青年がいた。
だが、少女が憧れたのは、それだけでなく「結核妄想」に憧れたのである。
青白い肌、微熱、けだるいカラダ。
もし、そうした病になれば、現実の大人社会を拒絶し、少女のままでいることができるのでは、といった妄想である。


【内容抜粋メモ】
●雨の音がきこえる


デキのいい姉や妹と比べて、何をしてもグズな秋子。転入生に同じ茅秋子という美少女が来て、コンプレックスはさらに深まる。
そんな折、自分は養女だと知る秋子。そして、あんなに口うるさかった母親も突然、交通事故で亡くなる。
秋子は急に母親のマネをして家事に奮闘するが、作家の父の編集者で、幼なじみだったという女性が現れて混乱する。

 


●風車


雪深い山里の学校に、外国人の風貌をした少年・零が転入してくる。その日から「雪女を見た」という噂が流れ出す。
和歌があまり零ばかり見ているので、寛一は面白くなく、決闘しようという。

和歌は雪山であたりを見失い、零の家に泊めてもらう。零の本当の名前はアレクセイ。母からいつも
「私たちは、もうここよりほかに行く所がないのです。誰かが右を向けと言ったら右を向く、
 そしたらお父様の国でもお前は暮らしていけるかもしれない」

時は戦時中。教師から「もし、もう一度ロシアと日本が戦うことになったら、きみはどっちと戦う?」と聞かれ、
「ロシアを敵として戦います」という零。

  
零が飛ぶ姿は、まるでイカロスだ。


●つぐみの森


高校で人気の女生徒が湖に死体で発見された。欧外先生に恋して自殺したとされたが、警察は欧外が殺したのではと尾行している。
足長おじさんに授業料を払ってもらっている森島は、死んだ女生徒とライバル視されていたビナスに夢中。
だが、彼女もまた欧外に夢中で、確かめるために日記を盗んでと頼まれる森島。
それを読んだビナスは、本当は自分が殺したから、これから自首すると告げる。


●春休み


憧れの作家・吉野尾の書生として軽井沢の別荘に呼ばれたそよぎは、父に捨てられ、母が亡くなってから食うや食わずで、
用意する料理は「食草」ばかり(こんなに食べられる草があるのね/驚
そよぎは書生の仕事より、まず絵空事の小説をこれ以上かかないために情操教育が必要だと、息子の葉が面倒を見ることになる。
そよぎの胸中には、白馬に乗った王子様的なイメージがあり、作家の胸にはフリルを着た少女のイメージがあった。



そよぎは次第に作家への恋心を抱くが、葉が連れてきたアフロディテのお陰で失恋。
そして、本当は心臓が弱って養生していた作家の遺書を読んで衝撃の事実を知る。


●ジョカへ
 
(これが一番泣けたなあ。『キャンディキャンディ』的な風情もあるし

[part1]
両親が亡くなったシモンは、生態学者で叔父のジルと、その妻で作家フランソワーズ、娘ジョカと一緒に暮らす。
ジョカはシモンを子どものように面倒をみていたが、それは、いつも忙しい両親からもらえない愛情を埋めるためでもあった。

なんでも持っている紳士なジャン・クロードはジョカが好きで、いつも優しくしてくれるが、シモンはそれが許せない。
2人は決闘することにして、ジョカはシモンのために、父が開発したクスリを飲ませるが、それは性転換させるものだった!
両親はジョカを傷つけないためにも、シモンの名前を変えて、イギリス留学させ、熱病で亡くなったことにする。

[part2]
学校を卒業したらジョカとジャンが結婚すると聞いて、祝福するために休暇を利用して女生徒ソランジュとして戻ってきたシモン。
ジャンは、ミステリアスなソランジュに恋してしまうし、親友でSF好きなピエロはシモンだと分かってしまう。
ソランジュはジャンに諦めさせるためと、ジョカのためにも、聖堂でキスシーンを見せると、
「許すから髪を切って、いいと言うまで」

  

ジャンは、ジルたちの会話からシモンだと知ってしまったショックでクルマの事故を起こす。
ジャンは死んだと思い、シモンは未完成の元に戻るクスリを飲み、それを見たジョカも分からないクスリを飲んで、
2人は長い長い眠りにつく(なんだか『ロミジュリ』みたいだ

 


●海にいるのは


両親亡き後(全員亡くなってるなあ!)、アレクサンダーを引き取ってくれた教師の養父フランクリン、その娘のヒルデガード。
アレクサンダーがヒルデを好きだからGFを作らないんじゃないかと女生徒はヒルデに確かめさせると、
困って「きょうだいみたいに思っているよ」と言った言葉に傷つくヒルダ。
女好きな留年生リンゴは、それを聞いてヒルダと付き合い始める。



ヒルダのデートを父から誤魔化すために時間を潰したり、レポートを書いたりするアレクサンダーの前に
いきなり現れた謎の紳士は、雨に濡れた彼をホテルに招き素描を描かせてくれという。



彼は海の仕事をしていて、恋人に会いにこの町に来たが、亡くなった後だったと聞いて、どこか他人と思えないアレクサンダー。
本当はアレクサンダーが好きなヒルダは、デートに行かず、2人を尾けて雨に濡れていた。



●ほうせんか・ぱん



医者になる勉強をしに家にやってきた秋生に、ひと目惚れしたみどり。
しかし、結ばれたのは、同級生で親友のまやのほうだった。
そのまやが急に自分の持ち物をクラスメイトに売り始め、クラブでお酒を運ぶバイトをしたことで
厳格なクリスチャンの女学校で退学処分にされる。

秋生の書いたラブレターも、秋生自身に売りつけて、関係も終わり、「本当はみどりが好きなのよ」というまや。
自分は「父がダイヤモンドを見つけにインドに行くからついていく、そのためにピアスの穴も開けた」と話す。
でも、本当は、ギャンブル好きのために家が破産して、学校の近所で肉体労働をしている父のためにお金を稼いでいたまや。
「私の勘は当たるのよ。インドへ行きましょうよ」「ゆくか、お前の目のほうに」



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