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おはなし名作絵本『黒いちょう』松谷みよ子/文

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おはなし名作絵本『黒いちょう』松谷みよ子/文(ポプラ社)

[作者あとがき抜粋メモ]


この作品は、1950年、当時影絵の劇団として気品ある舞台を見せてくれていた木馬座の絵本「木馬五号」のために書いたものです。
私は結核が再発して病床におりましたが、日本に異国の基地が置かれ、朝鮮へ朝鮮へと飛行機が飛び立っていく日々への想いを込めて、
ベッドの上で筆を運んだのを思い出します。

作品はそのままの朗読で、影絵劇として上演しました。
ボール紙を切り抜いたにすぎない一人の少年像がゆっくりと倒れる、
それだけなのに観客のショックは大きかったと座の人が語ってくれました。
ただそれだけのこと・・・すら、大変なことであった、暗い、ものの言えない時代でした。


▼あらすじ抜粋メモ(ネタバレ注意
お日さまは、人びとに、光と労働を与えるお仕事を、
お月さまは、休息と眠りを与えるお仕事といういうふうに、べつべつのお仕事をしていらっしゃいました。

けれど、たまに会うときがあると、懐かしそうに、いろいろの出来事を話し合われるのでした。

「わたしは、とてもかわいい子にあいました。」お日さまがいいました。
「わたしも、きのうの夕暮れ、かわいい子にあいました。」お月さまも、おっしゃいました。
「どっちがかわいいでしょう。」




お日さまが会ったのは、動物をたくさん飼っている少年で、
ゆうべ、おねしょをしてお父さんに見つかって、とても怒られ、朝まで立ってろと言われた。
「これから(ウサギの)シロをつれて、さんぽだい」




お月さまが会ったのは、母親がワカメの行商をしている貧しい子で、
町の旦那衆にお金を借りに歩き回って、疲れた母親は、お地蔵さまのところで休んでいるうちに眠ってしまった。

男の子は、お母さんのおっぱいを開けようか迷っているから、
お月さまが「おや、ぼうやは、何年生? それでもおっぱいが恋しいの?」と声をかけると、
「だって、たった一年生だもん」と言いました。

「おっぱいつつくといい気持ち?」
「うん、口んなかがいい気持ちだ」

お母さんが気がついて「あれ見な、のんのさまだぞ」と言って、月の唄をうたい、その子も歌いだす。
♪のんのさま、いくつ 十三、七つ

「わたしは、その母と子の、わたしを見上げて歌う姿が、目にのこってなりません。」

お日さまも「まったく子どもはかわいい。どの子も、ほんとにかわいい。勝負なしですね。」と言いながら沈んでいった。


ところが、ある日、お日さまはギラギラ光りながら、お月さまを待っていた。



「あの山を見てください。あの山に、今、ひとりの子が死んで横たわっているのです。
 しかし、その子の村では、まだ、そのことを知りません。
 それなのに、わたしは、沈んでいかなくてはならないのです。」

訳を聞くと、

「あの山は、大昔から、あの村の人たちにとって、なくてはならない山だったのです。
 薪をとり、炭を焼き、春にはワラビ、秋にはキノコ、甘い柿や、栗がどっさり実りました。
 ところがどうでしょう。見てください、あそこを。」

不気味な大砲が、黒い口を天に向けて並び、
どんな醜い虫よりも醜い戦車が動いていました。

カーキ色の兵舎が見えます。鉄条網が光っています。

畑の上を見知らぬ国の兵隊たちが鉄砲を持って、ずしずし歩き回っているではありませんか。
山の入り口には『立入禁止』と書かれた立て札がつめたくたてられているのです。



男の子は、ひとりで山をのぼっていました。

「だいじょうぶ、きょうは演習休みだって。
 とうちゃん、かあちゃんに内緒で、弾丸の破片を拾って、くず鉄やに売ってびっくりさせるんだい」

途中で、黒い蝶を見つけて、子どもは目的を忘れて、蝶をとろうと夢中になっていると、
ぴたりとやんでいた大砲がいっせいに撃ちだされて・・・。

「わたしは、その子から目をはなすことができませんでした。
 生きてはくれないだろうか、手でも動かしてはくれないかと、気がくるいそうでした」


お月さまは、涙を流して言いました。

「わたしが、その子のそばにいてやりましょう。
 あおい光を、その子にひと晩中降りそそいでやりましょう。
 もし村の人たちが探しに出たら、どんな小さな道も明るく照らしましょう」





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