■美内すずえ傑作選8『黒百合の系図』(白泉社)
美内すずえ/著
巻末の「解説」にあったけど、美内さんの漫画は「怪奇漫画」なんだな。
なるほど、『黒百合の系図』なんて、金田一耕介シリーズみたいな雰囲気が漂ってる。
代々続く呪いの家系を、勇気のある少女が立ち向かう姿はなんとも頼もしく、
ミステリーの謎解きストーリー展開にもどんどん引き込まれていく。
▼あらすじ(ネタバレ注意
黒百合の系図
アキコの母・千里が急死した。高山植物の黒百合が庭に咲いてから様子がおかしかった。
葬儀に20年来の知り合いだという川口マサが来て「あなたが飛竜家最後の・・・」と謎の言葉を残して去る。
父も母の過去は知らず、一度夢にうなされて「鬼姫谷」と言っていたと聞く。
アキコは、旅行本の著者・田代に手紙を書いて谷のことを聞くと、場所と、写真が送られてきて、そこにも黒い百合が咲いていた。
アキコは、夏休みを利用して調べることにする。谷近辺の村で宿をとり、その夜金縛りにあい、霊が「おまえで最後・・・」と言う。
飛竜家はボロボロになっていて、中には首吊りの縄と、血の跡が残っていた。
住職から飛竜家のことを聞くと、戦国時代、鬼神に「戦に勝たせてくれたら、次の子どもはお前にやろう」と約束したという。
その後生まれた娘・千也姫には角が生えていた。残虐な娘に育ち、きょうだいも変死したため、父は千也姫を殺そうとして亡くなる。
ある時、豪雨が続き、飛竜家は祈祷師に頼むと、巳年の乙女を生贄に出せと言った。
選ばれた娘フキは「代々呪ってやる!」と言って死に、その五体はバラバラに埋められた。
飛竜家の家臣にあたる志郎の母と祖母はなにか隠している様子。
首吊り跡は伯父、血の跡は叔母、千里は恐れて東京に行き、父と結婚した。
アキコは、同じく鬼姫伝説を調べる田代に出会い、千也姫も巳年だったと知る。
アキコは誰かに足をつかまれ怪我をして東京に戻る。父は庭に黒百合が咲いていたのを知らせずに処分していた。
そして、アキコを写した写真には、千也姫の霊が写っていた。
その後も命を何度も狙われ、アキコは田代の知り合いの霊能力者を紹介してもらう。
鬼神のしるしである角の生えた頭骨だけが見つかっていないことから、2人は再び谷に戻って首塚を探す。
志郎の母らは、千里が去ってから飛竜家の莫大な土地などを横領していた。
田代は首塚を見つけ、神水をかけて、間一髪でアキコを救う。
日本列島一万年
自然が美しいナライ沢に、観光開発で有名な千石かおるがやって来て、
高速道路をつくり観光地に変えるというのを聞いたチアキ。
隣り町も同様に観光地化したために、自然が死に絶え、カラスが猛繁殖して、他の動物まで襲うようになった。
チアキの先祖は、マゲン族で、この地にか自生しない花は、車の排気ガスを浴びたら死に絶えてしまうと心配する。
チアキのクラスに千石の息子・竜也が転校してくる。
カオルはすでに代議士らにも根回しして、ダイナマイトで山を崩し始めていた。
チアキらは、カオルと「マゲン族の遺跡を春までに見つけたら開発を止める」と約束させる。
冬山に入ったチアキらは、クマの出現に脅えたが、それはカオルらの部下の仕業だった。
雪崩に巻き込まれ、運良く洞窟の中で原始人が描いた壁画などを見つける。
竜也は、チアキらの熱意に心を打たれつつ、母が「この世に金で動かないものがありますか?」と言われて、どちらが正しいのか迷い苦しむ。
カオルは、地域住民の仕事を奪ったりして、協力者が激減する。
その上、山番だという老人が現れ、せっかく見つけた洞窟の入り口を閉ざされてしまう。
彼は20年前、急に消息を絶った考古学者で、自分の見つけた洞窟が他人に渡るくらいなら
場所を謎にしたまま自分が死ぬといって谷に身を投げる。
しかし、一連の様子を極秘取材していた記者が書いた記事が好評となり、
各地で自然破壊反対運動が起こり、ついにカオルは手を引く(もう次の土地に行くところが商魂たくましい
みどりの仮面
ビアンカは、冬休みを、自分を可愛がってくれる叔母と祖母の屋敷で過ごすことにする。
本当の目的は、恋するピエールに会うことだったが、なぜか彼はビアンカにだけ冷たく接する。
叔母はビアンカに養女になって欲しいと頼む。「あなたの両親が死んだ時からそう思っていたの」
ビアンカは、自分の小間使いのリリーがドレスを汚したりするのは手違いではなく嫉妬からだと知って驚く。
しかも、叔母とビアンカの母は義理の関係で、憎しみ合っていたが、
莫大な遺産がビアンカに遺されたための芝居だと知ってショックを受ける。
「みんな仮面をかぶっていたんだわ。叔母、祖母、小間使い・・・」
火事が起こり、ビアンカは部屋に閉じ込められてしまったが、
叔母は「家の中には誰も残っていない」と消防員に告げる。
そんな中、ピエールだけは命懸けで助けてくれた。
【解説 自分の血と、日本人であることを自覚させる少女達 石子順(評論家)抜粋メモ】
欲望を持って生きている者のほうが死者よりも恐ろしい。
「日本列島一万年」が描かれた頃、日本は各地で「開発」という名の自然破壊が進み、
様々な公害や破壊によって、人間、動物、植物の生命が脅かされていた。
少女漫画でも、ひん曲がった世の中に対して怒ることがあるということを示したのだった。
「あたしは日本人です! 日本の美しい自然を守るのは、日本人の義務じゃないでしょうか?」
生きていると、生きているということ自体が当たり前になってしまい、
一体何のために生き、またどのようにして生きているのか、ということを忘れがちである。
日本国籍でも、日本人ということを意識していないことも多い。
美内すずえが描いた頃に比べ、生命は粗末に扱われ、生きていく環境は良くなったとはいえず、
むしろ悪化しているからこそ、ここに脈打つメッセージは生きている。
美内すずえ/著
巻末の「解説」にあったけど、美内さんの漫画は「怪奇漫画」なんだな。
なるほど、『黒百合の系図』なんて、金田一耕介シリーズみたいな雰囲気が漂ってる。
代々続く呪いの家系を、勇気のある少女が立ち向かう姿はなんとも頼もしく、
ミステリーの謎解きストーリー展開にもどんどん引き込まれていく。
▼あらすじ(ネタバレ注意
黒百合の系図
アキコの母・千里が急死した。高山植物の黒百合が庭に咲いてから様子がおかしかった。
葬儀に20年来の知り合いだという川口マサが来て「あなたが飛竜家最後の・・・」と謎の言葉を残して去る。
父も母の過去は知らず、一度夢にうなされて「鬼姫谷」と言っていたと聞く。
アキコは、旅行本の著者・田代に手紙を書いて谷のことを聞くと、場所と、写真が送られてきて、そこにも黒い百合が咲いていた。
アキコは、夏休みを利用して調べることにする。谷近辺の村で宿をとり、その夜金縛りにあい、霊が「おまえで最後・・・」と言う。
飛竜家はボロボロになっていて、中には首吊りの縄と、血の跡が残っていた。
住職から飛竜家のことを聞くと、戦国時代、鬼神に「戦に勝たせてくれたら、次の子どもはお前にやろう」と約束したという。
その後生まれた娘・千也姫には角が生えていた。残虐な娘に育ち、きょうだいも変死したため、父は千也姫を殺そうとして亡くなる。
ある時、豪雨が続き、飛竜家は祈祷師に頼むと、巳年の乙女を生贄に出せと言った。
選ばれた娘フキは「代々呪ってやる!」と言って死に、その五体はバラバラに埋められた。
飛竜家の家臣にあたる志郎の母と祖母はなにか隠している様子。
首吊り跡は伯父、血の跡は叔母、千里は恐れて東京に行き、父と結婚した。
アキコは、同じく鬼姫伝説を調べる田代に出会い、千也姫も巳年だったと知る。
アキコは誰かに足をつかまれ怪我をして東京に戻る。父は庭に黒百合が咲いていたのを知らせずに処分していた。
そして、アキコを写した写真には、千也姫の霊が写っていた。
その後も命を何度も狙われ、アキコは田代の知り合いの霊能力者を紹介してもらう。
鬼神のしるしである角の生えた頭骨だけが見つかっていないことから、2人は再び谷に戻って首塚を探す。
志郎の母らは、千里が去ってから飛竜家の莫大な土地などを横領していた。
田代は首塚を見つけ、神水をかけて、間一髪でアキコを救う。
日本列島一万年
自然が美しいナライ沢に、観光開発で有名な千石かおるがやって来て、
高速道路をつくり観光地に変えるというのを聞いたチアキ。
隣り町も同様に観光地化したために、自然が死に絶え、カラスが猛繁殖して、他の動物まで襲うようになった。
チアキの先祖は、マゲン族で、この地にか自生しない花は、車の排気ガスを浴びたら死に絶えてしまうと心配する。
チアキのクラスに千石の息子・竜也が転校してくる。
カオルはすでに代議士らにも根回しして、ダイナマイトで山を崩し始めていた。
チアキらは、カオルと「マゲン族の遺跡を春までに見つけたら開発を止める」と約束させる。
冬山に入ったチアキらは、クマの出現に脅えたが、それはカオルらの部下の仕業だった。
雪崩に巻き込まれ、運良く洞窟の中で原始人が描いた壁画などを見つける。
竜也は、チアキらの熱意に心を打たれつつ、母が「この世に金で動かないものがありますか?」と言われて、どちらが正しいのか迷い苦しむ。
カオルは、地域住民の仕事を奪ったりして、協力者が激減する。
その上、山番だという老人が現れ、せっかく見つけた洞窟の入り口を閉ざされてしまう。
彼は20年前、急に消息を絶った考古学者で、自分の見つけた洞窟が他人に渡るくらいなら
場所を謎にしたまま自分が死ぬといって谷に身を投げる。
しかし、一連の様子を極秘取材していた記者が書いた記事が好評となり、
各地で自然破壊反対運動が起こり、ついにカオルは手を引く(もう次の土地に行くところが商魂たくましい
みどりの仮面
ビアンカは、冬休みを、自分を可愛がってくれる叔母と祖母の屋敷で過ごすことにする。
本当の目的は、恋するピエールに会うことだったが、なぜか彼はビアンカにだけ冷たく接する。
叔母はビアンカに養女になって欲しいと頼む。「あなたの両親が死んだ時からそう思っていたの」
ビアンカは、自分の小間使いのリリーがドレスを汚したりするのは手違いではなく嫉妬からだと知って驚く。
しかも、叔母とビアンカの母は義理の関係で、憎しみ合っていたが、
莫大な遺産がビアンカに遺されたための芝居だと知ってショックを受ける。
「みんな仮面をかぶっていたんだわ。叔母、祖母、小間使い・・・」
火事が起こり、ビアンカは部屋に閉じ込められてしまったが、
叔母は「家の中には誰も残っていない」と消防員に告げる。
そんな中、ピエールだけは命懸けで助けてくれた。
【解説 自分の血と、日本人であることを自覚させる少女達 石子順(評論家)抜粋メモ】
欲望を持って生きている者のほうが死者よりも恐ろしい。
「日本列島一万年」が描かれた頃、日本は各地で「開発」という名の自然破壊が進み、
様々な公害や破壊によって、人間、動物、植物の生命が脅かされていた。
少女漫画でも、ひん曲がった世の中に対して怒ることがあるということを示したのだった。
「あたしは日本人です! 日本の美しい自然を守るのは、日本人の義務じゃないでしょうか?」
生きていると、生きているということ自体が当たり前になってしまい、
一体何のために生き、またどのようにして生きているのか、ということを忘れがちである。
日本国籍でも、日本人ということを意識していないことも多い。
美内すずえが描いた頃に比べ、生命は粗末に扱われ、生きていく環境は良くなったとはいえず、
むしろ悪化しているからこそ、ここに脈打つメッセージは生きている。