■美内すずえ傑作選9『燃える虹』(白泉社)
美内すずえ/著
▼あらすじ(ネタバレ注意
燃える虹
両親の愛に包まれて育ったドーナ。父・マーリンは幼少期に嵐で家も母も失った。
父はプルー市の市長に立候補する。ライバルのロッキンガムは金のためなら殺人もする悪人。
ドーナとアンドレは、幼いながら好き合っていて、アンドレは手づくりの首飾りを贈って、将来結婚する約束を交わす。
同じ10歳なのに、貧しさゆえアンドレを大学に行かせてあげられない母親メリーは、ドーナを羨む。
ロッキンガムは、グラントという男にケシから麻薬を作らせ、取引先の大物を麻薬中毒にしていたことを突きつけるマーリン。
マーリンのもとに何度も借金を頼んで、酒代にしてしまう没落貴族・ラシュリーに声をかけ、取引をするロッキンガム。
ロッキンガムと、ラシュリー、メリーは、誤ってマーリン夫妻を殺し、家ごと燃やしてしまう。
ドーナは使用人ジョスに助けられ、その後追っ手が来て、ドーナは逃げ、ジョス夫妻も殺される。
一度は自殺も考えるドーナだが、死ぬ勇気があるならなんだってできると復讐を誓う。
ジョスに言われた叔母の家に行くと邪険にされ、ブランシュ慈善院に行けと言われる。
そこは、少女たちを強制労働させ、その稼ぎは院長のポケットに入っていた。
消えた少女たちは身売りされている。
ドーナは牢獄に入れられ、洞窟の中で、金山を見つける発明に没頭していたバイロット伯爵に出会う。
バイロットはドーナの身の上話を聞き、自分の知識をすべて教え、ドーナを完璧なレディに仕上げる。
身売りの海賊を金で味方につけて、少女たちと脱出。
伯爵から養女になって、最大限利用し、復讐をとげよと告げられる。
ダニエル・バイロット伯爵令嬢として社交界を席巻したドーナは、ついにプルー市に来て、
ロッキンガムや、ラシュリー、メリーらと再会し復讐の炎を燃やすが、アンドレにだけは素顔が出てしまいそうになる。
ロッキンガムの兄弟を誘惑し、敵対させ、妻と離婚した兄は弟と決闘して撃ち殺してしまい町を去る。
ロッキンガムの土地を買ったダニエルは、花畑を掘らせ、ジョス夫婦の白骨死体が見つかる。
ヒースという老人は、かつてロッキンガムに麻薬中毒にさせられた人々が地下牢にいるから助けてやってほしいとダニエルに頼む。
ジョスらの亡霊が出た芝居を見せて、アルコール依存症になっていたラシュリーは発狂。
バレてはまずいとロッキンガムに殺される。
メリーはダニエルがドーナだと知って、後悔の念で首を吊る。
ロッキンガムも事実を知って、ダニエルを殺そうとするが、逆に中毒患者らに襲われて死ぬ。
復讐がすべて終わっても空しいダニエルは、ドーナに戻り、アンドレのもとに走る。
ジュリエッタの嵐
優雅で家族愛に包まれた暮らしをしていたステンプルドン王家。
次の王位継承者・ヘンリーは白血病で、姉のジュリエッタはいつも弟をかばってきた。
コルウェー国王の皇太子アルベールは、ジュリエッタの婚約者で人も羨む幸せなカップルだった。
市民革命によって、運命が逆転する。革命を扇動したのは、黒い狼と呼ばれる男。
「今こそ民衆よ、立ち上がれ! 農民は自分の作った穀物を食べ、仕立て屋は自分の作った絹の服を着て、
猟師は自分のとった獲物で腹を満たすのだ! 国民こそこの国の王なのだ!」
国王と王妃は、幼い姉弟の前でギロチン処刑され、ジュリエッタも首を切られそうになるが雷が落ちて助かる。
「幼い子どもまで殺したとあれば、これからの貿易、外交に差し障るかもしれない」と、黒い狼は2人を一生牢獄に幽閉させる。
門番はアルコール依存症の男と、世話人の女性は、貧しさゆえに一人娘を亡くしたことを王政のせいだと恨んでいる。
男は酒代のために、ジュリエッタの金髪も売ろうと切ってしまう。
そこにブルーノー大臣から脱出計画の手紙がきて、希望に喜ぶ2人。
祖母が亡くなり、その棺の中に2人は隠れ、墓地に埋められたところを救われる予定が、
墓堀り人は面倒臭いと別の墓地に埋めてしまう。
嵐が起きて、墓地は崩れ、九死に一生を得たジュリエッタは、衰弱した弟を連れて迷い、黒い狼の土地に来てしまう。
黒い狼の母は貧しかったが、国王に愛されて、自分が生まれ、王位継承するはずが、
母が貴族でないために殺されかけ、かばった母は死んだと話す。
城を逃れて、身分の差なく愛してくれた人たちに恩義を感じている。
彼は少年のフリをしたジュリエッタを見抜くが、2人はコルウェー国王のもとまで逃げる。
だが、国王は冷たく、アルベールには別の国の婚約者がいた。
絶望の中、洞窟に隠れていると、つららがヘンリーのお腹に突き刺さり、いつも自分を心配してくれた姉に別れを告げて亡くなる。
ブルーノー大臣が迎えに来て、再び王政を復活させ、女王になってほしいと言うが断るジュリエッタ。
黒い狼は、「帰ってくるんだ、水車小屋のあるあの村へ」と抱きとめる。
泥棒シンデレラ
平凡な望は、いつも人を羨んで生きている。
お金持ちの梅宮、美人のミエコ、美声のツグミ、いつもトップの成績の五十嵐、
そして、いつも電車で見かける貴公子のような紫門の彼女・百合。
ある日、望は車に轢かれたのに軽傷で済み、その日から「あれが欲しい!」と望むたび
頭に激痛が走って、望みが現実化するようになる。
ミエコは硫酸を顔に浴びて醜悪になった代わりに、望は生まれ変わったような美人となり、
喉を痛めたツグミの代わりに、美声となりコンクール出場に選ばれる。
父が金持ちになった代わりに、梅宮の父は倒産、五十嵐は試験当日病気になり、望はトップの成績をとる。
そして、紫門に声をかけられ、「百合には悪いけど、ただの幼なじみだよ」とデートに誘われる。
すべて望み通りになったにも関わらず、自分の努力のせいではなく、人の不幸の代わりで望は苦しむ。
その日記を読んだ4人は、望を追い詰め、学校の屋上から落ちるが奇跡的に助かる。
それ以来、頭痛は消え、4人は元に戻り、望も平凡な学生に戻って「今のままが幸せ」だと気づく。
だが、紫門だけは「君みたいなコは初めてだ」と去らなかった。
【解説 ひびきあう人生にあきらめないという発想 石子順(評論家)抜粋メモ】
2つの運命逆転ドラマは、ヒロインが運命を逆転させて元の世界を取り戻そうとするのではなく、
「新しい生活」へと身を乗り出している。そこに進歩があり発展がある。
自分の幸せを自分で掴む力を備えていて、読む者に励ましを与えてくれる。
自分の運命が不幸ばかりだと思い嘆く人たちに、その運命を逆させる底力の持ち方を教えてくれる。
美内すずえ/著
▼あらすじ(ネタバレ注意
燃える虹
両親の愛に包まれて育ったドーナ。父・マーリンは幼少期に嵐で家も母も失った。
父はプルー市の市長に立候補する。ライバルのロッキンガムは金のためなら殺人もする悪人。
ドーナとアンドレは、幼いながら好き合っていて、アンドレは手づくりの首飾りを贈って、将来結婚する約束を交わす。
同じ10歳なのに、貧しさゆえアンドレを大学に行かせてあげられない母親メリーは、ドーナを羨む。
ロッキンガムは、グラントという男にケシから麻薬を作らせ、取引先の大物を麻薬中毒にしていたことを突きつけるマーリン。
マーリンのもとに何度も借金を頼んで、酒代にしてしまう没落貴族・ラシュリーに声をかけ、取引をするロッキンガム。
ロッキンガムと、ラシュリー、メリーは、誤ってマーリン夫妻を殺し、家ごと燃やしてしまう。
ドーナは使用人ジョスに助けられ、その後追っ手が来て、ドーナは逃げ、ジョス夫妻も殺される。
一度は自殺も考えるドーナだが、死ぬ勇気があるならなんだってできると復讐を誓う。
ジョスに言われた叔母の家に行くと邪険にされ、ブランシュ慈善院に行けと言われる。
そこは、少女たちを強制労働させ、その稼ぎは院長のポケットに入っていた。
消えた少女たちは身売りされている。
ドーナは牢獄に入れられ、洞窟の中で、金山を見つける発明に没頭していたバイロット伯爵に出会う。
バイロットはドーナの身の上話を聞き、自分の知識をすべて教え、ドーナを完璧なレディに仕上げる。
身売りの海賊を金で味方につけて、少女たちと脱出。
伯爵から養女になって、最大限利用し、復讐をとげよと告げられる。
ダニエル・バイロット伯爵令嬢として社交界を席巻したドーナは、ついにプルー市に来て、
ロッキンガムや、ラシュリー、メリーらと再会し復讐の炎を燃やすが、アンドレにだけは素顔が出てしまいそうになる。
ロッキンガムの兄弟を誘惑し、敵対させ、妻と離婚した兄は弟と決闘して撃ち殺してしまい町を去る。
ロッキンガムの土地を買ったダニエルは、花畑を掘らせ、ジョス夫婦の白骨死体が見つかる。
ヒースという老人は、かつてロッキンガムに麻薬中毒にさせられた人々が地下牢にいるから助けてやってほしいとダニエルに頼む。
ジョスらの亡霊が出た芝居を見せて、アルコール依存症になっていたラシュリーは発狂。
バレてはまずいとロッキンガムに殺される。
メリーはダニエルがドーナだと知って、後悔の念で首を吊る。
ロッキンガムも事実を知って、ダニエルを殺そうとするが、逆に中毒患者らに襲われて死ぬ。
復讐がすべて終わっても空しいダニエルは、ドーナに戻り、アンドレのもとに走る。
ジュリエッタの嵐
優雅で家族愛に包まれた暮らしをしていたステンプルドン王家。
次の王位継承者・ヘンリーは白血病で、姉のジュリエッタはいつも弟をかばってきた。
コルウェー国王の皇太子アルベールは、ジュリエッタの婚約者で人も羨む幸せなカップルだった。
市民革命によって、運命が逆転する。革命を扇動したのは、黒い狼と呼ばれる男。
「今こそ民衆よ、立ち上がれ! 農民は自分の作った穀物を食べ、仕立て屋は自分の作った絹の服を着て、
猟師は自分のとった獲物で腹を満たすのだ! 国民こそこの国の王なのだ!」
国王と王妃は、幼い姉弟の前でギロチン処刑され、ジュリエッタも首を切られそうになるが雷が落ちて助かる。
「幼い子どもまで殺したとあれば、これからの貿易、外交に差し障るかもしれない」と、黒い狼は2人を一生牢獄に幽閉させる。
門番はアルコール依存症の男と、世話人の女性は、貧しさゆえに一人娘を亡くしたことを王政のせいだと恨んでいる。
男は酒代のために、ジュリエッタの金髪も売ろうと切ってしまう。
そこにブルーノー大臣から脱出計画の手紙がきて、希望に喜ぶ2人。
祖母が亡くなり、その棺の中に2人は隠れ、墓地に埋められたところを救われる予定が、
墓堀り人は面倒臭いと別の墓地に埋めてしまう。
嵐が起きて、墓地は崩れ、九死に一生を得たジュリエッタは、衰弱した弟を連れて迷い、黒い狼の土地に来てしまう。
黒い狼の母は貧しかったが、国王に愛されて、自分が生まれ、王位継承するはずが、
母が貴族でないために殺されかけ、かばった母は死んだと話す。
城を逃れて、身分の差なく愛してくれた人たちに恩義を感じている。
彼は少年のフリをしたジュリエッタを見抜くが、2人はコルウェー国王のもとまで逃げる。
だが、国王は冷たく、アルベールには別の国の婚約者がいた。
絶望の中、洞窟に隠れていると、つららがヘンリーのお腹に突き刺さり、いつも自分を心配してくれた姉に別れを告げて亡くなる。
ブルーノー大臣が迎えに来て、再び王政を復活させ、女王になってほしいと言うが断るジュリエッタ。
黒い狼は、「帰ってくるんだ、水車小屋のあるあの村へ」と抱きとめる。
泥棒シンデレラ
平凡な望は、いつも人を羨んで生きている。
お金持ちの梅宮、美人のミエコ、美声のツグミ、いつもトップの成績の五十嵐、
そして、いつも電車で見かける貴公子のような紫門の彼女・百合。
ある日、望は車に轢かれたのに軽傷で済み、その日から「あれが欲しい!」と望むたび
頭に激痛が走って、望みが現実化するようになる。
ミエコは硫酸を顔に浴びて醜悪になった代わりに、望は生まれ変わったような美人となり、
喉を痛めたツグミの代わりに、美声となりコンクール出場に選ばれる。
父が金持ちになった代わりに、梅宮の父は倒産、五十嵐は試験当日病気になり、望はトップの成績をとる。
そして、紫門に声をかけられ、「百合には悪いけど、ただの幼なじみだよ」とデートに誘われる。
すべて望み通りになったにも関わらず、自分の努力のせいではなく、人の不幸の代わりで望は苦しむ。
その日記を読んだ4人は、望を追い詰め、学校の屋上から落ちるが奇跡的に助かる。
それ以来、頭痛は消え、4人は元に戻り、望も平凡な学生に戻って「今のままが幸せ」だと気づく。
だが、紫門だけは「君みたいなコは初めてだ」と去らなかった。
【解説 ひびきあう人生にあきらめないという発想 石子順(評論家)抜粋メモ】
2つの運命逆転ドラマは、ヒロインが運命を逆転させて元の世界を取り戻そうとするのではなく、
「新しい生活」へと身を乗り出している。そこに進歩があり発展がある。
自分の幸せを自分で掴む力を備えていて、読む者に励ましを与えてくれる。
自分の運命が不幸ばかりだと思い嘆く人たちに、その運命を逆させる底力の持ち方を教えてくれる。