■『アラスカ 極北・生命の地図』(朝日新聞社)
星野道夫/著
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
これまでに借りた中で最大サイズの写真集かも。
すでに何度も観た写真も、この大きさだと圧巻。一体、星野さんは、どれだけのカメラを持ち歩いていたんだろう?
そして、編集される前はどれだけのサイズだったのだろう? トリミングやら、いろいろ加工もされているだろうし。
個展などで発表することも考えれば、相当大きく撮ったものもあるだろう。
そして、一体、生涯でどれほどの写真を撮ったのだろう?
カメラの世界は知りたくても、いろんな意味で足を踏み入る勇気がない。
以前読んだ批評の中で、“星野さんは単にチャチャっと現地に行って、
仕事してすぐ帰ってくるような写真家じゃないことが写真から分かる”と言われていた。
本書を観ても、その意味が伝わってくる。
じっくりと長期間準備して、現地で腰を据えて待っても、千載一遇のチャンスに会える時と会えない時がある。
それでも腐らず、「これも次の撮影の糧となる」と前向きに捉えていた星野さん。
その貴重な一瞬ばかりがこの中にたくさん詰まっている。
後半には、クジラを狩った時の話など、これもすでに読んだ文章だけれども、
時間を置いて読むと、また新たにひっかかる部分もあるし、
やっぱり感動して同じ場所でひっかかる言葉も多い。
今夜も、シロクマは氷の上で白い息を吐いているだろうか?
【内容抜粋メモ】
[アラスカ 極北・生命の地図~星野道夫]
●エスキモーのクジラ漁(1983)
(以前書いたので割愛
●カリブーの旅(1985)(これまでの重複もあり
僕はベースキャンプをつくり、この広大なアラスカ北極圏の中で点になって待つしかない。
自分のアラスカを1枚の写真で見せろといわれたなら、ぼくは今でもこのときのブリザードの中のカリブーを選ぶだろう。
僕はカリブーに惹かれ、それはいつのまにかアラスカの中で一番大きなテーマとなっていた。
1968年に起こったアラスカを縦断するパイプラインの建設をめぐる大論争、
それは人類の直面している環境問題の1つのシンボルでもあった。
現代文明を維持するエネルギーと、地球上に残された手つかずの自然との選択において、アメリカは前者を選んだ。
その波は北極圏全域に大きく広がろうとしている。p.79
カリブーの主要食物である地衣類は、公害基準のバロメーターになるほど大気汚染に弱い。
一度破壊されると、たった数cmのもとの大きさに生長するまでに50~100年かかると言われている。
油田開発は、カリブーが厳しい冬を乗り越えてゆく鍵である地衣類にどれだけの影響を与えてゆくのだろうか。
カチカチカチ・・・カリブーの蹄の音が和音となり、交響曲に聞こえた。
一生に一度、出合えるかどうかのシーンなのだ。
変わりゆくアラスカで、いつか伝説になる風景かもしれない。
僕はカメラを放り出し、ツンドラに腰をおろした。
しっかり記憶の中に残しておこうと思った。
やがて、僕は数万等のカリブーの群れに囲まれていった。
●クリフォードとの再会(1988)
新聞で扱っていたエスキモーのアル中や自殺に関する記事が頭を横切る。
何かが変わろうとしている。
●エピローグ(1989)
やっと半分出来上がった家の前で、僕は1人で腰をおろしていた。
数年のつもりだったアラスカの旅はいつのまにか10年が過ぎ、僕はこの土地に家を建てようとしている。
何かを求めて、この北の果てにやってきたさまざまな人々。
より便利な、より快適な生活を離れ、原野に生きていく者。
この自然を開発してゆこうとする人たち、守ってゆこうとする人たち。
さまざまな問題を抱えながら、急速に近代化してゆくエスキモー、インディアン・・・。
絡み合う生命の綾に生かされている極北の人々。
しかし考えてみれば僕たちだって同じなのだ。
ただそれがとても見えにくい社会なのかもしれない。
*
1989年1月から1年間、週刊朝日で「Alaska 風のような物語」を連載しました。
この企画を頂いた時の嬉しさを今でも覚えています。
きっと、アラスカなどに興味のない読者はたくさんいるだろう。
その中で、自分とは関わりのない見知らぬ遠い国の話ではなく、
環境は違うけれど、アラスカにも僕たちと何も変わらない人の暮らしがあることを伝えたいと思いました。
この写真集は、構成の都合上、文章は一部を抜粋するだけとなりましたが、その時の連載を中心にまとめたものです。
1990年2月10日
[図版解説]
星野さん本人による写真の解説。
これまでの著書に何度も出てきたエピソードだけど、またこうして写真と文章で振り返ると、味わい深い。
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ホッキョクグマ
厳冬期のアラスカはマイナス50度の世界。そこに人も動物たちも生きている。
凍えまいと、熱く生きている。
ホッキョクグマは、1年の大半を、食料の90%近くを占めるアザラシを探して生きている。
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クマ
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本来、単独行動するクマが産卵に上がってくるサケを求めて集まってくる。
サケの漁場をめぐってのケンカは、多くの場合、それぞれの力関係を前もって認識することによって避けられる。
それを学ぶことは、人とクマが出合った時の行動にヒントを与えるかもしれない。
【ブログ内関連記事】
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topics~クマに遭遇したら「死んだフリ」は効果なし」 ほか
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ハクトウワシ
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かつて北アメリカの全域に生息していたが、今はアラスカを除く地域では激減した。
DDTなど大量の農薬使用による結果らしい。
汚染された魚類を食べるハクトウワシの体内にDDTが蓄積して、繁殖能力を弱めたからだ。
アラスカでも、ハクトウワシの生息地と、森林伐採の問題が起きている。
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カリブー
冬の生息地はバラバラでも、出産地を同じくするカリブーは、夏の一時期すべてが集合する。
1つの理由として蚊の大発生が考えられる。
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ラッコの毛皮
1741年、ロシア大帝の命をうけたベーリングがアラスカ探検に成功した時から、
白人による資源掠奪と、原住民収奪の歴史がはじまった。
ロシアは、アラスカにロシア・アメリカ会社を設け、カナダのハドソン湾会社も乗り出してきた。
その中心は、ラッコの毛皮の取引だった。
一時、絶滅状態となったが、徹底した保護政策により、今は生息数を取り戻してきた。
しかし、1989年。ここで悲劇的な海洋汚染の事故が起きる。
北アメリカ最大の原油流出タンカー事故が起き、原油は急速に広がり、
海鳥はもちろん、約3000頭のラッコが死んだ。
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クジラ
「バブル・ネット・フィーディング」の直前、リーダーのクジラは歌をうたう。
80年代に初めて確認されたこの歌は、冬の繁殖期のメロディとは異なる。
あちこちからクジラの呼吸音が聞こえてくる。
シューッ、シューッ、・・・。
僕はいつしかザトウクジラの群れの中にいた。別の天体にいるような不思議な時間だった。
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アカリス
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チュルル! アカリスの警戒音が聞こえてくる。僕の好きな極北の小動物。
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イヌワシ
餌の90%はジリス。
キツネ、オオカミ、グリズリーもジリスが好物だ。
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シロフクロウ
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シロフクロウの巣を見つけた。突然、背中に強い衝撃があった。
シロフクロウが巣を守ろうとしていた。僕は慌ててその場を去った。
背中を触ると、手が血で染まった(驚
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地衣類
地衣類は、放射性物質を吸収する強い力をもっている。
1950年代、南半球の核実験は、大気の流れで、放射性物質を北極のツンドラに降らせた。
それを食べるカリブーに蓄積され→それを狩るエスキモーの体内に入った。
少なくとも2万7000年の間、極北のこのカリブーの狩猟に関わってきた。
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ナキウサギ
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キューン! 山のガレ場にナキウサギの声を聞く。
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エスキモー
母親は白人、父親はエスキモーの兄弟。少しずつ混血が増えている。
子どもたちが話す言葉は英語。エスキモー語は急速に消えつつある。
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オオカミ
何度もオオカミに出合った。夜には遠吠えを聞いた。
それは子どもの頃、物語を読んで想像したとおりだった。
ただ1つ違うのは、オオカミは人など襲わないということだった。
星野道夫/著
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
これまでに借りた中で最大サイズの写真集かも。
すでに何度も観た写真も、この大きさだと圧巻。一体、星野さんは、どれだけのカメラを持ち歩いていたんだろう?
そして、編集される前はどれだけのサイズだったのだろう? トリミングやら、いろいろ加工もされているだろうし。
個展などで発表することも考えれば、相当大きく撮ったものもあるだろう。
そして、一体、生涯でどれほどの写真を撮ったのだろう?
カメラの世界は知りたくても、いろんな意味で足を踏み入る勇気がない。
以前読んだ批評の中で、“星野さんは単にチャチャっと現地に行って、
仕事してすぐ帰ってくるような写真家じゃないことが写真から分かる”と言われていた。
本書を観ても、その意味が伝わってくる。
じっくりと長期間準備して、現地で腰を据えて待っても、千載一遇のチャンスに会える時と会えない時がある。
それでも腐らず、「これも次の撮影の糧となる」と前向きに捉えていた星野さん。
その貴重な一瞬ばかりがこの中にたくさん詰まっている。
後半には、クジラを狩った時の話など、これもすでに読んだ文章だけれども、
時間を置いて読むと、また新たにひっかかる部分もあるし、
やっぱり感動して同じ場所でひっかかる言葉も多い。
今夜も、シロクマは氷の上で白い息を吐いているだろうか?
【内容抜粋メモ】
[アラスカ 極北・生命の地図~星野道夫]
●エスキモーのクジラ漁(1983)
(以前書いたので割愛
●カリブーの旅(1985)(これまでの重複もあり
僕はベースキャンプをつくり、この広大なアラスカ北極圏の中で点になって待つしかない。
自分のアラスカを1枚の写真で見せろといわれたなら、ぼくは今でもこのときのブリザードの中のカリブーを選ぶだろう。
僕はカリブーに惹かれ、それはいつのまにかアラスカの中で一番大きなテーマとなっていた。
1968年に起こったアラスカを縦断するパイプラインの建設をめぐる大論争、
それは人類の直面している環境問題の1つのシンボルでもあった。
現代文明を維持するエネルギーと、地球上に残された手つかずの自然との選択において、アメリカは前者を選んだ。
その波は北極圏全域に大きく広がろうとしている。p.79
カリブーの主要食物である地衣類は、公害基準のバロメーターになるほど大気汚染に弱い。
一度破壊されると、たった数cmのもとの大きさに生長するまでに50~100年かかると言われている。
油田開発は、カリブーが厳しい冬を乗り越えてゆく鍵である地衣類にどれだけの影響を与えてゆくのだろうか。
カチカチカチ・・・カリブーの蹄の音が和音となり、交響曲に聞こえた。
一生に一度、出合えるかどうかのシーンなのだ。
変わりゆくアラスカで、いつか伝説になる風景かもしれない。
僕はカメラを放り出し、ツンドラに腰をおろした。
しっかり記憶の中に残しておこうと思った。
やがて、僕は数万等のカリブーの群れに囲まれていった。
●クリフォードとの再会(1988)
新聞で扱っていたエスキモーのアル中や自殺に関する記事が頭を横切る。
何かが変わろうとしている。
●エピローグ(1989)
やっと半分出来上がった家の前で、僕は1人で腰をおろしていた。
数年のつもりだったアラスカの旅はいつのまにか10年が過ぎ、僕はこの土地に家を建てようとしている。
何かを求めて、この北の果てにやってきたさまざまな人々。
より便利な、より快適な生活を離れ、原野に生きていく者。
この自然を開発してゆこうとする人たち、守ってゆこうとする人たち。
さまざまな問題を抱えながら、急速に近代化してゆくエスキモー、インディアン・・・。
絡み合う生命の綾に生かされている極北の人々。
しかし考えてみれば僕たちだって同じなのだ。
ただそれがとても見えにくい社会なのかもしれない。
*
1989年1月から1年間、週刊朝日で「Alaska 風のような物語」を連載しました。
この企画を頂いた時の嬉しさを今でも覚えています。
きっと、アラスカなどに興味のない読者はたくさんいるだろう。
その中で、自分とは関わりのない見知らぬ遠い国の話ではなく、
環境は違うけれど、アラスカにも僕たちと何も変わらない人の暮らしがあることを伝えたいと思いました。
この写真集は、構成の都合上、文章は一部を抜粋するだけとなりましたが、その時の連載を中心にまとめたものです。
1990年2月10日
[図版解説]
星野さん本人による写真の解説。
これまでの著書に何度も出てきたエピソードだけど、またこうして写真と文章で振り返ると、味わい深い。
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厳冬期のアラスカはマイナス50度の世界。そこに人も動物たちも生きている。
凍えまいと、熱く生きている。
ホッキョクグマは、1年の大半を、食料の90%近くを占めるアザラシを探して生きている。
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本来、単独行動するクマが産卵に上がってくるサケを求めて集まってくる。
サケの漁場をめぐってのケンカは、多くの場合、それぞれの力関係を前もって認識することによって避けられる。
それを学ぶことは、人とクマが出合った時の行動にヒントを与えるかもしれない。
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かつて北アメリカの全域に生息していたが、今はアラスカを除く地域では激減した。
DDTなど大量の農薬使用による結果らしい。
汚染された魚類を食べるハクトウワシの体内にDDTが蓄積して、繁殖能力を弱めたからだ。
アラスカでも、ハクトウワシの生息地と、森林伐採の問題が起きている。
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冬の生息地はバラバラでも、出産地を同じくするカリブーは、夏の一時期すべてが集合する。
1つの理由として蚊の大発生が考えられる。
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1741年、ロシア大帝の命をうけたベーリングがアラスカ探検に成功した時から、
白人による資源掠奪と、原住民収奪の歴史がはじまった。
ロシアは、アラスカにロシア・アメリカ会社を設け、カナダのハドソン湾会社も乗り出してきた。
その中心は、ラッコの毛皮の取引だった。
一時、絶滅状態となったが、徹底した保護政策により、今は生息数を取り戻してきた。
しかし、1989年。ここで悲劇的な海洋汚染の事故が起きる。
北アメリカ最大の原油流出タンカー事故が起き、原油は急速に広がり、
海鳥はもちろん、約3000頭のラッコが死んだ。
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「バブル・ネット・フィーディング」の直前、リーダーのクジラは歌をうたう。
80年代に初めて確認されたこの歌は、冬の繁殖期のメロディとは異なる。
あちこちからクジラの呼吸音が聞こえてくる。
シューッ、シューッ、・・・。
僕はいつしかザトウクジラの群れの中にいた。別の天体にいるような不思議な時間だった。
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チュルル! アカリスの警戒音が聞こえてくる。僕の好きな極北の小動物。
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キツネ、オオカミ、グリズリーもジリスが好物だ。
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シロフクロウの巣を見つけた。突然、背中に強い衝撃があった。
シロフクロウが巣を守ろうとしていた。僕は慌ててその場を去った。
背中を触ると、手が血で染まった(驚
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地衣類は、放射性物質を吸収する強い力をもっている。
1950年代、南半球の核実験は、大気の流れで、放射性物質を北極のツンドラに降らせた。
それを食べるカリブーに蓄積され→それを狩るエスキモーの体内に入った。
少なくとも2万7000年の間、極北のこのカリブーの狩猟に関わってきた。
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キューン! 山のガレ場にナキウサギの声を聞く。
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母親は白人、父親はエスキモーの兄弟。少しずつ混血が増えている。
子どもたちが話す言葉は英語。エスキモー語は急速に消えつつある。
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何度もオオカミに出合った。夜には遠吠えを聞いた。
それは子どもの頃、物語を読んで想像したとおりだった。
ただ1つ違うのは、オオカミは人など襲わないということだった。