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『天才のら犬、教授といっしょに哲学する。人間ってなに?』(岩崎書店)

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『10代の哲学さんぽ 天才のら犬、教授といっしょに哲学する。人間ってなに?』(岩崎書店)
セシル・ロブラン、ジャン・ロブラン/文 リオネル・コクラン/絵 伏見操/訳

【ブログ内関連記事】
『なぜ世界には戦争があるんだろう。どうして人はあらそうの?』(岩崎書店)
『自由ってなに? 人間はみんな自由って、ほんとう?』(岩崎書店)


[著者略歴]

ロブラン,セシル:
パリ近郊、ドランシーのポールベール中学で、近代文学を教える。
哲学的討論を、自分の授業によく取り入れている。
文学博士であり、ジュール・ヴァレスと宗教の関係について研究。
19世紀のフランス文学についての記事をいくつも書いている。

ロブラン,ジャン:
1949年生まれ。有能な哲学の教授で、フランスのブザンソン、ルーアン、ニーズの大学で教鞭をとった。
権力と生産の関係についてや、社会における個人の関係について研究している。

コクラン,リオネル:
1948年、パリ生まれ。パリ国立高等美術学校卒業。70年代より絵本制作をはじめ、フランスではすでに80冊以上が出版されている。
伝説的ロックバンド「ジェネシス」のアルバム「DUKE」のジャケットや
パトリス・ルコント監督の映画「タンゴ」のポスター(1994年度国際ポスター賞グランプリ受賞)もてがけた。

伏見操:
1970年生まれ。英語、フランス語の翻訳をしながら、東京都に暮らす。


【内容抜粋メモ】

「人間ってなに? 動物とはどうちがうの?」

言葉が話せるようになったのら犬と議論するうちに、考えさせられる哲学者兼教授。

ヒトと動物との違いについて本を書こうにも、まったくアイデアが浮かばない哲学者の家に、
のら犬がやって来て「どうして動物が人間より優れているか教えてやる」という。名前はレオ。

「人間は言葉が話せるから、人間なんだろ?」

「生意気言うな! 犬はおとなしく主人の言うことをきいていればいいんだよ!」



「人間は社会をつくって仲間と一緒に暮らすんだぞ」

「よく言うよ。人間はお互いをちっとも信用していないくせに。
 もし人間がほんとうに社会的なら、他人のものを盗ったりしないはずだろ?
 ところが人間は、家を塀で囲ってる。

 ラブラドール軍とプードル軍が戦ったり、全滅させるようなバカバカしい図を見たことがあるかい?
 人間は暴力が大好きだ」


いったんはレオを追い出す哲学者。でも、もっと話がしたくなって、レオを家に招き、お互い議論を交わすことになる。


●仕事の分担

「犬はお互いに自由に暮らしながらも、一緒に過ごすこともあるのさ」

「社会で生きるというのは、一緒に働くことなんだ。人間は集団で暮らして、仕事を分担してるんだ」

「じゃあ、ひとりでウサギを追いかけるキツネは仕事をしてないの?
 家でひとりで絵を描いている画家は?」

「僕は働いて、他の人の役に立っているのさ」

「つまり、人間は社会で暮らすようにできている。
 なぜなら仕事を分担することで、自分たちの欲求を満足させられるから。
 人間は朝から晩まで重い荷物を巣穴に運ぶ働き蟻みたいなもんだってわけだ」

「人間は働き方を変えられる
 たぶん僕らは、君たちみたいな嗅覚をなくしてしまったんだろうね。
 だから仲間と協力して、それぞれが得意な役割を果たすんだ」

「あんた、ほんとうに人間は職業を選べると思うのか?
 一度、分担されたら、ずっとやり続けているだけじゃない? なら動物と同じだよ」

「人間は仕事に意味を見い出そうとしている。仕事を通して学び、進化していくんだよ。
 目的や理想の実現を助けてくれる、だから喜びを感じるんだ」

「朝っぱらから起きて、高校に授業に行くのを、お前が喜んでいるとは到底思えないぜ。
 オレには生きていくために、仕方なく仕事をしている風に見えるぞ。
 しばらくのんびりするといい。立ち止まって休むことがどれほど大切か今度教えてやるよ」


翌日、レオは哲学者と散歩に出る。


●自由な時間


「オレみたいにあちこち寄り道しながら、身を任せてみろよ」

「“怠ける”のと“時間を自由に使う”のは違うんだ」

「自分ですると決めたこと以外、何もしなくていい。頭も体も解き放つ。
 オレたちが幸せを感じるのは、そういう時間じゃないの?
 そういう時こそ、大切なことを思いついたりするんじゃないの?
 仕事に行く時の人間たちの顔を見てみろよ。暗いなんてもんじゃないぜ」

「でも、まったく仕事をしないで家にいると、人間は退屈してしまうんだ。進歩できないからね」


翌日来たレオは、村の犬たちの遠吠えで眠れなかったという。


●言葉を話すということ

「それは、犬も社会を作って、話し合っている証拠だろう?」

「ほんとうの意味で話ができるのは人間だけだよ!
 気持ちは伝わるだろうけど、話すのは違うよ。
 話すというのは、目の前にないものや、存在しないものまで伝えることなんだ。
 今を基準にして、過去や未来を区別できなきゃならない」

「だけど、ありもしない話ができるのは、ウソをつけるってことじゃないか。
 オレたちは相手を騙したりしない。

 それに、未来が想像できるってことは、いつか死ぬことや、これから先に起こる苦しみまで想像できてしまうんだろう?
 幸せになりたいなら、しっかり今を生きるべきだよ!」



「話すのは信号とは違う。会話しながら考えをつなぎあうのさ」

「ミツバチはダンスで仲間にいくつもの情報を伝え合っているじゃないか」

「だけど、ミツバチはいつも同じことしか伝えないだろ。
 人間は存在しないものを言葉で表現して、またどんどん新しいものを作りだせる。
 未来を予測して、経験をもとに、理論を引き出すことができる。
 理性を持っているのは人間だけなのさ」


●人間は理性的?

「先生、あんたの腹って、ちょっと出すぎだと思わないか?w
 あんたは痩せなくちゃならないと知っているけど、そのために何もしていない。
 つまり、理性に反する行動をしているわけだ。

 理性的ってのは、いろんな欲求とうまくバランスをとって暮らしていくことじゃないの?
 ちゃんとした食事をして、心も体も元気でいることは、幸せでいるために必要なのさ!」


●本能と文化

レオは、友だちの犬ビリーに「ネギ」と「骨」という言葉を覚えさせようとした(!)けれども、
ビリーはちっとも理解した様子はない。

それを見ていた哲学者は

「猿は教えれば手話を使えるようになるけど、話せるようにはならない。
 せっかく言葉を覚えても、受け継ぐことができないんだ。
 人間だけは知識を、子どもに伝えることができる。それが文化なんだ。
 だから人間の子どもは学校に行かなきゃならない

「オレはつくづく犬でよかった! 人間の子どもはお気の毒。
 オレは教えてもらわなくても、自分に必要なものは自然と分かる」

「それは生まれつき持っている能力を使っているだけだろ? 人間はそれだけじゃ満足できない。
 ぼくらは自然を利用する。本能だけでは出来ないことを出来るようにするためにね。

 人間は技術のおかげで自然の言いなりにならないで済むようになった。
 火は寒さから守り、ワクチンのおかげで病気にならずにすむ。
 そうやって少しずつ自由になったんだ」


●人間は自由?

「あんたがさっき話した文化こそ、規則や義務のかたまりじゃないか。
 自然から自由になっても、社会の規則の奴隷になっていれば世話ないよ!

 偽善者め! 隣りの奥さん、めちゃくちゃイヤな奴じゃないか。
 でもあんたは、嫌いな人にまでヘラヘラしてたぞ。
 ぜったい人間より犬のほうが自由だ!」

「まあ、周りとうまくやるためさ。集団で暮らすためには規則がいるんだよ。
 人間が自由なのは、自分たちが決めた規則の枠の中で、好きなように選ぶことが出来るからなんだよ」

「先生は自由、先生は選んでいる、か。でも、実際はテレビや広告に操られてるじゃないか。
 考えるのがいつも遅すぎるんだよ。

 あんたの言う“文化”は、不必要な欲望が積み重なってできている。
 人間は選ぶどころか、手一杯に抱え込んで、振り回されてるんだ。

 カシミアのセーターに、イタリア製の靴、スイス製の時計
 それって全部、人の目を気にしているだけだろう?」


哲学者は、レオのやる真似をして、外で四つん這いになってピクニックを楽しんでみた。


「人間はなにもかも本能のままには生きられないんだ。
 火の通ってないものを食べることはできない。寒くなれば、温かいベッドで眠りたいよ
 100%自然に戻りたいとは思わないな」

「人間でいるには、ずいぶんいろんなモノが必要なんだな。
 人間はたいへんな努力をはらって、やっと人間になるんだ」

「レオ、君は人間になりたいかい?」

「ごめんだね! あんたは? 犬になりたい?」

「いや。世界一弱い動物だけど、ぼくは人間のままで、自然にもらえなかったものを身につける努力をしていきたいよ」

「じゃあ、オレたちはお互い自分で満足しているってわけだ!」



[あとがき]

プラトンは、プロタゴラスが語った神話をまとめた。それによると、、、

神々はプロメテウスとエピメテウス兄弟に、すべての動物に生きるための能力をさずける役目を与えた。

うっかり者のエピメテウスは、動物たちに気前よく能力をさずけすぎて、最後、人間に与えるべきものがなくなってしまった。
兄プロメテウスは、何1つ身を守るものがない人間を哀れに思い、火と鍛冶の神ヘパイストスと、
技術と知恵の女神アテナから、技術と知恵を盗んで人間に与えたという。


●「知的労働者(学者、弁護士など)」と「技術労働者(職人、大工など)」
真の技術を持っている人というのは、自分がこうしたいと思ったとおりに仕事をしあげられる人。


[本書に出てくる哲学者とその言葉]

アリストテレス:「万学の祖」と呼ばれる。派手な装飾品を好んだと言われる。

ヘーゲル:19Cの最大の思想化と言われる。若い頃のあだ名は「老人」。

デカルト:「我思う、故に我あり」が有名。言葉を話せるのは人間だけと言った。朝寝を習慣にしていた

エピクロス:幸福こそ善で、人生の目的だと説いた。

「明日の心配をしない者こそ、明日を楽しく迎えられる」

クロード・レヴィ・ストロース:2009年、満100歳にして死去。

トマス・ホッブズ:国家がなければ、「万人の万人に対する戦争」が生じると説いた。

「武器をもって旅をするとき、人はおなじ国に暮らす人間をどう思っているのか?
 入り口にカギをかけて眠るとき、おなじ町に暮らす市民をどう思っているのか?
 家の金庫にカギをかけるとき、家族や召使いをどう思っているのか?」

イマヌエル・カント:毎日、決まった時間に散歩するので、街の人は彼を見て、時計を合わせたという。

ハンナ・アーレント:ナチスによる迫害から逃れ、フランス、アメリカに亡命。

「真実を言う能力より、ウソをつく能力のほうがむしろ、人間が自由であることのはっきりした証拠だ。
 私たちは、自分が生きる環境を変えられる。なぜなら環境に対して、人は比較的自由だからだ。
 ところが同時に、私たちはウソがつけるゆえに、自由を悪用して、歪めてしまうこともできる」



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