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『失われた猫』(光文社)

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『失われた猫』(光文社)
森博嗣/作 佐久間真人/画


以前読んだ『猫の建築家』の姉妹作とのこと。

飲みかけのコーヒー、夜の明かりなど、“ヒトの気配”はあるものの、絵の中にやはり1人も出てこない。
そして、いつも時計の針が0:30?(17:00?)なのはなぜだろう?
なんだか、ヒトが一瞬にして消えてしまった街のように思えてくる。



途中から、白猫と斑猫の時間が違うこと、2匹が親子だと分かる。
白猫さんはメスだったんだ/驚

白猫の歩いていた道にはまだかすかに自然が残っているが、
斑猫の歩いている道は、端から端まで建造物、コンクリート、鉄で埋め尽くされている。

前作よりさらに謎めいた文章は、詩に近い。
そこには著者の哲学が感じられる。

前作同様、日本語と英語の文章があり、
英単語の使い方にもある種のセンスが感じられて勉強になる。


【内容抜粋メモ】


この写真から、飼い猫だと分かる

この猫はいつも美について考えていたから
自然に白くなった。
自然というのは、ありのままという意味だ。


斑の猫は革命家だった。
猫はときどき分裂する。
しかし、この猫は、いずれは分裂しない世の中が来る、と期待していた。
(He expected that someday, there would be a better world with no need of splitting.)

(手紙が届いて、白猫は、いつか会った“伝説の猫”を探しに出る。


猫はいつも遠くを眺めている。
それでも、すぐ近くにいる革命家には気づかない。


一番大事なことは、運命と自分の一致だ。


(斑猫は、白猫の通った道に懐かしさを覚える


猫にとっては、予感は常に真実である。
そして、真実はすなわち運命になる。


「追憶」は、そこかしこに染み出ている。
「余震」は、トンネルの闇に響いていた。


運命も伝説も、見つけるだけのものであって、
変えることはできない。



やっと顔が見れた


予感はいずれ運命を連れてくる。

(白猫は革命を予感するが、なにも変わらない


毎日が、同じことの繰り返しだ。
猫たちは、夕暮れにはそう呟き合っていた。
結局は、なにも変わりはしない。


建築家は問いかける。

「君たち、毎日寝てばかりで良いのか?」

ただ、眺めるだけ、ただ呟くだけ。
それで本当に良いのか?


猫には未来を予感する能力があるはずだ。
それを何故活かさない?


どうして、もっと上を見ない?
もっと素晴らしいもの、
もっと美しいものがあると、
何故信じない?


そうか・・・
誰も、知ろうとしないのは、
誰も、予感していないからか。

失われた猫がいなければ、
すべてが、失われたままなのだ。


建築家は、斑の子供に、そっと呟いた。

「失われた猫を、見つけておくれ」




いつも、問いなさい。
いつまでも、問い続けなさい。
お前は、問うために、生まれてきた。
そうじゃないか?




この絵のタイトルは「憧れ(Adore)」




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