■『傑作選集13 空気の底』(秋田書店)
手塚治虫/著 初版1992年 1000円
※2002.5~ part2のノートよりメモを抜粋しました。
※「マンガ感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
初出誌はどれも『プレイコミック』で昭和43~45。
少年少女コミックを描いていたイメージが強い手塚が、大人(青少年)向けの作品も数多く残していたことに驚いた。
(なんだその偏ったイメージ![]()
とくに本書は、社会問題(人種差別、環境汚染等)や、幻想的で二重三重のトリックのあるミステリー、
SF、そして性愛にわたる多彩なテーマで、飽きさせない濃い人間ドラマが詰まっている。
とくに最後の話は、人に生まれ変わって再び愛し合っても、結局、成就せずに終わる。
地球もまた、水槽と同じ限られた空間だった、というオチが、なんとも哀しい余韻を残す。
▼あらすじ(ネタバレ注意
「処刑は3時におわった」
ナチス中尉レーバーは、ユダヤ人学者の発明した時間延長薬を飲んで処刑にのぞみ、倍の苦しみを味わう。
「ジョーを尋ねた男」
白人優越者ウィリーは、戦場で瀕死の重傷を負い、黒人の内臓移植を受けて命をとりとめた。
秘密を知る母を殺そうとして諦めた矢先に、黒人に撃たれて死ぬ。
「夜の声」
青年社長、我堀の趣味は、不良になって土日を過ごすこと。
家出少女ユリが転がり込み、想い合う。秘書にして雇い、妻にするが裏切られて撃たれる。
金を持って不良に会いに行くユリに別れの手紙を書く![]()
「野郎と断崖」
脱走犯は、若い夫婦と赤ん坊を人質にして、崖をおり、食べ物をおろすよう指示する。
夫婦を殺し、赤ん坊に情が移った男は、必死に崖をのぼり、息絶えるが、
それらは崖が見せた幻だった。
「グランドメサの決闘」
父の仇をうつため、早撃ちのエールと決闘し、親指を吹き飛ばされたスティーブは、
復讐のために法律家となり、母が父を追い出した事実を知り、父エールの死の床を看取る。
「うろこが崎」
島の岬にある穴に落ちると魚
になる伝説のとおり、子どもがウロコ人間になった。
近くの工場からの廃液が原因か?
「暗い窓の女」
近親相姦の兄妹。妹の上司が結婚を迫り、逆上した兄が殺し、刑事にバレたことを知り、
ビルから飛び降り自殺する。
「そこに穴があった」
殺人を犯したチンピラが飛行機事故に遭った瀕死の男を救って一躍有名になる。
トンズラするため、セスナを飛ばしてもらうが、男は発狂。
事故の原因は、彼自身の発作だった。
「わが谷は未知なりき」
外界から離れた谷に住む父と姉弟のもとへ流れ者の男がやって来た。
姉と愛し合い、谷を出ようとして、宇宙の果ての流刑星と知り、父を撃った男を姉が撃つ。
父の遺言は、自分のように姉弟で結婚して、子孫を残してくれというもの。
「猫の血」![]()
猫神を祀る片田舎の美しい娘タエを嫁にもらい、東京で暮らしはじめた須藤は、
動物じみたクセを直そうとするが、本能的に危険を感じた妻をおいて出張中、
東京に核爆弾が落ち、絶望にうちひしがれた夫のもとに焼けただれた猫が現れる。
「電話」![]()
学生紛争とマンガに明け暮れる赤学派の大沢の寮に、寺山という女学生から電話があり、
デートの約束をして行くとブサイクばかり。しかも敵対する青学派で、寺山は死んだという。
何度も騙された大沢だが、デモで死に、友にかかった電話で寺山と結婚すると言う。
「カメレオン」
エリート社員の月間は、会社の機密を盗み、謎の女に渡す。
離れ小島で行われる実験で、投薬を受け、知能の上がったモルモットは、食べ続けなければならない副作用を持つ。
人体実験された月間。女は月間に裏切られた男の姉。
父とともに小島に来たヘリを一瞬にして爆破される。
「聖女懐妊」
別の星で研究する男と、身の回りの世話をするロボット・マリアは結婚し、
賊の侵入で男は殺され、マリアは子を産み、賊を殺す。子は夫の生まれ変わりか?
「カタストロフ・イン・ザ・ダーク」
売れっ子DJの田所は、自分の熱狂的ファンの女性がマンホールに落ちて死ぬのを黙認したことで
良心の呵責から妄想を見るが、すべてはDJに憧れる少年が穴に落ち、瀕死の状態で見ている幻だった。
「ロバンナよ」
作者が恋人の研究家・小栗を訪ね、突然の嵐で一晩泊まることに。
気の狂った妻が飼っているロバを殺そうとしたのを目撃する。
妻は、夫がロバを愛する変質者だと言うが、男は転送装置の実験ミスで
妻とロバの心が入れ替わったという(映画『ザ・フライ』みたい)
妻が部屋にガスを流して爆発。男とロバは死に、妻は入院。
「ふたりは空気の底に」
愛し合う水槽の中の魚2匹は、飼い主のタバコで死ぬ前に、今度はヒトに生まれ変わろうと約束する。
核戦争で地球は滅び、残されたシェルターで育った2人の男女は、テレビで育ち、愛を知り、
結婚式を挙げようと外に出て、放射能に侵された空気で倒れる。
「今度生まれるなら、こんな濁った空気の底じゃなくて、あの広い星の世界のどこかに住みたいねえ」
手塚治虫/著 初版1992年 1000円
※2002.5~ part2のノートよりメモを抜粋しました。
※「マンガ感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
初出誌はどれも『プレイコミック』で昭和43~45。
少年少女コミックを描いていたイメージが強い手塚が、大人(青少年)向けの作品も数多く残していたことに驚いた。
(なんだその偏ったイメージ

とくに本書は、社会問題(人種差別、環境汚染等)や、幻想的で二重三重のトリックのあるミステリー、
SF、そして性愛にわたる多彩なテーマで、飽きさせない濃い人間ドラマが詰まっている。
とくに最後の話は、人に生まれ変わって再び愛し合っても、結局、成就せずに終わる。
地球もまた、水槽と同じ限られた空間だった、というオチが、なんとも哀しい余韻を残す。
▼あらすじ(ネタバレ注意

ナチス中尉レーバーは、ユダヤ人学者の発明した時間延長薬を飲んで処刑にのぞみ、倍の苦しみを味わう。

白人優越者ウィリーは、戦場で瀕死の重傷を負い、黒人の内臓移植を受けて命をとりとめた。
秘密を知る母を殺そうとして諦めた矢先に、黒人に撃たれて死ぬ。

青年社長、我堀の趣味は、不良になって土日を過ごすこと。
家出少女ユリが転がり込み、想い合う。秘書にして雇い、妻にするが裏切られて撃たれる。
金を持って不良に会いに行くユリに別れの手紙を書く


脱走犯は、若い夫婦と赤ん坊を人質にして、崖をおり、食べ物をおろすよう指示する。
夫婦を殺し、赤ん坊に情が移った男は、必死に崖をのぼり、息絶えるが、
それらは崖が見せた幻だった。

父の仇をうつため、早撃ちのエールと決闘し、親指を吹き飛ばされたスティーブは、
復讐のために法律家となり、母が父を追い出した事実を知り、父エールの死の床を看取る。

島の岬にある穴に落ちると魚

近くの工場からの廃液が原因か?

近親相姦の兄妹。妹の上司が結婚を迫り、逆上した兄が殺し、刑事にバレたことを知り、
ビルから飛び降り自殺する。

殺人を犯したチンピラが飛行機事故に遭った瀕死の男を救って一躍有名になる。
トンズラするため、セスナを飛ばしてもらうが、男は発狂。
事故の原因は、彼自身の発作だった。

外界から離れた谷に住む父と姉弟のもとへ流れ者の男がやって来た。
姉と愛し合い、谷を出ようとして、宇宙の果ての流刑星と知り、父を撃った男を姉が撃つ。
父の遺言は、自分のように姉弟で結婚して、子孫を残してくれというもの。


猫神を祀る片田舎の美しい娘タエを嫁にもらい、東京で暮らしはじめた須藤は、
動物じみたクセを直そうとするが、本能的に危険を感じた妻をおいて出張中、
東京に核爆弾が落ち、絶望にうちひしがれた夫のもとに焼けただれた猫が現れる。


学生紛争とマンガに明け暮れる赤学派の大沢の寮に、寺山という女学生から電話があり、
デートの約束をして行くとブサイクばかり。しかも敵対する青学派で、寺山は死んだという。
何度も騙された大沢だが、デモで死に、友にかかった電話で寺山と結婚すると言う。

エリート社員の月間は、会社の機密を盗み、謎の女に渡す。
離れ小島で行われる実験で、投薬を受け、知能の上がったモルモットは、食べ続けなければならない副作用を持つ。
人体実験された月間。女は月間に裏切られた男の姉。
父とともに小島に来たヘリを一瞬にして爆破される。

別の星で研究する男と、身の回りの世話をするロボット・マリアは結婚し、
賊の侵入で男は殺され、マリアは子を産み、賊を殺す。子は夫の生まれ変わりか?

売れっ子DJの田所は、自分の熱狂的ファンの女性がマンホールに落ちて死ぬのを黙認したことで
良心の呵責から妄想を見るが、すべてはDJに憧れる少年が穴に落ち、瀕死の状態で見ている幻だった。

作者が恋人の研究家・小栗を訪ね、突然の嵐で一晩泊まることに。
気の狂った妻が飼っているロバを殺そうとしたのを目撃する。
妻は、夫がロバを愛する変質者だと言うが、男は転送装置の実験ミスで
妻とロバの心が入れ替わったという(映画『ザ・フライ』みたい)
妻が部屋にガスを流して爆発。男とロバは死に、妻は入院。

愛し合う水槽の中の魚2匹は、飼い主のタバコで死ぬ前に、今度はヒトに生まれ変わろうと約束する。
核戦争で地球は滅び、残されたシェルターで育った2人の男女は、テレビで育ち、愛を知り、
結婚式を挙げようと外に出て、放射能に侵された空気で倒れる。
「今度生まれるなら、こんな濁った空気の底じゃなくて、あの広い星の世界のどこかに住みたいねえ」