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レイモンド・ブリッグズ『ジェントルマン・ジム』(篠崎書林)

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『ジェントルマン・ジム』(篠崎書林)
原題:Gentleman Jim by Raymond Briggs
レイモンド・ブリッグズ/著 小林忠夫/翻訳
初版1980年 1400円 初版1987年(日本発売?)(1987年 4刷)

※2000.9~ part4のノートよりメモを抜粋しました。
「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。


以前読んだ『マンガ学』で漫画家から“児童絵本作家”になったと皮肉られていたブリッグズ。
言わずと知れた『スノーマン』ほか、多数のベストセラーを書いた人。
今作は、『風が吹くとき』の前編ともいえる痛烈な社会風刺。

タイトルの“ジェントル”には「紳士」のほかに「トイレ掃除係」、
そして“gentleman of the road”で「おいはぎ」の意味にもなる。

今作に出る「レベル」とは、1951年、イギリスで作られた教育制度(GCE=General Certificate of Education 一般証明試験)、
中等教育修了共通試験とも言うべきOレベル(普通 16歳くらい)、Aレベル(上)、Sレベル(学問級)の3段階あり、
Sで大学進学の追加資格となる。Oは就職に大きく影響する(あとがきより)。


▼あらすじ(ネタバレ注意
ジムは、トイレ掃除の仕事を何十年もやっているが、常に刺激ある暮らしと、地位を夢見て、
新聞の求人欄を見るが、どれもレベル資格者のみ。
自分にはレベルがないことを気にする。

西部のガンマンになろうにも銃は高いし、、許可証もない。
本屋にすすめられた怪盗に憧れて、オモチャの鉄砲と釣り用ブーツ、ロバ(馬の代用)を買う。

そのロバのせいで、公道を荒したと、警察が来る。
ちゃんとした小屋を作れと、動物愛護協会も来る。
小屋は違法だと、調査官まで来て、ジムはすべてレベルがないせいの陰謀だと思う。

奇妙な格好で、早々金を取りに行くと、慈善と間違えられた挙句、不当な裁判により投獄される。


ジム夫婦が無知なのは、貧しさからだろうか、それとも前世代だからか?
ジムが妻に男らしく頼れるところをアピールするたびに悲しくなる。

黒澤映画『白痴』では、無知であるが故の純粋さ、高貴な心が描かれたが、
今作では無知であると自覚しているが故に生まれる自尊心の傷が悲しい。

ラスト、刑務所でトイレの専門になれて
「やっと自分が分かった」
と言うセリフがせめてもの救い。

人それぞれ、できること、できないことがあるし、仕事自体に優劣の差はなく、どんな仕事も立派だ。
自分の価値を見誤って、卑下するところに不幸の根源があったのかもしれない。



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