■『ROSE MELIE ROSE』(集英社)
MARIE REDONNET/著 菊地有子/訳 1987年
※1994.3~のノートよりメモを抜粋しました。
※「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
なんとなく雰囲気で読めるシリーズにハマってた時があって、見つけた作家。マリー・ルドネ。
▼あらすじ(ネタバレ注意
出版されたての、まさに現代を呼吸している本。
今、フランス文学が面白い。
女流作家によって書かれ、女性翻訳家によって訳され、日本で有数の大手出版社によって編集された
このなんとも魅力あふれる繊細でセンスある作品。
これを地元の平安堂で去年のいつかは忘れたけれど、偶然目にして、
そのまま惹きつけられるように買ったのもなにかの縁に思えてくる。
そして、今、読み終えて、これが私がこれから出そうとしている本の値より200円安いという安価なのが信じられず、
恥ずかしい思いさえする。
作品の解説は本書のラスト。
訳者によるもので、完璧ことは足りるが、私自身の記録として、
この“12”という不思議なナンバーで綴られた、
不思議な感動の物語りの復習をしてみよう。
▼あらすじ(ネタバレ注意
12人の登場人物
1.ローズ
年老いてからエルミタージュに移り住み、メリーを洞穴で拾ってから12年間育てた後に亡くなる。
土産物屋で生計を立て、メリーに文字ほか、あらゆることを教え、伝説の本を与える。『妖精の女王』
2.メリー
ローズに育てられ、12歳の誕生日に初潮を迎え、ローズの死を見届けてから、
伝説の本にローズが書き残した山の麓の町オアトの住所をたよって、
1人でエルミタージュを去る。
3.運転手
オアトにメリーをつれていってくれた黄色いトラック運転手。彼に処女を奪われる。
その後、再会するが、大陸へ去り、二度と会うことはない。
4.ネム
住所に住んでいる老人。その家は、かつてローズの部屋だったという。
図書館員で、そこで見つけた古書の翻訳に晩年を捧げるが失敗。
後は時間もメリーも自分自身すらも忘れて、姿を消す。
5.メリー
元宿屋の管理人。その宿屋ももとはローズのもので、彼女は3階に住んでいたと語るが定かではない。
メリーに大きな絵をプレゼントするが、模造品で、日に当たって白ばんで『メリーの大きな白い絵』となる。
体が弱り、病院で亡くなる。
6.マルト嬢
役所で働く野心も実力もある女性だが、過疎化するオアトの市長となっても、
過疎化を食い止められず、大陸のイル・ブルーの支配人も失敗し、失意のまま、
かつて蔑んでいたバストラングで働き、そのトイレで死体で見つかる。
メリーに“コンチネンタル”でダンスを教え、新しいアルファベットも教える。
7.写真家
マルト嬢に生涯片思いし続けた元建築家。
大陸の古い写真機の博物館を建てようとするが、マルト嬢の関心も引けず、
彼女が亡くなった後は、彼も死んだようになる。
メリーにポラロイドカメラを与える。
8.骨董屋
大陸とオアトに住居をもち、オアト中の家具、看板を買って、大陸にオアト博物館を建てる。
マルト嬢に代わってオアトの代表となり、広場もすっかり改造する。
メリーの看板を欲しがるが諦め、イエムとの仲人になり、宝石をプレゼントする。
9.イエム
伝説の本と同じ『妖精の女王』号で漁業を営む青年。
奇跡の船に守られて、北の海で大漁場を当てて、一時は大金をつくるが、
次第に魚がとれなくなってから「伝説の水路」の行方を追って出発したまま帰らない。
メリーの夫であり、ローズの父親。
10.コブ
イエムの育ての親ともいうべき、かつては一緒に漁をしていたが、歳をとり、
『妖精の女王』号をイエムに売った金でカモメ浜にバンガローを建て、ビュイックを買う。
イエムの旅を心配していたが、ある日、ヨットに乗ってどこかへ行ってしまう。
(たぶん、前半ちょっと出てくる彼も入っているんだ
11.ピム
コンチネンタルでメリーと出会う水夫。しばらく日曜日だけの付き合いを続けるが、
仕事で島を離れ、二度と会わない。
12.そしてローズ
イエムとメリーの間の娘。メリーと同じく、エルミネージュの滝のそばの洞穴でメリーが1人で出産し、
3日間いっしょに過ごした後、一人、彼女を置いて、メリーは川を下り、
カモメ浜のビュイックで血が止まらず、息を引き取る。
*
それから話の進行上、重要な材料だった写真12枚も記録する。
この伝説の本に、その12枚がそれぞれの頁にはさまれ、
次の世代のローズに手渡される。
メリー12歳から、なんと16歳で出産、死に至るまでの
短く濃縮された4年間という時間の経過、その証人でもあるこの12枚の写真。
その裏に古い、できるだけ小さくメリーによって書かれた文字がある。
12枚の写真
1.
「メリー、12歳、撮影はシゴーニュ通り一番地の写真家」
2.
「マルト嬢。白い毛皮の襟がついた黒サテンのスリムなドレスを着て、揃いの帽子をかぶっている。
コンチネンタルの前で、はじめてダンスに行った日に」
3.
「シャルム通り七番地。中庭にはバラ色の花びらが散り敷かれている。ネムは動いたので、画面から出ている」
4.
「メリーが最後の日々を送る病院。彼女は海に面したガラス窓を前にして寝ている」
5.
「夜、港にて、妖精の女王号、オトからの長い旅より戻る」
6.
「闇に輝くバストラング。でも、私はぜったいに行かない。
昨日、トラックの運転手が大陸に発つ前に、そう約束したからだ」
7.
「シャルム街の中央にあるシゴーニュ通り一番地。解体されるまで写真家が住んでいた家」
8.
「婚約中のイエムとメリー、海に面した未来の家の敷地で、土台作りが始まった日に」
9.
「カモメ浜に建つコッブの青いバンガロウ。妖精の女王号の元の持ち主」
10.
「ビュイックの正面。後ろの座席にいるイエムとメリーは見えない」
11.
「メリーの大きな白い絵」
12.
「メリー、結婚式の日にイエムが撮影。未来の家を前にして、背景には妖精の女王号」
*
なんてうら寂しい町だろう。
すべてが潟に飲み込まれ、浸水し、腐っていく
老人ばかりが残り、みな大陸へ渡ってしまった。
残った者は皆、過去を忘れたがっている。
人生をそれぞれの形で終結させようとして、実際、メリーの周囲の者は、
雲隠れか、死期を迎え、死に場所を求めて、姿を消す犬猫のようにかき消えてゆく。
メリーは一人、大陸には行くまいと固く決心していたのは、単にオアトからエルミネージュが見え、
ローズがそこへ行けと指示したしるしに従っただけだろうか?
両親を探すわけでもなく、ローズの遺した住所と、オアト周辺で暮らすメリー。
それは奇妙な偶然や、暗示的な4年間だが、彼女はとくに目的もなく、ローズの過去を知ることもなく、
はたして幸せだったのかと思うと切なくなる。
親のいない一風変わった環境に育っても、10代で一人で生きてゆく強さ、考え方のしっかりしたところがあり、
ローズは彼女をどう育てたかは詳しく描かれない。
もちろんフィクションなのだけれど。
そして、あらゆる場所にローズの痕跡があるのに、
誰一人、12年前以前の彼女を覚えている者はいない。謎のまま。
なんといっても、産まれた女の子を再び洞穴の中に置き、また誰かが拾って育てるだろう、
というストーリーが強く興味を引いた。
実際、若夫婦の観光客が滝に向かうシーンがあって、
どことなく絶望感とはかけ離れた大きなサイクル、カルマを感じさせる。
ビュイックの中で次第に死に至るメリーも、悲愴感よりもっと大きな神秘のようだ。
少女の視点から一貫して描かれていく様子。
それをいちいち記録して、写真に撮っていたのも、単なる偶然ではなかった予兆みたいなものだし、
とにかく全編を通して伝説的で、なんとも不思議な余韻が残った。
3時間ちょっとで読み終えてしまう、読みやすい上、淡々としているのに、
同性という興味もあって、これだけの印象を与え、後々の余韻が長く尾を引く。
ルドネの他の作品も、今作と関連があるという。早速チェックしてみたい。
その他の作品
『フォーエバー・バレー』
『スプレンディド・ホテル』
それから訳者が引用しているダ・ヴィンチの『聖アンナと聖母子』『岩窟の聖母』も観てみたい。
MARIE REDONNET/著 菊地有子/訳 1987年
※1994.3~のノートよりメモを抜粋しました。
※「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
なんとなく雰囲気で読めるシリーズにハマってた時があって、見つけた作家。マリー・ルドネ。
▼あらすじ(ネタバレ注意
出版されたての、まさに現代を呼吸している本。
今、フランス文学が面白い。
女流作家によって書かれ、女性翻訳家によって訳され、日本で有数の大手出版社によって編集された
このなんとも魅力あふれる繊細でセンスある作品。
これを地元の平安堂で去年のいつかは忘れたけれど、偶然目にして、
そのまま惹きつけられるように買ったのもなにかの縁に思えてくる。
そして、今、読み終えて、これが私がこれから出そうとしている本の値より200円安いという安価なのが信じられず、
恥ずかしい思いさえする。
作品の解説は本書のラスト。
訳者によるもので、完璧ことは足りるが、私自身の記録として、
この“12”という不思議なナンバーで綴られた、
不思議な感動の物語りの復習をしてみよう。
▼あらすじ(ネタバレ注意
12人の登場人物
1.ローズ
年老いてからエルミタージュに移り住み、メリーを洞穴で拾ってから12年間育てた後に亡くなる。
土産物屋で生計を立て、メリーに文字ほか、あらゆることを教え、伝説の本を与える。『妖精の女王』
2.メリー
ローズに育てられ、12歳の誕生日に初潮を迎え、ローズの死を見届けてから、
伝説の本にローズが書き残した山の麓の町オアトの住所をたよって、
1人でエルミタージュを去る。
3.運転手
オアトにメリーをつれていってくれた黄色いトラック運転手。彼に処女を奪われる。
その後、再会するが、大陸へ去り、二度と会うことはない。
4.ネム
住所に住んでいる老人。その家は、かつてローズの部屋だったという。
図書館員で、そこで見つけた古書の翻訳に晩年を捧げるが失敗。
後は時間もメリーも自分自身すらも忘れて、姿を消す。
5.メリー
元宿屋の管理人。その宿屋ももとはローズのもので、彼女は3階に住んでいたと語るが定かではない。
メリーに大きな絵をプレゼントするが、模造品で、日に当たって白ばんで『メリーの大きな白い絵』となる。
体が弱り、病院で亡くなる。
6.マルト嬢
役所で働く野心も実力もある女性だが、過疎化するオアトの市長となっても、
過疎化を食い止められず、大陸のイル・ブルーの支配人も失敗し、失意のまま、
かつて蔑んでいたバストラングで働き、そのトイレで死体で見つかる。
メリーに“コンチネンタル”でダンスを教え、新しいアルファベットも教える。
7.写真家
マルト嬢に生涯片思いし続けた元建築家。
大陸の古い写真機の博物館を建てようとするが、マルト嬢の関心も引けず、
彼女が亡くなった後は、彼も死んだようになる。
メリーにポラロイドカメラを与える。
8.骨董屋
大陸とオアトに住居をもち、オアト中の家具、看板を買って、大陸にオアト博物館を建てる。
マルト嬢に代わってオアトの代表となり、広場もすっかり改造する。
メリーの看板を欲しがるが諦め、イエムとの仲人になり、宝石をプレゼントする。
9.イエム
伝説の本と同じ『妖精の女王』号で漁業を営む青年。
奇跡の船に守られて、北の海で大漁場を当てて、一時は大金をつくるが、
次第に魚がとれなくなってから「伝説の水路」の行方を追って出発したまま帰らない。
メリーの夫であり、ローズの父親。
10.コブ
イエムの育ての親ともいうべき、かつては一緒に漁をしていたが、歳をとり、
『妖精の女王』号をイエムに売った金でカモメ浜にバンガローを建て、ビュイックを買う。
イエムの旅を心配していたが、ある日、ヨットに乗ってどこかへ行ってしまう。
(たぶん、前半ちょっと出てくる彼も入っているんだ
11.ピム
コンチネンタルでメリーと出会う水夫。しばらく日曜日だけの付き合いを続けるが、
仕事で島を離れ、二度と会わない。
12.そしてローズ
イエムとメリーの間の娘。メリーと同じく、エルミネージュの滝のそばの洞穴でメリーが1人で出産し、
3日間いっしょに過ごした後、一人、彼女を置いて、メリーは川を下り、
カモメ浜のビュイックで血が止まらず、息を引き取る。
*
それから話の進行上、重要な材料だった写真12枚も記録する。
この伝説の本に、その12枚がそれぞれの頁にはさまれ、
次の世代のローズに手渡される。
メリー12歳から、なんと16歳で出産、死に至るまでの
短く濃縮された4年間という時間の経過、その証人でもあるこの12枚の写真。
その裏に古い、できるだけ小さくメリーによって書かれた文字がある。
12枚の写真
1.
「メリー、12歳、撮影はシゴーニュ通り一番地の写真家」
2.
「マルト嬢。白い毛皮の襟がついた黒サテンのスリムなドレスを着て、揃いの帽子をかぶっている。
コンチネンタルの前で、はじめてダンスに行った日に」
3.
「シャルム通り七番地。中庭にはバラ色の花びらが散り敷かれている。ネムは動いたので、画面から出ている」
4.
「メリーが最後の日々を送る病院。彼女は海に面したガラス窓を前にして寝ている」
5.
「夜、港にて、妖精の女王号、オトからの長い旅より戻る」
6.
「闇に輝くバストラング。でも、私はぜったいに行かない。
昨日、トラックの運転手が大陸に発つ前に、そう約束したからだ」
7.
「シャルム街の中央にあるシゴーニュ通り一番地。解体されるまで写真家が住んでいた家」
8.
「婚約中のイエムとメリー、海に面した未来の家の敷地で、土台作りが始まった日に」
9.
「カモメ浜に建つコッブの青いバンガロウ。妖精の女王号の元の持ち主」
10.
「ビュイックの正面。後ろの座席にいるイエムとメリーは見えない」
11.
「メリーの大きな白い絵」
12.
「メリー、結婚式の日にイエムが撮影。未来の家を前にして、背景には妖精の女王号」
*
なんてうら寂しい町だろう。
すべてが潟に飲み込まれ、浸水し、腐っていく
老人ばかりが残り、みな大陸へ渡ってしまった。
残った者は皆、過去を忘れたがっている。
人生をそれぞれの形で終結させようとして、実際、メリーの周囲の者は、
雲隠れか、死期を迎え、死に場所を求めて、姿を消す犬猫のようにかき消えてゆく。
メリーは一人、大陸には行くまいと固く決心していたのは、単にオアトからエルミネージュが見え、
ローズがそこへ行けと指示したしるしに従っただけだろうか?
両親を探すわけでもなく、ローズの遺した住所と、オアト周辺で暮らすメリー。
それは奇妙な偶然や、暗示的な4年間だが、彼女はとくに目的もなく、ローズの過去を知ることもなく、
はたして幸せだったのかと思うと切なくなる。
親のいない一風変わった環境に育っても、10代で一人で生きてゆく強さ、考え方のしっかりしたところがあり、
ローズは彼女をどう育てたかは詳しく描かれない。
もちろんフィクションなのだけれど。
そして、あらゆる場所にローズの痕跡があるのに、
誰一人、12年前以前の彼女を覚えている者はいない。謎のまま。
なんといっても、産まれた女の子を再び洞穴の中に置き、また誰かが拾って育てるだろう、
というストーリーが強く興味を引いた。
実際、若夫婦の観光客が滝に向かうシーンがあって、
どことなく絶望感とはかけ離れた大きなサイクル、カルマを感じさせる。
ビュイックの中で次第に死に至るメリーも、悲愴感よりもっと大きな神秘のようだ。
少女の視点から一貫して描かれていく様子。
それをいちいち記録して、写真に撮っていたのも、単なる偶然ではなかった予兆みたいなものだし、
とにかく全編を通して伝説的で、なんとも不思議な余韻が残った。
3時間ちょっとで読み終えてしまう、読みやすい上、淡々としているのに、
同性という興味もあって、これだけの印象を与え、後々の余韻が長く尾を引く。
ルドネの他の作品も、今作と関連があるという。早速チェックしてみたい。
その他の作品
『フォーエバー・バレー』
『スプレンディド・ホテル』
それから訳者が引用しているダ・ヴィンチの『聖アンナと聖母子』『岩窟の聖母』も観てみたい。