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マリー・ルドネ『SILSIE』(集英社)

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『SILSIE』(集英社)
MARIE REDONNET/著 菊地有子/訳 1990年

※1994.10~のノートよりメモを抜粋しました。
「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。


『ローズ・マリー・ローズ』よりもっとつかみどころのない作品。“アンニュイ”というか。
読書をしているのかどうか、読み終えたとしても終わった実感もない。

けれども、マリー・ルドネの他の本も読みたいと思っているし、
このメモの書き方のスタイルも、どうにかすると作品と似てきてしまう。

「私は・・・」「私は・・・だ」ていう中学生の作文みたいなんだけど、話し言葉の「」は存在しない。
すべてはシルシーの“心象スケッチ”なのはローズのときと同じ。

だから終始単調ではあるけど、逆にリアルでもある。
忠実に人物を小説にすれば、他人になり代わることは出来ないのだから、
それはどこまでも自分、一人称の世界になる。

ルドネは若いのだろうか?
それとも彼女の心は、いつまでも10代後半のまま保っていられるのか?

若い女性のゆらゆらふわふわした心情、逆に突如として大胆な行動(好奇心からか深い意味はない)の描写が湧き出る泉のように新鮮。

主旨は、訳者があとがきで的確におさえているから十分だろう。
私も単純描写でなく、こんな風に的確に小説などの本質をとらえる力があったらいいのに。


▼あらすじ(ネタバレ注意



シルシーは同じ名前の友だち、親友とシアンの寄宿学校でともに過ごし、映画館に入り浸り、
(たぶん成人向けの作品のことだろう)を観ては、ボーイフレンドと遊んだりしていた。

新大陸へいつか一緒に渡るのが夢だったが、友は船の中で死体で発見される。
シルシーは、補助教員として友が詩のノートの1ページに書いた故郷の名前ドルムへ赴任を希望する。

列車では3人の人物に出会う。

新大陸の南北鉄道を建設して財を成し、故郷へ帰るコディさん、
叔母が新大陸の恋人のもとへ行ってしまい、遠い親戚を頼って一人で列車に乗り、トイレで泣いていた少女ロニー、
そして駅ごとに女の子に声をかける車掌さん。彼はドルムの駅長になろうと考えている。

しかし、それぞれの運命は暗礁に乗り上げていく。

テクスに建てたホテル・セントラルはすでに中心地から外れ、客もなく、借金を抱えてコディはショックを受ける。
やっとドルムに着くと、鉱山のあてが外れ、村もコディの好きな城も、ダムの底に沈んでいた。
学校も閉鎖、ホテル・デュ・グローブに泊まって、シルシーはロニーに勉強を教える。

ホテル経営者ジルダ夫人は、夫を早く亡くし、障害をもつディルという息子がいる。
ディルとロニーは無二の親友になるが、数字と文字が混ざってしまう障害をロニーは理解できずにいつもトラブルとなる。
湖から呼ぶ声に悩まされ続け、ディルはとうとうロニーを殺して、湖へ身を投げる。

停電のせいで水を抜いた湖底からディルの遺体が現れ、2人は同じ墓に入れられる。
夫人は新大陸へ。

技師は、鉱山で命を絶ち、コディの父は亡くなり、ホテルを通訳学校とする。
スイはデュ・グローブを継ぎ、車掌は南北鉄道に移ろうと考える。

シルシーはシアンにいったん戻り、プロビデンス号で新大陸を目指すが嵐で船は船長ごと沈み
ボートに見習い水夫と乗った彼女は漂流するが、それほど暗いエンディングではない。

人生の目的が見えてこないことを除けば。



自分は一体、何に向かっているのか?
それぞれ自分の運命を持ち、職業をまっとうする大人たちに混ざって、シルシーは何度も考える。

同年代の同性として、共感するところは多い。
ルドネのヒロインは、頼りな気だが、実は自分自身の芯のあるキャラクターが多い。

発展していく街。廃れて、忘れ去られてゆく町の対象を描いているが、
私には町とはすでにそのままあったもので、そのまま存続し続けるものに思える。
でも、そこに住む人々、仕事があるかないかによって、生まれたり、死んだりするものなんだな。

ロニーがどうして殺されたのか、それは解き明かされないまま。
なぜって、ヒロインが見ていない間の出来事だったから。

とても気にはなるが、障害と独りで闘いながらも、ロニーを愛したディルを憎めないし、泣きたくなってくる気がする。
不治の病の技師もそう。
シルシーのきれいな絹の下着がしみだらけになったワケも知りたい気がする。


死んだ村では、人々の心や生活も衰退の一途をたどる。
だが、そんな村を再び生き返らせるのもやはり人の力と知恵だ。

登場人物それぞれが新たな目的、夢、希望を持って、新たな出発をするラストにはホッとさせられる。


船長もまた死にとりつかれる者だが、対照的に真の船乗りを目指す見習いオフィサーと
新たな人生に向かっていくシルシーの乗った船は出発し、白紙の状態からの若い力や希望が感じられる。

そこでストーリーはプツンと切れてしまうが、その後、どこかの島にたどり着いたのだろうか?
新出発にしては心もとないシチュエーションではある。



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