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マリー・ルドネ『Nevermore』(集英社)

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『Nevermore』(集英社)
MARIE REDONNET/著 柴田都志子/訳 初版1995年 1200円

※1997.10~のノートよりメモを抜粋しました。
「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。


登場人物:
ウィリー・ボスト 補佐官
キャシー・マッキー 『バビロン』歌手
ロニー・バーク 署長
ダニー・サパン ガゼット誌記者
アンデルス 神父
ハードレー頭取 フラー銀行頭取・知事
パター 裁判長
ローザ・ドア 往年の映画『エデン・パレス』と同名のバーオーナー兼歌手

ドローヴ・ラングラー 修理屋、グラン・ガラージュ主人
ジーナ・コール ガラージュ 会計員、実はゴッブスの手先
ドラ・アター サーカス後継者、ゴッブスに売却、半身不随、『バビロン』オーナー
トニ・ランドリ ロスフェル映画会社の監督
スティヴ・レンツ

フューシュ・サーカスメンバー:
リジー・マリク 元軽業師、事故後『メゾンドール』女主人、『エデン・パレス』夜勤
マティ 元衣装係、天使の入り江でスナック経営
ファビオノニーノ ニーナの養子、奇術師
ニーナ 女巨人、後に占い師
ゴッピー せむし男、ドラにそそのかされてリジーのロープを切断



ルドネは群像劇を描くのを得意としていて、ある町の事件を追ったら、
大勢の関係者がいるのは自然だろうけど、本当に登場人物が多い。
きっちりついていかなきゃ誰だか分からなくなる上、
ミステリーの醍醐味である謎解きの楽しみを味わえないから必死。

常に崩壊していく町を描く作者が、今回選んだのは、火山の麓の小さな町。
読めば読むほど、過去の傷を背負う人物は、ノンストップの渦に飲み込まれて戻れなくなる。

しかも、流れるのを止め、腐るばりの濁った水の中に、
最後はクリスティの『そして誰もいなくなった』みたいに、
登場人物の大半は悲惨な死を遂げ、数人しか生き残らない。

それでもなお、火山復興、映画による活性化、新しい知事に寄せる期待、
これほど連続殺人事件が相次いだとは思えない町の人々のたくましさ(!?)はスゴイ。

殺人事件の真犯人より、ウィリーやキャシーの過去のほうがよっぽど気になって
ラストにピッタリの因果関係が明かされるだろうと必死に読んでいたら、
結局明かさずじまい・・・ちょっとショック。

全作通じて、会話文のない一切飾りを排した詩的な寓話。
浮かんでは消える人物たちに、今作はハードボイルドな主人公の男と、
性、暴力、政治汚職、かなりショッキングなシーンが多い。


▼あらすじ(ネタバレ注意

上層部になぜか嫌われていて、希望でもないサンローザに赴任されたウィリーは、
故障したクルマを牽引してもらいキャシーと出会う。

署長に紹介してもらったリジーの下宿でも2人は隣り同士となる。
ウィリーは、いきなり初日の晩にリジーと関係を持つ(こんな奴いるか?

キャシーは、元刑務所に服役。『バビロン』の歌手に雇われ、
初日、ドラとハードレーに性的暴行を受けるが、他に行くあてもなく3ヶ月契約を結ぶ。

ロニーは、ローザに常軌を逸した肉欲を抱いていて、ずっと関係していたが、
彼女から別れを告げられ、今まで彼女の頼みで目をつぶってきたハードレーの闇取引と
前任者がサーカステント外れの公衆トイレで死亡してお蔵入りした事件について
補佐のウィリーと調査をはじめる。

リジーは華々しい軽業師だったが、命綱を切断されて1年も入院後、
人為的だという訴えは妄想と片付けられてから、ずっと犯人を捜している。

女巨人ニーナは、死の床で、犯人はリジーの恋してたファビオが知っているが行方知れずだと明かす。
ニーナの死後、ニーノも後を追い、団長を失って絶望したゴッピー。

ウィリーはジーナとも関係し、公衆トイレで刺殺されたハードレーを発見。

同じ暗い過去をもつマティとキャシーは仲良くなり、ダイビング仲間でもあったが、
キャシーはマティのスナックが全焼しているのを発見。

その後、火山に登る(行動が突飛だな)
そこで町のドキュメンタリーを撮るスティヴに会う。

ウィリーは町に戻ったファビオから、リジーの事故はドラにそそのかされたゴッピーの仕業だと告白を聞く。
マティの死体を発見した署長は、彼女への想いに初めて気づき、ショックで追い詰められる。

ウィリーは、こんな時にまたジーナと会い、その時、事件を逐一メモった手帳をとられる。

ゴッピーは後悔と絶望から公衆トイレで首を吊り、全焼。

その夜、キャシーはウィリーを訪ねて関係をもつ。


知事選の演説第一声が行われ、ゴッブスらはゴッピーの証言ビデオでドラとパター組を蹴落とし、
逆に彼らに船上でのゴッブスの(たぶん)乱交ビデオで面目をなくす。

強制収容所で司祭をしていたことを暴かれた神父は、
神にサンローザの滅亡を訴えて塔から飛び降りる(何がいけないのかな?!

署長は一連の事実を本にして、辞職後はローザと改めて会うつもりが、心臓を撃たれて死亡。
自殺と片付けられる(この犯人は不明)


ファビオ、リジーは再び軽業師として辺鄙な駅を改造して、サーカステントを張る。

知事は、自動的にパター所長となり、当選日、バビロンが爆破されドラが死亡。リジーの復讐心ははれる。

火山も爆発し、火山地区を壊滅後に死火山となる。


売られたエデンパレスをジーンが買い取り、ゴッブスは文芸委員となる(!

キャシーとウィリーは久々再会する。

マティが見せたがっていた海底に眠るクジラの骨を見た後日、
ウィリーが署長からもらったマンゴール号が無人のまま漂流しているのを発見。
キャシーも姿を見せなくなった。



小さな町でそれぞれ有名で、親しい関係にあっても、素性を知らず、実際は他人に等しかった。
このストーリー中の人物関係はすべてそんな風だ。

p125 署長の思いにひっかかる。

「貪婪(どんらん。ひどく欲が深いこと)な肉欲に溺れるかわりに淡々と愛せなかったのか。
 マティの死は愛のメッセージだった。
 自分が人を愛せなかったのは肉欲のせいであり、愛の大敵は肉欲であることを理解する」


キャシーの思い:
「自分に欠けているのは、そんな遺産と記憶だ。
 ウィリーにあれほど親近感を持ったのも、彼にもそれがないからだ」

2人は絶望的な共感からともに死を選んだのだろうか?


ルドネの簡潔な説明文体の中には、読むほど新たな謎解きのヒントが隠れていそうで気にかかる。

ウィリーの両親も軽業師で、祖父と客席で拍手した時から記憶がぼやけている。
祖父は強制収容所で首吊り自殺。
ナチスドイツでもないのにアメリカっぽい舞台での強制収容所とは一体なにか?


今作は、ダニロ・キシュというユーゴ作家に献辞している。
彼の父は、第二次世界大戦のアウシュビッツで死亡しているそうだ。
この事と関係があるのか?

作品を重ねるごとに次第に関係しながら変遷してゆくルドネ独特のスタイルにより、他の作品への興味は尽きない。
彼女の文体と、描き出す退廃的な町、男女の因縁的な愛憎劇は、一度ハマると止まらない魅力がある。



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