■『天使の自立』(アカデミー出版)
原題 RAGE OF ANGELS by SIDNEY SHELDON
シドニー・シェルダン/著 天馬龍行/訳
※1994.10~のノートよりメモを抜粋しました。
※「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
(この作家流行ったよなあ! 引き込まれるように読んでいた記憶がある 2016
面白い!!
数年前“超訳”(この言葉も定着しつつある)というキャッチフレーズで
日本の書店に並んでから、新作が書かれるたびに上下巻、お決まりのスタイル、派手な宣伝コピー
かっぱえびせんの何世代にも渡る美味しさを語る名文句“やめられない止まらない”に通じるものがある
その期待は破られるどころか、何倍にもなって返ってくる
まさにアメリカを代表する売れっ子作家
唯一見る顔は、成功に笑いが止まらないといった感じのカバー写真だけだが、
プライベートな話題、次から次へと生み出されるヒットセラーの秘密などは日本までは届いていない
彼がラヴサスペンスを得意とする売れっ子作家なら、
もう1人のアメリカを代表する一級ホラー作家としてS.キングが存在する
翻訳本は必ず注目され、ベストセラーになる、現代を生きる大作家
どちらかと言えば、S.キングの読後感のほうがズッシリと重く、後まで引く充実感がある
一方、シドニーは、どんなに分厚くても、1日あれば、読み始めたら止まらない話の展開の面白さが売り物。
3時間2本組の長編映画、そのシナリオを読んでいる感じだ
それも、一級の美人と、ハンサムで実力もある王子様役の俳優による華々しいハリウッド映画。
観る者が思わず主役のシンデレラと運命を共にして、色男に囲まれて、
バリバリ働くヒロインになりきれる幻想が体験できるのも人気の秘密。
大抵の作品のパターンは決まっていて、賢く、美人で、それなりの節度があり、タフな現代的ヒロインと
彼女の魅力に引き寄せられるエリートまっしぐら、上昇志向、とびきりハンサムでセクシーな男たちとの運命ゲーム
作者は決まってヒロインを幸福の絶頂にまで登らせておきながら、
とんでもない運命のイタズラによって奈落のどん底へと突き落としてしまう。
だから、ヒロインが天上の喜びに浸っている時ですら、我々読者は、けっして気を許せないばかりか
悪いほう悪いほうへ先読みしてしまう
そうして、やはりシドニーに選ばれたヒロインは、トラブルに首までハマってしまうほか道はない
私たち読者を作品の世界にいやおうなく引きずりこんでしまうために!
今回は、とくに弁護士、検察官らを登場人物とする、私の好きな法廷劇
作者も言うとおり、アメリカでは何をするにも、とりあえず弁護士が必要となっている時代
日々、秒単位で起こる残虐な犯罪も、すでに映画や小説の中のフィクションではなく、隣り合っている現実だ
正義とは何か?
何度も引き合いに出されるこの問いかけが、改めて今作でも個人のモラルに問いかけてくる。
でも、難しいことはナシにして、1人の女性の半世、激動の人生としても十分楽しめる
よく耳にするとおり「アメリカ映画の裏には、何も隠された深い意味はない」という言葉みたいに
一番のハイライトは、愛する男との思い出のひとつぶ種、目に入れても痛くない可愛がりようの息子ジョシュアが
異常犯に誘拐され、殺される危機にさらされる場面
時間のカウントダウンが聞こえてきそうな、切迫したシーンと、
そのジョシュアが小さな事故によって、本当に突然、永遠に天に召されてしまうシーンには
茶目っ気のある可愛い彼の様子が折に触れて語られた後だけに、
独身者で、子どもをもったことのない女性でも母性本能なんてものが湧いてきて、涙を流さずにはいられない
シドニーのヒロインの真実の恋愛は、常にロミジュリの神話のごとく、永遠に引き裂かれてしまうものが多い
しかし、それぞれが自分の選んだ道に責任をもって進んでいくラスト
「芸は身を助く」じゃないけど、女一人、故郷で再出発を誓うヒロインのタフさには脱帽するとともに
これからの現代女性の姿を重ね合わせ、同性として「頑張れ」とエールを送りたくなる光の見える結末だった。
▼あらすじ(ネタバレ注意
幼い頃、母が家出し、町の有能な弁護士の父もショックから亡くしたジェニファーは、
法律学校を主席レベルで卒業し、マンハッタンの有名な法律事務所に引き抜かれ
マフィアの若きリーダー格のマイケル・モレッティが、まさにお縄頂戴という裁判で
重要証言人の男に、首の折れたカナリアを知らずに渡してしまったことで、すべてはオジャンに
執拗なデシルバ検事長は、彼女を目の敵にして、資格剥奪の手配をし、マスコミからも叩かれ
就職先も失い、どん底のジェニーを救ったのは、小さな探偵事務所を構えるケン・ベイリー
そこで一応、自分の名前で開業するが、資金もなく、田舎に帰ろうと思っているところに現れたのは上院議員
ゆくゆくは大統領候補と期待される刑事弁護人アダム・ワーナー
彼女の話を聞き、資格剥奪をとりさげたアダムは、事務所の共同経営者ニーダムの娘・メアリー・ベスと結婚していたが
何度か会ううちにジェニーと恋におちる
一方、マイケルは、平凡な靴職人の父や、貧乏な生活から這い上がり、遠い親戚にあたる巨大マフィア組織、
ゴッドファーザーともいえるグラネリの子分から、実力で今の座をしとめた
シシリア出の昔気質なグラネリの信用を得るため、彼の娘とも結婚しているが
興味はタフで美人なジェニファー・パーカーだ
ジェニーとの仲を知ったメアリーベスは、最初アダムとの離婚を承知しながら見事に騙した
ジェニーが妊娠すると同時に、ベスも身ごもり、選挙戦をひかえるアダムのうなぎのぼりの評判、
人生を壊すまいとジェニーは身を引く
子どもをおろそうと病院に行くがギリギリで中断
息子はジョシュア・アダム・パーカーと名づけ、異常な親ばかぶりで、父に瓜二つの子どもを可愛がる
7歳になるある日、保釈をとりやめたことを恨みにもった異常犯がジョシュアを誘拐し、死の宣告を母に伝える
ジェニーはマイケルに助けを求め、無事息子は助かり、代償として体を許す
孤独な生活にマイケルが入り、別れられないばかりかマフィアの弁護を受け始め、
仕事の良きパートナーであり親友のケンは離れていく
グラネリが死に、マイケルの天下となり、前弁護顧問コーファックスはおもしろくなく
消される命令を受けた子分が恩義のため見逃したのをきっかけに
コーファックスは警察側に情報を流し、一斉検挙が始まる
ジョシュアはメキシコ旅行の際、水上スキーのささいな転落事故が原因で数日後、手術の甲斐なく死んでしまう
5日間も息子の部屋に閉じこもっていたジェニーを、マイケルが助け、回復して間もなくアダムとの関係がバレ、
スパイと誤解し、アダムの暗殺を企てるが失敗
ジェニーはマイクに撃たれ、マイクはFBIにより撃ち殺される
アダムは大統領となり、ジェニーは田舎ケルソーに戻り、再び弁護士事務所を始める
*
ゲイだとバレて、妻に自殺されたことを傷に持っているケン・ベイリーは、
その後、二度とジェニーのもとを訪れなかったのかしら?
アダムは愛の消えた妻とともに大統領にまで上り詰めるけれども、心の中ではジェニーを愛し続けている
なんとなし、JFKとマリリンを思い出させる関係だ
本当に人を愛すると、自己を犠牲にしてでも相手の出世や幸福を願うものなのか?
私にはまだ理解しかねる
なにもかも投げうって愛する者と結ばれる、というのが小説の中のロマンスの相場だが、
これはもっと現実的に描かれている
マイケルにしても、現在の合法的事業を表に出して、暴力より知能犯であるのも、今のマフィアの現状を反映している
これは『ゴッド・ファーザー』を思わせ、弁護士コーファックス役にはロバート・デュヴァルが思い浮かぶ
シドニー作品は、映画にしやすいだろう
実際、S.キング同様、著書がベストセラーになると同時に映画化、ドラマ化されている
今作も映画化したらきっと面白い法廷劇+ラヴサスペンスとなることだろう
『明日があるなら』のドラマは良かったけど、『真夜中は別の顔』の映画?は期待したほどじゃなかったな
<映像>
『鏡の中の他人』(1993)
『真夜中は別の顔』(1977)
原題 RAGE OF ANGELS by SIDNEY SHELDON
シドニー・シェルダン/著 天馬龍行/訳
※1994.10~のノートよりメモを抜粋しました。
※「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。
(この作家流行ったよなあ! 引き込まれるように読んでいた記憶がある 2016
面白い!!
数年前“超訳”(この言葉も定着しつつある)というキャッチフレーズで
日本の書店に並んでから、新作が書かれるたびに上下巻、お決まりのスタイル、派手な宣伝コピー
かっぱえびせんの何世代にも渡る美味しさを語る名文句“やめられない止まらない”に通じるものがある
その期待は破られるどころか、何倍にもなって返ってくる
まさにアメリカを代表する売れっ子作家
唯一見る顔は、成功に笑いが止まらないといった感じのカバー写真だけだが、
プライベートな話題、次から次へと生み出されるヒットセラーの秘密などは日本までは届いていない
彼がラヴサスペンスを得意とする売れっ子作家なら、
もう1人のアメリカを代表する一級ホラー作家としてS.キングが存在する
翻訳本は必ず注目され、ベストセラーになる、現代を生きる大作家
どちらかと言えば、S.キングの読後感のほうがズッシリと重く、後まで引く充実感がある
一方、シドニーは、どんなに分厚くても、1日あれば、読み始めたら止まらない話の展開の面白さが売り物。
3時間2本組の長編映画、そのシナリオを読んでいる感じだ
それも、一級の美人と、ハンサムで実力もある王子様役の俳優による華々しいハリウッド映画。
観る者が思わず主役のシンデレラと運命を共にして、色男に囲まれて、
バリバリ働くヒロインになりきれる幻想が体験できるのも人気の秘密。
大抵の作品のパターンは決まっていて、賢く、美人で、それなりの節度があり、タフな現代的ヒロインと
彼女の魅力に引き寄せられるエリートまっしぐら、上昇志向、とびきりハンサムでセクシーな男たちとの運命ゲーム
作者は決まってヒロインを幸福の絶頂にまで登らせておきながら、
とんでもない運命のイタズラによって奈落のどん底へと突き落としてしまう。
だから、ヒロインが天上の喜びに浸っている時ですら、我々読者は、けっして気を許せないばかりか
悪いほう悪いほうへ先読みしてしまう
そうして、やはりシドニーに選ばれたヒロインは、トラブルに首までハマってしまうほか道はない
私たち読者を作品の世界にいやおうなく引きずりこんでしまうために!
今回は、とくに弁護士、検察官らを登場人物とする、私の好きな法廷劇
作者も言うとおり、アメリカでは何をするにも、とりあえず弁護士が必要となっている時代
日々、秒単位で起こる残虐な犯罪も、すでに映画や小説の中のフィクションではなく、隣り合っている現実だ
正義とは何か?
何度も引き合いに出されるこの問いかけが、改めて今作でも個人のモラルに問いかけてくる。
でも、難しいことはナシにして、1人の女性の半世、激動の人生としても十分楽しめる
よく耳にするとおり「アメリカ映画の裏には、何も隠された深い意味はない」という言葉みたいに
一番のハイライトは、愛する男との思い出のひとつぶ種、目に入れても痛くない可愛がりようの息子ジョシュアが
異常犯に誘拐され、殺される危機にさらされる場面
時間のカウントダウンが聞こえてきそうな、切迫したシーンと、
そのジョシュアが小さな事故によって、本当に突然、永遠に天に召されてしまうシーンには
茶目っ気のある可愛い彼の様子が折に触れて語られた後だけに、
独身者で、子どもをもったことのない女性でも母性本能なんてものが湧いてきて、涙を流さずにはいられない
シドニーのヒロインの真実の恋愛は、常にロミジュリの神話のごとく、永遠に引き裂かれてしまうものが多い
しかし、それぞれが自分の選んだ道に責任をもって進んでいくラスト
「芸は身を助く」じゃないけど、女一人、故郷で再出発を誓うヒロインのタフさには脱帽するとともに
これからの現代女性の姿を重ね合わせ、同性として「頑張れ」とエールを送りたくなる光の見える結末だった。
▼あらすじ(ネタバレ注意
幼い頃、母が家出し、町の有能な弁護士の父もショックから亡くしたジェニファーは、
法律学校を主席レベルで卒業し、マンハッタンの有名な法律事務所に引き抜かれ
マフィアの若きリーダー格のマイケル・モレッティが、まさにお縄頂戴という裁判で
重要証言人の男に、首の折れたカナリアを知らずに渡してしまったことで、すべてはオジャンに
執拗なデシルバ検事長は、彼女を目の敵にして、資格剥奪の手配をし、マスコミからも叩かれ
就職先も失い、どん底のジェニーを救ったのは、小さな探偵事務所を構えるケン・ベイリー
そこで一応、自分の名前で開業するが、資金もなく、田舎に帰ろうと思っているところに現れたのは上院議員
ゆくゆくは大統領候補と期待される刑事弁護人アダム・ワーナー
彼女の話を聞き、資格剥奪をとりさげたアダムは、事務所の共同経営者ニーダムの娘・メアリー・ベスと結婚していたが
何度か会ううちにジェニーと恋におちる
一方、マイケルは、平凡な靴職人の父や、貧乏な生活から這い上がり、遠い親戚にあたる巨大マフィア組織、
ゴッドファーザーともいえるグラネリの子分から、実力で今の座をしとめた
シシリア出の昔気質なグラネリの信用を得るため、彼の娘とも結婚しているが
興味はタフで美人なジェニファー・パーカーだ
ジェニーとの仲を知ったメアリーベスは、最初アダムとの離婚を承知しながら見事に騙した
ジェニーが妊娠すると同時に、ベスも身ごもり、選挙戦をひかえるアダムのうなぎのぼりの評判、
人生を壊すまいとジェニーは身を引く
子どもをおろそうと病院に行くがギリギリで中断
息子はジョシュア・アダム・パーカーと名づけ、異常な親ばかぶりで、父に瓜二つの子どもを可愛がる
7歳になるある日、保釈をとりやめたことを恨みにもった異常犯がジョシュアを誘拐し、死の宣告を母に伝える
ジェニーはマイケルに助けを求め、無事息子は助かり、代償として体を許す
孤独な生活にマイケルが入り、別れられないばかりかマフィアの弁護を受け始め、
仕事の良きパートナーであり親友のケンは離れていく
グラネリが死に、マイケルの天下となり、前弁護顧問コーファックスはおもしろくなく
消される命令を受けた子分が恩義のため見逃したのをきっかけに
コーファックスは警察側に情報を流し、一斉検挙が始まる
ジョシュアはメキシコ旅行の際、水上スキーのささいな転落事故が原因で数日後、手術の甲斐なく死んでしまう
5日間も息子の部屋に閉じこもっていたジェニーを、マイケルが助け、回復して間もなくアダムとの関係がバレ、
スパイと誤解し、アダムの暗殺を企てるが失敗
ジェニーはマイクに撃たれ、マイクはFBIにより撃ち殺される
アダムは大統領となり、ジェニーは田舎ケルソーに戻り、再び弁護士事務所を始める
*
ゲイだとバレて、妻に自殺されたことを傷に持っているケン・ベイリーは、
その後、二度とジェニーのもとを訪れなかったのかしら?
アダムは愛の消えた妻とともに大統領にまで上り詰めるけれども、心の中ではジェニーを愛し続けている
なんとなし、JFKとマリリンを思い出させる関係だ
本当に人を愛すると、自己を犠牲にしてでも相手の出世や幸福を願うものなのか?
私にはまだ理解しかねる
なにもかも投げうって愛する者と結ばれる、というのが小説の中のロマンスの相場だが、
これはもっと現実的に描かれている
マイケルにしても、現在の合法的事業を表に出して、暴力より知能犯であるのも、今のマフィアの現状を反映している
これは『ゴッド・ファーザー』を思わせ、弁護士コーファックス役にはロバート・デュヴァルが思い浮かぶ
シドニー作品は、映画にしやすいだろう
実際、S.キング同様、著書がベストセラーになると同時に映画化、ドラマ化されている
今作も映画化したらきっと面白い法廷劇+ラヴサスペンスとなることだろう
『明日があるなら』のドラマは良かったけど、『真夜中は別の顔』の映画?は期待したほどじゃなかったな
<映像>
『鏡の中の他人』(1993)
『真夜中は別の顔』(1977)