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『シンプル・プラン』(扶桑社ミステリー)

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『シンプル・プラン』(扶桑社ミステリー)
原題 A SIMPLE PLAN by SCOTT SMITH
スコット・B. スミス/著 近藤純夫/訳

※1994.10~のノートよりメモを抜粋しました。
「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。

Nさんから借りて、年末から今日(1.4)まで、ヒマな時間をとっても要領よく埋めてくれた
この弱冠28歳、初作にして、当日全部を売り切ったという快挙
S.キングもイチオシの作品

庶民が巻き込まれる大金騒動 フツーの人間が、欲や、恐怖、疑心によって、
それまでの道徳観さえ脆く崩れ、別のもっと自分に都合のいいものへ取って代わってゆくうちに
あれよあれよと殺人を犯して、罪を重ねていく様子

すべてが一連の輪になっていて、次から次へと、今度は加害者へと変わる
そのあまりに自然で必然的な殺人。

捕まるか?捕まらないか?が気になって、一気に読者をラストまで導いてしまう吸引力

仕事も、家庭も、幼い子どもまでいる普通の人間がやっているだけに
つい、ともすれば、そのまま逃げ切ってくれればと、同情さえしたくなる状況設定が上手い

誰かから罪を問われるよりも、苦しく長い自分自身の良心に対する後悔、不信感etc...

400万ドル使えて、身も心もスッキリできる終わり方ならよかったのに
と、つい思えてくるような重苦しさ
まるで、彼らと同じ重い罪を一緒に背負わされた気がする

一番冷静で、道徳的だったはずの人間が、連続殺人鬼並みに金を必要としていたなんて皮肉

途中、金銭感覚がズレていくシーンは、第三者の目で警告したくてたまらなかった
働いて貯めた3万ドルこそ真のお金で、バッグの大金は“夢”そのものなのだ、と。


▼あらすじ(ネタバレ注意

ハンクの結婚後すぐ、農場経営に失敗した父と母は、事故に見せかけて自殺した
遺書には、毎年必ず父の誕生日に兄弟で墓参りすること、という約束を、義理で守っている

ハンクと兄ジェイコブ、その唯一の親友ルウの3人で墓参りに行く途中
墜落した飛行機と、死んだ操縦士、そして400万ドルの現金を見つける

究極の貧乏で無職のジェイクとルウは、すぐ山分けして逃げようともちかけ、ハンクを説得する
結局、家族も仕事もあり、失うものが多いハンクが、6ヶ月間、金を保管して、
騒がれずに安心できたら使おう、という“シンプルプラン”をたてる

ハンクは誰にも口外するなと言うが、妻サラには話し、ルウは同棲中のナンシーに話す

サラは雪がとけて見つかった時のことを考えて、50万ドルは戻すように約束させ、
ハンクとジェイクは戻しに行くが、帰り道、農場主のピータースンがスノーモービルで通りかかり、
ジェイクは発見されるのを恐れて殴り倒す

死んだと思ったら虫の息で、ハンクは選択を迫られて、兄のため、お金のため、自分のため、家族のために
マフラーで彼を窒息させて橋から転落した事故に見せかける

2ヶ月もしないうち、ルウは競馬で2万ドルもすり、今、金を渡さないと、ピータースン殺しを喋ると脅す
サラの思いつきで、ルウに酒を飲ませ、自分が殺したと自白させる劇を演らせ、テープにとった。

それを知り、友の裏切りで逆上したルウは、銃でハンクを脅し、ジェイクは弟を守ろうとしてルウを撃ってしまう

ハンクは再びサラに助言を求め、騒ぎを見られたナンンシーも撃って、
家主のソニーとの浮気がバレて撃ち合ったと見せかけ、ソニーも撃つ

ジェイクを守ったつもりがうろたえる彼を見て、自白は時間の問題と思い、
ハンクは仕方なく口封じのために兄をも撃つが、急所を外して入院
重体から少しの後、兄も死ぬ

兄の愛犬メアリーベスを引き取ったが凶暴化し、娘アマンダは泣き通し

事件も騒がれなくなったある日、保安官カールとFBIだと名乗る男が飛行機の音がした場所へ案内してくれと言って来る。
サラのおかげで、彼は偽者と分かり、カールは撃たれる

金は娘の誘拐事件の時の身代金で、その娘は殺され、犯人の兄弟も決裂
逃亡中に墜落したこと、そして、その際、FBIは500枚の番号を書き写したことを聞かされる

時すでに遅く、安心したサラは飛行場近くの酒屋で100ドル紙幣1枚を使ってシャンパンを買ったと電話で知り
ハンクは強盗を装って、店員を脅すが、逆に反撃され、やむなく鉈で斬り殺し
その上、酒を買いに来て目撃した老婦人まで殺し、
金はすべて燃やして、証拠品はそのまま屋根裏に隠したまま5年が過ぎる

詐欺により買ったコンンドミニアムで貯金3万ドルをすべて失い、
2人目の子どもとアマンダは事故で障害をもつ




ああ、なんて悲愴で暗い結末!
罪の報い、天が罰したとも言えるけど、最終的に自分を苦しめるのは自責の念だっていう

ジェイコブとの特異な兄弟関係の描写も、自伝かなにかなのか、妙に複雑に屈折している

太り過ぎでいじめられていた兄ハンク。山分けの金で父の農場を継ごうとしていたジェイコブ。
兄は唯一の親友と、弟をかはりにかけて選択を迫られる

いつもどこか気恥ずかしい罪悪感を心の奥に育ててきたハンク
彼がよりどころにして、心から信用していた妻は、実のところ一番金を必要とし、
裏で操ってすらいたのがよく分かる

家庭に入って、未来すら見通しがついてくる生活
大金の出現によって、今まで幸せそうに見えていたはずのものがすべて陳腐に見えてくる

そんなものかもしれないけど、やっぱり手に余るような金は不幸しか呼ばないってことだね
自分で自分をコントロールできなくなるほど恐いものはないのでは?
訳者同様、映画も気になるけど、大きすぎる期待は禁物。


映画『シンプル・プラン』(1998)


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