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『五番目のサリー』(早川書房)

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『五番目のサリー』(早川書房)
原題The Fifth Sally by Daniel Keyes
ダニエル・キース/著 小尾芙佐/訳

※1993.6~のノートよりメモを抜粋しました。
「読書感想メモリスト」カテゴリーに追加しました。

(この頃は、多重人格ものにハマってた。
 今作は5人だが、20人以上、100人を超えている作品もあったな

 実際に、多重人格者は、本人の知らない言語を話したり、空白の時間に別人格が動き回っていたりするという話を聞くと
 つくづくヒトの脳はフシギだと思い、深層心理なども興味が尽きない 2016


▼あらすじ(ネタバレ注意

まったく現実にこんなことが起こり得るのかと驚きの連続で
読み終わってからフィクションだったと気がついた

どうりで所々セリフにせよ、成りゆきにせよ、なんだかフィクションぽい雰囲気が漂っていたし、
だからこそ実話で、さらに現在進行形のビリー・ミリガンのとは基本的に違った
シンプルで分かりやすい流れがあって、感動したことにはかわりはない

そして、実際、多重人格のケースは加速して発見され続け、
その大きな原因のひとつが、サリーと同じ幼児期の悲惨にして、信じ難い親、大人たちにあることも事実

それぞれの人格、そして精神科医ロジャーらに言わせているキイスのセリフには、
一度読んで本を閉じるには重すぎる数々の重要なカギ
人々の心を開き、謎のいっぱい詰まって、こんがらがった知恵の輪のような脳
精神の秘密を解くカギが隠されている

それぞれの人格が、幼い頃のサリーの心から分離して、生まれるキッカケとなるエピソードは
開いた口がふさがらないほどショッキングなものばかり


デリーは、父に騙されて、自分が一番可愛がっていた猫のシンデレラを、自分の手で絞め殺してしまったことから生まれた人格
ジンクスは、よりおぞましく、死期の迫った祖父にレイプされた恐怖と憤怒から生まれた人格、
勉強ができないコンプレックスから救ってくれた聡明なノラ、
学芸会で舞台に立ったら、人前に出てくれるベラ。


それら完全に個々のパーソナリティと、意識を持つ人格を1つ1つ融合させてゆく
それぞれに合った形で、納得させながら、核となるサリーと溶け合わせてゆく
ロジャーとのやりとりのシーンは、さらに魅力的


最初に性格的に近いノラ、次にベラには、サリーという最高の役を与えて、
もっとも好感のもてるデリーは、夢にまで見た『虹のかなた』へ
12時の鐘の音とともに走ってゆくシンデレラのイメージを与え、
彼女が本気で恋していた医師、prince charmingのキスで眠り姫は長い長い夢から覚める
新しい第3のサリーとなって

ジンクスのケースがハイライト
彼女の原始までさかのぼり、意識の始まりの話にはビックリしたけれども
苦しみや痛みを受けるパートを背負い、たった独りで荒野をさまよっていた彼女が
ラスト、サリーを許し、受け入れてゆく


主人公サリーが美人で、最初で最後の医師ロジャーがやもめのハンサムで
2人が立場を越えて親密な感情を持つようになるのはフィクションでしか成り立たないような
ビリーのケースには考えれない展開だが、それがとても自然に描かれていて、
つくづく女の心理をここまで掘り下げて書いているキイスの筆才の素晴らしさを感じる


ビリーはいまだに教師と分離した人格の間の微妙な位置にいるというところで辛うじて終わっているが、
今作では、医師と患者の努力の甲斐あって、すんなりとどの人格も1つに統合され、
「一人の人間で生活することの幸福」をかみしめ、新たな出発を前に希望をふくらませる主人公の
とても明るいエンディングになっている

実際は、もっと心の動きははかり知れないほど微妙で、いったんバランスを崩したハンプティダンプティを
他者が元通りに組み立て直すのは、もっと難しいことに違いない


過去に決定的な事件がなくても、変身願望的な幻は、誰の中にもある
「ああだったら」「こうだったらいいのに」
私たちの中には誰にでも別の人格が必ず潜んでいる

それらに、日々の生活を脅かされながら、時に不安定にもなるが、
崖っぷちでなんとなく安定した状態に抑圧し、コントロールされているだけなのだとすると、
なんだかとても不思議な感傷を覚える。



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