■『満月をまって(Basket Moon)』(あすなろ書房)
メアリー・リン・レイ/著 バーバラ・クーニー/イラスト 掛川恭子/訳
▼あらすじ(ネタバレ注意
メアリー・リン・レイ:
作家であり環境保護活動家
博物館の学芸員時代にアメリカの手工芸について研究
【著者あとがき 内容抜粋メモ】
100年以上前、コロンビア郡の山間に、かごを作って暮らしている人たちがいました
町の子どもたちは、親から、山奥に住んでいる「山ザル」に近づかないよう言われていました
町の人には、深い森は薄気味悪く思えたのです
なにしろすでにリップ・ヴァン・ウィンクルなど不気味な伝説が広まっていましたから
1950年代になると、かごに代わり、紙袋や、段ボール箱、ビニール袋が使われるようになりました
かごを作るのに使うトネリコも減りました
それにつれて、かごを作る人もどんどん減りました。
最後まで作っていた一人の女性も1996年に亡くなりました。
かごは今でも残っています
博物館、個人の納屋、アメリカの民芸品のコレクションの中に
いつまでも使えるよう、丈夫に作られたかごなのです
山奥に住む少年の父は、かご作りの職人で、馬も荷馬車もないため、満月の道あかりでハドソンに売りに行く
ここいらの土地は痩せていて、作物が作れない代わりに、かごを作る木はいっぱいある
トネリコ、オーク、ヒッコリー、カエデ
この辺りに住んでいるのは、少年一家と、ビッグジョー、クーンズさんだけ
山のもっと奥には、もう何家族かいるけど、顔を合わせることはめったにない
ぼくは8歳になった
毎日、父たちのやること、山の様子をよく見ている
ビッグジョーさんらは、山の木がしてくれた話をかわるがわるしてくれる
僕にはなんにも聞こえない
「きく耳があれば、きこえるよ」
9歳になり、父さんはかごを調べるような目で僕を見て、
「一緒に来てもいいだろう」と言ってくれた
山をおりると、リンゴの木が600本も並んでいて、石造りの家が並んでいた
ハドソンに着くと、金物店に行った 店の棚にはいろんなものがずらりと並んでいた
それから、母さんに頼まれたものを買いに行った
ぼくは色の洪水から目が離せなかった
ハドソンは、レンガと商売のにおいがした
腐ったようなにおいもした 川と船のにおいが
ぼくはハドソンはどんなところだったと母さんに話してあげようか考えていた
広場を歩いていた時、男の人が大声で怒鳴った
「おんぼろかご、くそったれかご、山ザルが知ってるのは、それだけだ」
周りにいた人たちも笑った
父さんは「しらんぶりしていろ」と言った
でも、家に帰るまで、僕の心には影がつきまとって離れなかった
男の人たちの笑い声が、カラスになって頭のまわりをグルグル飛び回っているようだった
次の朝、僕は父さんのかご作りを見に行く気になれなかった
ハドソンへなんか、二度と行くもんか
父さんにも、もう行かないでもらいたい
ぼくは、高く積み上げてあるかごを蹴飛ばした
「おんぼろかご、くそったれかご」
ビッグジョーは、かごを拾ってもとのように積み上げた
「風から学んだ言葉を、音にして歌いあげる人がいる 詩をつくる人もいる
風は俺たちには、かごを作ることを教えてくれたんだ
風は見ている 誰を信用できるか、ちゃんと知っているんんだ」
それを聞いた途端に、ぼくはハドソンの人たちのことなんかどうでもよくなった
風が選んでくれた人になりたいと思った
ぼくは山にいって耳をすました
夜になって静かになり「おいで」と風の呼ぶ声がきこえた
風がかごを編んでいるんんだ
朝、母さんが言った
「木が大きくなっていく いつまでたっても使えるかごが、たくさんできるね」
ぼくにはもう分かっていた
いつまでたっても使えるかご
ぼくの作るかごは、そういうかごだ
風がぼくの名前を呼んでくれたんだ
メアリー・リン・レイ/著 バーバラ・クーニー/イラスト 掛川恭子/訳
▼あらすじ(ネタバレ注意
メアリー・リン・レイ:
作家であり環境保護活動家
博物館の学芸員時代にアメリカの手工芸について研究
【著者あとがき 内容抜粋メモ】
100年以上前、コロンビア郡の山間に、かごを作って暮らしている人たちがいました
町の子どもたちは、親から、山奥に住んでいる「山ザル」に近づかないよう言われていました
町の人には、深い森は薄気味悪く思えたのです
なにしろすでにリップ・ヴァン・ウィンクルなど不気味な伝説が広まっていましたから
1950年代になると、かごに代わり、紙袋や、段ボール箱、ビニール袋が使われるようになりました
かごを作るのに使うトネリコも減りました
それにつれて、かごを作る人もどんどん減りました。
最後まで作っていた一人の女性も1996年に亡くなりました。
かごは今でも残っています
博物館、個人の納屋、アメリカの民芸品のコレクションの中に
いつまでも使えるよう、丈夫に作られたかごなのです
山奥に住む少年の父は、かご作りの職人で、馬も荷馬車もないため、満月の道あかりでハドソンに売りに行く
ここいらの土地は痩せていて、作物が作れない代わりに、かごを作る木はいっぱいある
トネリコ、オーク、ヒッコリー、カエデ
この辺りに住んでいるのは、少年一家と、ビッグジョー、クーンズさんだけ
山のもっと奥には、もう何家族かいるけど、顔を合わせることはめったにない
ぼくは8歳になった
毎日、父たちのやること、山の様子をよく見ている
ビッグジョーさんらは、山の木がしてくれた話をかわるがわるしてくれる
僕にはなんにも聞こえない
「きく耳があれば、きこえるよ」
9歳になり、父さんはかごを調べるような目で僕を見て、
「一緒に来てもいいだろう」と言ってくれた
山をおりると、リンゴの木が600本も並んでいて、石造りの家が並んでいた
ハドソンに着くと、金物店に行った 店の棚にはいろんなものがずらりと並んでいた
それから、母さんに頼まれたものを買いに行った
ぼくは色の洪水から目が離せなかった
ハドソンは、レンガと商売のにおいがした
腐ったようなにおいもした 川と船のにおいが
ぼくはハドソンはどんなところだったと母さんに話してあげようか考えていた
広場を歩いていた時、男の人が大声で怒鳴った
「おんぼろかご、くそったれかご、山ザルが知ってるのは、それだけだ」
周りにいた人たちも笑った
父さんは「しらんぶりしていろ」と言った
でも、家に帰るまで、僕の心には影がつきまとって離れなかった
男の人たちの笑い声が、カラスになって頭のまわりをグルグル飛び回っているようだった
次の朝、僕は父さんのかご作りを見に行く気になれなかった
ハドソンへなんか、二度と行くもんか
父さんにも、もう行かないでもらいたい
ぼくは、高く積み上げてあるかごを蹴飛ばした
「おんぼろかご、くそったれかご」
ビッグジョーは、かごを拾ってもとのように積み上げた
「風から学んだ言葉を、音にして歌いあげる人がいる 詩をつくる人もいる
風は俺たちには、かごを作ることを教えてくれたんだ
風は見ている 誰を信用できるか、ちゃんと知っているんんだ」
それを聞いた途端に、ぼくはハドソンの人たちのことなんかどうでもよくなった
風が選んでくれた人になりたいと思った
ぼくは山にいって耳をすました
夜になって静かになり「おいで」と風の呼ぶ声がきこえた
風がかごを編んでいるんんだ
朝、母さんが言った
「木が大きくなっていく いつまでたっても使えるかごが、たくさんできるね」
ぼくにはもう分かっていた
いつまでたっても使えるかご
ぼくの作るかごは、そういうかごだ
風がぼくの名前を呼んでくれたんだ