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『井上ひさしの 子どもにつたえる日本国憲法』(講談社)

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シリーズ子どもたちの未来のために『井上ひさしの 子どもにつたえる日本国憲法』(講談社)
井上ひさし/文 いわさきちひろ/絵

いわさきちひろさんの挿絵に惹かれて手にとってみた。
やわらかい絵と、分かりやすい言葉で書き表された憲法は、心の芯に染みて、
こんなに理想的な思想によって書かれた先進的なものだったのかと感動した。
付録に全文があるけれども、絵とともに意訳された前半部分のほうがよっぽど人の心を捉える


<内容抜粋メモ>
【はじめに】
昭和20年の日本人男性の平均寿命は23.9歳。女性は37.5歳。
兵士は戦死(そのうち2/3が餓死)、内地では空襲で焼死、幼児は栄養失調死。

教師も生徒に「きみたちも長くは生きられないだろう」と言い聞かせていた時代。
8月15日を境に「きみたちは30、40まで生きていいのです」と言われ、しばらく呆然とした。

剣より強いものがあって、それは戦わずに生きること。


【絵本 憲法のこころ】
「これだけは読んでおいてほしい」と思う前文と第九条を小学生にも読めるようにやさしくしてみた。

私たちは代わりの人たちに 国を治めさせることにした
その人たちに力があるのは 私たちが任せたからであり
その人たちがつくりだした値打ちは わたしたちのものである(p.18


どんな国も自分を守るために 軍隊を持つことができる
けれども私たちは 人間としての勇気をふるいおこして
この国がつづくかぎり その立場を捨てることにした

どんなもめごとも 筋道をたどってよく考えて
ことばの力をつくせば かならずしずまると信じるからである
よく考えぬかれたことばこそ 私たちのほんとうの力なのだ(p.27


【お話 憲法って、つまりこういうこと】
「憲法」は“この国のかたち”である、と思うのがいちばんぴったりくる。(p.34


「国民主権」(国のありかたをきめる権利は国民にある)
「基本的人権の尊重」(人が生まれながらにもっている権利を大事にする)
「平和主義」(戦争をしない、争いごとは武器ではなく話し合いで解決する)

いま、このうちのひとつが失われてしまえば、日本の憲法は、また別なものになってしまいます。
この三つをかんたんに変えてはいけないということをわかっていてください。(p.35


「自由」「生命」「財産」のことを「その者だけがもつ資産」といって、だれにも侵せない権利です。
そこで「きまり」をつくっておたがいに守り合うのです。

もし、日本という国がそれをしてくれなかったら、私は日本という国に文句をいうことができます。「抵抗権」(p.37


憲法は大まかに3つに分類できます。
明治時代の「大日本帝国憲法」は「欽定憲法」でした。
自由の上に必ず「法律の許す範囲において」と条件をつけているのです。

人民の力がもっと強くなると「協定憲法」ができます。
つまり、制定者は王様と人民です。

いまの日本国憲法は、「民定憲法」です。
弱者である国民に国家を止める力はありません。憲法が国家の暴走を食い止めているのです。
明治22年に発布され、実際、国民が権力者に命令するための憲法ができたのは、それから57年後の昭和21年のことだったのです。


第二次世界大戦に負けて、当時の文部省は「あたらしい憲法のはなし」という冊子を子どもたちに配りました。

「この憲法をつくったのは日本国民である」と書いてある。
政府が国民に命令するのではなく、国民が政府に命令しているんですね。


●「象徴」ってなんだろう?
憲法の第1〜8条は「天皇」についての決め事。
大日本帝国憲法では、天皇は、神と一体化された「現人神」だった。

日本が新しく出発するにあたりつくられた憲法では、「天皇は人間だった」と宣言し、
主権者は天皇ではなく、国民であることを強く打ち出した。(p.45


●第9条について
日本は正しいことを、ほかの国より先に行っているのです。
「平和主義」という考え方は、人類にとっての理想的な未来を先取りしたものだといえます。(p.47


●「個人の尊重」ってなんだろう?
憲法には「民主主義」という、大事な柱があります。
「民主主義」とは、何かを決める時に、国家に命令されるのではなく、自分たちで決めるということ。

憲法第11〜13条や、第97条では、国民ひとりひとりは大切にされます、といっています。
これを「個人の尊重」といいます。

「個人の尊重とは、この世に生まれたひとりひとりが、自分であることを尊んで、
 自分が自分でなくなることをおそれること」(憲法学者・樋口陽一


●「日本人」であるということ

「ほかの人に迷惑がかからなければ、私たちはどんなところに住んでもいいし、どんな仕事を選んでもいい」(第22条

みなさんは、日本で生まれたから日本人なのではなく、じつは日本を選んで住んでるんです。
私たちが、日本という国を選んでいるから、日本という国がある。


●私たちの使命
いま、世界にある核兵器は約3万発といわれる。
その小さなほうの核兵器でも、広島や長崎に落とされた原爆の20倍の威力がある
これはなんとかして減らしていかなければならない。

「戦争はしない」という日本国憲法は、人類の歴史からの私たちへの贈り物であり、しかも最高傑作だと私は信じています


【あとがき】
第二次世界大戦のあと、もう二度とあのような苦しみ、悲しみを味わうのはごめんだ、人間はもっと賢く生きられるはずじゃないのか。
この痛切な願いをひとつところに集めたものが、じつは日本国憲法です。

私たちの憲法はアメリカに押し付けられたものではない。
そんな安っぽいものではなく、その頃の世界の人たちの希望をすべて集めたものなのです。

「この憲法は古い」という人が増えた。「明治の教育勅語は素晴らしい」と言ったり。

でも一方で、
「21世紀の半ばまでに、すべての国の憲法に日本国憲法の前文と第9条を取り入れよう」と唱える国際的な集まりもある。


国立公文書館には日本国憲法の原本が保管されている。


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