■『世界と日本の食料問題 食料自給率を考える』(文研出版)
山崎 亮一/監修
【内容抜粋メモ】
●はじめに
2006年度、日本の食料自給率は39%まで下がり、先進国の中でもっとも食料自給率の低い国となっている。
「島国の日本が、食料を輸入にたよっていて大丈夫か」と議論がおきた。
1960年までは70〜80%あった食料自給率は、1970年ごろからずっと下がり続けているのはなぜか?
急激な経済成長によって所得が増えたこと、農業より工業を優遇するという第二次世界大戦後の政策も関係している。
●問題は食料が余っている国・足りない国があること
世界の食料総生産量は、年間20億t。
数字を見るかぎり、人類にとって食料は充分足りていることになる。
●食料自給率の高い国ほど食料を輸出している
3大穀物生産国は、EU、アメリカ、オーストラリア、カナダ。
食料自給率が高いのはオーストラリアの173%、カナダ168%、アメリカ124%。
●狭い国土
先進国で食料自給率の低い国は、韓国44%、スイス54%。
共通点は、国土が狭く、耕地面積が少ないこと、工業がさかんであること。
2005年には所得が8倍に増え、食生活が洋風化したことにともなって、
食料を輸入するようになり、食料自給率が低下していった。
●輸入するほうが安い
国産にくらべ、外国産は安く手に入れることができる。
肉類の需要が増えるにつれ、飼料として、大量のトウモロコシを安く海外から輸入している。
●貿易の自由化
海外では、輸入品にかける関税を低くする、自由貿易に動いている。
日本の米は、毎年約70万t輸入している。
●ミニマムアクセス米
きっかけは1993年の冷夏による「平成の凶作」。
米を外国から緊急輸入したおかげで、世界の米の価格が混乱し、
「ミニマムアクセス」(最低輸入義務)を受け入た。
国内農業を守るために、輸入米には778%という高い関税をかけている(2010年
●食料生産は国際的なビジネス
食料は、世界市場で毎日、流通し、巨額の資金が動いている
世界市場を舞台に食料調達のためのきびしい取引を24時間おこなっている。
食料ビジネスを有利に進めることは、食料政策にとって重要な課題。
●食料自給率の計算法
日本は「カロリーベース食料自給率」を採用。
国際基準としては、「生産額ベース食料自給率」「穀物自給率」などがある。
2010年に日本が輸入したトウモロコシは約1750t、うち70%は家畜の飼料になっている。
牛肉、鶏卵を食べる=外国から輸入した穀物を食べていることになる。
和牛といっても100%国産といえるかは疑問。
●TPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋連携協定)は「平成の開国」
輸入品の関税をゼロにして、貿易の完全自由化をめざそうという協定。
今よりずっと安く売られるようになると、農業関係者の生産意欲が下がり、
日本の食料自給率はさらに14%まで下がると予測されている。
TPPに反対して行われた集会
●食生活の変化
日本人は米を食べなくなっている。代わりに小麦が約1.2倍、肉類が約4倍、砂糖が約1.2倍、
揚げ物に使われる油脂類が約3倍に増大。
食卓が豊かになり、カロリー源が大きく変化した。
→主食の米を今の倍以上食べ、肉類を1/5に減らし、魚を食べる必要がある
人口は1億2000万人まで増え、穀物の生産量は50%近くも減少したので、国内の生産量では足りない。
「減反政策」の影響もある。
●工業製品を売って、食料を買う国
2009年時点で日本は、中国、ドイツ、アメリカにつぐ世界第4位の輸出国。
食料の60%を輸入しているが、外国産の食料価格は安いため、総輸入額は10%以下。
経済大国と言われた日本は、中国、韓国にはげしく追い上げられ、
海外での食料の買い付けで負ける「買い負け」も起きている。
●農地が住宅地にかわる
耕地面積は、年々減少している。
「休耕田」の面積も増え、実際作物がつくられている耕地は400万haしかないともいわれる。
米の消費が減少し、生産するほど米が余ってしまう。
1994年、食糧管理法が廃止。農家が米の販売を自由にできる制度になった。
しかし、減反しても米はまだ余っている。
●農業の働き手の減少、高齢化
農業人口の減少と高齢化は深刻な問題。
兼業農家の増加(農業で得られる収入は、平均200〜300万円/年
農家1軒あたりの耕地面積が小さく、高い収穫量をあげることができない。
●水産業
世界屈指の水産国家と言われてきた日本は、生産量がピーク時の半分以下になり、
魚介類の自給率の低下、調理の煩わしさなどから若い人の魚ばなれの問題を抱えている。
給食で嫌いな料理の第1位は魚料理という子どもが多い。
重労働の漁業にたずさわる人の減少、「200海里規制」で制限され、将来に夢を持てないことも原因となり、
かつて自給率100%以上だった魚介類も、輸入に頼るようになった。
●自給自足へのみち
食料の中で割合が高いのは穀物類。
狭い国土の日本では、農地の利用率を向上させなくてはならない。
生産量が増えている野菜・果物は、広い土地がいらない、集約的に栽培できる、温室栽培などによる「施設型野菜」
→温めるためにたくさんの石油が必要という課題もある。
●付加価値の高い食料づくり
おいしさと健康面で日本食が世界的なブームになっている。
緻密な管理による安全・安心な食料生産は、世界に誇る技術。
品種改良などの工夫をして、イチゴ、サクランボなどは品質にバラつきがない。
●輸出用換金作物(市場作物)
代表的なものは、コーヒー、紅茶。ほとんどが開発途上国で生産されている。
植民地時代に生まれた。大企業が経営するプランテーション(大規模農場)で生産され、
その価格はおもにロンドンやNYなどの商品取引所で決められる。
輸出で得たお金で、食料を外国から輸入するため、不公正な取引価格が国民の食生活を直撃し、
働いても働いても、つねに食料不足に苦しめられる。
●食料自給率は高いのに栄養失調
穀物自給率が122%のラオスは、栄養不足の割合が40%。ミャンマー、バングラデシュも同様。
世界では2億人以上の子どもたちが労働力として使われている
2007年、スイスの有名なチョコレートメーカーが、子どもたちを働かせて
不当に生産されたカカオを買い付けているとして、国際団体から告発された。
●フェアトレード
現地人を雇って生産した農作物が不当に安い金額で買い上げられる取引は、
先進国による奴隷貿易と呼ばれ国際的にも大きな問題となっていた。
日本では衣料品・雑貨などのフェアトレードに力を入れているが、
売上額は欧米に比べるとはるかに低い10億円(2007年
アメリカ1178億、イギリス1136億円。
●食料価格の変動
天候に恵まれて豊作だと食料価格は下がり、干ばつが続くなどの影響で生産量が減ると食料価格は上がる
自然条件だけでなく、2007年には石油価格が値上がりし、アメリカなどがバイオエネルギーを生産するため、
大量の穀物を買い付けたことで、穀物価格が大きく値上がりしたこともある。
経済力のとぼしい国は、食料価格が上がると生活を直撃し、とたんに飢えが国民を襲う。
●食のグローバリゼーション
人も物も国境をこえ、自由に往来する時代。最大の課題は、食料の安定的な輸出入。
●日本の高い灌漑技術
灌漑技術ひとつで、米の収穫量が決まる。
日本の灌漑技術は、世界的に高い評価を得ている。
日本のJICA(国際協力機構)はアフリカのルワンダに青年海外協力隊員を派遣し、
稲作に関する農業土木技術の指導を行っている。
●WTO(国際貿易機関)の農業交渉
1995年に誕生。153カ国が参加。
設立の目的は、地球を1つの市場とし、国や地域の枠をこえ、世界規模で経済活動を効率よく進めること。
2つの原則
「最恵国待遇」加盟国がすべて同じ貿易条件で取引すること。
「内国民待遇」輸入品と国産品を同等に扱うこと。
日本にとって、食料貿易の完全自由化は、食料自給率をさらに低下させる恐れがあるとして反対意見も多く、
国際社会と、国内農業の保護の両面できびしい対応を迫られている。
山崎 亮一/監修
【内容抜粋メモ】
●はじめに
2006年度、日本の食料自給率は39%まで下がり、先進国の中でもっとも食料自給率の低い国となっている。
「島国の日本が、食料を輸入にたよっていて大丈夫か」と議論がおきた。
1960年までは70〜80%あった食料自給率は、1970年ごろからずっと下がり続けているのはなぜか?
急激な経済成長によって所得が増えたこと、農業より工業を優遇するという第二次世界大戦後の政策も関係している。
●問題は食料が余っている国・足りない国があること
世界の食料総生産量は、年間20億t。
数字を見るかぎり、人類にとって食料は充分足りていることになる。
●食料自給率の高い国ほど食料を輸出している
3大穀物生産国は、EU、アメリカ、オーストラリア、カナダ。
食料自給率が高いのはオーストラリアの173%、カナダ168%、アメリカ124%。
●狭い国土
先進国で食料自給率の低い国は、韓国44%、スイス54%。
共通点は、国土が狭く、耕地面積が少ないこと、工業がさかんであること。
2005年には所得が8倍に増え、食生活が洋風化したことにともなって、
食料を輸入するようになり、食料自給率が低下していった。
●輸入するほうが安い
国産にくらべ、外国産は安く手に入れることができる。
肉類の需要が増えるにつれ、飼料として、大量のトウモロコシを安く海外から輸入している。
●貿易の自由化
海外では、輸入品にかける関税を低くする、自由貿易に動いている。
日本の米は、毎年約70万t輸入している。
●ミニマムアクセス米
きっかけは1993年の冷夏による「平成の凶作」。
米を外国から緊急輸入したおかげで、世界の米の価格が混乱し、
「ミニマムアクセス」(最低輸入義務)を受け入た。
国内農業を守るために、輸入米には778%という高い関税をかけている(2010年
●食料生産は国際的なビジネス
食料は、世界市場で毎日、流通し、巨額の資金が動いている
世界市場を舞台に食料調達のためのきびしい取引を24時間おこなっている。
食料ビジネスを有利に進めることは、食料政策にとって重要な課題。
●食料自給率の計算法
日本は「カロリーベース食料自給率」を採用。
国際基準としては、「生産額ベース食料自給率」「穀物自給率」などがある。
2010年に日本が輸入したトウモロコシは約1750t、うち70%は家畜の飼料になっている。
牛肉、鶏卵を食べる=外国から輸入した穀物を食べていることになる。
和牛といっても100%国産といえるかは疑問。
●TPP(Trans-Pacific Partnership 環太平洋連携協定)は「平成の開国」
輸入品の関税をゼロにして、貿易の完全自由化をめざそうという協定。
今よりずっと安く売られるようになると、農業関係者の生産意欲が下がり、
日本の食料自給率はさらに14%まで下がると予測されている。
TPPに反対して行われた集会
●食生活の変化
日本人は米を食べなくなっている。代わりに小麦が約1.2倍、肉類が約4倍、砂糖が約1.2倍、
揚げ物に使われる油脂類が約3倍に増大。
食卓が豊かになり、カロリー源が大きく変化した。
→主食の米を今の倍以上食べ、肉類を1/5に減らし、魚を食べる必要がある
人口は1億2000万人まで増え、穀物の生産量は50%近くも減少したので、国内の生産量では足りない。
「減反政策」の影響もある。
●工業製品を売って、食料を買う国
2009年時点で日本は、中国、ドイツ、アメリカにつぐ世界第4位の輸出国。
食料の60%を輸入しているが、外国産の食料価格は安いため、総輸入額は10%以下。
経済大国と言われた日本は、中国、韓国にはげしく追い上げられ、
海外での食料の買い付けで負ける「買い負け」も起きている。
●農地が住宅地にかわる
耕地面積は、年々減少している。
「休耕田」の面積も増え、実際作物がつくられている耕地は400万haしかないともいわれる。
米の消費が減少し、生産するほど米が余ってしまう。
1994年、食糧管理法が廃止。農家が米の販売を自由にできる制度になった。
しかし、減反しても米はまだ余っている。
●農業の働き手の減少、高齢化
農業人口の減少と高齢化は深刻な問題。
兼業農家の増加(農業で得られる収入は、平均200〜300万円/年
農家1軒あたりの耕地面積が小さく、高い収穫量をあげることができない。
●水産業
世界屈指の水産国家と言われてきた日本は、生産量がピーク時の半分以下になり、
魚介類の自給率の低下、調理の煩わしさなどから若い人の魚ばなれの問題を抱えている。
給食で嫌いな料理の第1位は魚料理という子どもが多い。
重労働の漁業にたずさわる人の減少、「200海里規制」で制限され、将来に夢を持てないことも原因となり、
かつて自給率100%以上だった魚介類も、輸入に頼るようになった。
●自給自足へのみち
食料の中で割合が高いのは穀物類。
狭い国土の日本では、農地の利用率を向上させなくてはならない。
生産量が増えている野菜・果物は、広い土地がいらない、集約的に栽培できる、温室栽培などによる「施設型野菜」
→温めるためにたくさんの石油が必要という課題もある。
●付加価値の高い食料づくり
おいしさと健康面で日本食が世界的なブームになっている。
緻密な管理による安全・安心な食料生産は、世界に誇る技術。
品種改良などの工夫をして、イチゴ、サクランボなどは品質にバラつきがない。
●輸出用換金作物(市場作物)
代表的なものは、コーヒー、紅茶。ほとんどが開発途上国で生産されている。
植民地時代に生まれた。大企業が経営するプランテーション(大規模農場)で生産され、
その価格はおもにロンドンやNYなどの商品取引所で決められる。
輸出で得たお金で、食料を外国から輸入するため、不公正な取引価格が国民の食生活を直撃し、
働いても働いても、つねに食料不足に苦しめられる。
●食料自給率は高いのに栄養失調
穀物自給率が122%のラオスは、栄養不足の割合が40%。ミャンマー、バングラデシュも同様。
世界では2億人以上の子どもたちが労働力として使われている
2007年、スイスの有名なチョコレートメーカーが、子どもたちを働かせて
不当に生産されたカカオを買い付けているとして、国際団体から告発された。
●フェアトレード
現地人を雇って生産した農作物が不当に安い金額で買い上げられる取引は、
先進国による奴隷貿易と呼ばれ国際的にも大きな問題となっていた。
日本では衣料品・雑貨などのフェアトレードに力を入れているが、
売上額は欧米に比べるとはるかに低い10億円(2007年
アメリカ1178億、イギリス1136億円。
●食料価格の変動
天候に恵まれて豊作だと食料価格は下がり、干ばつが続くなどの影響で生産量が減ると食料価格は上がる
自然条件だけでなく、2007年には石油価格が値上がりし、アメリカなどがバイオエネルギーを生産するため、
大量の穀物を買い付けたことで、穀物価格が大きく値上がりしたこともある。
経済力のとぼしい国は、食料価格が上がると生活を直撃し、とたんに飢えが国民を襲う。
●食のグローバリゼーション
人も物も国境をこえ、自由に往来する時代。最大の課題は、食料の安定的な輸出入。
●日本の高い灌漑技術
灌漑技術ひとつで、米の収穫量が決まる。
日本の灌漑技術は、世界的に高い評価を得ている。
日本のJICA(国際協力機構)はアフリカのルワンダに青年海外協力隊員を派遣し、
稲作に関する農業土木技術の指導を行っている。
●WTO(国際貿易機関)の農業交渉
1995年に誕生。153カ国が参加。
設立の目的は、地球を1つの市場とし、国や地域の枠をこえ、世界規模で経済活動を効率よく進めること。
2つの原則
「最恵国待遇」加盟国がすべて同じ貿易条件で取引すること。
「内国民待遇」輸入品と国産品を同等に扱うこと。
日本にとって、食料貿易の完全自由化は、食料自給率をさらに低下させる恐れがあるとして反対意見も多く、
国際社会と、国内農業の保護の両面できびしい対応を迫られている。