■大型絵本『はだかのサイ』(岩波書店)
ミヒャエル・エンデ/文 マンフレート・シュリューター/イラスト 矢川澄子/訳
※「読書感想メモリスト1」カテゴリーに追加しました。
エンデの作品には、面白可笑しく書かれていても
必ずそこには社会風刺、彼の哲学がある
▼あらすじ(ネタバレ注意
昔、ノータリン・ノルベルトというサイがいた
ひどく疑り深い性質で「ひとを見たらドボロウと思え」が口癖
「最初からそう思っていれば、どうころんでも裏切られることはない 頼りになるのは自分だけ」
大きなカラダは鎧で覆われ、角も襟首に小さいのが1本、まさかの時のために備えている
「いつも最悪の場合を考えて、用心するにこしたことはない」
ノルベルトが獣道を通る時はみんな道を譲った
ノルベルトの怒りっぽさは月日とともにますますひどくなり、
沼に水飲みに行くのさえ命がけになってしまった
ある日、ノルベルトに内緒で動物会議を行った
イボイノシシは「カンタンさ みんなで一斉に襲いかかればイチコロだ」
ゾウのご婦人アイダさんは
「それではあんまり野蛮すぎますわ 動物の尊厳の名において許しがたいことです」
ハゲコウのドロホル教授は「彼はうつ病で、友好的に振る舞うしかない」という意見を、
いつものように長く、専門用語をたくさん使って説明してみんなをうんざりさせる
「我が輩は学問一筋でな、実地と応用は人様にお任せするのが当然」
ツチリスたちは「落とし穴なら掘れます 改心するまで出さなきゃいい」
準備に10日かかると聞いて、ニンマリ・グレッチェンは
「その間、ノルベルトは優しく見守ってくれるってわけ?」
次々と却下され、最後にガゼルのハニカミヤ・ドローレスが
「ノルベルトにいじめられない安全な場所に、持ち物をまとめて引っ越すことね」
と涙ぐんでつぶやいた
そこにノルベルトが地震のようにやって来て、
「陰でコソコソやりやがって! 今度こそやっつけてくれる!」
そうして、ライオンやゾウでさえ、さっさと草原を立ち去った
そこへ商売柄、普段から数に入れられていないウジクイのカールヘンがやって来た
ゾウやワニだのの背中の害虫を食べるのが仕事だ
「征服者の心境はどうかね?
支配者や征服者には絶対欠かせないものがある 銅像さ」
「それ、どうすりゃ手に入るんだ?」
「誰も像をたてる者がいないなら、自分でつくるんだな
あんた、そんな像を彫れるかい?」
「ムリだよ」
「じゃあ、自分で銅像になればいい
四方から見渡せる高い岩に登り、じいっとしていなきゃ
銅像は人から見られるもので、自分で見ちゃいけない だからステキなんだよ
それでよし 動くなよ もう二度と!」
「これであんたも王者として申し分なしだ
孫子の代まで羨ましがるぜ
もちろん、像がくつがえされりゃ別だけど
ほら、支配者はくつがえされることがよくあるじゃないか 革命なんかでさ
支配者がくつがえされれば、銅像もくつがえされる
くつがえされもいない支配者の像をくつがえしたら捕まって首をちょん切られる
だが、誰があんたをくつがえせる? あんたが自分からくつがえらないかぎり
例えば、あんたがそこから降りたら、
もう銅像をくつがえしたことになるんだよ
支配者の自分を自らくつがえしたなら、あんた、自分を処刑しなきゃね
うまく逃げおおせりゃ別だけど」
カールヘンはそういい残して飛び去った
ノルベルトはそのまま銅像として身動きひとつしなかった
「自分を見上げてくれるはずの仲間は誰もいやしない 見物人がいてくれなくちゃなあ!」
そのうち猛烈に腹が減って我慢できなくなってきた
「誰も見てないし、ひと口草を食ってこようかな
あぶない、あぶない うっかり銅像がなくなるところだった
支配者がくつがえされれば、途端に謀反人として処刑されるだろう
自分が信じられなくなってきた
もしかして、自分は自分の敵じゃないかな?」
ノルベルトのいかつい体は、鎧の中でだんだんしなびていった
あまりにひもじくて、とうとう台から飛び降りた しかし、鎧はそのまま残った!
鎧を脱いだノルベルトの体は、コブタのようにやわでむき出し
「でも真っ暗なのは気に食わん せっかくオレ様の銅像を仰ぎ見られるのに」
その時、稲光が鎧を照らし、世にも恐ろしい敵の姿が目に映った
「助けてくれ!」
ノルベルトは叫んでで逃げ出した
それからサイはどうなったか?
今でも世界中駆け回ってるんじゃないかな
どこかではだかのサイに出会ったら、ノルベルトかいって聞いてごらん
草原には他の獣たちが戻ってきた
銅像はそのまま残し、孫子の代までの戒めにすることにした
ミヒャエル・エンデ/文 マンフレート・シュリューター/イラスト 矢川澄子/訳
※「読書感想メモリスト1」カテゴリーに追加しました。
エンデの作品には、面白可笑しく書かれていても
必ずそこには社会風刺、彼の哲学がある
▼あらすじ(ネタバレ注意
昔、ノータリン・ノルベルトというサイがいた
ひどく疑り深い性質で「ひとを見たらドボロウと思え」が口癖
「最初からそう思っていれば、どうころんでも裏切られることはない 頼りになるのは自分だけ」
大きなカラダは鎧で覆われ、角も襟首に小さいのが1本、まさかの時のために備えている
「いつも最悪の場合を考えて、用心するにこしたことはない」
ノルベルトが獣道を通る時はみんな道を譲った
ノルベルトの怒りっぽさは月日とともにますますひどくなり、
沼に水飲みに行くのさえ命がけになってしまった
ある日、ノルベルトに内緒で動物会議を行った
イボイノシシは「カンタンさ みんなで一斉に襲いかかればイチコロだ」
ゾウのご婦人アイダさんは
「それではあんまり野蛮すぎますわ 動物の尊厳の名において許しがたいことです」
ハゲコウのドロホル教授は「彼はうつ病で、友好的に振る舞うしかない」という意見を、
いつものように長く、専門用語をたくさん使って説明してみんなをうんざりさせる
「我が輩は学問一筋でな、実地と応用は人様にお任せするのが当然」
ツチリスたちは「落とし穴なら掘れます 改心するまで出さなきゃいい」
準備に10日かかると聞いて、ニンマリ・グレッチェンは
「その間、ノルベルトは優しく見守ってくれるってわけ?」
次々と却下され、最後にガゼルのハニカミヤ・ドローレスが
「ノルベルトにいじめられない安全な場所に、持ち物をまとめて引っ越すことね」
と涙ぐんでつぶやいた
そこにノルベルトが地震のようにやって来て、
「陰でコソコソやりやがって! 今度こそやっつけてくれる!」
そうして、ライオンやゾウでさえ、さっさと草原を立ち去った
そこへ商売柄、普段から数に入れられていないウジクイのカールヘンがやって来た
ゾウやワニだのの背中の害虫を食べるのが仕事だ
「征服者の心境はどうかね?
支配者や征服者には絶対欠かせないものがある 銅像さ」
「それ、どうすりゃ手に入るんだ?」
「誰も像をたてる者がいないなら、自分でつくるんだな
あんた、そんな像を彫れるかい?」
「ムリだよ」
「じゃあ、自分で銅像になればいい
四方から見渡せる高い岩に登り、じいっとしていなきゃ
銅像は人から見られるもので、自分で見ちゃいけない だからステキなんだよ
それでよし 動くなよ もう二度と!」
「これであんたも王者として申し分なしだ
孫子の代まで羨ましがるぜ
もちろん、像がくつがえされりゃ別だけど
ほら、支配者はくつがえされることがよくあるじゃないか 革命なんかでさ
支配者がくつがえされれば、銅像もくつがえされる
くつがえされもいない支配者の像をくつがえしたら捕まって首をちょん切られる
だが、誰があんたをくつがえせる? あんたが自分からくつがえらないかぎり
例えば、あんたがそこから降りたら、
もう銅像をくつがえしたことになるんだよ
支配者の自分を自らくつがえしたなら、あんた、自分を処刑しなきゃね
うまく逃げおおせりゃ別だけど」
カールヘンはそういい残して飛び去った
ノルベルトはそのまま銅像として身動きひとつしなかった
「自分を見上げてくれるはずの仲間は誰もいやしない 見物人がいてくれなくちゃなあ!」
そのうち猛烈に腹が減って我慢できなくなってきた
「誰も見てないし、ひと口草を食ってこようかな
あぶない、あぶない うっかり銅像がなくなるところだった
支配者がくつがえされれば、途端に謀反人として処刑されるだろう
自分が信じられなくなってきた
もしかして、自分は自分の敵じゃないかな?」
ノルベルトのいかつい体は、鎧の中でだんだんしなびていった
あまりにひもじくて、とうとう台から飛び降りた しかし、鎧はそのまま残った!
鎧を脱いだノルベルトの体は、コブタのようにやわでむき出し
「でも真っ暗なのは気に食わん せっかくオレ様の銅像を仰ぎ見られるのに」
その時、稲光が鎧を照らし、世にも恐ろしい敵の姿が目に映った
「助けてくれ!」
ノルベルトは叫んでで逃げ出した
それからサイはどうなったか?
今でも世界中駆け回ってるんじゃないかな
どこかではだかのサイに出会ったら、ノルベルトかいって聞いてごらん
草原には他の獣たちが戻ってきた
銅像はそのまま残し、孫子の代までの戒めにすることにした