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星野道夫 アラスカの詩『夢を追う人』

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アラスカの詩『夢を追う人』(新日本出版社)
星野道夫/著

図書館で見つけて、また新たに星野さんの本が出て嬉しいなと思って借りてみたら、
これまで既出の文章と写真を編みなおしたものなのかな。
このくらいのサイズは好きだし、本書で初めて星野さんの作品を知るきっかけになるのはいいことだと思うけど、
やっぱり、途中になってた元ネタの図書のほうを、また時間のある時につづきを読もうっと。

以前書いたメモと重複もあるけど、それもよしとして、、、

【内容抜粋メモ】

「アラスカとの出合い」
見知らぬ人々が、ぼくの知らない人生を送っている不思議さだったのかもしれない。
同じ時代を生きながら、その人々と決して出会えない悲しさだったのかもしれない。


人生はからくりに満ちている。日々の暮らしの中で、無数の人々とすれ違いながら、私たちは出会うことがない。
その根源的な悲しみは、言いかえれば、人と人とが出会う限りない不思議さに通じている。


「ルース氷河」
氷河の上で過ごす夜の静けさ、風の冷たさ、星の輝き・・・情報が少ないということはある力を秘めている。
それは人間に何かを想像する機会を与えてくれるからだ。
一つの体験が、その人間の中で熟し、何かを形づくるまでには少し時間が必要だ。



「十六才のとき」
何日も海だけを見ながら過ごしていると、自分が暮らしていた陸地は不安定なつかのまの住み処のようで、
海こそが地球の実体のような気持ちにとらわれた。
海は限りない想像力と、人間の一生の短さをそっと教えてくれた。


バスを一台乗り遅れることで、全く違う体験が待っているということ。
人生とは、人の出会いとはつきつめればそういうことなのだろうが、
旅はその姿をはっきりと見せてくれた。


ぼくが暮らしているここだけが世界ではない。
さまざまな人々が、それぞれの価値観をもち、遠い異国で自分と同じ一生を生きている。



「早春」
人の心は深く、そして不思議なほど浅い。
きっと、その浅さで、人は生きてゆける。


「歳月」
(21歳の時、夜汽車で読んでいた新聞で、中学時代からの親友Tが山で遭難した記事を読む星野さん。
 Tの死から結論を捜しつづけて、ある時ふっとその答が見つかる)

それは「好きなことをやっていこう」という強い思いだった。

かけがえのない者の死は、多くの場合、残されたものにあるパワーを与えてゆく。



「もうひとつの時間」
(『チコと鮫』という映画に影響を受けた話。
 現地で撮られた最初の自然ものの映画だという。
 女性編集者とクジラを追ってアラスカまで来て、目の前でブリーチングする姿を見たこと)

ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。
日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。


「旅の終わり」
(旅人ではなく永住するためアラスカに家と土地を買うことを決心する著者)

ほおをなでてゆく風が、移ろいゆく人の一生の不確かさを告げていた。


「ベーリンジア、消えた草原」
(かつてユーラシアと北アメリカが草原でつながっていたって話は、いつ聞いても不思議だなあ!
 モンゴロイドがアジアから渡って住みついたという説。
 セントローレンス島で、1600年前の女性の人骨が発見されたこと。
 著者も岸づたいをボートを漕いでいると、マンモスの牙や骨を発見したこと)

ベーリング海は浅い。平均水深はわずか40m。
老婆グレイスが語る民話は、海を越えたシベリアエスキモーの物語だった。


もうすぐ二十世紀が終わろうとしている。きびしい時代が待っているだろう。
進歩というものが内包する影に、私たちはやっと今気付き始め、立ち尽くしている。
なぜならば、それは人間自身がもちあわせた影だったのだから・・・
種の始めがあれば、その終わりもあるというだけのことなのか。


「新しい旅」
クマはどっかり大地にすわりこんで不思議そうにぼくたちを見上げている。
アラスカの自然に魅かれるのはそんな一瞬だった。
自分の姿がこの世から消え、神の視点から、
人間のいない世界に流れるひそかな自然のリズムを垣間見ているような気がした。




(ハメルという老人が語る幼い頃の話。
 オールドジョンレイクのほとりでは、“カリブーフェンス”という
 V字のフェンスにカリブーを追い込む昔ながらの狩りが行われていた)

狩猟民が必然的に背負いこまなければならない生存の不確実性。そこから生まれてくる自然観。


ケニスが子どもだったほんの6、70年前、人々の暮らしは何千年と変わらずに続いてきた神話の時代に近かったのだ。


人々はグッチンインディアンが抱えているさまざまな問題を話し合った。
油田開発がもたらすであろうカリブーへの影響、それにともなう狩猟生活の存続への不安、
消えてゆこうとする言語、古い価値観の喪失、自殺、若者たちの未来・・・


人間が足を踏みいれたことがないと畏敬をもって見おろしていた原野は、
じつはたくさんの人々が通りすぎ、さまざまな物語に満ちていた。


「ワスレナグサ」

forget-me-not

風に揺れるワスレナグサもそんなことを語りかけているような気がした。
私たちが生きることができるのは、過去でも未来でもなく、ただ今しかないのだと。


結果が、最初の思惑通りにならなくても、そこで過ごした時間は確実に存在する。
そして最後に意味をもつのは、結果ではなく、過ごしてしまった、かけがえのないその時間である。


「トーテムポールを捜して」
かつてハイダ族は、トーテムポールの上をくり抜いて人を埋葬していたのである。


もし人間がこれからも存在し続けてゆこうとするのなら、もう一度、そして命がけで、
ぼくたちの神話をつくらなければならない時が来るかもしれない。





【初出一覧】
『旅をする木』
『長い旅の途上』
『風のような物語』
『イニュニック 生命』
『アラスカ 光と風』


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