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ここまできた!環境破壊2『ダイオキシンの恐怖』(ポプラ社)

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総合的な学習にやくだつ ここまできた!環境破壊2『ダイオキシンの恐怖』(ポプラ社)
奈須紀幸/監修

先日読んだ『くらしにあふれる危険な電磁波』と同シリーズ。本書はちなみに再生紙を使用している。
2002年発行だから、その後事情は少しは好転しただろうか?


【内容抜粋メモ】

所沢市内にある民間の解体業者の焼却炉

●「史上最悪の毒物」ダイオキシン
その毒性は、口に入れるとすぐ死ぬ「急性毒性」、奇形を発生する「催奇形性」、「発がん性」も高い。
免疫力を低下させ、ホルモンなどの内分泌物質を壊したりする。


●おもな3つの発生源
1.塩素をふくむゴミの焼却など:その原因物質でもっとも多いのが、「ポリ塩化ビニール」という合成樹脂。
2.塩素漂白、塩素殺菌など
3.農薬、殺菌剤、除草剤の製造など


●ベトナム戦争で使われた「枯葉剤」
 
枯葉剤の影響で枯死した森林/皮膚障害をもって生まれた少女

ジャングルに身を潜めて戦うゲリラ戦法に対して、アメリカ軍が使用した「2、4、5−T」にはダイオキシンが多く含まれていた。
戦争の終盤1971年頃からベトナム兵が結婚し、子どもが生まれると、3人に1人の割合で障がい児となった。
例:「シャム双生児」「口蓋裂」

枯葉剤をまいたアメリカ兵の間でも、がんの発生率が一般に比べて5倍も高かった。


●ダイオキシンの仲間は210種類
210種類のうち、毒性が確認されているのは17種類(2002年現在
たいへん安定した物質でなかなか分解されず、生物の脂肪に溶けやすい性質があり、体内に入るとどんどん蓄積される。


●ゴミから出る塩素ガス

解体業者の廃棄物置き場近くの森林が立ち枯れをおこしている

ダイオキシンをふくむ農薬、化学物質は、現在、製造が中止になっている。


使い捨てが当たり前の今は、年々、合成樹脂のゴミが増えている。
プラスチック類は燃やさないよう注意が必要。


●汚染される大気、土壌、水
煙には発生したダイオキシンの60%が含まれると言われる。
煙は風に乗り、土壌、河川、沿岸海水、外洋海水と拡大していく
海域に流れこみ、底にたまったダイオキシンは、貝類などに吸収され、それを食べる魚の体内にもたまる。
その魚を食べるヒトの健康にも影響する。

1975年までに使用してきたダイオキシンをふくむ除草剤は、今も高濃度の汚染を引き起こしている。
2000年に「ダイオキシン規制法」が施行され、1日の摂取許容量を体重1kgあたり4ピコグラム以下と定めた。


●焼却炉が世界一多い日本
世界中の焼却炉の75%が日本にあると言われる。
国土の狭い日本にとって、ゴミ処理は燃やすのが一番だったため


●塩素系漂白剤、塩素系殺菌剤


塩素系漂白剤:
おもに製紙工業でのパルプの製造過程、再生紙工業での古紙の脱墨で使用される。安価で製造でき、漂白効果が高い。

塩素系殺菌剤:
水道水の殺菌、プールの殺菌、食品や厨房の殺菌など広く利用されている。
酸素と結びつくと塩素ガスを発生するため、酸性の洗浄剤と混ぜないよう注意が必要
毎日飲む水道水からもダイオキシンが検出されている。微量だがゼロにすることは難しい。


●日本人は魚からいちばん摂取している

ダイオキシンが体内に入る道すじ

ダイオキシンの87.8%は食事から摂取している。
日本人は食事経由のダイオキシンの60%以上を魚介類から摂取している。
大都市沿岸の魚は、輸入魚に比べ10倍以上汚染されている。


●食物連鎖
ダイオキシンは、どの種類もほぼ水に溶けないため、たえず堆積物と水の間を行き来している。
しかも脂肪に溶けやすいため、いったん体内に入ると、脂肪の多い組織に蓄積し、体外になかなか排出されない。

植物性プランクトン→動物性プランクトン→小型魚類・貝類→中・大型魚類・・・とダイオキシンの蓄積濃度は高くなってゆく。
これを「生物濃縮」と言う。ヒトは食物連鎖の頂点にいるため、もっとも汚染が大きくなる。


●母乳から赤ちゃんへ
ダイオキシンは、口→食道→胃→腸→肝臓のルートで体内に入る。
1年間、赤ちゃんに母乳を飲ませると、母親の体内に蓄積したダイオキシンの60%が赤ちゃんに入ることになる。
母乳をつくる血液中の脂肪が使われ、足りない分は貯蔵脂肪から補われるため。


****************************世界でいちばんダイオキシンに汚染されている日本

工業地帯の近く、大・中都市の住宅地の大気汚染濃度が高い。
人口密度が高く、商工業が活発な地域ほど高くなる傾向がある。

諸外国でもっとも高いドイツが0.3ピコグラムTEQ。日本は2ピコグラムTEQ。
日本の大気汚染度は、諸外国より約10倍高く、汚染がもっともひどい国の1つと言われる。


●最大の原因:
日本は、ゴミの大半を焼却していて、焼却率は73%。
日本の年間のゴミ焼却量は、世界で最大量の3758t。これはアメリカの1.3倍、ドイツの4倍、イギリスの13.5倍。
ダイオキシンの発生しやすい「小規模焼却炉」が多い。対策の遅れも原因の1つ。


産業廃棄物の「野焼き」は、地域の環境を破壊する


********************************所沢市の産業廃棄物の焼却炉問題

所沢市の自然豊かだった通称「くぬぎ山」に産業廃棄物の焼却炉が建ちはじめ、
周辺住宅に鼻をさす異臭が流れ、子どもたちが喉や目の痛みを訴えた。
原因は、産業廃棄物の焼却時に放出される「塩素化合物」「硫黄化合物」などの有毒ガス。

 
くぬぎ山にある民間産業廃棄物処理会社の焼却炉/くぬぎ山の道路沿いに捨てられたゴミ袋には産業廃棄物の焼却による灰が詰められていた

焼却炉周辺の土壌でダイオキシンが検出され、1997年、日本で初めてダイオキシン発生を規制する条例が可決された。
条例には罰則規定がなかったため、焼却炉はなくならなかった。


●産業廃棄物は一般ゴミの約8倍の量
多くの企業は処理業者に任せているのが現状。
多くは零細企業で、管理システム、設備が整っていないことが多い。
産業廃棄物の小型焼却炉こそダイオキシン発生の元凶と言える。


********************************ダイオキシンは強力な発がん物質

1979年、ダイオキシンを微量に含む除草剤を散布していたスウェーデンの農家の人に
「軟組織肉腫」の発がんリスクが5〜7倍も高いと分かった。

IARC(国際がん研究機関)は、1998年、ダイオキシンを正式に「発がん物質」であるとした。
障害を受けた細胞をがん細胞にし、増殖させる。ダイオキシンは微量でも細胞の修復作用を阻止して、がんを発症させる。


ヒトにおける発がんの疫学調査結果


●ダイオキシンの人体への影響
1gで約17000人もの人命を奪う強い毒性をもつ。
体内に入ると、じわじわとたまる特性がある。
「生殖毒性」「免疫抑制作用」がある。

生殖毒性:妊娠率の低下、流産率が高くなる、未熟児・脳障害を起こす。

いちばん怖いのは、胎児への毒性影響。
母親のダイオキシン汚染濃度が高いほど、乳児が「アトピー性皮膚炎」にかかりやすいという報告もある。


********************************環境ホルモン

ホルモン本来の働きのジャマをして、体調を狂わせるのが「環境ホルモン」。
ダイオキシンは、代表的な「環境ホルモン」の1つ。

性の決定にも影響し、男性が女性化する、女性ホルモンが減る。
「子宮内膜症」になる可能性が高まる。


●年間4万種類の生物が絶滅

化学物質によって被害を受けている野生生物たち

食物連鎖の上位生物ほど性行動の異常がみられ、環境ホルモンは、種の絶滅を招いている。
先進国ほど出生率が下がり続けている。
アメリカの統計では、10人に1人が「不妊症」との報告もある。


********************************ダイオキシンを減らすには?

●循環型のリサイクル
1.ダイオキシンそのものの発生を抑えること。
2.すでに環境に放出されているダイオキシンを減らすこと。

廃棄を前提とした「大量生産・大量消費」社会から、「循環型のリサイクル」社会へ転換が迫られている。

ダイオキシンは、非意図的な副生成物。
燃焼過程での発生については、燃やされる物の素材が複雑になったことに最大の問題がある。
素材と種類をスリムにすることが重要。

最終的にはゴミを燃やさなければならない。
1000度に近い高温の焼却炉でゴミを完全燃焼させる。
また、「触媒分解技術」などの「排ガス処理技術」、燃えカスを分解する技術が重要。


●プラスチック製品を使わない
1.ペットボトルでなく、瓶の飲み物を買い、再利用する。
2.化学繊維でなく、綿や羊毛など自然繊維の服を買う。


プラスチックの材質識別マーク

3.トレーに乗っている魚、肉、ラップに包まれた野菜を買わない。
4.食べ残しはラップで保存せず、蓋つきの容器で保存する。
5.ゴミを分別する。燃えるゴミは紙、生ゴミ、木だけにする。


厚生省の新ガイドラインによる緊急対策

国全体の発生量を把握し、公表しているのは世界で20カ国ほどしかない。
「残留性有機汚染物質」(POPs)に対して、国連環境計画(UNEP)を中心に検討している。
環境残留性、生物濃縮製、揮散移動性を定義し、国際的に制御することをめざす。


●長期的なモニタリング体制が必要
産業活動、社会活動、環境移動、生体蓄積などの化学物質の汚染の広がり、
生体に対する影響などを観察し、対策を実施することが求められる。


********************************ゴミを減らすには?

そもそも焼却するゴミの量を減らすのがいちばん。
有害物質の出ないかたちで処理し、「焼却灰」はきちんと処分するのがゴミ対策の基本原則。

1986年に法律をつくって、いち早く取り組んだのはドイツ。
焼却炉の抜き打ち検査によって、ダイオキシン排出量を守らなければ閉鎖する方針を出した。
日本の年間ダイオキシン排出量は、ドイツの3750倍!


●日本の対応
1991年「改正廃棄物処理法」、1995年「容器包装リサイクル法」。

素材のリサイクルにもたくさんのエネルギーや化学薬品が使われる。
金属資源のリサイクル「金属製錬工程」もダイオキシン発生源の1つ。
リサイクル過程でダイオキシンが出たら元も子もない。


********************************ダイオキシンを体外に出すには?

●便とともに出す
自然に体外に出るには、5〜10年もかかる。その間にも次々と蓄積され濃度が高まる。
「食物繊維」+「葉緑素」を摂取することで、効果的に排出できるという報告がある。




【編者メッセージ抜粋メモ】

日本でも人工化学物質の毒性の影響が世界の関心を集めてきた。

例:
・パラチオンなどの有機リン系農薬による農業従事者の中毒死
・BHC(殺虫剤)による畜産品、母乳の汚染
・カネミ油症事件
・魚介類のPCB汚染
・水道水のトリハロメタン
・建材に使用されるホルムアルデヒド 等々

その場しのぎでない、もっと基本的なところから考え直す必要がある。

「残留性有機汚染物質」は一度環境に出ると減らす有効な対策はない。
事前に生産を中止したり、使用条件を定めたりすることが必要。
地球生態系の課題として、国際的な協力のもとに実行しなければならない。

本来、環境汚染対策であった「ゴミ焼却炉」からダイオキシンが出たのは皮肉な話。

大量生産、大量消費、大量廃棄をずっと続けてきた20世紀の社会や生活のありかたを、
そのまま21世紀に延長しても、私たちは幸福に生きられない限界にきている。

最終的には「ゴミ0社会」を目指すこと。
なにより、ゴミ処理法としての焼却を止めること。


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