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『モーレツ教師』眉村卓/著(角川文庫)

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■『モーレツ教師』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑 本文挿絵/谷俊彦(昭和56年初版 昭和56年4版)

「作家別」カテゴリーに追加しました。


[カバー裏のあらすじ]

“国語、数学、英語、歴史……欣也の新しい家庭教師は、恐るべき知識を持っていた。そして教え方も、常識を越えて徹底していた。
 喜ぶのは教育ママの母親。だが、欣也はクラブ活動も制限され、毎日が地獄と化してゆく。
 そんなある日、欣也は、その家庭教師が、実はとんでもない怪物であることを知ってしまった!

 受験を前にした一高校生の恐怖の体験を描く、異色スリラー!
 他に、SF活劇小説の「現われて去るもの」、著者精選のショート・ショートを収録。”


▼あらすじ(ネタバレ注意

<ショート・ショート13>

役立たず
(楳図かずおさんの『わたしは真悟』みたいに、人間性に目覚めてしまったAIの話

いつの頃からか、おれはめざめていた。
何ひとつ行動をともなわぬ意識は、おれに苦痛を与えはじめていた

おれの横に生まれてくるものは、どうやらおれと同じように、やがてめざめるもののようだ
眠りの中で、何かが統合された時、彼はめざめるのだ

青年技師「駄目ですね、どうしても調節出来ないのです」

事務長は、目の前の巨大な人工頭脳ビルを見上げ、その隣りに建てられつつある2号ビルへ目を移した
これが実際の生き物だったら、と空想して思わず笑った


ランナー
未来のオリンピック?では、選手はみんなベルトコンベアー上で走る
これまでヨガ、催眠暗示、筋肉強化などを積み重ね、
試合前にはマネージャーは選手の腕にいろんな注射を数本打ち、
耳に組み込んだイヤフォンからは無線で指示を矢継ぎ早に出して「死んでも走れ!」と叫ぶ

ついに世界記録を出したが、観客が興奮して殺到しているくるのを見て恐怖し
コンベアからおりて控え室に走りはじめたら、選手はその場に倒れる

マネージャー
「バカ! コンベアの上でだけ走っている人間が本当に走ったら、
 周りの風景が動くのに目を回すとあれほど言ったのに、君はランナーだぞ!
 走るなんてバカなことは絶対にしちゃいけないんだ!」


なつかしい列車
「旧線で東京まで行きたい」と案内係に言うと呆れられる
今やジェット特急などの最新の超高速交通機関が主流となった

45階建て、118のホームの奥へ進む

私は、ずっと昔の、旅行のことを覚えている
この十数年間、ずっとチャンスをうかがっていたのだ
近頃の列車には窓もなく、窓から見る景色の楽しみもない それにひきかえ・・・

いや、窓の外は壁なのだ
ひしめき並ぶ高層ビルの壁面ばかりで、トンネル内と同じなのだ

どうしたことか、私はだんだんイライラしはじめてきた
あまりのスピードののろさが辛抱できないのだ

車掌
「ははあ、あなたも同じですね? この線を利用する方はみんなそうです
 郷愁にかられてお乗りになるが、ご本人がすでにスピードに馴れていることを忘れていらっしゃるからですよ
 大阪-東京に2時間判もかかるというというのがどういうことか、乗ってみないと実感できないんです
 所詮、東海道新幹線なんて、過去の遺物なんでしょうね」



が3日も降り続き、同僚たちはなんとかして帰ると出て行ったが
停電したビルの中に残った私 今夜のパンで食料は終わり、他のビルに忍び込むしかない

人っ子一人いないビルが恐ろしくなり、外に出ると想像以上の雪でとって返した
そこに足音が聞こえてきて、一人の男が前を通り抜けた
「おい、待ってくれ」 声をかけても聞こえていない

男は、雪の中に足を踏み出して、ビルに戻り、同じように耳を澄ましている
「おい、待ってくれ」と声をかけている

私たちはいく十人か並んで立っている
自分よりも後から来る者しか、それぞれの目には見えないのだ
私の前にもやはり私がある 見えなかっただけなのだ

私の生死はすでに、だいぶ以前の私には判っているのだ
この次元連続体から飛び出すことは、私自身を喪うことになるのではないかと思ったが
衝動的に雪の中へ飛び降りた

気がつくと、私は横になったまま陽を浴びていた
「ひと晩降っていたわねえ」という通行人の会話が耳に入る

あの日以来、私はこれまでとは違うようになったらしいが、毎日を無事に送っている
名前が変わったことや、妻が少し違う性格になったことぐらいは何でもない
帰ってきてよかったと思う


仕事
私は人工頭脳を内蔵した巨大な就職機の前へ進んだ
今は昔のように能率の悪いやり方で勤め先を決定するわけにはいかない

だが、機械は
「学業成績劣等、健康不良、財産ナシ、容貌十人並み以下、独立心ナシ・・・ 適性ナシ 就職先ナシ」
「そんな無責任な話があるものか! なにか仕事をくれ!」

「芸術家ナラ志望スルコトガデキル」
「結構だとも!」

指示された「芸術会社」に入り、オンボロビルに入ると、痩せこけた男女がこっちを見た
執務機のボタンを押すと「小説ヲ、備エツケノ音声タイプを使イ1編仕上ゲルコト」

作業を終えて、判定を待つと
「盗作 アナタノ作品ニハ、過去ニ発表サレタ作品ト同ジ箇所ガ、921箇所モアル」

無茶苦茶に筆を走らせて絵を描いても
「盗作 過去ニ発表サレタモノデ、同ジ構図ノモノガアル」

「もうやめたほうがいいぜ」横の同僚が言った
「どんなものを見せても、みんな盗作呼ばわりするんだ
 我々は、もう滅んでしまった人間の真似をして、同じような世の中を維持しようとしている
 でも、所詮は真似ごとなんだ」

そいつは、プラスチックの顔を歪めた
「解体されずに、こんなことでもさせてもらえるだけ、ましというもんだよ」


アンドロイド
人間そっくりのロボット量産に成功したメーカー
アンドロイドは、保育、教師、力仕事では二十馬力も出せるし万能

多田「これは売れるぞ」

アンドロイドは飛ぶように売れて、人手不足を解消し、家庭では召使として利用したが
フル生産に入ると10日後、どんどん引き取ってほしいと連絡が来る

「給料ももらわないアンドロイドが、あまりよく働くから、
 他の社員が情けなくなり、辞めると言い出した」

「家庭教師として使ったら、子どもがついていけず自己嫌悪になり、家出した」

「浮気がバレた」などなど

メーカーは仕方なくアンドロイドの性能を落とすことにする


旅のおわり
自動管制ハイウェイに乗って、久々の旅行を楽しんだ夫婦は満足だった
家に帰れば、分単位に刻まれた山のような仕事のことが早くも頭にのしかかってくる

その時、地震が起きて、自動でクルマを時速150kmで走らせるシステムがストップしてしまった
「このクルマを解約して、他の乗り物を探そう」

外に出ると大規模な停電だと分かり、同じことを考える人々でごった返している
旧型の輸送機関・電車などもとまっているだろう

「レンタカーでフリーウェイを通ろう!」
「でも、あれは自分で運転しなければならないのよ」

時速55キロで「やめて!」と妻が絶叫した
夫もまた、もはや人間自身の能力を信じていなかった

停電は想定外の事故だというニュースを聞き、
ほんのちょっとしたことでも、完全にコントロールされたシステムは無茶苦茶になるのだ

もう急ぐことはない 旅行はまだ終わっていない、そう考えればいい


女ごころ
「オートコーポ」に引っ越して、夫が出張中、気の早い友人サツキは早速見定めに来た

スイッチを入れると、自動掃除機が掃除し、洗濯機は洗濯物を入れて動き出す
機械による美容体操のワンコースを終え、自動化粧機だけはやめて
ジェット噴射地下鉄でサツキがもう着いた

近頃は、かつての花嫁学校を高度化した家庭管理学校があり、
主婦のための特殊技能をいろいろ教えてくれるため
女性は家庭でのイニシアチブをとるためにも、できるだけ設備のいい住宅に入りたがり
それだけの収入のある男性をつかまえるのが風潮だ

(むしろ退化してるじゃん でも“食料供給栓”ていうのだけは、なんだか欲しい・・・

サツキは結婚するつもりで、今はすべて無痛分娩だが、
パートナーに「男性陣痛同調機」をつけて、
希望のレヴェルまで陣痛の痛みを分かち合うことで絆を強めるのが制度化されようとしていた

「彼は去年発明された追跡装置もつけていいって 今どこにいるか分かって、しかも話もできるの」

ミキは呆れたが、なんだか夫が可哀相になり、結婚以来一度しか作ったことがない手料理をつくる
彼女は保守派かもしれなかった
こんなことをしようと考える女性は、今はとても珍しい存在だからだ


父と息子
夫は口論の末に、息子に手をあげたことで妻に告発され
全日本PTA連合から「明日朝9時に来てくれ」と言われる

「息子が自家用ジェットを買えと言ったので、そんな余裕はないと言うと
 僕が無能だからだと嘲笑したから、軽く一発くらわせただけです
 子どもにはいい薬だと思いますがね」

「呆れた そんなことしながら、まるで反省の色がないわ」

「昔の子どもはどうだった? 僕のオヤジは毎日のようにオレを殴って、鼻血を出していたんだぞ
 家から金を持ち出したといって、冬の夜、裸で表に出されたこともある
 池に突き落とされたこともある それが僕を一人前の男にしてくれたんだ」

若い女などは気絶していた

「君は父親として不適格だから、考え方が変わるまで訓練し直します」

上司
「会社にも圧力がかかっているから連合の勧告は事実上命令なんだ
 子どもはますます保護され、大人より大切になっているからな」

(いまだに「昔はひっぱたかれて育ったもんだ」なんて言う大人はたくさんいるよね


スーパーマン
膨大な知識をもち、花形の幸運児と言われたヘンミは
今ではロボットと同じ職場で働き、人間失格の状態にある

この時代では、超能力は一般化し、過去に科学的に否定された
遠隔操作、予知能力などが証明され、皆ある程度の力を得ている

ヘンミは10年に1人出るか出ないかの天才だったが
超感覚が極度に発達した子どもは気弱な者が多い
人の心を読み取るためには受容的でなければならないからだ

ヘンミの神経はカミソリのように育っていった
に近づくと、それを植えた人の「残存意志」を感じて刺すような痛みを感じる

事故現場では死者の意志のために倒れ、
動物の意志も感じとるようになってからはすべての実験が不可能になった

彼は脱落し、ただの極端児になった
学習の最中に奇声をあげ、同僚の心にも衝撃を与えるため
仲間はロボットだけだった ロボットには「残存意志」などない

しかし、仕事中、ついにロボットの思考もとらえてしまう
それは、やりきれないほど単調な、執念のようだった

ヘンミは病院に担ぎ込まれ、医師は
「こいつ、もうだめだ 大手術をしなきゃならん 治っても超感覚はなくなるぞ」

回復したヘンミのやる仕事は、人の恨みを買ってでもやり遂げなければならないものだった
そうしたヘンミを見ながら、友人は間もなく彼が政治家として歴史に残る人間になるだろうと信じていた
そう、彼こそが現代のスーパーマンなのだった


黄色い時間
これで、事務所内で髪の黒いのはモリタだけだ みんな黄色い髪を自慢げにしている

高い専門職の者らは、いくつもの会社を次々と移りながら仕事をするのが日課だった
会社の拘束時間は3~4時間だが、稼ごうとするなら、時間が足りず、
睡眠時間を減らすためい熟眠剤を飲む すると副作用で髪は黄色くなる

ツツミ
「時々、君が羨ましいよ 贅沢をしなければ、1社だけで十分生活できる
 働けば働くほど、家庭の幸福は遠くなってゆく
 君のような生活がほんとうなんだろうね」

妻に「今の収入でほんとにいいのかい?」と聞くと
「人間の欲なんて限りがないもの、十分よ」

モリタは次第に髪の黒い自分に劣等感を感じはじめる
髪が黄色だと能力があり、タフだと考える世間の連中のせいなんだ・・・


しばらくして、モリタの髪は見事な黄色になった
同僚には「重要な仕事で言えない」と隠しているのが噂になるほどだ

しかし、実際は、専門職としての誇りと虚栄を維持するために
熟眠剤を飲み、夜、無理やり起きているのだった
1分1分が苦痛だった

こんな退屈なやりきれない時間 これで生きていると言えるのだろうか
時間潰しこそ、現代ではいちばん困難な仕事ではなかろうか そうでなければならなかった


暗示忠誠法
卒業式が終わるとすぐ就職先のF電器に向かった 採用の時にそういわれたからだ

どうせはじめからこの会社で一生を送る気はない
4、5年勤めて、うまくいきそうなら、本腰を入れようくらいにしか考えていなかった
ほかの連中も同様らしかった

PR映画を見せられ、眠気に耐えられず、気づくと映画は終わっていた

郁子「F電器の住み心地、どう? やっぱりいろいろ問題も多いんでしょ?」
「とんでもない」私は反射的に答えた「まず最高といっていいだろうな」
「あら、二流会社だが辛抱しよう、なんて言ってたじゃないの」

公園に行くと「さっきはあんな風に言ったけど、サラリーが安いんだ
だから折を見て、もっと将来性のあるところへかわらないと・・・」

話しているうちにネオン街になり、突然、口が誰かにおさえられたようになった
言おうとしていたことが消え「業績も伸びているし、超一流企業になるだろう」
そこには、F電器のマークが明滅していた

心理学を専攻している郁子に、その後相談するが
「そんなこと、駆け出しの私に分かるわけないじゃない」


学校時代の先輩に相談しようとレストランで会うと
「サラリーマンなどやってると、だんだん気力がなくなる・・・」と話していたのが
急に「自分でも、いい会社に入ったと思うよ」

私と同じだ! レストランのテレビでは先輩の会社のCMと商標が映っていた

私の愛社心が強まる時、必ず近くに会社のマークが視野にあると気づいた
きっと、あの入社前の映画の時に何かあったのだ

誰もが自分の会社のことしか考えなくなったら、ただでさえ激烈な企業競争がますます激しくなるばかりではないか
助けてくれ 私は会社のマークを見ないよう郁子に話そうと思った

が、郁子と数人の男女に捕まる
「あのコントロール法は、うちの研究室が開発したのよ
 催眠による忠誠心の完成方式なの あなたのように気がつく人はほとんどいないわ」

助教授
「日本のためにも強力な産業体制が必要だ 君は経済を学んだんだからそれくらいは分かるだろう」

「みんな働き蜂になったら一体どうなる!」

「私たちだって大学にコントロールされているし、大学は政府に、政府はいろんな部門に
 それぞれ支配者をもっている それでこそ統制がとれる
 完全に自由な人間なんていないんだ」

私の神経症は、完全に治ったそうだ これでどうやら仕事にも全力を尽くせる
郁子との結婚式も間近だ 幸福とはこんなことをいうのだろう


目前の事実
私は雨が家を打つ音で目覚めた クスリが切れたのだ

現代を生きるため、みな「加速剤」なしでは生活できなくなっている
1分1秒をより長く感じるために、強力なクスリが発売され、人々は争って求める
しかし、クスリを買うのをうっかり忘れたのが運の尽きだった

かつてクスリの切れた男が薬屋に行こうとしているのを見たことがある
のろのろとして、人々は指してゲラゲラ笑っていても気づかない
クスリの切れた人間にとって、時間は飛び去る化け物で、捉えることが不可能になってしまう

今がそうだった なんという平穏な世界だろう
人っ子一人見えないが、実際は絶えず人々が往来しているのが見えないだけなのだ
私がのんびり考えている間にも、人々は仕事し、約束を履行し、遊んでいる
一刻遅れることは、一刻の落伍者を意味していた

私は危険をおかして、薬屋まで行こうとする
禁断症状の1つで、自己満足の感情が起こると見たことがある
その虜になれば、我々の進歩は止まり、世界の競争から脱落しなければならない

人は絶え間なく競争しなければ進歩せず、常に焦っていなければならない
こうした道徳が身体に沁み込んでいたが、この妙な充実した幸せなきもちは言い難い安らぎを覚えるのだ

そこに、幼少の頃、我々の世界と修好条約を結びにきた星のロケットが来るのが分かった


宇宙船の5名は本を閉じた

「これは日記でしょうか、小説でしょうか」
「しし座γ星第四惑星世界には、想像を絶した規範が満ちているようだ」

今回は地球人類が派遣した第3回目の探検船で、空間の歪みに突っ込んでいった
星に着くと、大気などは地球とほぼ変わらない

遠くの丘になにか動いていた 近づくとその構造物が動いていると判った
調べに行ったポータブルカーの上には焼き焦げた死体が乗っていた

「我々は恒星間飛行が可能になってから、無数の新天地を開拓してきたし、
 数多くの異形の生命体とも近づきになったが、どうしても地球人類以外の生命体とは、
 心から打ち解けて話し合えない 詳しく調査しようとする頃には、その文明は末期なんだから・・・」

「彼らにも都会が生まれ、戦争がおこり、経済体制が作られては崩れていったのだろう
 加速剤の研究に全力をぶちこみ、いかに1秒間を長く使えるかにばかり重点を置いたのではないかな
 そして、人間の生命の短縮という事実がハッキリしてくる 加速するほど寿命は縮まり続けた
 砂でできた建物も、50年、100年も建ち続ける意味がないからだ」

 「そして、ついに、少しでも早く動けば、空気摩擦熱で焼け死ぬところまでいってしまったんですね」

途端に話していた男の身体が硬直し、動作が緩やかになった
「誰か、早く クスリが切れたんだ!」

「今度はこっちの進化の番だな」ラーゲルが暗い表情で予言した



終りがはじまり
やっと大学に入ったんだ・・・と思っていたマスオの前を
薄緑色した小さなものが通り過ぎ消えたのを見た
気のせいかな

気づくと、机にもたれて居眠りをしていた
母が入ってきて「入学試験はまだ4ヶ月も先なんだから、ムリをしないで」と言う

時間が戻ったことを話すと勉強疲れのせいにされた
絶望しつつ、自分は大学に受かる運命にあると納得させた

進学指導の教師から「成績が下がり、志望校を1ランク落とさなければならなくなるかもしれない」といわれる
(やるほかない)

以前起こったことと違う時間の中で、マスオは再び猛烈に勉強し、志望校のレヴェルも上げるまでになった
が、大学に落ちてしまう
絶望して、家に帰ると、また緑色の怪物を見て、反射的に捕まえる

(ワルカッタ キミヲ ジッケンダイニシタ タスケテ)とテレパシーで話しかけてくる
(ワタシハ チキュウイガイニスムウ セイブツダ)

実験に都合のいい受験生のマスオを選んだという
「殺してやる!」その時、思いつきがひらめいた
「僕の要求を聞くなら助けてやる」

再び、机にいた 僕は三度、大学へ挑戦して、こんどこそ本当に成功してみせる


モーレツ教師
欣也はテニスクラブのヒロコに「練習しないの?」と心配されるが理由を言う気になれなかった
恐るべき教育ママの母の選んだ家庭教師が初めて来る日なのだ



状元秀一郎と名乗り、「すでに開始時刻から11分遅れています 今日は数学をやります」
恐るべきハードスケジュールで、ごく初歩の基礎知識からはじめ、どんどん進んでいく
2時間の約束が、給料はそのままで、3時間、ついに6時間にまで延び、週2日が3日となった

「テニスクラブを続けることを交換条件にしたのに違うじゃないか!」

母は「あなたはT大に入らなければならないんです!」とヒステリックに泣き
「こんなに一生懸命になっているのに、みんなが私をいじめるんだわ
 私なんかいないほうがいいんだわ 死んでやる!」と言い出し、断れなくなってしまった

週3日は4日になり、すでに反抗する気力もない
校門でまたヒコロに声をかけられ話していると、家庭教師が走ってきて
「急ぎなさい 勉強を始めます」と言って、ヒロコを手ではらうと、2mも飛ばされた

欣也はガマンできず、教師の頬を叩くと金属のような音がした
あれは・・・人間ではないのだ

家まで走り、「すでに開始時刻を42分も過ぎています」とまだ言う家庭教師に
「殴るんだ、なにか硬いもので壊すんだ!」

「こわすの、やめてくださいよォ」と声がして、怪物の動きが止まった
「わたくしィ、あんたァらよりー、7万年未来ィの人類学者ァね
 この時代ィ、日本国、試験地獄ーです 教育ママーという過保護好きィいる」



「でもーやっぱりィ、だめでーす この時代ィ 馬鹿でーす
 学習能力ゥ、ゼロ おまけに野蛮ゥでーす
 教育ロボットゥの緊急ゥ信号に気がつかなかったーら、こわされてしまーう、ところォでした
 もう実験はァ、やめまーす 未来へェ帰りまーす」

欣也の生活はもとに戻った クラブ活動を続け、母は、もううるさく言わなくなった
それでも、時々、母が気の毒になったりもするのである



現れて去るもの
赤穂線の「日生」という駅で育った幹夫は、父の転勤で大阪の中学に転校して1年になるが馴染めないでいた

そんな時、「瀬戸内海で漁船遭難?!」という記事を読み、
今も文通をしている日生の親友・今西保雄の父が事故に遭ったと知りショックを受ける

毎読新聞記者で、父の弟・杉山俊郎が夜分遅くにきて
「海はシケどころか、快晴だった」と告げる

速報では「今日1日だけで計7隻も消えた」と聞き、すぐ現場に行くという俊郎に
自分も一緒に行くという幹夫 最近、沈んでいる様子を心配していた両親は反対しなかった

「昼間、みんなの見ている前で消えた」と、現地のタクシー運転手から聞く
現場はマスコミと野次馬でいっぱいで、捜索に出て消えた船に保雄も乗っていていたと知る幹夫

幹夫「行方不明になるなら、なってみればいい そうでもしなければ、どうにもならないんじゃない」

その船が戻ってきたと知らせが入るが、乗っていたのは、金属的な服を着た妙な人間たちだった
全部で15、6人 「私たちは追われています 行かせてください!」

そこに見たこともないヘリコプターが来て、金属的な黒い制服を着た者らが
先に来た者らを銃で撃ち、どんどん倒れていく



毎読新聞岡山支局・森は、頭をひどく殴られ出血している
「僕は、あいつらのやったことを撮ってやりましたよ

それを持って、本社へ走ると、「助けて! お願いします」と少女が来た
異次元から来たと説明し

「せっかく新しい世界があると分かって、みんなで逃げたのに捕まってしまった・・・
 私たちの世界は、今、昭和37年なんです 私の名前は小西佐夜子 日本人です
 私たちは読む本、ものの考え方まですべて決められています
 それに反抗すると、すぐに非常時警察が捕まえて、思想改造を行います」

俊郎のスクープで、宿にマスコミが押しかけてきて、仕方なくインタビューが始まるが
記者の中に異次元世界の非常時警察の者がいて、皆にとりおさえられると自殺する

こっちの日本では戦争に負けたと話すと異常にショックを受ける
異次元世界の日本では「極東大戦」で勝ったと話す

俊郎は、惨劇から3日目、しびれをきらして「日本代表」だという設定で向うの世界に行くと決める
そこに4、50機の軍の飛行機がきて、佐夜子「降下兵よ! ここを占領するつもりなのよ!」




俊郎、幹夫、佐夜子らは船に乗り、異次元世界側の大多府島に着く
だが、そこは幹夫の知るのどかな島ではなく、高層ビルがひしめく俗悪な観光地のようだった

哨戒艇が来て、逃げる代わりに代表を装うが、ウソを見破られ
「お前たちは日生で徹底的に調べられてから、大阪の収容所に送られる
 我々、非常時警察は殺人権をもっている」

俊郎は「人ごみの中へバラバラに逃げろ!」と言い、3人で逃げていたが足を撃たれる
「行け! このことを我々の世界の人々に告げるんだ それしか方法はない」

一般の人々は、警察に逆らわず、進んで協力もしないため、
2人は佐夜子の仲間の連絡所に向かう

「そこならニセモノの身分証明書も手に入るわ
 市民番号、生年月日、犯罪履歴、その他あらゆることを記した紙きれ
 それを持っていないと逮捕され、徹底的に調べられるの」
(マイカードに似てないか?

連絡所は警察の手に落ちていたが、クルマで逃げ、赤穂に向かう佐夜子
途中でクルマを逆行させて、2人は降り、警察車両と激突して谷に落ちる

2人は水谷という反政府グループのリーダーの1人に助けられる
「我々は、赤穂駅で列車を襲う 日生で捕えられた人が護送される情報を掴んだんだ」

幹夫も大型のピストルを渡される 列車には俊郎や、拷問で重体の保雄もいた
水谷「君たちは赤穂御崎から船で元の世界に戻るがいい 我々の仲間を15人ほど連れて行ってほしい」

船の中で佐夜子は「私の父母も拷問されて処刑されてしまった」と明かす

「日本はアジアを完全に支配して、世界の超一流国になったの
 科学者の中に狂信的な野心家がいて、いつの間にか日本を動かしはじめた
 外国が手出しは出来ないけど、私たちは窮屈になるばかり
 これをあなた方の世界の人に訴えて、なんとかしてもらおうと思ったの」

次元を越える時の振動が、その都度激しくなることを危惧する佐夜子

日生に着くと、森が迎えに来た
「昨日占領され、町は完全に支配されています すぐに脱出しなければ!」

佐夜子らは軍に取り囲まれるが、ようやくこちらの機動隊と遭遇する
日生からは続々と脱出者が出て、向うの軍は情報をすべて遮断したという

病院で保雄らが手当してもらおうとすると、日生港に大部隊が上陸したと知らせが入る
「我々の目的は、人殺しではありません 堕落したこちらの日本を正しい道に導くために来たのです」



絶体絶命と思われたが、急にすべての部隊が海のほうへと戻りはじめた
現場を見に行くと、大多府島には何百の船がひしめきあい燃えている
次元間通路が閉じてしまったのだ

佐夜子「私たちの世界でまだ戦っている仲間を助けようとこちらに来たのに・・・」

俊郎
「今ごろ本気になって来た学術調査団の話だと、多元宇宙の存在自体、まだ認められていないそうだ
 今度の事件はいろんなことを考えさせることになるだろうな
 彼らは現れて去っていったが、我々にいまの日本をもう一度考え直す作用をしてくれるかもしれない」




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