■『地獄の才能』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑、本文イラスト/谷俊彦(昭和55年初版 昭和59年14版)
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
助けて! だれか来て! ・・・続けておきる子供の悲鳴。
中学生の俊治が駆けつけてみると、野良犬の群れが子供たちを襲っている。
しかもその群れは、訓練された軍隊のように統制がとれ、まるで人間なみの知能を持つ指揮者にひきいられているかのようであった。
そんな折、ものすごすぎて、俊治たちには憎たらしい編入生がクラスに入ってきた。
英語はペラペラ、スポーツ万能、まるでスーパーマンのような活躍で、
あっという間にクラスのヒーローにのし上がってしまったのだ。
が、ある日、俊治は、その編入生のそばに、子供たちを襲ったあの野良犬がいるのを見た・・・。
恐るべき異能力を持つ集団との闘いを描く、SFスリラー!
これも『ねらわれた学園』系 数時間で一気に読みきってしまって、自分でもビックリ
いつもは、けっこう本を読むのは遅いほうなのに
とにかく先が気になって、どんどん読めてしまう
▼あらすじ(ネタバレ注意
中学生の宮原俊治、森順平、小田中明子は小学校からの同級生
学校の帰り道、坂をのぼったところにある解体作業の始まった屋敷から
子どもの「助けて!」という声を聞きつけて行くと、5、6人の子どもが、野犬に囲まれていた
耳が欠けているリーダーの犬のもと、まるでヒトの軍隊のように統制がとれていることに恐怖を覚える俊治
中学1年の授業が始まって、1週間後に富士見和男という少年が入って来る
小学校の卒業式直前に体調を崩していたが、勉強にはすぐにおいつけると自信満々
そのどこか影のある表情にも違和感を感じる俊治
富士見は、その日から頭角を現した
教師を専門的な質問で言い負かし、スポーツも万能 まさに天才児で、すぐに学校のヒーローとなる
彼の周りにはいつも取り巻きの女子がいて、明子もその1人
順平はなにも敵わないと不平をもらす
その富士見の足元に、あの耳の欠けた犬がいるのを見て驚く俊治
富士見に聞くと、名前はピスといい、野良犬で餌をあげたらなついてしまったと言い、
子どもを襲った話は一笑に付す
その後、明子は病気で学校を1週間ほど休んだ
なのに、坂の上の洋館に明子がいて、やはり犬を従えているのに驚く俊治ら
声をかけると明子はうろたえる
「私は早く研究所に行かなければならないのよ」
そこに富士見もやって来て、2人が明子をいじめていると言ったので
短気な順平はついにとびかかるが、簡単に投げ飛ばされてしまう
俊治らは、お見舞いということにして明子の親に会って事情を探ろうとすると、
やはり「病院に通っている」とウソをついている
研究所のことを出すと「帰ってください!」と追い出される
その後、明子は病気とは思えない様子で学校に戻り、
その無表情な雰囲気が富士見に似ているのを感じて不安になる俊治
明子も勉強、スポーツ万能の天才になっていた
俊治は夕刊に「先生、授業中に生徒を殴る」という見出しを見つける
あまり生徒が生意気だから殴打したという 小学校時代は目立たない生徒だった
同じく夕刊を読んだ順平から電話があり
「兄貴に心当たりがあるというから、今からウチに来てくれないか?」
順平の兄は、新聞に載っている子どもの家庭教師をしていたと話す
「この子のお母さんが、おそるべき教育ママでね
家庭教師について、クラスの中以下から、10番くらいまで上がったが、それじゃ不満だという
学年で1、2番にしてくれといって、ムリだと言うと、あっさりクビさ」
その後、ある建物から出てきた所で出会って、会釈をしたら、無言で走り去った
その建物は、バスで30分ほどの都心のビルで「英才研究所」という
順平はすぐにでも行きたがるが、「もう少し情勢を見てから、僕と一緒に行くことにしよう」と言われる
毎年定期的に行われる、区内対抗の体育大会
卓球部の明子は、目にも止まらぬサーヴを繰り出すなどして圧勝していた
そこに順平が来て「富士見の仲間は2人、3人じゃないぞ」
他のスポーツ、他の中学にも数人似たような天才がいて、勝ち抜いている
すっかり怒った順平は「オレは1人でも探り出す!」と行ってしまう
その夜、順平がまだ戻らないと親から電話があり
俊治「研究所に行って捕まってしまったんだ!」
俊治と順平の親に事情を話して、順平の兄とともに研究所に向かい、まず俊治1人で訪ねると
女性の声で「あなたは、この研究所のメンバーではありませんね 早くお帰りなさい!」と言われ
まだ粘ると、白い実験着のような服を着た青年2人に腕をつかまれる
そこに順平の兄が行き、近所にも聞こえるよう「何をするつもりだ! 誘拐か!?」と声を張り上げると
周りの人々が出てきて、青年たちはひるむ
ここのリーダー格らしい中年の男が出てきて
「たしかに森順平くんはお預かりしている お返ししよう
無断で研究所に忍び込んだので、とりあえず拘置したのだ
我々の研究は画期的で、多くのスパイが内容を探り出そうとしているので」
家に帰ると、それまで半信半疑だった俊治の父も
「たしかに奇妙だ 平凡な生徒を天才にする教育方法を開発したのなら
大々的に世間に発表するだろうに、それを知った人間を捕えるなんておかしいな」
順平の話だと、ビルの一室にずっと閉じ込められていたという
翌日の放課後、順平の兄に呼ばれて家に行くと、城西第一中学1年生の桜井多美子という少女が来て
怯えるような表情で、研究所について話す
「天才を作り出しているんですわ でも、私はやめました
もうこれ以上続けたくない あんなこと許しておくわけにはいきません」
多美子の両親は早くに亡くなり、祖父母のもとで暮らしているが
祖父母は厳しいしつけで、学校の成績にはとくに神経質だった
学校から帰ると、英才研究所から派遣された説得員が来ていて、
授業風景を見に行くことになった
中でやっていることは勉強も運動も専門的で、2週間で特訓が身につく
授業料は約100万円もするが、祖父母に言われて入った
1日12時間ぎっしりスケジュールがつまっていて、
見たことのない機械類があり、十数分座ったり、注射を打たれたりすると
妙に頭がスッキリして、その2時間以内に速読や印象法で無数の知識を叩き込む
「注射などは大脳のはたらきを高める手段だと言っていました
ヒトの脳は、死ぬまでに全部を使い切らない そのムダをなくすのだと」
他人に話したり、特訓を休もうとすると、ひどくイライラし
頭の中で命令されているような気がする
これには、何か企みがあるような気がして仕方がないのです」
そこまで話すと、外にピスら研究所で飼われて、訓練されている犬たちがやって来る
研究所に通う者のボディガードをしているのでは?
順平の兄は、仕方なく空気銃を撃って対抗する
多美子を家まで送る途中、富士見と明子に会う
「あなた、つまらないことをしたわね しかし、まだチャンスは残されている」
「今夜、家へ帰って、何が起きているか見てから、もう一度考え直すことだね」
順平らはまた犬に引き留められる
多美子
「私、諦めました 私が逃れようとするかぎり、次々と嫌がらせをされるでしょう
私だけなら覚悟しますが、親代わりに育ててくれた祖父母に万一のことがあったら・・・
研究所に通うしかないのです」
その夜、あの犬たちが燃えている木をくわえて放火しに来る
順平の家にも来ているという
俊治は110番をして、信じてもらえるかためらっていると
「まさか、君のところも、犬が火をつけたというんじゃないだろうね?
ゆうべから何軒も同じようなことが起きているんだ」
犬の群れは窓を破って、ついに家にまで入ってくる
だが、噛み付くわけではなく、順平と俊治を研究所に連れていこうとしてた
パトカーが来て、犬の群れと向かい合う
そこに乗用車が来て、警官に向かって指をさすと、薄い小さな三角形のものが出て、警官たちは声もあげずに倒れた
クルマにいた青年に連れられ、俊治は意識を失ってしまう
気づくと、周囲が真っ白でなにもない部屋に1人で入れられていた
お腹が減ると食事が壁から出てきて、トイレに行きたいと思うとトイレが出てくる
何の音もない白い部屋でじっとしていると発狂しそうだった
そこにいつかの中年男が現れる 怒りでとびつくと、何の手応えもない
「この姿は立体映像なのだ」
順平も同じような部屋に閉じ込めているという
「君次第で地球にとどめておくことができるが、そうでなければ、我々の惑星へ送るほかない」
信じない俊治に、男は胸にある10cm2ほどの銀色の板が埋められているのを見せる
そのいくつかを押すと、みるみるしぼんで、高さ1mほどの得体の知れぬゴツゴツしたものに変わってしまった
「我々は太陽系外の惑星から来た 地球の人間を家畜にするために
とは言っても、この仕事は少人数でははかどらない
そこでかなりの数の原住民に、適当なレヴェルまで速成教育をして事情を明らかにし
仕事を手伝わせることにした 教育には、我々に対する忠誠心の植え付けも含まれている
君たちは2週間の教育を受けるか、家畜の見本として惑星に送られるか選ばせてやろう」
俊治は抵抗を止めて「森くんと相談してはいけませんか? 彼と同じ道をたどりたいんです」
興奮している順平をなだめ「しばらく将棋の話でもして相談しよう」と誘う
将棋の好きな順平に、将棋の駒に例えて、これからどうするか相談しようと言う狙いだ
「よほど堅い守りでないとやられてしまう だが駒はせいぜい香車か歩兵が2枚だけだ
一応、成金になるコースを選んで、機会があれば盤をひっくり返すというのはどうだ?」
2人は、ビルのさらに地下へと降り、そこには窓のないだだ広い空間がある
2人の教育を担当するのは富士見だった
「君は僕を先生と呼ばなければならない 先生の言いつけにはすべて従うように」
教育には忠誠心の植え付けもあると言っていた
学習を始めてしまったら、富士見と同じ道をたどるのだろうか?
2人がやりとりしている間、外では完全武装した警官、機動隊員たちが待機していた
「警察だ この建物を捜索する!」
建物に入って検分して回っても、研究所の設備があるだけだった
中年男は余裕の顔で
「失礼ですが、もうそろそろお引取りいただけませんか?
本来なら正式に訴え出るところですが、今回は何も申しません ですから・・・」
「それだ なぜ訴えない? それは君たちに弱味があるからだ
この研究所の人々は住民登録をしていないが、それはなぜかね?」
中年男の顔がこわばり、実験着の男女が指揮者に謎の武器を向けると、指揮者は床に倒れた
「傷害と、公務執行妨害で逮捕する!」
その場にいた警官のほとんどがあっという間に倒れた
中年男は、廊下を突き進み、エレベーターホールに向かっていた
「抵抗はよせ! 撃つぞ!」
銃弾を受けた所員たちの体が、変な具合に歪み、みるみるしぼんでいった
「化け物だ! 撃て! 撃ち倒してしまえ!」
銃弾の一発が所員の胸に当たると仰向けにひっくりかえった
「やつらの弱点は胸だ!」
エレベーターは地下3階で止まっている
「バーナーで焼き切るんだ!」
機械技術者は首をひねり
「この冷暖房装置は、この程度のビルにしてはいやに大きすぎる気がする
ケージは、ここよりまだ下へ降りていることになる まだ下があるはずだ」
「このことを本署へ報告して、道具を揃えてもらおう!」
学習の機械の中に入れと富士見に言われて迷い、順平は「あき王手だよな!」と言う
あき王手とは、王手を防ごうとして王将のそばにある駒が動くと
別の駒による王手がかかるやっかいなケースを意味する
それほど追い詰められたということか?
いや、あき王手をかけようというのだ 2人同時にかかればなんとかなるかも
2人は富士見にとびかかるが、簡単にやられてしまう
「なんという馬鹿だ 僕は前、森くんに将棋を教えてもらったことを忘れたのかね?
何を目論んでいるか、すぐに分かったのさ」
俊治は、機械に入れられる
そのうちに自身の肉体が消滅して、意識だけの存在になるような感覚になる
意識の彼は、何百という恒星と、それに率いられた惑星群に近づいては移っていく
その何%かには、さまざまな生物が住んでいた
どの惑星にも、必ずトップに立つものがいて、他のものを制し、勝手気ままにしている
それぞれのやり方で文明らしいものを作り、一部は宇宙に飛び出して、支配力をさらに強くしようとしている
その代表生物同士の大抵は、どちらかが倒れるまで戦い合うのだった
俊治は、地球に舞い戻り、忙しそうに行き来する人々やクルマ、
トラックで運ばれる牛、主人についていく犬などの中に入り、一体化し、
かれらのぼんやりとした思考と同化し、言い様のない不安と空しさを感じとった
生きたいように生きられず、人間に命令され、簡単に生命を奪われる
田園、森、海岸、どこへ行き、何の身になっても同じだった
あらゆる生物は、今や人間の力にひれ伏し、影響を受けている
人間に戻った彼は
(だって、しかたがないのだ 地球上では、人間がいちばん強い
動植物を殺して、食い、住居や衣服のために利用しなければ生きていけないから)
だが、自分の考えに嘘が入っているのを悟った
人間は、狩猟を楽しみ、身を飾るため、快適な暮らしを送るため
必ずしも殺さなくてもいい生物までどんどん殺しているではないか
生物の品種を、自分たちの都合に合わせてて変えることさえしている
今の考え方を進めれば、人間も、自分より優れた生物の奴隷になるのが当たり前ということになりはしないか?
どこかが間違っている・・・
体がにわかに熱くなり、叫び声と銃声も聞こえた
「我々は警官隊だ ここは催涙ガスがたちこめているから、外へ出て目を洗ったほうがいい
森くんも救い出されたよ」
所員も、秘密のフロアの少年少女たちも信じられないほどの勢いで反撃してきたが
警官はひるまず、しゃにむに突進し、人間とそうでない者を見分けるため
ガスマスクをつけて、催涙ガスを撃ち込んだ
犬の大集団も襲いかかってきて、身を守るため、射殺するほかなかった
だから、戦い後の現場は凄惨で、マスコミや関係者らは
もっと穏やかに解決できなかったのかと文句を浴びせ、
ニュースで知った世間も眉をひそめた者が多かった
だが、事件の全貌が明らかになると、大きな衝撃に変わった
問題は、すでに天才化されている少年少女である
異性人の手先であることをやめない以上、もとの環境に戻すのはよくないと
警察、教育関係者、学者らは、彼らを一種の静養施設に入れた
日が経つと、彼らは大人しくなり、知能も普通になってしまった
だが、戻ったように見えても、真実かどうかは当人以外には分からない
あれほどの知能があるのだから、普通を装うことは簡単なはずである
少なくとも、半年か1年は観察すべきだと、施設を学校にして、先生を送り込み、様子を見守った
今の2人はいわば英雄だった
事件について話してくれという人間が絶えないのだ
坂の上にはアパートが建っている あれから4ヶ月が経った
あのピスも、やはり、人間に恨みを抱いていたのだろうか
もっとよく考えなければならないことが多すぎる・・・と俊治は思った
眉村卓/著 カバー/木村光佑、本文イラスト/谷俊彦(昭和55年初版 昭和59年14版)
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
助けて! だれか来て! ・・・続けておきる子供の悲鳴。
中学生の俊治が駆けつけてみると、野良犬の群れが子供たちを襲っている。
しかもその群れは、訓練された軍隊のように統制がとれ、まるで人間なみの知能を持つ指揮者にひきいられているかのようであった。
そんな折、ものすごすぎて、俊治たちには憎たらしい編入生がクラスに入ってきた。
英語はペラペラ、スポーツ万能、まるでスーパーマンのような活躍で、
あっという間にクラスのヒーローにのし上がってしまったのだ。
が、ある日、俊治は、その編入生のそばに、子供たちを襲ったあの野良犬がいるのを見た・・・。
恐るべき異能力を持つ集団との闘いを描く、SFスリラー!
これも『ねらわれた学園』系 数時間で一気に読みきってしまって、自分でもビックリ
いつもは、けっこう本を読むのは遅いほうなのに
とにかく先が気になって、どんどん読めてしまう
▼あらすじ(ネタバレ注意
中学生の宮原俊治、森順平、小田中明子は小学校からの同級生
学校の帰り道、坂をのぼったところにある解体作業の始まった屋敷から
子どもの「助けて!」という声を聞きつけて行くと、5、6人の子どもが、野犬に囲まれていた
耳が欠けているリーダーの犬のもと、まるでヒトの軍隊のように統制がとれていることに恐怖を覚える俊治
中学1年の授業が始まって、1週間後に富士見和男という少年が入って来る
小学校の卒業式直前に体調を崩していたが、勉強にはすぐにおいつけると自信満々
そのどこか影のある表情にも違和感を感じる俊治
富士見は、その日から頭角を現した
教師を専門的な質問で言い負かし、スポーツも万能 まさに天才児で、すぐに学校のヒーローとなる
彼の周りにはいつも取り巻きの女子がいて、明子もその1人
順平はなにも敵わないと不平をもらす
その富士見の足元に、あの耳の欠けた犬がいるのを見て驚く俊治
富士見に聞くと、名前はピスといい、野良犬で餌をあげたらなついてしまったと言い、
子どもを襲った話は一笑に付す
その後、明子は病気で学校を1週間ほど休んだ
なのに、坂の上の洋館に明子がいて、やはり犬を従えているのに驚く俊治ら
声をかけると明子はうろたえる
「私は早く研究所に行かなければならないのよ」
そこに富士見もやって来て、2人が明子をいじめていると言ったので
短気な順平はついにとびかかるが、簡単に投げ飛ばされてしまう
俊治らは、お見舞いということにして明子の親に会って事情を探ろうとすると、
やはり「病院に通っている」とウソをついている
研究所のことを出すと「帰ってください!」と追い出される
その後、明子は病気とは思えない様子で学校に戻り、
その無表情な雰囲気が富士見に似ているのを感じて不安になる俊治
明子も勉強、スポーツ万能の天才になっていた
俊治は夕刊に「先生、授業中に生徒を殴る」という見出しを見つける
あまり生徒が生意気だから殴打したという 小学校時代は目立たない生徒だった
同じく夕刊を読んだ順平から電話があり
「兄貴に心当たりがあるというから、今からウチに来てくれないか?」
順平の兄は、新聞に載っている子どもの家庭教師をしていたと話す
「この子のお母さんが、おそるべき教育ママでね
家庭教師について、クラスの中以下から、10番くらいまで上がったが、それじゃ不満だという
学年で1、2番にしてくれといって、ムリだと言うと、あっさりクビさ」
その後、ある建物から出てきた所で出会って、会釈をしたら、無言で走り去った
その建物は、バスで30分ほどの都心のビルで「英才研究所」という
順平はすぐにでも行きたがるが、「もう少し情勢を見てから、僕と一緒に行くことにしよう」と言われる
毎年定期的に行われる、区内対抗の体育大会
卓球部の明子は、目にも止まらぬサーヴを繰り出すなどして圧勝していた
そこに順平が来て「富士見の仲間は2人、3人じゃないぞ」
他のスポーツ、他の中学にも数人似たような天才がいて、勝ち抜いている
すっかり怒った順平は「オレは1人でも探り出す!」と行ってしまう
その夜、順平がまだ戻らないと親から電話があり
俊治「研究所に行って捕まってしまったんだ!」
俊治と順平の親に事情を話して、順平の兄とともに研究所に向かい、まず俊治1人で訪ねると
女性の声で「あなたは、この研究所のメンバーではありませんね 早くお帰りなさい!」と言われ
まだ粘ると、白い実験着のような服を着た青年2人に腕をつかまれる
そこに順平の兄が行き、近所にも聞こえるよう「何をするつもりだ! 誘拐か!?」と声を張り上げると
周りの人々が出てきて、青年たちはひるむ
ここのリーダー格らしい中年の男が出てきて
「たしかに森順平くんはお預かりしている お返ししよう
無断で研究所に忍び込んだので、とりあえず拘置したのだ
我々の研究は画期的で、多くのスパイが内容を探り出そうとしているので」
家に帰ると、それまで半信半疑だった俊治の父も
「たしかに奇妙だ 平凡な生徒を天才にする教育方法を開発したのなら
大々的に世間に発表するだろうに、それを知った人間を捕えるなんておかしいな」
順平の話だと、ビルの一室にずっと閉じ込められていたという
翌日の放課後、順平の兄に呼ばれて家に行くと、城西第一中学1年生の桜井多美子という少女が来て
怯えるような表情で、研究所について話す
「天才を作り出しているんですわ でも、私はやめました
もうこれ以上続けたくない あんなこと許しておくわけにはいきません」
多美子の両親は早くに亡くなり、祖父母のもとで暮らしているが
祖父母は厳しいしつけで、学校の成績にはとくに神経質だった
学校から帰ると、英才研究所から派遣された説得員が来ていて、
授業風景を見に行くことになった
中でやっていることは勉強も運動も専門的で、2週間で特訓が身につく
授業料は約100万円もするが、祖父母に言われて入った
1日12時間ぎっしりスケジュールがつまっていて、
見たことのない機械類があり、十数分座ったり、注射を打たれたりすると
妙に頭がスッキリして、その2時間以内に速読や印象法で無数の知識を叩き込む
「注射などは大脳のはたらきを高める手段だと言っていました
ヒトの脳は、死ぬまでに全部を使い切らない そのムダをなくすのだと」
他人に話したり、特訓を休もうとすると、ひどくイライラし
頭の中で命令されているような気がする
これには、何か企みがあるような気がして仕方がないのです」
そこまで話すと、外にピスら研究所で飼われて、訓練されている犬たちがやって来る
研究所に通う者のボディガードをしているのでは?
順平の兄は、仕方なく空気銃を撃って対抗する
多美子を家まで送る途中、富士見と明子に会う
「あなた、つまらないことをしたわね しかし、まだチャンスは残されている」
「今夜、家へ帰って、何が起きているか見てから、もう一度考え直すことだね」
順平らはまた犬に引き留められる
多美子
「私、諦めました 私が逃れようとするかぎり、次々と嫌がらせをされるでしょう
私だけなら覚悟しますが、親代わりに育ててくれた祖父母に万一のことがあったら・・・
研究所に通うしかないのです」
その夜、あの犬たちが燃えている木をくわえて放火しに来る
順平の家にも来ているという
俊治は110番をして、信じてもらえるかためらっていると
「まさか、君のところも、犬が火をつけたというんじゃないだろうね?
ゆうべから何軒も同じようなことが起きているんだ」
犬の群れは窓を破って、ついに家にまで入ってくる
だが、噛み付くわけではなく、順平と俊治を研究所に連れていこうとしてた
パトカーが来て、犬の群れと向かい合う
そこに乗用車が来て、警官に向かって指をさすと、薄い小さな三角形のものが出て、警官たちは声もあげずに倒れた
クルマにいた青年に連れられ、俊治は意識を失ってしまう
気づくと、周囲が真っ白でなにもない部屋に1人で入れられていた
お腹が減ると食事が壁から出てきて、トイレに行きたいと思うとトイレが出てくる
何の音もない白い部屋でじっとしていると発狂しそうだった
そこにいつかの中年男が現れる 怒りでとびつくと、何の手応えもない
「この姿は立体映像なのだ」
順平も同じような部屋に閉じ込めているという
「君次第で地球にとどめておくことができるが、そうでなければ、我々の惑星へ送るほかない」
信じない俊治に、男は胸にある10cm2ほどの銀色の板が埋められているのを見せる
そのいくつかを押すと、みるみるしぼんで、高さ1mほどの得体の知れぬゴツゴツしたものに変わってしまった
「我々は太陽系外の惑星から来た 地球の人間を家畜にするために
とは言っても、この仕事は少人数でははかどらない
そこでかなりの数の原住民に、適当なレヴェルまで速成教育をして事情を明らかにし
仕事を手伝わせることにした 教育には、我々に対する忠誠心の植え付けも含まれている
君たちは2週間の教育を受けるか、家畜の見本として惑星に送られるか選ばせてやろう」
俊治は抵抗を止めて「森くんと相談してはいけませんか? 彼と同じ道をたどりたいんです」
興奮している順平をなだめ「しばらく将棋の話でもして相談しよう」と誘う
将棋の好きな順平に、将棋の駒に例えて、これからどうするか相談しようと言う狙いだ
「よほど堅い守りでないとやられてしまう だが駒はせいぜい香車か歩兵が2枚だけだ
一応、成金になるコースを選んで、機会があれば盤をひっくり返すというのはどうだ?」
2人は、ビルのさらに地下へと降り、そこには窓のないだだ広い空間がある
2人の教育を担当するのは富士見だった
「君は僕を先生と呼ばなければならない 先生の言いつけにはすべて従うように」
教育には忠誠心の植え付けもあると言っていた
学習を始めてしまったら、富士見と同じ道をたどるのだろうか?
2人がやりとりしている間、外では完全武装した警官、機動隊員たちが待機していた
「警察だ この建物を捜索する!」
建物に入って検分して回っても、研究所の設備があるだけだった
中年男は余裕の顔で
「失礼ですが、もうそろそろお引取りいただけませんか?
本来なら正式に訴え出るところですが、今回は何も申しません ですから・・・」
「それだ なぜ訴えない? それは君たちに弱味があるからだ
この研究所の人々は住民登録をしていないが、それはなぜかね?」
中年男の顔がこわばり、実験着の男女が指揮者に謎の武器を向けると、指揮者は床に倒れた
「傷害と、公務執行妨害で逮捕する!」
その場にいた警官のほとんどがあっという間に倒れた
中年男は、廊下を突き進み、エレベーターホールに向かっていた
「抵抗はよせ! 撃つぞ!」
銃弾を受けた所員たちの体が、変な具合に歪み、みるみるしぼんでいった
「化け物だ! 撃て! 撃ち倒してしまえ!」
銃弾の一発が所員の胸に当たると仰向けにひっくりかえった
「やつらの弱点は胸だ!」
エレベーターは地下3階で止まっている
「バーナーで焼き切るんだ!」
機械技術者は首をひねり
「この冷暖房装置は、この程度のビルにしてはいやに大きすぎる気がする
ケージは、ここよりまだ下へ降りていることになる まだ下があるはずだ」
「このことを本署へ報告して、道具を揃えてもらおう!」
学習の機械の中に入れと富士見に言われて迷い、順平は「あき王手だよな!」と言う
あき王手とは、王手を防ごうとして王将のそばにある駒が動くと
別の駒による王手がかかるやっかいなケースを意味する
それほど追い詰められたということか?
いや、あき王手をかけようというのだ 2人同時にかかればなんとかなるかも
2人は富士見にとびかかるが、簡単にやられてしまう
「なんという馬鹿だ 僕は前、森くんに将棋を教えてもらったことを忘れたのかね?
何を目論んでいるか、すぐに分かったのさ」
俊治は、機械に入れられる
そのうちに自身の肉体が消滅して、意識だけの存在になるような感覚になる
意識の彼は、何百という恒星と、それに率いられた惑星群に近づいては移っていく
その何%かには、さまざまな生物が住んでいた
どの惑星にも、必ずトップに立つものがいて、他のものを制し、勝手気ままにしている
それぞれのやり方で文明らしいものを作り、一部は宇宙に飛び出して、支配力をさらに強くしようとしている
その代表生物同士の大抵は、どちらかが倒れるまで戦い合うのだった
俊治は、地球に舞い戻り、忙しそうに行き来する人々やクルマ、
トラックで運ばれる牛、主人についていく犬などの中に入り、一体化し、
かれらのぼんやりとした思考と同化し、言い様のない不安と空しさを感じとった
生きたいように生きられず、人間に命令され、簡単に生命を奪われる
田園、森、海岸、どこへ行き、何の身になっても同じだった
あらゆる生物は、今や人間の力にひれ伏し、影響を受けている
人間に戻った彼は
(だって、しかたがないのだ 地球上では、人間がいちばん強い
動植物を殺して、食い、住居や衣服のために利用しなければ生きていけないから)
だが、自分の考えに嘘が入っているのを悟った
人間は、狩猟を楽しみ、身を飾るため、快適な暮らしを送るため
必ずしも殺さなくてもいい生物までどんどん殺しているではないか
生物の品種を、自分たちの都合に合わせてて変えることさえしている
今の考え方を進めれば、人間も、自分より優れた生物の奴隷になるのが当たり前ということになりはしないか?
どこかが間違っている・・・
体がにわかに熱くなり、叫び声と銃声も聞こえた
「我々は警官隊だ ここは催涙ガスがたちこめているから、外へ出て目を洗ったほうがいい
森くんも救い出されたよ」
所員も、秘密のフロアの少年少女たちも信じられないほどの勢いで反撃してきたが
警官はひるまず、しゃにむに突進し、人間とそうでない者を見分けるため
ガスマスクをつけて、催涙ガスを撃ち込んだ
犬の大集団も襲いかかってきて、身を守るため、射殺するほかなかった
だから、戦い後の現場は凄惨で、マスコミや関係者らは
もっと穏やかに解決できなかったのかと文句を浴びせ、
ニュースで知った世間も眉をひそめた者が多かった
だが、事件の全貌が明らかになると、大きな衝撃に変わった
問題は、すでに天才化されている少年少女である
異性人の手先であることをやめない以上、もとの環境に戻すのはよくないと
警察、教育関係者、学者らは、彼らを一種の静養施設に入れた
日が経つと、彼らは大人しくなり、知能も普通になってしまった
だが、戻ったように見えても、真実かどうかは当人以外には分からない
あれほどの知能があるのだから、普通を装うことは簡単なはずである
少なくとも、半年か1年は観察すべきだと、施設を学校にして、先生を送り込み、様子を見守った
今の2人はいわば英雄だった
事件について話してくれという人間が絶えないのだ
坂の上にはアパートが建っている あれから4ヶ月が経った
あのピスも、やはり、人間に恨みを抱いていたのだろうか
もっとよく考えなければならないことが多すぎる・・・と俊治は思った