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『ショートショート一分間だけ』 眉村卓/著(角川文庫)

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■『ショートショート一分間だけ』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和55年初版 昭和56年6版)

「作家別」カテゴリーに追加しました。


[カバー裏のあらすじ]

アキラ、イサム、ウタロウ、エリコ…次から次へと登場する、きみの名前や、ともだちの名前! みんなが、このショート・ショートの主人公なのだ。
分身の術を使って試験問題を事前に盗みみたてん末は?
テスト中に"時間よとまれ"と祈ったら、ほんとうに止まってしまった話。
実力テストで、トップになったとたん、ピストルで決闘する恐ろしい夢ばかり見るようになった話。エトセトラ……
きみらが出てくる、きみらのための、とても愉快で、ちょっぴり身につまされる、ショート・ショート全68編!


【眉村卓あとがき 内容抜粋メモ】
このショート・ショートは、“進学・サンケイ中学生”紙上に、昭和52~54年まで
全68回にわたり連載されたものです

連載をはじめようとしていた頃、娘が気になることを言いました
僕が書くジュニアものの登場人物の名前は、みんな何となく似ている、というわけです
そんなことはないはずだ、と思ったりもしましたが、たしかに、1人1人の作家が使う
登場人物の名前には一定の傾向というか癖があって、僕も例外ではないかもしれません

とすると、これはショート・ショートを書いているうちに、
うっかり同じ名前を何度も使うのではなかろうかと不安になってきました
そこで登場人物の名前の最初の音をアイウエオ順にしようという一策を案出しました

ともかく連載が終わり、本になるとなれば、今度は本の題名をつけなければなりません
1分間だけ、というのは、このショート・ショートを1つ読むぐらいの時間ではないだろうか?
で、そうすることに決めました
というのが、このショート・ショート集が出来るまでのいきさつです




眉村さんの言う通り、1話が1分間ほどで読める上、どれも、面白い
軽く読んで楽しめるSF
だんだん、名前が苦しくなってくるあたりも可笑しいしw


▼あらすじ(ネタバレ注意


「ア 分身の術」
明日は期末テストの最終日
アキラは、聞いていたラジオのDJが「分身の術」について話しているのに興味をもつ
それが出来れば、明日の問題が見られるのでは?
全神経を集中させると、体から抜け出し、学校に向かい、問題をすべて頭に叩き込んだ

母「アキラ、気がついたのね!」
父「お前は丸5日も意識不明で眠っていたんだ もう目を覚まさないかと思った」

喜ぶ父母 アキラはとうに終わったテストのことをぼんやり考えていた


「イ 箱」
イサムは頑張っても成績が上がらないことに悩んでいた
ベンチの端に箱があり、声がした
「ワタシハ不定形ノセイブツ 他ノ生物ノ中ニ入ッテ、仲間ニナルノ
 ワタシハ他ノ生物ヲ助ケルノガタノシイノ」

「そんなうまい話があるものか」

「アナタハ勉強以外ノコトニ興味ガナクナルデショウ」

それを聞いて、好きな野球や、好きな女の子のことを考えて迷っていると、箱は消えていた

イサムのクラスに成績が急上昇したが、勉強しかしなくなった生徒がいる
あの箱のいいつけに従ったのだろうか 僕は損をしたのだろうか、と考えたりするのだ


「ウ 父の料理」
母が同窓会に出かけていて、父は酔って早く帰り、晩飯を作ってやると張り切っている
できたのはシチューともカレーとも言えない代物で、お世辞にも美味しいとは言えない

だが、食べながら、何気なく観ていたつまならいテレビドラマにやたら感動して
2人でぼろぼろ涙をこぼしていた

その後、元に戻り、テレビを見ても感動などしなくなった
あれは父の料理のせいだと思い、またあんな気分になってみたいと思うが
酔っていたため、二度と同じものは作れないのである


「エ テレビの自分」
エリ子は変な夢を見た 自分がアナウンサーになり、難しい質問にすらすらと答えている
翌朝、テレビに自分が出ているのを見て、エリ子も父母もビックリする 夢の通りなのだ
数分経ち、海外ニュースにかわり、「手違いをお詫びします」とテロップが出た
テレビを見たという知り合いから次々と電話がきても、母は説明できない


「オ 教育ルーム」
“都市運営局は、教育環境向上の実験を施行します
 教育ルームの壁から、心を和ませる感情コントロール線が放射されます
 ムードが明るくなり、学習意欲も向上すると期待されています”

オサムが教室に入ると、楽しくて、ちっとも勉強する気になれない
「先生! みんなで歌をうたおうよ!」
「やるか!」

歌ったり、踊ったり、大騒ぎとなった

“都市運営局は、さらに完全な方法が見つかるまで、当分、実験を中止します
 子どもたちの日ごろのストレスの蓄積が大き過ぎたため、
 どの教育ルームでもお祭り騒ぎになってしまったのです”

翌日、みんな昨日の騒ぎが恥ずかしくて、空しい顔つきだった
先生も、昨日のことを忘れようとして、さらに単調に授業を始めた


「カ 好き嫌い」
加藤は食べ物の好き嫌いが激しくて有名で、学校で弁当を食べているのを見たことがない
「お腹空かないか?」「別に」

修学旅行で僕は、加藤が1度も飲み食いをしない様子を見て
「君はひょっとしたら・・・ロボットとか?」
「仮にそうだとしても、レントゲン程度では見分けがつかないだろうからね」

僕は分からなかった 加藤がロボットなら、どうしてもっと成績が良くならないのか?
平均的人間を標準にするのが当然なのだろうか


「キ マンション」
紀久夫は、天体望遠鏡をもって、いとこの清の家に行った
間違えて下へ行くエレベーターに乗ってしまい、ドアが開くと、何十人もの男が焚き火を取り囲んで座っている
彼らが気づいて、刀を抜いて走ってきた時、やっとドアが閉まって、上に向かった

清「このマンションに地階なんてないぞ! 何か見たのか?
  ここらは古戦場で、たくさん人が死んだらしい
  時々怪しいことがあると噂だけど、もちろん迷信さ!
  僕らみたいに科学をやろうという者には関係ない」


「ク バスに乗れば」
国彦がバスに乗ると誰も乗客がいない
夢中で本を読んでいて、ふと窓の外を見ると見覚えのない街を走っている
1路線だけでバスを間違えるはずはない しかも、バスはどの停留所にも停まらず、回送と書いてあった

「運転手さん、おろしておくれよ!」

国彦をにらみつけた顔は、角を生やした鬼なのだ

母「鬼の運転するバスに乗って、山で鬼が外に出た隙に逃げてきたなんて 言い訳はやめたらどう?
  もう11時よ いい加減にしなさい!

国彦はため息をつくほかなかった


「ケ 交信」
円盤型の宇宙船は、偵察隊で、この星の住人数人に接触するのが目的だ
研一は、近道を自宅まで急いでいて、異様なロボットと遭遇した
こんな時間に、こんな廃工場を通ろうとしたのが間違いだった

隊員「どうしてでしょうね 我々のロボットは、ちゃんとあの少年に話しかけたのに、どうして通じなかったのでしょう」

隊長「あの少年は、ロボットの電波を受信し、同じ周波数で返事するはずなのに まったくワケの分からん連中だ!」


「コ 春休み」
春休みで、いつものグループで映画にでも行こうと約束していたのに、光二は15分も遅刻していた
待ち合わせの場所にはもう他の4人が来ていた

「図書館で、新学年に学ぶことを調べに行こう」
「映画を観るんじゃなかったのか?」
「映画? それは何だ? 勉強が我々の本分なのだ」

光二は茫然とした みんなはどっと笑い出した
「今日は四月馬鹿(エイプリルフールのこと?)だぜ!
 君があまり遅いから、みんなで一杯食わせたのさ!」


「サ 花を見ない?」
サツキはバスに乗り遅れそうだった 次のバスを逃すと完全に学校に遅刻だ

いつも門を閉じている古い邸宅の門が開いている
門の中には色とりどりの花が咲き乱れていて、とてもきれいな女性が
「お嬢さん、うちに入って、私と一緒に花を見ない?」という

迷ったが断るしかなかった 女性は寂しそうに微笑んで門を閉じた

帰り、まだあの女性はいるかブザーを鳴らしても誰も出ない
そこに青年が通りかかり「その家には誰もいないよ」

事情を話すと
「ここは半年前まで、詩人の女性が1人で住んでいて、花が咲き乱れていた
 今は家も売られて、とり壊しになるそうだ
 そういえば、彼女はしょっちゅう言っていたそうだよ
 “本当に美しいものに触れたいと思えば、何もかも捨てなければならない”って」


「シ 時間停止」
伸司はテストであと1問解けたら全問できるというところでチャイムが鳴りだし
「時間よ 止まれ! 他のどの時間でもいいから、今に回してくれ!」と願うと
本当に止まり、答えを書いて提出できた

が、その後、どの時間が空白になるのか気味が悪くて仕方ないのだ


「ス 録感テープ」
申し込んだ録感テープが届いて、早速ススムはヘルメットをかぶりスイッチを入れた
「これはビーフステーキというものです 昔、動物性たんぱく質を贅沢にとっていた頃は、こういうものがありました」
こんなに美味しいものがあったのか!

母「こんな録感テープを勝手に申し込んだりして!
  これは望ましくないテープリストにのってるの、知ってるでしょ!

それからススムは、ろくに味もない現代の合成食品を見て、とても食べる気がしなくなる


「セ 消える」
学者の父の書斎に入った精二は、「念力の使い方」という妙な本を見つけた
他人を一時的に消す方法も載っていたが、修行した者以外使ってはならないと書いてある

1週間後 厳しくて有名な英語の授業 彼は予習をしてこなかった
そうだ、この呪文が効くか試してみよう 先生が消えれば・・・
気づくと、みんな黒板を見つめ、授業をしているが何も聞こえない どうなったんだ?

「お前、英語の時間、どこへ行ってたんだ? イヤな科目だけエスケープするのは
 一番いけないって、先生、ひどく怒っていたぞ」


「ソ うるさい町」
宗平は、友人の創一とサイクリングに出かけ、見知らぬ町で迷ってしまった

60歳ぐらいの男性がやって来て
「おまえたち、なんだ! 道の真ん中を、2台も並んで走って

その後も、次々と大人に怒られ、
「この町では、大人は大人、子どもは子どもだ! 言いたいことがあるなら、独り立ちしてから言え!」

なんとか町から抜け出し、その話をすると、どの父母も、その町はどこにあるのだとしつこく尋ねるのだった
大人たちは、その町を見学して、自分らの町もそうしたいらしいのだ


「タ 古典の授業」
「きょうは、俳句を感じ取る授業をやります」

旅に病んで夢は枯野を駆けめぐる 芭蕉

生徒「歩くって、どこを? エアカーに跳ね飛ばされないのですか?」
教師「人間のための道を歩いたのです」

スクリーンには何もない道の立体写真が表れたが、タカシはどうにも想像出来なかった
枯野の想像復元図も投写されたが、やっぱり分からない

この間、成績があがった褒美に、やっと鉢植えを1本もらったばかりで宝物なのに
そんなに草が生えていて、しかも枯れているなんて

生徒も気の毒だが、こっちも悲壮なんだぞ、と教師も思う
一応勉強したものの、自分もやはり旅も道も見たことがない
それを教えなければならないから大変なのだ


「チ チカラくん」
主税と書いてチカラと読む男子がいる 彼は名の通りすごい力持ちで
時には70kgもあるものを持ち上げることもある

本人に聞いても「その気になって、えいっと力を入れると何とかなるんだ」
先生「君は、人より集中力がはたらくのかもな」

チカラくんは、成績が伸びないのを悩んでいたため
女子「勉強にだけ集中してみたら?」

その後、チカラくんはトップになり、みんな驚いたが、チカラくんは泣きそうな顔で
「成績はいいけど、力が出せなくなって、自分のイスも動かせないんだ」


「ツ 老店主」
勉は、古本屋が好きで、よく行く古本屋で、背文字のない本を見つけた
店主が表に出ている間に覗くと、中は白紙だ いや、それは錯覚で文字が書いてある
とても面白くて、引き込まれ、店主が戻っても、最後まで読んでしまった

「面白かったかね?」
「ええ すみません 立ち読みしてしまって」
「いいんだ で、どんな話じゃった?」

言われてみると、面白い小説だったのに、筋さえ覚えていないのだ

「それは、読む者の心を映す本じゃ 偶然、わしの手に入った
 中には何も書かれていない 本を開いた者が、こんなものを読みたいと思うままが見えるんじゃ
 わしは20代の時に手に入れ、その時読んだものと、今見るのとは違う
 売ってしまおうかとも思ったが、いざとなると売れないんじゃよ」

(『はてしない物語』みたいだな


「テ 一分間だけ」
居眠りしていた生徒を教師は叱った

「気のないものにまで時間旅行を教える必要などないんだ それを必須科目に入れたりするから・・・
 その装置に入って! それは、君を過去の人間の心に送り込み、
 見たり聞いたりすることをそのまま経験する装置で、1分間で切れて戻ってくる いいな」

目の前に奇妙な機械が現れた こっちへ走ってくるのはロボット動物らしい
気づくと装置の中にいるのを自覚した

「赤信号を無視して飛び出して、車道の真ん中で叫んだりして 交通ルールを守らなきゃダメだぞ!」

哲雄は黙っていた クルマがロボット動物に見えて、ロボットのくせにと腹が立つなんて
自分でもわけが分からないのだ


「ト カード」
俊男たち3人は田舎の親類の家に行くため列車に乗っていた
お喋りにも飽きて、トランプ遊びも飽きて、俊男は最近凝っている手品を見せて
友人はすっかり感心していた

「失礼ですが、私もお仲間に入れていただけませんか? 私にもやらせてほしいんです」
「どうぞどうぞ」

青年は、カードを何枚か抜いてもらい、すべてハートにしてみせ、突然、停まった駅でおりた

「上手いなあ」 遠井と富沢が、カードを見てみると、全部ハートになっていた
青年は手品ではなく、超能力かなにかでカードを変えたのだった


「ナ 白い本」
奈津子は白い本をもっている 買った人が自分で書くのだが、忙しい毎日でまだ放ってある
遅刻しそうで、落ちたその本を拾い上げると、中に絵が描いてある
(印刷されてるページもあるんだわ)
中を読みたかったが、時間がないから後で読もう

その後も、ひどく忙しい時にだけ、白い本には絵と文章が刷られている
落ち着いて見ると、白紙なのだ


「ニ 落とし穴」
林間学校で落とし穴を作ろう、と言い出したのは西本だ
僕らは1m半の深さの穴を掘り、周囲を隠したところに、意地の悪い二村先生がやって来た

僕らは黙って先生が来るのを待った「お前たち、さっさと・・・」
ドサっという音とともに消えた 穴の深さからして首から上は見えるはずなのに
穴を覗くと誰もいない 様子を見に降りた西本の姿が足から順に消えていった

大騒ぎになり、みんな穴の周りに集まったが、誰もおりて確かめようとはしない
馬鹿馬鹿しいと怒鳴るだけだった


「ヌ 侵略者」
夜、部屋のベランダから音がして起きた 午前3時
窓の下が光り、ガラスが溶けた

縫子「助けて!」

父母が部屋に来ると、ガラスの穴から人形が4、5つ飛んでくる
棒から光が出て、縫子のパジャマが黒く焼けた

父母は、夢中で小さな人間に手当たり次第モノを投げつけた
ベランダには直径2mほどの円盤が浮かんでいた

父「ひょっとすると、小さな宇宙人かもしれないな」

最近、何人かのクラスメートが同じ話をしていて、変な作り話はやめてよ、と笑い飛ばしたのを思い出した


「ネ 交戦」
「本船は、未知の宇宙船と遭遇した ただちに持ち場につけ!」

交戦している相手が何物かつきとめる分析をする局員 ネイアもその一人
「どうも、我々と似た連中が操縦しているようだ」

船長「我々が交戦していたのは、同じ目的を持った、別の太陽系から来た人類らしい」

局長
「つまらん話だ 遠い昔、地球を離れて、別の太陽系に植民し、
 何百年も経って、故郷の地球を探検しに戻った我々が、
 他の世界へ植民した人々の子孫と出会うやいなや戦闘するなんて
 人類は、いつになっても疑い深くて、戦闘的なんだなあ」


「ノ のんびりしなさい」
往診にきた医師は「勉強のしすぎです 2、3日のんびりしたほうがいいね」と言った
だが、1週間後には実力テストがある 伸彦は気が気ではない

「私は、他の世界の困っている人々を助ける組織のメンバーだ」
フシギな服を着た男がいつのまにか部屋に立っていた

「君はこの装置のボタンを押して、欲しいものを念じればいい
 心も身体も休めて、今の時点に戻ってくればいい」

伸彦は、どんどんいろんなものを出した
お城のような家、ご馳走、何百人の使用人
まるで王様で、人々をこき使い、遊ぶだけ遊び、すっかり満足した

やがてまた現れた男は怒っていた

「君は、自分が楽しみたいために、人間を酷使し、苦しませて
 君が必死に勉強しているのは、そんな人間になるためだったのか!」


「ハ 通り雨」
大粒の雨が降り出し、速雄は、古びた喫茶店に入った
「キミ、中学生? 我々を助けてくれないか? 国語をやっていて、この字は何と読むのだろう?」

30か40歳ぐらいの男たちは深刻な顔をして、「山」という文字を示している

「我々は、それぞれの専門で博士号を持ち、なぜこの字がこの形をして、
 この筆順になったのか討議したところだが、発音についてはよく分からない
 君は中学生だから、ちゃんと知っているんだろう?
 まあいいや どうやら君も我々と同じらしい」

速雄は外に出ると、中には誰もいない
自分の勉強は本当なのか、自信をなくしてしまっていた


「ヒ 幻覚センター」
「幻覚センターに行かない? 新しい使い方を勉強したんだ
 君は4級感覚士に合格したんだろう? その感覚で味わってほしいんだよ」

ヒロコは断れずに、幻覚センターに行き、ヘルメットをかぶった
惑星が近づいてくる 毒の大気だ 地表に来ると、奇妙な動物が走ってきた ぞっとする姿なのだ

「まあ、そう怒るなよ 今のは、もし木星に生物がいるとして
 地球を見たらどう映るかプログラミングしたんだ」

ヒロコは、まだヒサオが怪物のように見えるのである


「フ いやな夢」
不二夫は悪夢を見て起きた 西部劇の撃ち合いのようで、あぶないところで助かるというもの
再び見た時は、もっときわどい勝負だった

あまりにたて続けに見て、相手の顔がクラスメイトらしいと気づいた
決闘の夢を見るようになったのは、実力テストでクラスのトップになってから

父「クラス一番がなんだ 学年一番や、全中学何番という連中はどうなる?」

その夜から、駅馬車の夢を見るようになった
中学生くらいの年のインディアンの大群に追われ、彼は馬になって必死に走っているのだった


「ヘ われわれは決定した…」
父「今、変な電話があったんだ お前を預かってるとか、人格改造がどうのとか」

平一が電話をとると「我々は決定した そこにいるのは、本物ではない 本物の声を聞かせてやろう」
「どうか気にしないでください 僕は運命を自分で決めたいのです」電話は切れた

また電話がかかり、同じやりとりの繰り返し そこで自分の声が学校での教科書朗読のものだと気づいた
他の声はいろんなドラマのセリフらしい

先生「こんなイタズラが流行していましてね 学校へテープレコーダーを持参する生徒が増えて以来、しょっちゅうなんですよ


「ホ 古代文書」
家庭教師の堀さんがいなくなってしまった
研究室で古代文書を解読していて、歌らしく、歌詞も解読できたからと歌って聞かせてくれた
異様な、地底から響いてくるような歌で、窓から急に風が吹きつけ、堀さんは消えてしまったのだ

あれは、きっと大西洋に沈んだというアトランチス人の呪文で
堀さんは知らずに元通りの発音とメロディで唱えてしまったのに違いないのだ


「マ 博覧会」
マチコは歴史大博覧会に来て、精巧な人形がいきいき動いているのに見とれていて、みんなとはぐれたことに気づいた
通用門のドアを開けると、パンツ1枚の男が出てきて「ガアガア」とわめき突進してきた
逃げると今度は武士がいて「助けて!」

そこに係員が数人来て、男らを取り押さえた
「ショーに迫真感を与えるために、出演者にはその時代の人間だと信じるよう催眠術をかけてあるんだ
 あんたが無事でよかった」


「ミ 空き地」
幹男が歩いていると、空き地に何十人もの鎧武者がいる
全員、血を出し、大将を守っていたが、そこに攻め手が来て、凄まじい戦いとなった
大将は滅多切りにされて、首を落とされた なんと残酷な、と身震いした途端、武者らは消えた

父「この辺は、古戦場で、あの辺で有名な武将が討ち取られたそうだ
  私の祖父も父も見た 私自身も子どもの頃、2、3度見たが
  経験のない人には喋らないようにしてるんだ」

その1年後 空き地にはビルが建った
この調子では、自分の子どもはあの幻は見れないだろうなと幹男は思った


「ム 待合室」
麦子は虫歯が痛みだし歯医者に行くと、小学生らしい子どもが5、6人いる
なにげなく横を見ると分厚い本があり、英語ではない どんな人が読んでるのかしら

ドアが開き、泣き叫んでいた小学校1年生くらいの男の子が出てきて、本を持っていこうとするので

「それ、あんたの本なの?」
「ぼく、ラテン語やっているんだ」

「まさか!」
「返してやってよ なにもフシギなことないじゃないの」

待合室にいる子どもたちが読んでいるのは、みな、分厚い難しそうな本ばかりなのだ
隣りの女の子も数式だらけの原書を読んでいる
その子は奥の治療室に入り、すごい声で泣き始めていた


「メ 宿題」
めぐみは夜道を歩いていたら、大きな犬がいて悲鳴をあげそうになった
牙をむき出して「コケコッコー!」と鳴いて、それがニワトリだと気づいた
しかもどんどん小さくなり、ヒヨコになって消えた
が歌っているのを聞いた 意味不明な音でブザーの音になってしまった

先生
「なんだね、これは! 僕はギリシア神話の世界を空想して録感装置に記録してこいと言ったんだ
 それで美術のセンスが分かるからだ」

めぐみは、録感装置をかけたが眠ってしまい、夢がそうなってしまったのでどうしようもなかった


「モ 先生の年賀状」
正月 担任から年賀状が届いた
「いよいよ受験が迫りましたね 気を緩めずに頑張ってください」

次の年賀状も担任からだ 間違えたのかしら? でも文面が妙だ
「高校生活の最初の1年間はどうでしたか? 今年も充実した毎日を送ってください」

消印を見ると来年の日付ではないか
とすると、自分は受験で高校にパスするのが約束されたことになる

最後の1枚も担任だった
「せっかく中学浪人に踏み切ったのですから、今年はぜひ合格してください」

消印はやはり来年 元子は、相反したハガキを見比べて、泣きそうになっていた


「ヤ 寒さ」
「寒いな」
「辛いな」
「早く交代時間がきて、基地のあたたかい部屋で眠りたいよ」

「こんな寒い場所で、原住民と同じ格好をして 俺たちはそっとコートを持ってくるからいいが」
「仲間もだいぶ凍死したしな」

隊長のヤーヤーベゴ
「そんなものかぶっていちゃ疑われるだろう!」とコートをつかみとった
「新しい居住惑星を手に入れるために偵察にきている使命を忘れたのか?」

「コートを取られたなあ」
「もうすぐあれが降ってくるぞ」

まもなくジャングルにスコールが降り注いだ
2人はもう凍死寸前なのだ


「ユ キャッチボール」
「キャッチボールやらないか?」 行夫の部屋に兄が入ってきた
スポーツが得意な行夫と逆に、兄は不器用で何をやらせてもダメなのだ

「今日はヘマはしないぞ」 兄は耳にイヤホンを押し込んだ

飛んできた球の速さは、いつもとまるで違っていた
兄は返事をしないばかりか、半分目を閉じている
耳からイヤホンがはずれ、今度は暴投だった

「やっぱりダメかな ゆうべずっと名選手のビデオを観続けて、自己催眠術用テープを聞いたんだが
 科学的にやってもスポーツはうまくいかないもんだなあ


「ヨ 夜店の時計」
ヨシ子は近くの本屋に参考書を買いに行くと、夜店が出ていた
「お嬢さん、50円投資する気はないかね?」と突然、声をかけられた
いわゆるアテモノ屋で、引き当てたカードの番号と同じ番号の景品をくれる

50円ならと引いてみると「大当たりじゃ」男は小さな箱をくれた
家で開けてみると時計が出てきた 針も動いているが、10時までしかないのだ
「やっぱりインチキなんだわ」

しかし、その時計は1日経つと、ちゃんと元のところに来ている

父「こんな単位の国が地球上にあるのかな 別世界か、別の時代の時間単位みたいだなあ」


「ラ 質問者」
雷太は英文和訳が苦手だ 校庭の隅でノートを広げていると
帽子を深くかぶり、マスクをした男性から声をかけられた

「すまないが教えてくれないか あれは何をしているんだ? スポーツというものなのか?」

どうして、こんな分かりきったことばかり尋ねるんだ?

その時、ソフトボールの球が飛んできて、男の頭にまともに当たり、頭の上半分がカタンと外れて地面に落ちた

「これは失礼した この言語変換装置がないと、人間の言葉が喋れないものでね
 騒ぎになりそうだから行くよ さよなら」

「あいつ、ロボットじゃない?」

あれは地球の生物ではないかもしれない けれども、それはどうでもよかった
あいつの言語変換装置があればテストもラクなのになあ、とそればかり考えているのだった


「リ 箸」
母とリエは古びた構えの和食専門店に入った
紙に包まれた箸を出すと3本もある
「おかしいわね」と言いつつ、1本を置いて食べ始めた

「あーあ 世も末だなあ」先客たちが次々に言い始めた

「あなた方、作法もなにもあったもんじゃない!
 大昔から箸は3本と決まっておる それを近頃はみんな2本で食べたがる
 この店は古来からのしきたり通り3本で出すので有名なのに」

5、6人の先客はみな3本で器用に食べている
新しくきた若いカップルもやはり3本で食べ始め、
母とリエは食事どころではなく、箸が3本なのが当然の気がしてくるのだった


「ル 授業中」
「そこの君、何をしている!」 先生に怒鳴られて、ルリ子は読んでいたパンフレットを机の下に隠した
「何だね、これは よそのクラスでも、こんな妙なものを持っている生徒がいたという話だが」

「・・・新しいタイプのマンガなんです」

しばらくしぼられた後、仲間にも伝わり呼び出された

「マンガで押し通したのはよかったが、緊急の通信で先生に見られるのはやはりまずいよ」
「でも、我々が人間に変身して入れ替わっていることを、本気で考える者はいないだろうよ」


「レ 目覚まし時計」
父「ウチの会社で開発した目覚まし時計だ
  合わせた時間になると、直接本人の意識に働きかけて、イヤでも起こす性能をもっているそうだ
  あまり革新的だから、発売前に、社員の家庭で試用することになった」

明日は土曜で家族はイヤがり、玲子はなかなか起きれない癖があるため「私が使う」と言った

コードのついたヘアバンドみたいなものを装置して眠ると
白い着物の幽霊が恨みのまなざしでじっとこちらを見ている
走って逃げると、掲示板に玲子の零点の答案用紙が貼り出されていて、
クラスメートがげらげら笑っている 彼女は目を叫び声をあげて起きた

父「技師が言うには、人間の心の奥底に潜む恐怖心を刺激してショックで目を覚ますそうだが
  使用した人はみな気分が悪くなるらしい 商品にはならんようだな


「ロ 「月での遭遇」」
母船から離れた月面着陸船は、初めて地球から見えない月の裏側に降り立った

「注意! UFOだ!」

UFOは船の近くに着地したが
母船からは「向こうから働きかけてくるまでは、予定の仕事をしてくれ」と指示があった

スケジュールに従い、組み立てにかかったが「もう辛抱できない あっちとのコンタクトのほうが先だ」
とロジャースが言い、ロクローも応じて、2人はUFOに近づいていくと

「シゴトヲ、ツヅケテクレ ワレワレハ、ヤットウチュウリョコウヲハジメタキミタチヲ、
 ケンブツニキテイル、カンコウセンナノダ
 キミタチノ、ゲンシテキナシゴトブリガ、タノシイ カマワズ、シゴトヲシテクレナイカ」


「ワ お守り」
学校の帰り、クラスメートの若子と本屋に寄り、お金を払う時にお守りが落ちてしまった
若子は2つのお守りを見て「甲神社と乙神社ね 丙神社があれば、まあまあだけど」

家に寄るように言われ、若子の部屋に入ると、神社の一覧表の大きな本を出してきた

「神社にも由緒や位があるのよ だから神さま同士の関係で、仲がいい、悪いもあるの
 お守りをいっぱい持っていても、力が何倍にもなったり、逆に打ち消して意味がなくなったり
 マイナスに作用したりもするのよ
 私は自分のために一番いい組み合わせを持っているわ」

(江原さんか誰かも同じことゆってたな? 神さまに仲がいい悪いはないと思うんだけど

若子な十数個のお守りを見せた

「でも大変なのよ こんなことを調べながら、勉強もしなきゃならないし


「ガ 電話の会話」
塾の懇親パーティで、若い教師が「催眠術をかけてやろう」と言い出し、
絶対かかるものかと見得を切ったのに、いつの間にかかかった岳郎は、鳥の真似をしたりしたらしいが記憶がない

翌朝「やられたなあ」と思っていると、その教師から「ハロー、ガクロウ?」と英語で電話がかかってきた
岳郎もなぜか流暢な英語で会話していた

電話を切って、母に「僕の英語、どうだった?
母「英語? ふつうに日本語で喋っていたじゃない いつもより気取った調子だったけど」

塾の教師に電話すると
「僕は君に後暗示をかけたんだ 僕のハローという声を聞くと
 英語を喋っているつもりになる ま、そう簡単に英語が上達するなら苦労はしないよ


「ギ ロッカー」
銀子は新しいロッカーを開けると、中から火薬のニオイがしてきた
爆発音もして扉を閉じて鍵をかけ、慌てて教師を呼びに行った

「そのロッカー、異次元に通じているんじゃないですか?」
「馬鹿馬鹿しい」

教師がロッカーを開けると、機関銃みたいな音がして、ケムリの中から血だらけの顔が現れた
しきりに「助けてくれ」と訴えているようだが、教師はわめきながらその人を押し戻し、扉を閉めて鍵をかけた

「あり得ないが、この奥は、別世界に通じているのかもしれない」
「今の人、助けてあげないんですか?」
「助けるべきだろうが、へたをすると大騒ぎになるし・・・むつかしいところだなあ」


「グ 交代」
しばらくでいい 休みたい グルマーチキは、遠い仲間に伝えようと交信用の装置を組み立てた
グルルースンは次第にハッキリと形を整えながら言う かれらは不定形生物なのだ

「やむを得ないな 交代中、知っておかなければならないことを教えてくれ」

長い滞在なので、短時間で全部を伝えるのは無理だった

「僕は休む」
グルマーチキは、ぐにゃぐにゃ崩れて、液体状になり、どこかの土か水に変形して休んだ

「君はこの前の試験では、どの科目も一番だったのに
 どうしてこんなに急にひどくなったんだ?」

グルルースン「交代している間ずっとこんなことを言われるだろうなあ 辛いなあ」


「ゲ 衝突」
源太が行くと、20名近い仲間はもう集まっている
むこう町の子どもから、この間奪われた宝物を取り返すのだ
敵もさるもの、乱戦になった

この時代の人々には見えないタイムマシンの中で、研究者の一人が、もう一人に食ってかかっていた

「この時期の少年こそが、自由に生き生きと暮らしていた黄金時代だったんでしょ?
 でもこんな野蛮な真似が、人間の精神形成に有効なのですか?」

「彼らはあのゲームを楽しんでいるんだ」

「ゲーム? あれは殺し合いじゃありませんか!」

はじめの研究者を押すと、ひょろひょろとバランスもうまくとれない2人はあおむけに倒れてしまい
はじめの研究者は、壁に背中を打って、気を失ってしまった

もう1人が慌てて自動医療装置で回復させた
彼は、源太たちを眺め、羨ましげにため息をついた


「ゴ 転校生」
剛一と吾郎は、転校生が弁当を教室で食べようとしないのを不審に思い、
「あいつがどこで食べているのか突き止めよう」と理科室までついていくと

転校生は、すっぽりと首をとり、中からピンク色のぐにゃぐにゃしたものが出てきて
弁当に接触し、ペタペタと音をたてて食べている

2人は真っ青になって逃げ出した

その後、クラスにまた転校生がやってきて、前の転校生とすぐに仲良くなり
一緒に弁当を食べに行くが、もうあとをつける気にはなれないのだ


「ザ 老人と少年」
「君も転身を希望してここへ来たのかね?」老人はザドに言った

「明けても暮れても学習と訓練ばかりの毎日はもうイヤなんです
 だから、市民の権利である別人化権を行使して、別の人間にしてください」

「ここは君たちのような若い人が来る所じゃないのに・・・
 誰でも己の判断で、これまでの記憶から不要なものを消して、顔かたちを変え
 自分の望むスタイルからやり直す権利があるが、一生に一度しか使えないんだよ
 今なら自分でどうにでもなるはずだ 転身など、どうにもならなくなった時はじめてやることだと思うが」

「でも、こんな生活は耐えられない 後悔なんかしません」

「ああいう少年少女が増えたな
 自然区域の中でエサをもらいながら動物さながらの暮らしをするのを選ぶほど辛いものなのか
 わしなら、むしろあの年ごろに戻りたいほどなのに・・・」


「ジ 日記」
陣一は起きるととても疲れていた おかしいな
何気なく机の上を見ると日記帳が開いたままで、読みはじめると・・・

“塾からの帰り、フシギな人に会った 君に自由な30日をあげようと言うのだ
 その間何をしても、元の日に戻る 記憶も消えるからやりたいだけのことをやりなさいと言ったのだ
 でも、もし戻らなかったら大変だ だから詳しく日記にしるすことにした 僕はいろいろやり”

日記はぷつんと切れていた
フシギな人物に会ったことはぼんやり思い出したが どんな30日だったんだろう
楽しんだのか? 気になるがどうしようもないのだ


「ズ ポケット電卓?」
図画子()は、女の子のくせに機械類が好きで、ポケット電卓のようなモノを見せた

「これ、文字も出るんだ この中にはいろんなデータが入っているのよ 予言も出来るらしいわ」

明日の天気を尋ねると「データ フソク ナリ」
「今日の天気のデータを入れなきゃならないようね」

「明日、不意打ちテストがあるかどうか分かる?」
「データ フソク ナリ」

「データ不足でもいいから出せって言ってやってよ!
「そんなボタン、あることはあるけど」

「シッカリ ベンキョウ シテイレバ ヨロシイ」
「生意気な!

私は、計算機を奪って、無茶苦茶押した
「ヤメロ」 突然ブザーが鳴り
「キカイヲ ダイジニ シマショウ! キカイヲ ダイジニ シマショウ!」


「ゼ 逮捕する」
善一郎は、塾の帰り、4、5人の少年少女を見かけ、後ろからついてくる
走って逃げようとすると

「待て! 我々はお前を殺人犯として逮捕する
 この世界では未成年の原住民が我々そっくりなのを利用して、隠れるつもりだったろうがそうはいかない」

「いい加減にしろ やめてくれ!」

少年は懐中電灯のようなもので善一郎を照らし
「これは迷惑をかけた いや、よく似た原住民がいるものだ このことは話すなよ」と去った

どこの世界の生物か知らないが、自分そっくりの殺人犯というのは愉快ではないのだ


「ゾ ゾーレル」
みんなは食料供給口から1個ずつ包みを受け取ったが、1個足りない
だが、別にゾーレルは腹を立てなかった

勉強をしていると、だんだん調子がおかしくなってきた
なんだか、妙に他人を意識してしまう あいつは嫌いだとか、
仲間のうちの1人の少女に近づきたくて、気持ちを抑えかねるのだ

管理の大人が彼を捕まえた「船のコンピュータも、たまには間違えるんだな」

与えられた包みをむしゃむしゃ食べるゾーレルを見ながら、つぶやいた

「船は、われわれ数万人の植民者を乗せ、適当な惑星を見つけるまでもう20年も探していて
 あと何十年かかるか見当もつかない

 それまでは欲望をなくす成分の入った食物を、きちんと摂ってもらうほかはない
 誰がいつ、どんな欲望を持ったらいいかは、船の管理委員会が決める
 それまでは、競争心も恋愛感情もおあずけでいいんだ」


「ダ 段作」
段作は、親が亡くなり、この道場に住み込み、雑用をしながら剣術を学んでいる
浪人の家の出ながら、武士の素質があり、15歳で道場ではかなり腕が立つほうだ

大四郎は、師範の息子でほぼ同年齢だが、出来は良くない
いつも段作に負けて、悔しがり、いろいろいやがらせをするのだ

「おう、段作 稽古をしないか? オレが怖いんだろう この頃ろくに稽古をしてないものな」

稽古が出来ないのは、大四郎がつまらぬ仕事を言いつけるせいもある
この日も段作が圧倒的に勝ち
「家来同然のくせに、オレに恥ばかりかかせやがって、出て行け!」

そこに奇妙な服を着た女性が立っていて

「気の毒に こんな時代に生まれたのが、不幸なんです
 あなたを身分で分け隔てされない時代に送ってあげましょう そこで幸せになります」

塾の教師が怒鳴った
「君には本籍もないし、父母も分からないが、それは記憶喪失のためだ
 剣道は達者だが、学力が足らないんだ そんな作り話で誤魔化そうなんていけないよ」


「デ 任務」
「今回も、宇宙の平和のため全力を尽くすことを望む では出撃!」

DD3345号はコントロールセンターが機械的に選び出した世界の1つに行った
平和な景色だが、原住民の何百もの連中が争っているのが見えた

その上から彼らには見えない物質がまかれた
のもとを吸った彼らの動きが緩やかになり、やがて話し合い始めた
よし DD3345号は別の世界に移動した

ここは、おそろしく文明が発達し、互いに憎しみ合う物質を投下し続けている

なぜ敵はあんなことをするのだろう 敵が言うには
「生物は必然的に文明を持つべきなので、その結果、滅んでも仕方がない」とのことらしいが、とても同意できないのだ

(本当に発達した未来人なら、科学の力で他の未発達な人たちを助けたいと思うんだろうな
 中途半端な科学の発達が一番危ないんだ


「ド 作文」
夏期の特別補習が続いているが、とにかく朝から猛烈に暑い
集まった生徒も教師もはじめからへたばっていた

「今日は作文の練習をしよう “暑い” この題で何か書くんだ」

胴作は「暑い。暑いですね。暑いな。」と書き始めた
教師「いいぞ、感じが出てるな」

前の席の生徒は、ただひと言、「暑い」とだけ書いてある
教師「このほうが実感がある 何も書かないのが最高なんだ それにしても暑いなあ」

校務員さんが来て
「今日は休日ですよ みんな、あんまり暑いので忘れてしまったんですな」


「バ バンラン」
「これが、近頃、生徒たちの人気を集めているという本なんです」

渡された本をもう1人の教師が読むと

“その日は、バンランにとって最悪だった ポリエトフィがエルトレートしたために、
 ジャンジャンと乗って行く夢を、3回も拾ったのだ・・・”とつづく

生徒に聞くと
「面白いですよ! まずはじめから理解不可能だ」
「ポリエトフィは赤くて、よく光るんです」
「あら、私は真っ白だと思うわ」

「分からんが、君たちは、それぞれ好きなように読んでいるのか?」
「もちろん 教科書じゃないから、自由に受け止めていいんです」

生徒が出て行った後、2人の教師は黙ってため息をついた


「ビ 秒子・デパート」
休日のデパートは満員で、それでも秒子と母は買い物を済ませた
「上の食堂で、なにか冷たいものでも飲まない?」

食事を終えて、列ができていたからゆっくりできず、帰ろうとすると
店員が「お忘れものですよ」と小さな包みを押し付ける

「うちのじゃないわ」
「持って帰っていただかないと、こちらが困ります

いろいろもめているうちに人が増え、2人はたまらずその場を去り、結局家まで持ってきた
中を開けると、
「私どもは、ご来店いただいたお客さまの中でステキな方を選んで、これを差し上げております」とある

一瞬喜んだ秒子だが、母は「私たち食堂の人にステキだと思われたのよ」
たしかに、2人ともあっという間にたいらげたのだ


「ブ 文吾・デパート」
デパートに母と来ても文吾が欲しかった顕微鏡はなく、母の買い物に付き合わされるのがイヤで
本屋に行くと言って離れ、エスカレーターのほうへ歩くと、女性とぶつかり「すみません
見るとマネキンだった マネキンが歩いている

男のマネキンにもぶつかり、彼も当たり前のように歩いていった
大勢マネキンが人間にまじって歩いているのだ

母「おかしな子ね あれだけ、自分で持って帰りたがっていたのに、デパートに行きたくないって」


「ベ 順番」
生徒たちが職員室に張り出された掲示を見ている
名前は50番まで 勉次は6番目だが、それが何の順位がさっぱり判らない

「分からないかね?」 フシギな服を着た同年齢の少年がいた
「僕は未来人さ あれは僕が書いて張り出した 名の順位か分からないなんて情けない連中だなあ
と言って、ふっと消えた

将来有名になる順位なのか、これから死んでいく順番なのか?
それ以後、気になって仕方ないのだ


「ボ 事実」
玄関で物音がしている 酔った父を母が介抱している
だが、玄関でひっくり返っているのは、服は着ているが、ぶよんぶよんの不定形みたいな化け物だ
母が坊太に気づき、父になにか言うと変形して父になった

ショックで部屋に戻った坊太を呼ぶ声がして階下の部屋に入ると化け物が2匹いる!

父「驚くことはない そろそろ事実を告げなければならない
  実は、我々は、地球侵略の先兵として様子をさぐるため、人間に化けて生活している」

母「坊太、あなたもそうなのよ ある程度の年になるまで、体型固定剤をご飯に混ぜていたの」

父「我々は地球人などより、ずっと優れた種族だ これからは持てる能力を発揮してもらう」

1ヶ月経ち、坊太は学校のトップになったがちっとも嬉しくない
今度は、自分の種族のもっと難しい勉強でひいひい言わなければならないのだ


「パ 故障」
食事が終わってもロボットは片付けにこない
バーラスが見に行くと、やはり故障していた

父「困ったな 次の食事は誰かしなきゃ」
母「水耕農園も、生活維持機械類も停止してしまうわ」

父「お前、整備センターで直してもらってきてくれないか」
母「あなたぐらいの年頃は、運動したほうがいいのよ」

バーラスが行くと行列ができていた
整備センターの技師はブツブツ言いながら修理にかかった

「年々酷くなるなあ 新しいロボットの生産量は限られていて、配給されないのが分かってて、みんな酷使する
 何でもやれるロボットが各戸に配られた結果、人間は何もしなくなった
 おかげで学問も技術も退化し、物資は足らなくなるばかり 終末は目の前なんだがねえ」


「ピ ピルヌ」
百貨店でキーホルダーを探していると、同じ年齢ぐらいの少年に声をかけられた
「君、教えてくれないか 人間の発展の歴史を知りたいんだ」

呆れながら本屋をすすめ「ここでキーホルダーを買ったら僕も行くから案内するよ」
「そんなのなら、あげるよ」

少年のくれた小型のライトのボタンを何気なく押すと、床を焦がした まるでレーザーだ

今になると、やはりあのピルヌは地球の人間ではない気がする
もらったのは超小型レーザーで、クラスメイトの足を大火傷させてしまった
レーザーは机に放り込んだままだ


「プ プドー」
プドーは転校生だ 目の色は紫色 外国人だよ だけど、面白い奴だった
プドーはいつも学校へ魔法瓶を持ってきて、そこに入れたクスリをしょっちゅう飲んでいた

昨日とうとう教師が「授業中ぐらいやめられないのかね?」と怒鳴った
プドーは何も言わなかったが、20分ほど経つと、プドーは宙に浮いた
ゆらゆら教室を横切って、上空へジェット機みたいな速さでのぼって行ったんだ

本当だよ やっぱり信じないんだろう それならはじめから聞かなきゃいいのに・・・


「ペ おふれ」
ペルペが集団訓練から帰ると、父母が青い顔をしていた
自動政治機構から“すべての家庭は、3日のうちに引っ越さねば、食料供給を停止する”というおふれが出ていた

父「どういうことか分からないが、おふれだからね」

隣りの奥さんが来て「急にはムリだから、お宅とウチが入れ替わるのはどうです?」
父「それがいい!」

またテレビのスクリーンに新しいおふれが出ていた
“各小集団で一番の青少年は、出頭すること 他の仲間に劣等感を抱かせたため、死刑に処する”

僕は、今日の訓練でトップだったのだ ペルペは辛抱できず
「自動政治機構は故障してるんだ! だからあんなメチャクチャなおふれを出すんだ!」
「やめさない」 それを言うのは反逆罪になるのだ

3人はわずかな荷物で脱走して、どこかの自然区域で自活するほかない

父「機構を設置する時に節約して、安物のシステムを採用したのがいけなかったのかなあ」


「ポ ポシポード」
ポールが乗った宇宙船は、危険なポシポード星へと降下した
ポシポードでは、ポシポシポード族とポリポシポリ族が対立している

ほんの10年前は弓矢での戦だったのが、地球からの商人が銃や、機関銃、
とうとう原子分解器が大量に運びこまれた

連邦交易省も、ついに重い腰をあげ、武器を回収する特使を派遣した それがポールだ
ポシポードには大量のプラチナ鉱があるかぎり、悪徳商人らはこれからも来るだろう

噂によると、ポシポードの種族は死んでも、すぐどこかで赤ん坊として生まれ変わるそうだ
魂が新しい身体に入るから、死んで生まれ変わるのは、とてもサッパリしていい気持ちなのだ

「やはり既成の物語に似てるな 人類は物語のあらゆる型をみんな使ってしまったのではないか?」

僕は黙ったまま、ロボット教師の赤い電子眼を見つめていた


「ン  「ンチャカ」 」
ンチャカは気づくと僕の部屋の机の横に立っていた
きれいな目をした、僕と同じくらいの年なんだ

「君、今何をしたい?」と聞かれたから、宿題を片付けてもらった しかもその記憶もちゃんとある

2回目は、テストの成績を上げてもらった
その後も、たくさんのお金、GF、いろいろ頼んで、全部叶えてくれた

ンチャカ「空しくないか?」
「ああ、空しいな」

ンチャカ
「だって、この部屋も学校も、世の中も、みんな、君があるんだと想像しているだけだもの そんなものはないのに
 君の身体も感覚も想像なのさ」

彼はそう言って消えた

夢なら今も見るよ そこでは以前の通り、成績は悪いし、お金もないし・・・けど、どうしてそんなこと聞くんだい?

(なんだか、とっても深い哲学みたい




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