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『ねらわれた学園』眉村卓/著(角川文庫)

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■『ねらわれた学園』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー写真/小島由紀夫 さし絵/谷俊彦(昭和51年初版 昭和56年19版)

「作家別」カテゴリーに追加しました。


[カバー裏のあらすじ]

もし、人や物を自由に動かすことができたら――誰しもが夢みる超能力。
しかしそれが普通の人間に与えられていないことがどんなに幸福なことかは意外に知られていない……。

ある日、おとなしかったはずの少女が突然、生徒会の会長選挙に立候補、鮮やかに当選してしまった。
だが会長になった彼女は、魅惑の微笑と恐怖の超能力で学校を支配しはじめた。
美しい顔に隠された彼女の真の正体は? 彼女の持つ謎の超能力とは?

平和な学園に訪れた戦慄の日々を描くスリラーの世界!
他に複製人間の恐怖を描いた「0(ゼロ)からきた敵」を併録。



映画で観て、原作は読んだことがなかった

「心の中のベストフィルムまとめ 角川映画」参照

amazonには、この薬師丸ひろ子ちゃんのドアップ表紙しかなかったので、これを購入
裏の写真は表紙と違う



映画は、当時、劇場でも観たし、その後もビデオ等で何度も観て
ほとんどセリフを空で言えるほどだったのを思い出す


実際、原作を読むと、2作ともサスペンス、ホラーに近い怖さだった
これで未来から来た少年や、超能力の部分がなければ、
「少年探偵団」シリーズに入れてもおかしくないし
代々続いた怨念にかえれば溝口系にもなり得る

「ねらわれた学園」に関しては、独裁者がいかに周囲を統制していくかの恐怖
第二次世界大戦を知る世代の父は、直接セリフにはないが、暗にそれを示唆している
対して母親は「そんなバカなこと」と全然間に受けない平凡な主婦に描かれているのがなんだかひっかかる

映画では、ひろ子ちゃん演じる女の子も超能力を使うんだっけ?
小説でも、和美は「なんとなく、そんな気がする 勘だけどね」と何度も言う
みんな「第六感」や「虫のしらせ」など、未来を予測したりする力がもともとあると思う


▼あらすじ(ネタバレ注意

「ねらわれた学園」

関耕児は、いわゆるゲタばき住宅(下層階を商店や事務所とし、上層階を住宅とした建物)の団地に住んでいる
いつものようにギリギリに学校に着くと、黒板に教科ごとの教師のいたずら書きがしてあった
クラスメイトが笑っていると、西沢響子だけは「こんなことでいいの?」と激しく叱責する



たしかに阿倍野六中では、タバコを吸ったり、化粧をしたり、いろんなイタズラや問題が多い

キョウコ:この犯人を見つけ出しましょう!

みんなもキョウコの勢いに同調し始め
コウジは、イタズラは悪いが、みんなで制裁を加えるほどだろうか?と疑問に思う

コウジ:ここは裁判所か? クラスから悪者を出してどうすつもりだ? バカなことはやめろ!

黒板の文字を消した時、隣りの席の楠本和美が拍手を送った

キョウコ:あなたのような人は、そのうち復讐されるのよ 私たちの超人的な代表の手によってね

帰り道、カズミが声をかけた

カズミ:今日は立派だったわ クラスが密告や、監視し合う場になるのを防いだんだから


掲示板には生徒会活動の立候補者が貼り出されていて、カズミはその中の1人が意外だと言う

カズミ:高見沢みちるは1年の時同じクラスだったけど、静かなタイプだったわ

そこにちょうどミチルが通り

カズミ:変ね あの人、まるで変わってしまったみたい



【立会演説会】

ミチル:
恥を知りなさい!
学校の規律を乱す人、それが当たり前と考えている人たちを放っておいていいのでしょうか?

2年生のミチルの高圧的な態度に、3年生が「生意気だ!」と野次を飛ばすが
指をさすと、さされた2、3人は突然倒れた

理由の説明を求められ、自業自得だという

ミチル:
私が超能力かなにかで倒したと言えば気がすむのですか?
私は、必ずこうした風潮を正してみせます!
本来の勉学に励むための環境を作りたいのです!

ミチルの怒りには、ヒヤリとする迫力があるが、微笑むと、ついひきつけられてしまう
圧迫感が、逆に信頼できそうに思われてくる
全校生徒のかなりの部分がコウジと同じ気分になっていた

結局、3年生は反対票を入れたが、ミチルが生徒会長に選ばれた




本好きなカズミは『超能力の謎』という本を借りていた

カズミ:
私、やっぱりおかしいと思うの 同時に何人も倒れるなんて
でも、彼女がそんな能力を持っているなら辻褄が合うわ
それに、なんだかあの人はインチキくさい これは私の勘だけど


西沢は、クラスの代表委員になるためにクラスメイトに働きかけている
前回の件以来、関を憎んでいるが、逆にクラスでの関の人気は上昇している

カズミ:関くんが代表委員になるんじゃないかしら



【クラスの代表委員を決める日】

山形担任:私はオブザーバーだから、まず議長をやりたい人は?

キョウコが手をあげ、そのまま議長となった
その口ぶりがミチルにそっくりだと思うコウジ
自分のやり方を通そうとするキョウコに

カズミ:
議長は、自分の意見を発表せず、全員の意見をまとめるものではないでしょうか?
決めつけてしまっては民主的な運営ではないと思います

開票してみると、関とキョウコが争い、関に決まる
関は「僕に出来るわけないだろう?」と言うと

キョウコ:辞退なら仕方ないですし、もう一度選挙するのはどうでしょう

野球部員の吉田一郎が「投票は終わったんだ 我々は君にやってもらいたいんだ とにかくやってみてくれよ」と頼み
関も引き受け、副委員にカズミが選ばれた

キョウコ:これでは私は除名される・・・それどころか・・・

彼女は怯えているようだった



【生徒会】

会長のミチルが進行をつとめ、阿倍野六中の生徒の顔と名前は全員覚えているから
名簿と違う人は今度から委任状を持ってくるようにと言い渡し、驚くコウジ

ミチルは早速、第一号議案のプリントを渡した
「校内パトロール」とあり、勝手な行動をすれば、告発し、罰を与える
巡回パトロール班を作るというもの
これではまるで警察ではないか!と反発するコウジに、演説の時と同じ鮮やかな弁舌で全員に訴えるミチル

その様子を見ていた生徒会係の教師が反対意見を言おうと立ち上がると
急に頭が割れるように「痛い!」と言って座り込み、議決はすみやかに実行に移された



パトロール員は、黄色い腕章をつけた ミチルはあらかじめすべての準備を整えていた
パトロール制度は、生徒会が決めたものなため、訴える手段もない

カズミ:
私、いやな予感がする みんな、これもそのうちうやむやに立ち消えると思っているんだわ
でも、なんだか、これが始まりのような気がするの


校内では、ささいな言動も摘発され、掲示板に張り出され、みんなの前で謝罪を30回くり返させた

コウジが父母に話すと、

父:
パトロールなんて、どうかと思うな
取り締まる者と、取り締まられる者、正しいものと、そうでないものを、どういう基準で決めるんだ?

こういうことは、ひとりでにエスカレートする
仕方ないと一歩ずつ譲歩し、ある時気づくと身動きできなくなっているのが“ファッショ”というものだ
やがて、お互いが警戒しあい、信じられなくなる状態がくるかもしれない

母:大げさな! そんなに難しく考えることないんじゃない?

父の言う通り、廊下でプロレスごっこをしたり、ラジオを持ってきたりするだけで告発されエスカレートしはじめた
そして、生徒会では、何を言っても多数決で葬り去られる


以前、キョウコの意見に反対した吉田が、網を越えて球を取りにいき、パトロール員に告発されていた

カズミ:生徒規則に、そう書いてあるの? 見たことないけど
パトロール員:書いてなくても、我々がいけないと認めたことはいけないんだ!

吉田は怒りで突っ込もうとした時、なにかにはね飛ばされ、そこにミチルが現れた
「明日、告発します」

カズミ:今、たしかに高見沢さんが念力を使ったのよ

コウジは心を決めていた 抵抗するのだ その手はじめは吉田を守ることだ


その深夜、コウジの家の窓から真っ白な制服を着た数人の学生グループが歩いているのが見えた
その中にミチルがいて、思わずあとを尾けると、途中でミチルが不意に振り返った
男子生徒が「君は、夜道を帰る女子生徒のあとをつけたんだろう?」
コウジは罠にかかったと知る

「あんたたちは何をしてたんだ?」
「塾の帰りです 君がその調子で敵対するかぎり、許すわけにはいかない」

コウジは頭に激痛が走った
「あんたたちのような連中に自由にされてたまるか!」

コウジは宙に持ち上げられ、2mほどから落とされた

翌朝、昨日の出来事を父母に話すと父は
「いろいろ調べないといけないかもしれないな これは、人間としての生き方の問題だ
 お前たちが正しいと考えることをやるべきなんだ」


吉田を告発するかどうかに、ミチルらもやってきた



コウジ:これは僕たちのクラスだ 僕たちで決める
クラスメート:あなたがたは立会人でしょ?

コウジはカズミと作戦を立て、ミチルの念力にヤラれたら、そのあとをついで喋り続けた

コウジ:なまじっか、パトロール制度なんてあるから、正義の使者みたいな顔であら探しをして・・・
そこで心臓がひどく痛み出した

カズミ:私たちは、吉田くんに何の罰も与えないと決める権利も持っているはずです
今度はカズミがうずくまった

コウジ:僕たちはパトロール員の奴隷じゃないんだ!!

カズミの体が宙に浮き、教壇にたたきつけられた
コウジの頭にひらめいた ミチルの力は一度にあちこちには効かないのだ

クラスメートも興奮して、結局、吉田に罰を与えないと決まる
「パトロール出てゆけ!」

ミチルらは出て行った 「あとで泣き言を言わないように」

クラスメートは歓声をあげたが、コウジ「戦いはむしろこれからだ」

山形:戦うなんてオーバーじゃないか?

カズミ:あの人たち、この学校を思うように統制しようとしているんです

山形:僕には、他の先生がたを説得する自信はない 個人的に相談しに来れば話は別だがね と言って教室を出た

クラスメート:先生なんてみんなあんなものさ 自分だけがかわいいんだ!

コウジはこれまでのことをクラスメートに話す

「白い制服といえば、英光塾だよ よく見ないと分からない看板を出してるけど、優秀な生徒を集めているんだ」

「西沢さんの行っている塾でしょ?」

キョウコは顔面蒼白となり、怯えたように出て行った

その後、コウジはパトロール員会議に出てほしいと言われる
「来なかったら欠席裁判になり、不利な結論になるかもしれません」と脅迫される



【パトロール員会議】



生徒会本部室に入ると、コウジは意見を言えない立場にされる

パトロール員:
2年3組全員に無視され、侮辱されました
クラス全体が謝罪するまで、生徒扱いする必要はないんだ!

ミチルを見つめるパトロール員らは、まるでみとれているようだ

ミチル:2年3組にはもっと適当な人がいたのです
キョウコの顔がひらめいた

クラス代表が正式に全校生徒の前で謝罪するまで、生徒の待遇をしないことと決まる


翌朝、山形先生は急病で休んだ
キョウコは自殺を図り、家にいると連絡が入る

コウジが職員室に行くと、キョウコの母は半狂乱で話にならない

数学の授業が始まると、教師に激しい頭痛がおこって救護室に行ってしまった

吉田:これは陰謀だ ぼくらが授業を受けられないようにしているんだ

カズミ:でも、高見沢さんは今、授業を受けているはずよ

美術の教師:
美しさを感じる心、感性の欠けた人間は、世間的にどれほど偉くなっても一人前とは言えない・・・

美術の教師も倒れ、その上に壁にかかっていた絵が落ちてきて頭を打った



そこに1人の少年が立っていた ベルトには奇妙な箱がついている
コウジ:そいつは高見沢みちると歩いていた奴だ!

少年:
こいつは有害な観念を君たちに植え付けようとしていたから、すぐには回復しない罰を与えた
我々のしていることには何も証拠がない

箱に触れると少年は目の前から消えてしまった

美術教師を救護室に運び、わけを話しても、保健体育の教師は「くだらん冗談はやめろ」と相手にしない


ミチルらは、いろんなクラブ活動の除名者リストを掲示板に貼り出した
除名者はいずれも2年3組のクラスメートだ
それを見た部員は怒って抗議しに行き、パトロール員らと衝突し、周囲に他のクラスの人だかりができた

カズミ:犯行というのは法をおかした時の言葉でしょ あなた方が勝手に決めた規則に違反して、なにが犯行よ!

日ごろおとなしい秀才の荻野も
「この生徒会は僕たちの代表じゃない この学校は高見沢みちるとパトロール員に占領されているんだ!」

そこにミチルもやって来た

カズミ:
これは荒療治になるわ みんなで高見沢さんに遅いかかるのよ
先生や全校生徒のいる前で超能力を使わせるのよ!

2年3組のクラスメートは腕を組み合わせてにじり寄ると、数人宙に舞い上がるが
そのうちミチルの体が揺れ、地面にくずれた

そこにあの少年が現れ、笑い出した
「お前たちのような連中が教師か! ふん、なんという時代なんだ」

教師は回転しながら10mも吹き飛んだ
箱に触れて両手を突き出すと、あたりの生徒がバタバタと倒れる

ミチル:京極さん、やめてください! これはやりすぎです!

2人は校舎のほうに歩み去った



カズミ:先生方やたくさんの生徒たちが目撃したのだから、もう超能力を冗談扱いしないはずよ


職員室では職員会議が行われ、その後校内放送が流れた
「全校生徒は、今日はただちに帰宅しなさい 生徒会役員と、パトロール員だけは残ること」

だが、生徒会役員と、パトロール員は生徒会本部にたてこもる
2年3組のクラスメートは作戦を考え、2班に分かれて、
1班は担任に相談、1班はキョウコを見舞い、英光塾についての情報を集めて、校門前に集合することにする

カズミ:まず家に帰って、これまでのことノートかなにかに書くのよ
クラスメート:遺書だな?
カズミ:英光塾にはなるべく大勢で行くほうがいいわ

コウジは父母に話すと、母は「危ないこと止めなさい!」と叫んだが、なんとか説得する
キョウコの母は、家を開けようとしなかった



山形先生は生徒とともに塾に行くと言ってくれる
「このために教師を免職になってもいい 君たちの仲間にしてほしいんだ」


荻野が案内した「英光塾」は高い塀に囲まれた日本風の地味な家だった
板扉を破って入ると、中学2、3年の塾生らが超能力で向かってきたが、ミチルほどの力はない

そこに京極がミチルを肩に支えて現れた

京極:
ここではこれ以上うまくいきそうもない
私は未来世界から、この時代の担当の1人として派遣されて来た

我々の時代は、文明が破産しようとしている 混乱と無秩序でどうしようもない
そうなったのも、もとはといえば、過去の時代に、1人1人が自由を主張した積み重ねなのだ

過去を選ばれた、正しい人間が、その他の何も分かっていない連中を指導する世界にしなければ
我々の世界は破産状況に至る

カズミ:
間違っているのはそちらよ!
人間として生きるために文明を生み出したので、文明を守るために人間があるんじゃないわ!

京極:
いくらでも言うがいい 私は去る この時代の別の場所で仕事を再開するだけのことだ

ミチル:ついて行くわ! お願い

荻野:そんなことしても、すぐに発見されるぞ

京極:その時は、名前も顔も変わっているからな 証拠は消さなければならない

家から炎がふきだした 火事になり、京極とミチルがふっと消えた




英光塾の火事騒ぎからまだ2週間
マスコミや警察にも同じ話を何度もして、いまだ続けられているが
どうにも説明がつかず、そろそろ飽きられようとしている

英光塾の経営者は、1年半ほど前に入ってきた京極にすすめられるままシステムを採用したと言い
塾生は口を固く閉じ、喋る者も、未来のために特殊な勉強をしたと話して、超能力を見せても
常識派の大人には手品としか映らなかった

キョウコは、成績を上げるために塾に入ったが、もし裏切ったらどうなるか分からないと脅されていた

校内パトロールさえ、いまだ続いていたが、日ごとに形式的になり
2学期までにはなくそうと、ようやく言い始めたが
それも、ミチルらがいなくなったからとしかコウジには見えなかった

父:
私は超能力があるかは知らない それがなんであろうと
理不尽な力で、一見理屈に合ったことを押しつけるものならなんでもいいのだ

それは、いつの時代でも、長い期間準備され、我々を一挙に制圧する
組織化されているため、長く猛威をふるうのだ

抵抗の多くが短期的だというのも歴史的事実だ
その時、別の者がバトンを受け継いで抵抗しなければならない


カズミ:
私ね、似たことが、これからもまたあるんじゃないかって気がする
そう思うと、これからの死ぬまでの一生が、変に長い感じがする これはただの予感




「0(ゼロ)からきた敵」

和夫は見知らぬ倉庫のような場所で目が覚めた

授業の後、小学校時代からの親友で、今は別のクラスの佐久間俊児の家に行く約束をしていた
亡くなったシュンジの父が建てた研究所を、長男が継いで所長になり、そこを見せてもらうことになっていたのだ

シュンジのほうにサッカーボールが転がってきて、左手で投げたのを見て
いつから左利きになったのだろうとカズオは疑問に思った



クルマが迎えに来て、車中で新しいお菓子だと言われて飲んだ粒で意識が遠のいて、ここに来た
男が近づいて来るのを見て、カズオは反射的に逃げた
外に出ると、そこはシュンジの研究所ではないか

家まで逃げて、ひとまず安心して玄関を開けると、自分とソックリな少年がいた
「君は誰だ!?」

2人のカズオは互いに叫びあった ニセモノはトランシーバーのようなもので仲間に連絡した
そこに父母が現れたが「君はなんだ? カズオの友だちでないなら帰ってくれ!」と言う

佐久間研究所のクルマが来て、カズオはまた逃げた 研究所の連中は執拗に追ってくる
そこにバスが来て飛び乗った



客がカズオを見ている 窓を覗くと、顔が仮面のように真っ赤に塗られていた
これでは目立ってしまう 塗料をぬぐい、上着を脱いで、数人の客と一緒にバスを降りた

S町! ここには叔父の家族がいる
叔父・叔母・いとこのユカリに事情を話すと「そんな、ばかな話は、あり得ないよ」と言われる

ユカリは試しにカズオの家に電話をすると、すぐに追っ手のクルマが家に来たが、そのまま遠ざかった
叔父:とにかく今夜はぐっすり寝るんだな


夜明け前、目を覚ますと、自分ソックリの少年が目の前に立っていた
叔父が助けようとすると、叔母を人質にしたため力を抜いた
カズオはその隙に、玄関に倒れていたユカリを連れて逃げた

今ならニセモノのカズオは家にいないのではないか
家に入ると父が「カズオじゃないか さあ、私たちと研究所へ行こう」

父の腕時計は右に、母は結婚指輪を右手にはめている
ひょっとしたら父母も・・・

抵抗する気力がなくなり、父母とユカリとともに研究所までクルマに連れていかれた
カズオは相手が油断しているチャンスを狙ってユカリと逃げた

「こっちへ来い!」

ボロボロの服を着ているが、それはシュンジだった




シュンジ:
研究所では複製人間を作っている 世の中の人々を、みんな複製人間にするつもりなんだ

あらゆる動物もつまるところは同じ元素の集まりだ
装置はモデルと同じ構成を作るが、モデルは鏡のように左右が反対になるんだ
ここには、僕しか知らない秘密通路がある

鉱山の坑道のような場所を行くと、複製装置の部屋の裏側に出る
マジックミラー越しに叔父と叔母が眠っているのが見えて、
ユカリは思わず窓を開けて走り出し、所員につかまってしまう



助けようとするカズオにシュンジはしがみついた
「行かないでくれ! つかまったら本物には目印の塗料が塗られ、監禁されてバカにされてしまうんだ」

それならなおのこと捨ててはおけない

カズオ:いくじなし! 逃げ回っても、どうにもなりゃしないぞ!

部屋に入り、目星をつけておいた機械に飛びつき、電源を切った
ギャーという声が上がり、完成しかけていた複製人間の口からどっと血のかたまりがあふれた

所長を見ると、腕時計の文字盤は逆だった

所長:
我々の怒り、悲しみが分かるか? 我々は何万、何百万と仲間を増やし、
今までの人間は、みんな滅びなければならんのだ!

窓の外で声があがった 「バカどもが逃げ出したぞ!」

カズオはまた夢中で逃げた シュンジが呼びとめ

「ここをのぼると地上に出られる 僕が騒ぎを起こしたんだ
 今までは、誰も信じてくれないと思っていたが、
 こうなったら、僕の家の恥になってもいいから、みんなに真相を話す

 あのニセモノを、外からやっつけてもらうんだ!
 学校へ行って、みんなに言えば、誰か一人くらいは信じてくれるかもしれないし
 新聞社か、警察にも連絡がとれる」


校門に着くと、ニセモノのカズオとシュンジがいた
とっくみあいになるが、同じ人間同士だからなかなか優劣がつかない

休み時間になり、生徒たちが駆け寄ってきた

数名の実験衣を着た男たちも来て

「その少年たちを引き取らせてください 少し気がふれていましてね
 私どもの研究所で治療中なんです」

カズオ:うそだ! 腕時計を見てください 文字盤が裏返しになっているはずです!

教師や生徒は「こんな時計見たことないぞ」と騒ぎだし、
所員らは追い詰められ、同時に奥歯を噛みしめて、断末魔の顔になっていた

警察官:
研究所は、中から火炎放射器で焼かれ爆発した 署長は、機動隊を要請しました

シュンジ:
研究所には、秘密を守るためにいろんな武器があります 抜け道から入らなければ

指揮官らしき警官が「抜け道を教えてくれ」

警察官:やつら、我々を近づけないために周りの家に火をつけたんだ

スピーカーから「我々の世界はもうすぐやって来る 人間はみな我々に殺されるのだ」



指揮者:機動隊はほぼ全滅だ 我々でなんとするほかない

指揮者とカズオ、シュンジは抜け道を入った
中の所員らはみな正常ではなかった

所長:わしの作った複製人間は完璧なはずだった みんな気が狂ってしまうなんて・・・

所長は、もはや人間ではなくなりかけていた
砂丘さながら、溶けていくように体が分かれていったのだ

機動隊員:人間がみんな分解していくぞ!

カズオは、群がって出てきた仮面の人々の中に父母がいるのを見つけた
「おかあさん!」
だが、父母はバカにされていた 叔父、叔母、ユカリも

ドアから今消滅したはずの所長が出てきた

「これは、第1号なのさ 複製人間は長くは生きられない
 だから、何日おきかに、モデルから複製をとっている
 前のが分解すると、次が仕事を引き継げるように わしは第2号だ

 こんなことになったのは、我々のモデルの所長にある
 彼は複製装置を完成させ、動物のコピーではガマンできず、ついに自分の複製を生み出した

 想像できるか? 同じ顔、同じ心を持ちながら、余計者なのだ!
 我々は普通の人間と反対にできているから、複製されたものでなければ飢え死にしてしまう
 寿命もごく短いことも分かったから、我々は増え続けなければならない
 複製技術を完全なものにするまで続けるんだ!」

そこにまた所長が現れた

「きさま、3号じゃないか まだ出番じゃないぞ」

「これ以上、無駄な時間を送っていられるか! 我々は作られてからもう5日を過ぎている
 このままでは、ろくに仕事もしないうちに分解してしまう」

2号と3号がもみあううちに、4号が出てきた



建物からは煙が出始め、バカにされた人々は救出され、病院に運ばれた
所員らは、抵抗せず、ばらばらになってしまった

指揮者:
バカにされた人々は、たぶん治ると思う 医者がなんとかしてくれるだろう
今度の事件は教えてくれた
所長は、こんなことになるとは夢にも思わずに複製を作っただろうが
ただの興味につられて、あとさき考えず、新しい科学技術を開発することが、どんなに恐ろしいものか
それは、ゼロの世界からきた、人類の敵なのだ




【豊田有恒解説 内容抜粋メモ】

最近、友人の作家の解説を頼まれることが多く、もちろん喜んで受けているが
先日、妙な雑音を聞かされたので弁解させてもらう
SF作家は、仲間内で褒め合っているというのである

小説を書こうという者はひと癖もふた癖もあり、すぐ仲たがいして
合評会などやれば罵詈雑言の挙句、つかみ合いにもなりかねない

大体、作家ほど周りの人間と楽にケンカできる商売はない
サラリーマンなら同僚や上司とケンカすれば、すぐにも困るだろうが
作家はむしろ逆で、ケンカするほうがはるかに楽なケースが多い

SF作家クラブでは、矢野徹さん、星新一さん、光瀬竜さん、小松左京さんなど、素晴らしい人ばかり
眉村さんは、筒井康隆さんと同年で、僕や、平井和正にとってよき兄貴分だ
てらったり、飾り気のない、誠実な人で、有名になった今も少しも変わっていない
どんな原稿でも、全力投球を惜しまない

眉村さんは、けして器用な作家ではないが、たいへんなアイデアマンだ
僕はいろんなジャンルに欲を出し、欠点を克服しようとしたが
眉村さんは、小だしのアイデアを積み上げて緻密な構成で欠点を完全に追放した

眉村さんは、あまり原稿の締め切りを守らない作家だという
細部がしっかりしないうちに、書きだすわけにいかないから、必然的に遅れるのだろう

よき兄貴分の眉村さんに1つ悪いことをした
クマゴローというニックネームをつけたのは、僕と平井和正だ
アニメのクマゴローに似ているとコソコソ笑っていた

眉村さんは、DJで堂々とクマゴローを名乗っている
けして雄弁なほうではないが、とつとつと喋り、誠実味があるからうってつけなのだろう

僕がテレビ界に飛び込み、小説はなにひとつ書けない時代に
眉村さんはふらりと来て、SF雑誌に載った短篇を今すぐ読んで批評を聞かせてくれと言った
あの優しい人とは思えない残酷な仕打ちである

僕は畳をかきむしって、今に見ていろ「還らざる空」を超える傑作を書いてみせると誓ったものだ
今思うと、先輩の真心からのショック療法だったに違いない

眉村さんは、今流行りの多国籍企業をテーマにSFを書いている 12年前の話だ
各国の政府が、多国籍企業の思うままに操られてしまう

従業員は、国家より、企業の利益を優先させ、世界的規模で企業体にアイデンティファイしてしまう
やがては、巨大な多国籍企業間の争いだけが残る

未来予測小説として、これほど説得力と恐怖をまきちらす小説を、僕はこれまで読んだことがない
いま世界は、12年前、眉村さんが描いた世界に移行しはじめているのだから




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