■『白い不等式』眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑 さし絵/谷俊彦(昭和56年初版 昭和58年7版)
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
直也と孝次の二人が気づいたとき、そこは先ほどまで居た倉庫の中ではなく、
びっしりと生い茂った森の真只中だった。
そして、二人の前に現れたのは、粗末な衣服を身につけて、弓や日本刀を手にした男たち・・・。
ここは恐らく江戸時代だ。
そして先ほど倉庫にあった機械は、転送装置だったに違いない・・・。
二人は異様で、のっぴきならない世界に飛び込んでしまったことを知った!
異次元で行われる激烈な争いに巻きこまれた二人の少年の冒険を描く、SFスリラー!
またジュブナイルのほうに戻ろうと思って、これを選んだ
ずっとサラリーマンの悲哀ばかり読んでいると気が滅入るし
面白かった!
カバー裏のあらすじを読むと、『とらえられたスクールバス』を思い起こさせるけれども
それまでは、タイムトリップしても、日本の過去か未来だったのが
無限にある異次元の世界の話
高度な科学をもつ次元の人間が、素朴な次元の農村に占領地を作るなんてアイデアは新鮮で
そこで翻弄される少年2人がどうなってしまうのか気になって
また数時間で読みきってしまった
ジュブナイルとはいっても、突き刺さる現代への批判魂がここそこで燃えている
最後には受験勉強に追われる学生の自分たちも、他の角度から見れば奇異に見えるのでは?
と締めるところまで終始あざやか
そして、この体験の記憶が消されなかったことで
私たち読者にも、さまざまな冒険の断片の余韻が残る
ほんとうに凄い作家さんだなあ!
▼あらすじ(ネタバレ注意
堀直也と前田孝次は、中学3年の夏休みになったばかりの日に
受験勉強の気分転換に都心のプールまで来たが
自由に泳いでいる人々を見て、余計に嫌気が差し、
帰ろうとバス停に行くともう出た後 国電の駅まで2つだから歩くことにする
コウジは近道を通ろうと言う
「うまく高校に入れたとしても、今度は大学入試だろう?
あと何年続くかと思うとウンザリするよ」
そこに自転車に乗った男がフラフラやってきて倒れた
「そこでクルマにひっかけられて痛いんだ
警察はいいから、そこの倉庫まで連れて行ってくれないだろうか」
男をかついで、ボロボロの倉庫に入ると、高圧電流の匂いが充満していて
見慣れぬ金属でできた大きな箱状のものがある
男に言われるまま操作盤に連れていくと、なにかいくつもスイッチを押している
「間に合わないかもしれないが、私は帰らなければ、報告もできないし、治療も受けられない・・・」
3mほどのドーム状の内部に入れると
「君たちは、すぐに出てくれ でないと取り返しのつかないことになる
この装置は、私だけが転送されるようにセットしてある・・」
それでも青年が死んでしまうのではないかと心配した2人は、大きな震動に包まれる
コウジ「地震だ 余震があるかもしれないぞ いったん外に出よう」
外に出ると、どう見ても森だ 何がおこったのだ?
そこに少女が来て、驚いて叫び、日本刀を持った男を連れて戻ってきた
30前後の長い髪をうしろで束ねた、髭をぼうぼうと生やした男だ
似たような格好の少年は弓でこちらを狙っている
「何のつもりでここに来た」
「来たくて来たんじゃありません! 妙な男の人を助けて・・・」
「お前たちは、支配組織のメンバーだろう? あの転送装置から出てきたことでも明らかだ」
疑う男らとともに、「転送装置」と呼ぶ箱に行くと、例の青年は床に転がったままだ
男「一時停止状態に入っている この状態なら当分は安全だ
それより、支配組織のメンバーでもなく、この世界の人間でもないお前たちをどうするか
会議で決めなければならない」
2人は男の言われるままに連れて行かれた
眼下に広がっているのは昔の農村だ 江戸時代さながら髷を結っている者もいる
“この世界”とはどういう意味だ ここは別世界なのかも・・・
古い小学校の講堂のような建物に来て、その中の小さな部屋に入っていろと言われる
コウジも「僕らは別世界に飛び込んだんじゃないだろうか」と言ってナオヤは驚いた
日本刀の男が戻ってきて、「明日、この合力村の会議がある お前たちを詳しく調べなきゃならん」
そこに少し年上の、どこか柔和な別の男・伊坂が来た
「君たちの話が事実なら、この文字が読めるはずだ」
そのメモには「NEVER SPEAK!(喋ってはいけない)」と書かれている
伊坂は2人と話させてくれと日本刀の男を出て行かせた
「今の男は甚一 娘サトから聞いたよ 私にとっては信じられない幸運だ
ここは異次元世界だ あとで話すが、君たちは今夜中に脱走しなければならない」
伊坂は今夜迎えに来ると言って去った
空腹が我慢出来なくなった頃に老人が来て、黒っぽい雑炊のようなものを持ってきてくれた
そこに伊坂が来て
「源さん、この人たちを逃がす 私たちも一緒に行くんだ
私たちを見逃したら、みんなから痛めつけられるだろうから縛る」
「わしもどうか連れて行ってくだせえ!」
「落ち着いてやっていけるようになったら、きっと迎えに来るから待っていてほしい」
伊坂、少年、サトは、月で照らされるのを避けながら、外に出ると、もう村人が何人も騒ぎ出した
「今度捕まったら、有無を言わさず奴隷にされる 下男と呼んでいるが
私より先にここを担当していた連中が、小作人たちの不満をそらすために作ったものだがね」
のろし代わりの花火があがり、目の前の家からも鍬や鋤を持って村人が飛び出してきた
「そいつらはお陣屋衆だな あんたはまたあいつらの所へ行くんだな?
行かしゃしないぞ! あなたはこの村の人間ではないですか!」
サト「村の人が私たちに何をしてくれたの? 今の名主に遠慮して助けてくれなかったじゃないの!」
「あんたらは村のために必要だ 役に立つんだ!」
4人は村人を置いて、全力疾走で逃げた 「ここで少し休もう」
ひどい空腹の2人にサトは干し飯をくれた 固いが噛むほど味が出てきて
空腹のためにこれほど上手いものを食べたことがない気がした
伊坂「村人に捕まるから、大回りしなければ 月見峠を取って・・・」
サト「それじゃ武蔵村に入るけど大丈夫かしら」
歩いて、歩いて、たどり着いたのは湖だ ゲートなどもある水力発電のダムなのだ
コンクリート造りの建物に入ると、中には蛍光灯もある
伊坂「ご一新以降の打ち壊しでも荒れずに済んだんだな」
サト「ご支配様に関係のあるものはみんな壊してしまって、せっかくの電気まで使えないようにしてしまったんだわ!」
まるでワケの分からない少年たちに、やっと伊坂は説明を始めた
「君たちに同行してもらったのは、村人から助けるのもあるが
20世紀の工業化社会についての知識が役に立つと思ったからだ
ここは、進んだ文明を持つ連中が作りあげた支配地だ
江戸時代末期の天保時代の飢饉で死にかけた人々を集めて作られた開拓地なんだ
文明の利器があるのは、地元支配者たちが持ち込んだものだ」
ドアを叩く音がした
マツと呼ばれる女が入ってきて、伊坂を見るとぼろぼろと涙をこぼした
マツ「脱出されたとすれば、一度はお陣屋跡に来られると、みんな集まり始めています」
伊坂「そのつもりだ」
マツはそれを伝えに行くと言って出て行った
サト「お父様は、やはりお陣屋衆を1つにまとめて独立されるおつもり?
私、不安なの あの人たち、お父様に寄りかかり過ぎているみたい」
伊坂は、少年に説明のつづきを話す
「宇宙旅行の技術を発達させて、別の恒星を侵略するより
異次元の地球侵略のほうが楽だし、旨味がある
次元支配者たちは、世界のあちこちに転送装置を置いて、いろんな形で支配している
私はメンバーといっても下っ端の地区定住担当員だが
各世界担当員がいて、その下に地区担当員がいて、地区の住人から絞り上げるのだ
地区担当員もいつもいないから、補佐として地区定住担当員がある
ここには4つの村がある 相模村、武蔵村、下総村、合力村
世界にはいくつもの地区があるが、離れているせいで、送り込まれた人は気づいていない
感覚が江戸時代のままだから、次元支配者を“ご支配様”、地区担当員は“代官”
地区定住担当員は、代官の手代として、武士の格好をしている者もいる
陣屋と呼ぶ支配センターを本拠として、現地要員を訓練したのが陣屋衆だ
支配組織は、村人に元の日本は滅んだと信じ込ませている
もし反抗すると、軍隊が転送装置で出現し、首謀者らを連れ去る 人々は働くしかなかった
時代とともに進歩する農耕技術を導入し、学校も作った
私が日本を捨てて、ここに来たのは23歳の時だ
工学部を出て、会社勤めをしていたが、もっとやり甲斐を求めて悩んでいたところに
地元支配者のスカウトがきた
私としても、ここで自分の地位が高いことに悪い気はしなかった
生徒に工業技術を教え、豊かな暮らしを実現すると信じていた
けれども、支配組織は、人助けではなく、自分たちの利益のために作ったと知った
ある年、大規模な一揆が起こり、辞職を申し出たが、秘密を知りすぎているため元の世界には帰らせてもらえなかった
公用で何度か別の次元へも行っているからね
だから合力村に住み、そこの名主の娘のフサと結婚し、サトが生まれた
辞職したものの、陣屋衆養成教育には出ろを命令された
4年前に、未開拓次元に行った者が病害を持ち込み、作物の大半がやられ、
食えなくなった村人は総一揆を起こし、センターは鎮圧すれば
以後、作物を育てる者がいなくなるため鎮圧できなかった
私は一揆のリーダーとなった
村人は、これまでの憎しみをこめて打ち壊しをはじめた
陣屋集はリンチにされ、分散し、隠れてやっと生きている
私は一揆のリーダーになったことと、名主の娘と結婚したため、すぐに手を出せなかったのだろう
最初に言っていた会議も、一方的な裁判で、君たちが来たのを知り、逃亡の覚悟を決めたんだ
甚一は名主の甥で、よそ者の私が気に入らなかったらしい
それでも遠慮していたのは、この1、2年、村同士が絶えず小競り合いをしていて
私の知識が欲しかったのと、甚一の弟(矢を持っていた少年)がサトを嫁にしたがっているからだ
次元支配者は、みんな抵抗しなくなった時期に再び来る気がする
転送装置は、一定の座標をセットしなければならず、悪用されるのを防ぐために
不定期に切りかえることになっている だから、君たちはもはや元の日本には戻れないだろう」
翌朝、2人は起こされて、陣屋衆が集まる支配センターへ向かう
大きな楼門があり、骨組みは鉄筋コンクリートだが、木造のように装われている
だが、それも打ち壊しによって廃墟のようになっていた
土塀の先にはパビリオンを思わせるセンターがそそり立っている
マツ「村人たちの待ち伏せです!」
門の柱には、十名以上の刀や槍を持った村人の中には、甚一とその弟・武介もいる
伊坂「みんな石をたくさんつかんで連中にぶつけるんだ その間に私は手を打つ!」
相手は門柱に出たり入ったりして矢を放ってくる
ナオヤらは草に身を伏せて、石を投げる攻防が続いた
伊坂らは3、4人で塀に向かって走り出し、しばらくするとスピーカーから伊坂の声がした
「陣屋衆よ、西門の敵を追い払え!」
甚一らは門の外へ逃げ出した 百人近い陣屋衆が集まり、万歳を叫んだ
伊坂「我々は自立しなければならない 当面、私が指揮にあたろうと思うが、どうだ?」
みんなは大きな歓声をあげた その後の伊坂の指示ぶりは、初めから計画していたように鮮やかだった
コウジは右大腿部に矢が刺さっていた
伊坂「養成所には、薬品もあるし、医学の心得のある者もいるから大丈夫だ
今夜、センター本部で今後の方針を決めるから、ナオヤくんだけでも出てくれないか」
睡眠薬を飲んでコウジが眠っている横で、ナオヤとサトは他の人々を手伝うことも出来ずに付き添った
センター本部に呼ばれ、サトはやっと口を開いた
「私、なんだか不安なのよ なにもかも間違っているんじゃないかという感じがする
父は、ここに独立の領国を作ろうとしている
お陣屋衆は、ご一新から村人に迫害されてきたけど、それまではご支配様の威光で
ずいぶん威張って、いろいろ酷いこともやったわ
このままでは、憎しみと憎しみのぶつけ合いのくり返しになりそうな気がする
また何が起きたら、今度は村人がお陣屋衆に復讐する
こんなことが果てしなく続いたら、やりきれない」
会議室は贅沢な作りで、テーブルが並び、20人ほどが席についていた
中央に伊坂、その横にマツが座り、サトとナオヤを伊坂の横に座らせた
「本来なら選挙を行うべきだが、落ち着くまでは私の独裁体制でいいか?」
「異議なし!」
伊坂は、陣屋の修復、備蓄の在庫の調査などを手際よく指示した
「今の状態では、4つの村人が連合して来れば陥落するだろう
その前に、強力な武器を作り、先制攻撃をかけ、力を見せつけなければならない
堀くん、君は我々に思いつかないアイデアを持っているんじゃないか?」
ナオヤはそんなアイデアを考えたくはなかったが、この場で言うのは危険だ
サトがすっと立ち上がった
「みんな、どういうつもりなの!?
お父様までが、村人たちに仕返ししようと考えているみたいじゃないですか!
私は村人として育ってきたんです
お陣屋衆が恨みをぶつけたら、村人はまたその恨みを抱いて何年も辛抱していつか爆発する」
マツがサトを制した
サトは会議室を出て、ナオヤも無意識に続いた
「ご支配様の軍隊が戻って来たぞぉ!」という絶叫が聞こえた
サト「私たちは捕らえられて処刑されるわ」
お陣屋衆は声と逆の方向にみな逃げた
ナオヤも、まだ足をひきずるコウジを支えて逃げた
そこに上下真っ黒な制服を着た軍隊が何百人とやってきた
ナオヤらはセンター内を迷い、塀を越えると、軍隊が銃を放ちお陣屋衆が倒れて消えてしまうのを見る
マツも倒れて、たちまち消失したのだ
草に伏せて軍隊の一隊が過ぎるのを見ていると、その最後尾には背広姿の男がいる
この世界に来るきっかけになった青年だ
「とりあえず、発電所まで行ってみないか?」
発電所には誰もいない 2人は月見峠に行ってみると、村人らが逃げて行くのが見えた
「こっち」とサトに呼ばれ、伊坂と再会できた
サト「みんな、ご支配様の力の及ばない遠くへ逃げているのよ
ご領内の外には、まだ未開拓の土地があるという話よ」
伊坂「当面は逃げるほかないだろうな だが支配組織は立ち去るだろう
その間に彼らが二度と来られないような措置をとって、ここを取り戻すんだ」
サト「お父様は、もうそんな夢を忘れなければならないわ!
村人のはたらきがあってこその陣屋衆でしょ?
そして陣屋衆の知識は、村人に役立ててこそ意味がある」
伊坂は今後はまったく分からないが、巻き込んだ2人のために待っていたという
「君たちが来た所からも軍隊が出たと噂がきたんだ 一緒に逃げてくれるかね?」
村人の流れに入り込んでも、誰も4人に構わなかった
そこに軍隊がきて、草に伏せるとサーチライトが光り、ナオヤの顔をとらえた
「たしかに君だ 立つんだ! ずいぶん捜したぞ 君たちが手違いで消されたら申し訳ないものな」
例の青年だった 「僕は、君たちを送り帰さねばならない」
伊坂「待ってくれ! 私の娘も連れて行ってくれないか?
私は処刑されても、娘は別だ 文明社会で一生を送らせてやりたいんだ」
青年:
定住担当員の中には、あんたのように地区の人間になりきろうとする者も多い
だが、あんたには元の世界はない ここで生きて死ぬ 子どももだ それが当然じゃないだろうか
それに、組織は、これ以上何もしないそうだ 組織はこの地区を捨てた
一度反乱に成功した地区は、その後の統治が難しいからな
軍隊が来たのは、組織が残した施設や武器が、ここの人々に悪用されかねないからだ
高水準の技術を、中途半端な知識の連中にいじられては、どんな大事故がおこるか分からない
サト「私たち・・この世界で、全力を尽くして生きていくわ そちらも頑張って・・・お元気でね!」
青年:
君たちがこの世界に来たのは偶然だった
あの時、私だけの質量で座標をセットしたが、君たちがいたため、こんなところへ転送されてしまった
私の体には次元間緊急通信の装置が埋め込まれている
紛れ込んだ人は元の世界に帰すのが組織のルールだ こういう事故は初めてじゃない
だが、君たちの記憶は消さねばならない 記憶消去を承諾しなければ、組織は送り帰すのを許さない
選択の余地はないと2人は承諾する
来た時と同様、転送装置に乗り、トンネルをくぐると最初の倉庫の中だった
青年:
君たちは向こうの世界で2晩を過ごした こちらも同様だ その間、行方不明になっていたことになる
さっきは他のメンバーの手前、記憶消去に承諾をもらったが
記憶消去は、他の記憶も消したり、思考力に影響を及ぼしたりもするから、そうしたくない
君たちがここを出たら24時間ほど口外しないと約束してくれるかね?
2人は約束し、青年は去った
2学期前の補習第1日目
コウジと会うのは10日ぶりだった
2日も家を空けて、足に怪我までしていたため、家族に問い詰められ、
2人とも事情を話したが、誰にも信じてもらえず、倉庫にも連れて行くと
妙なものは何もなかったため、どこかへ遊びに行ったのを口裏合わせて作り話をしていると解釈された
それに、高校受験を控えて、勉強にさしつかえると、それ以上は咎められなかった
コウジ:
あの青年は、たしかにこの日本にも支配組織がいて仕事をしていると言った
僕はなんだか妙な気がするんだ
ナオヤも同じだった
お互いに戦い、憎しみ合い、彼らは彼らなりに、自分の考え方を頼りに生きようとしていた
彼らにとっては、自分が正しいつもりだったのだ
人は置かれた立場や考え方が当然で正しいとするあまり、他人のそれが分からなくなるのかもしれない
そういえば、今の自分、高校受験のために懸命になっているのも当たり前だと信じている自分も
別の立場、次元の人間の目には、ひどく奇妙に映るかもしれないな
そんな思いを振り切って、授業に注意を戻した
【光瀬龍 解説内容抜粋メモ】
わが国で出版されている「ジュニアSF」には、大きく分けて3つの種類がある
「ジュニアSF」というジャンルは、一般的には、主人公が読者と同年齢で
ストーリーが理解できる範囲内で、あまり残酷なシーンは避けるよう配慮されている
だが、読者と同じ年齢でなければならないのかは難しい問題だ
最近は、学生が社会人向けの小説を抵抗もなく読んだり
逆に中学生向きの小説を大学生が熱心に読む場合もある
もともと小説は読みたいものを読めばいいわけで、「ジュニアSF」という言葉も意味がない
3つの種類とは
1.読者の生活に密着したムードを持つ ストーリーは現世界にとどまる
2.ジュニア向けのスペースオペラ
3.海外の「ジュニアSF」の翻訳
2.については、最近はテレビのアニメのノベライゼーションが積極的に読まれたりして
スペースオペラが厚い読者層をもっているため、「ジュニアSF」というとスペースオペラだと思う人も多い
3.については、SFの歴史の古いアメリカ、ヨーロッパには、優れたSFものがたくさんある
1.の種類は、O社やG社の学習雑誌がしばしば連載し、
作家もほぼ顔ぶれが決まっていて、手馴れた手法を発揮している
日常生活の描写や細かな心理描写も必要で、小説の完成度を要求され
SF好みの強くない読者にも満足してもらうため
難解な科学知識やSF用語の使用も制約されるので
このジャンルを手がける作家は比較的少ないようだ
眉村さんは1961年に登場して以来、一貫してSFを書き続けてきた
根底には厳しい文明批判がある
限られた体制の中で、いかに自分の良心に忠実に生きるか苦悩する人間を描き、
現代に生きるわれわれが疎かにしてしまっていることを正面からとらえ
復権させようとする強い意志がある
「ジュニア小説」は大人向けに比べて、簡単なものと考える作家、編集者がいて
実際、そういう作品さえ見かけるが、長く読み続けられるものは、
作者自身が完全燃焼していなければ生み出されないものだ
眉村さんは、俳人としても有名
SF作家にはスポーツの得意な人が多いが、眉村さんは柔道の有段者
眉村さんの最初の長編小説を刊行したのは昭和38年の『燃える傾斜』
これは実は私たちSF作家の中で、最初に単行本を出した作家だ
眉村卓/著 カバー/木村光佑 さし絵/谷俊彦(昭和56年初版 昭和58年7版)
※「作家別」カテゴリーに追加しました。
[カバー裏のあらすじ]
直也と孝次の二人が気づいたとき、そこは先ほどまで居た倉庫の中ではなく、
びっしりと生い茂った森の真只中だった。
そして、二人の前に現れたのは、粗末な衣服を身につけて、弓や日本刀を手にした男たち・・・。
ここは恐らく江戸時代だ。
そして先ほど倉庫にあった機械は、転送装置だったに違いない・・・。
二人は異様で、のっぴきならない世界に飛び込んでしまったことを知った!
異次元で行われる激烈な争いに巻きこまれた二人の少年の冒険を描く、SFスリラー!
またジュブナイルのほうに戻ろうと思って、これを選んだ
ずっとサラリーマンの悲哀ばかり読んでいると気が滅入るし
面白かった!
カバー裏のあらすじを読むと、『とらえられたスクールバス』を思い起こさせるけれども
それまでは、タイムトリップしても、日本の過去か未来だったのが
無限にある異次元の世界の話
高度な科学をもつ次元の人間が、素朴な次元の農村に占領地を作るなんてアイデアは新鮮で
そこで翻弄される少年2人がどうなってしまうのか気になって
また数時間で読みきってしまった
ジュブナイルとはいっても、突き刺さる現代への批判魂がここそこで燃えている
最後には受験勉強に追われる学生の自分たちも、他の角度から見れば奇異に見えるのでは?
と締めるところまで終始あざやか
そして、この体験の記憶が消されなかったことで
私たち読者にも、さまざまな冒険の断片の余韻が残る
ほんとうに凄い作家さんだなあ!
▼あらすじ(ネタバレ注意
堀直也と前田孝次は、中学3年の夏休みになったばかりの日に
受験勉強の気分転換に都心のプールまで来たが
自由に泳いでいる人々を見て、余計に嫌気が差し、
帰ろうとバス停に行くともう出た後 国電の駅まで2つだから歩くことにする
コウジは近道を通ろうと言う
「うまく高校に入れたとしても、今度は大学入試だろう?
あと何年続くかと思うとウンザリするよ」
そこに自転車に乗った男がフラフラやってきて倒れた
「そこでクルマにひっかけられて痛いんだ
警察はいいから、そこの倉庫まで連れて行ってくれないだろうか」
男をかついで、ボロボロの倉庫に入ると、高圧電流の匂いが充満していて
見慣れぬ金属でできた大きな箱状のものがある
男に言われるまま操作盤に連れていくと、なにかいくつもスイッチを押している
「間に合わないかもしれないが、私は帰らなければ、報告もできないし、治療も受けられない・・・」
3mほどのドーム状の内部に入れると
「君たちは、すぐに出てくれ でないと取り返しのつかないことになる
この装置は、私だけが転送されるようにセットしてある・・」
それでも青年が死んでしまうのではないかと心配した2人は、大きな震動に包まれる
コウジ「地震だ 余震があるかもしれないぞ いったん外に出よう」
外に出ると、どう見ても森だ 何がおこったのだ?
そこに少女が来て、驚いて叫び、日本刀を持った男を連れて戻ってきた
30前後の長い髪をうしろで束ねた、髭をぼうぼうと生やした男だ
似たような格好の少年は弓でこちらを狙っている
「何のつもりでここに来た」
「来たくて来たんじゃありません! 妙な男の人を助けて・・・」
「お前たちは、支配組織のメンバーだろう? あの転送装置から出てきたことでも明らかだ」
疑う男らとともに、「転送装置」と呼ぶ箱に行くと、例の青年は床に転がったままだ
男「一時停止状態に入っている この状態なら当分は安全だ
それより、支配組織のメンバーでもなく、この世界の人間でもないお前たちをどうするか
会議で決めなければならない」
2人は男の言われるままに連れて行かれた
眼下に広がっているのは昔の農村だ 江戸時代さながら髷を結っている者もいる
“この世界”とはどういう意味だ ここは別世界なのかも・・・
古い小学校の講堂のような建物に来て、その中の小さな部屋に入っていろと言われる
コウジも「僕らは別世界に飛び込んだんじゃないだろうか」と言ってナオヤは驚いた
日本刀の男が戻ってきて、「明日、この合力村の会議がある お前たちを詳しく調べなきゃならん」
そこに少し年上の、どこか柔和な別の男・伊坂が来た
「君たちの話が事実なら、この文字が読めるはずだ」
そのメモには「NEVER SPEAK!(喋ってはいけない)」と書かれている
伊坂は2人と話させてくれと日本刀の男を出て行かせた
「今の男は甚一 娘サトから聞いたよ 私にとっては信じられない幸運だ
ここは異次元世界だ あとで話すが、君たちは今夜中に脱走しなければならない」
伊坂は今夜迎えに来ると言って去った
空腹が我慢出来なくなった頃に老人が来て、黒っぽい雑炊のようなものを持ってきてくれた
そこに伊坂が来て
「源さん、この人たちを逃がす 私たちも一緒に行くんだ
私たちを見逃したら、みんなから痛めつけられるだろうから縛る」
「わしもどうか連れて行ってくだせえ!」
「落ち着いてやっていけるようになったら、きっと迎えに来るから待っていてほしい」
伊坂、少年、サトは、月で照らされるのを避けながら、外に出ると、もう村人が何人も騒ぎ出した
「今度捕まったら、有無を言わさず奴隷にされる 下男と呼んでいるが
私より先にここを担当していた連中が、小作人たちの不満をそらすために作ったものだがね」
のろし代わりの花火があがり、目の前の家からも鍬や鋤を持って村人が飛び出してきた
「そいつらはお陣屋衆だな あんたはまたあいつらの所へ行くんだな?
行かしゃしないぞ! あなたはこの村の人間ではないですか!」
サト「村の人が私たちに何をしてくれたの? 今の名主に遠慮して助けてくれなかったじゃないの!」
「あんたらは村のために必要だ 役に立つんだ!」
4人は村人を置いて、全力疾走で逃げた 「ここで少し休もう」
ひどい空腹の2人にサトは干し飯をくれた 固いが噛むほど味が出てきて
空腹のためにこれほど上手いものを食べたことがない気がした
伊坂「村人に捕まるから、大回りしなければ 月見峠を取って・・・」
サト「それじゃ武蔵村に入るけど大丈夫かしら」
歩いて、歩いて、たどり着いたのは湖だ ゲートなどもある水力発電のダムなのだ
コンクリート造りの建物に入ると、中には蛍光灯もある
伊坂「ご一新以降の打ち壊しでも荒れずに済んだんだな」
サト「ご支配様に関係のあるものはみんな壊してしまって、せっかくの電気まで使えないようにしてしまったんだわ!」
まるでワケの分からない少年たちに、やっと伊坂は説明を始めた
「君たちに同行してもらったのは、村人から助けるのもあるが
20世紀の工業化社会についての知識が役に立つと思ったからだ
ここは、進んだ文明を持つ連中が作りあげた支配地だ
江戸時代末期の天保時代の飢饉で死にかけた人々を集めて作られた開拓地なんだ
文明の利器があるのは、地元支配者たちが持ち込んだものだ」
ドアを叩く音がした
マツと呼ばれる女が入ってきて、伊坂を見るとぼろぼろと涙をこぼした
マツ「脱出されたとすれば、一度はお陣屋跡に来られると、みんな集まり始めています」
伊坂「そのつもりだ」
マツはそれを伝えに行くと言って出て行った
サト「お父様は、やはりお陣屋衆を1つにまとめて独立されるおつもり?
私、不安なの あの人たち、お父様に寄りかかり過ぎているみたい」
伊坂は、少年に説明のつづきを話す
「宇宙旅行の技術を発達させて、別の恒星を侵略するより
異次元の地球侵略のほうが楽だし、旨味がある
次元支配者たちは、世界のあちこちに転送装置を置いて、いろんな形で支配している
私はメンバーといっても下っ端の地区定住担当員だが
各世界担当員がいて、その下に地区担当員がいて、地区の住人から絞り上げるのだ
地区担当員もいつもいないから、補佐として地区定住担当員がある
ここには4つの村がある 相模村、武蔵村、下総村、合力村
世界にはいくつもの地区があるが、離れているせいで、送り込まれた人は気づいていない
感覚が江戸時代のままだから、次元支配者を“ご支配様”、地区担当員は“代官”
地区定住担当員は、代官の手代として、武士の格好をしている者もいる
陣屋と呼ぶ支配センターを本拠として、現地要員を訓練したのが陣屋衆だ
支配組織は、村人に元の日本は滅んだと信じ込ませている
もし反抗すると、軍隊が転送装置で出現し、首謀者らを連れ去る 人々は働くしかなかった
時代とともに進歩する農耕技術を導入し、学校も作った
私が日本を捨てて、ここに来たのは23歳の時だ
工学部を出て、会社勤めをしていたが、もっとやり甲斐を求めて悩んでいたところに
地元支配者のスカウトがきた
私としても、ここで自分の地位が高いことに悪い気はしなかった
生徒に工業技術を教え、豊かな暮らしを実現すると信じていた
けれども、支配組織は、人助けではなく、自分たちの利益のために作ったと知った
ある年、大規模な一揆が起こり、辞職を申し出たが、秘密を知りすぎているため元の世界には帰らせてもらえなかった
公用で何度か別の次元へも行っているからね
だから合力村に住み、そこの名主の娘のフサと結婚し、サトが生まれた
辞職したものの、陣屋衆養成教育には出ろを命令された
4年前に、未開拓次元に行った者が病害を持ち込み、作物の大半がやられ、
食えなくなった村人は総一揆を起こし、センターは鎮圧すれば
以後、作物を育てる者がいなくなるため鎮圧できなかった
私は一揆のリーダーとなった
村人は、これまでの憎しみをこめて打ち壊しをはじめた
陣屋集はリンチにされ、分散し、隠れてやっと生きている
私は一揆のリーダーになったことと、名主の娘と結婚したため、すぐに手を出せなかったのだろう
最初に言っていた会議も、一方的な裁判で、君たちが来たのを知り、逃亡の覚悟を決めたんだ
甚一は名主の甥で、よそ者の私が気に入らなかったらしい
それでも遠慮していたのは、この1、2年、村同士が絶えず小競り合いをしていて
私の知識が欲しかったのと、甚一の弟(矢を持っていた少年)がサトを嫁にしたがっているからだ
次元支配者は、みんな抵抗しなくなった時期に再び来る気がする
転送装置は、一定の座標をセットしなければならず、悪用されるのを防ぐために
不定期に切りかえることになっている だから、君たちはもはや元の日本には戻れないだろう」
翌朝、2人は起こされて、陣屋衆が集まる支配センターへ向かう
大きな楼門があり、骨組みは鉄筋コンクリートだが、木造のように装われている
だが、それも打ち壊しによって廃墟のようになっていた
土塀の先にはパビリオンを思わせるセンターがそそり立っている
マツ「村人たちの待ち伏せです!」
門の柱には、十名以上の刀や槍を持った村人の中には、甚一とその弟・武介もいる
伊坂「みんな石をたくさんつかんで連中にぶつけるんだ その間に私は手を打つ!」
相手は門柱に出たり入ったりして矢を放ってくる
ナオヤらは草に身を伏せて、石を投げる攻防が続いた
伊坂らは3、4人で塀に向かって走り出し、しばらくするとスピーカーから伊坂の声がした
「陣屋衆よ、西門の敵を追い払え!」
甚一らは門の外へ逃げ出した 百人近い陣屋衆が集まり、万歳を叫んだ
伊坂「我々は自立しなければならない 当面、私が指揮にあたろうと思うが、どうだ?」
みんなは大きな歓声をあげた その後の伊坂の指示ぶりは、初めから計画していたように鮮やかだった
コウジは右大腿部に矢が刺さっていた
伊坂「養成所には、薬品もあるし、医学の心得のある者もいるから大丈夫だ
今夜、センター本部で今後の方針を決めるから、ナオヤくんだけでも出てくれないか」
睡眠薬を飲んでコウジが眠っている横で、ナオヤとサトは他の人々を手伝うことも出来ずに付き添った
センター本部に呼ばれ、サトはやっと口を開いた
「私、なんだか不安なのよ なにもかも間違っているんじゃないかという感じがする
父は、ここに独立の領国を作ろうとしている
お陣屋衆は、ご一新から村人に迫害されてきたけど、それまではご支配様の威光で
ずいぶん威張って、いろいろ酷いこともやったわ
このままでは、憎しみと憎しみのぶつけ合いのくり返しになりそうな気がする
また何が起きたら、今度は村人がお陣屋衆に復讐する
こんなことが果てしなく続いたら、やりきれない」
会議室は贅沢な作りで、テーブルが並び、20人ほどが席についていた
中央に伊坂、その横にマツが座り、サトとナオヤを伊坂の横に座らせた
「本来なら選挙を行うべきだが、落ち着くまでは私の独裁体制でいいか?」
「異議なし!」
伊坂は、陣屋の修復、備蓄の在庫の調査などを手際よく指示した
「今の状態では、4つの村人が連合して来れば陥落するだろう
その前に、強力な武器を作り、先制攻撃をかけ、力を見せつけなければならない
堀くん、君は我々に思いつかないアイデアを持っているんじゃないか?」
ナオヤはそんなアイデアを考えたくはなかったが、この場で言うのは危険だ
サトがすっと立ち上がった
「みんな、どういうつもりなの!?
お父様までが、村人たちに仕返ししようと考えているみたいじゃないですか!
私は村人として育ってきたんです
お陣屋衆が恨みをぶつけたら、村人はまたその恨みを抱いて何年も辛抱していつか爆発する」
マツがサトを制した
サトは会議室を出て、ナオヤも無意識に続いた
「ご支配様の軍隊が戻って来たぞぉ!」という絶叫が聞こえた
サト「私たちは捕らえられて処刑されるわ」
お陣屋衆は声と逆の方向にみな逃げた
ナオヤも、まだ足をひきずるコウジを支えて逃げた
そこに上下真っ黒な制服を着た軍隊が何百人とやってきた
ナオヤらはセンター内を迷い、塀を越えると、軍隊が銃を放ちお陣屋衆が倒れて消えてしまうのを見る
マツも倒れて、たちまち消失したのだ
草に伏せて軍隊の一隊が過ぎるのを見ていると、その最後尾には背広姿の男がいる
この世界に来るきっかけになった青年だ
「とりあえず、発電所まで行ってみないか?」
発電所には誰もいない 2人は月見峠に行ってみると、村人らが逃げて行くのが見えた
「こっち」とサトに呼ばれ、伊坂と再会できた
サト「みんな、ご支配様の力の及ばない遠くへ逃げているのよ
ご領内の外には、まだ未開拓の土地があるという話よ」
伊坂「当面は逃げるほかないだろうな だが支配組織は立ち去るだろう
その間に彼らが二度と来られないような措置をとって、ここを取り戻すんだ」
サト「お父様は、もうそんな夢を忘れなければならないわ!
村人のはたらきがあってこその陣屋衆でしょ?
そして陣屋衆の知識は、村人に役立ててこそ意味がある」
伊坂は今後はまったく分からないが、巻き込んだ2人のために待っていたという
「君たちが来た所からも軍隊が出たと噂がきたんだ 一緒に逃げてくれるかね?」
村人の流れに入り込んでも、誰も4人に構わなかった
そこに軍隊がきて、草に伏せるとサーチライトが光り、ナオヤの顔をとらえた
「たしかに君だ 立つんだ! ずいぶん捜したぞ 君たちが手違いで消されたら申し訳ないものな」
例の青年だった 「僕は、君たちを送り帰さねばならない」
伊坂「待ってくれ! 私の娘も連れて行ってくれないか?
私は処刑されても、娘は別だ 文明社会で一生を送らせてやりたいんだ」
青年:
定住担当員の中には、あんたのように地区の人間になりきろうとする者も多い
だが、あんたには元の世界はない ここで生きて死ぬ 子どももだ それが当然じゃないだろうか
それに、組織は、これ以上何もしないそうだ 組織はこの地区を捨てた
一度反乱に成功した地区は、その後の統治が難しいからな
軍隊が来たのは、組織が残した施設や武器が、ここの人々に悪用されかねないからだ
高水準の技術を、中途半端な知識の連中にいじられては、どんな大事故がおこるか分からない
サト「私たち・・この世界で、全力を尽くして生きていくわ そちらも頑張って・・・お元気でね!」
青年:
君たちがこの世界に来たのは偶然だった
あの時、私だけの質量で座標をセットしたが、君たちがいたため、こんなところへ転送されてしまった
私の体には次元間緊急通信の装置が埋め込まれている
紛れ込んだ人は元の世界に帰すのが組織のルールだ こういう事故は初めてじゃない
だが、君たちの記憶は消さねばならない 記憶消去を承諾しなければ、組織は送り帰すのを許さない
選択の余地はないと2人は承諾する
来た時と同様、転送装置に乗り、トンネルをくぐると最初の倉庫の中だった
青年:
君たちは向こうの世界で2晩を過ごした こちらも同様だ その間、行方不明になっていたことになる
さっきは他のメンバーの手前、記憶消去に承諾をもらったが
記憶消去は、他の記憶も消したり、思考力に影響を及ぼしたりもするから、そうしたくない
君たちがここを出たら24時間ほど口外しないと約束してくれるかね?
2人は約束し、青年は去った
2学期前の補習第1日目
コウジと会うのは10日ぶりだった
2日も家を空けて、足に怪我までしていたため、家族に問い詰められ、
2人とも事情を話したが、誰にも信じてもらえず、倉庫にも連れて行くと
妙なものは何もなかったため、どこかへ遊びに行ったのを口裏合わせて作り話をしていると解釈された
それに、高校受験を控えて、勉強にさしつかえると、それ以上は咎められなかった
コウジ:
あの青年は、たしかにこの日本にも支配組織がいて仕事をしていると言った
僕はなんだか妙な気がするんだ
ナオヤも同じだった
お互いに戦い、憎しみ合い、彼らは彼らなりに、自分の考え方を頼りに生きようとしていた
彼らにとっては、自分が正しいつもりだったのだ
人は置かれた立場や考え方が当然で正しいとするあまり、他人のそれが分からなくなるのかもしれない
そういえば、今の自分、高校受験のために懸命になっているのも当たり前だと信じている自分も
別の立場、次元の人間の目には、ひどく奇妙に映るかもしれないな
そんな思いを振り切って、授業に注意を戻した
【光瀬龍 解説内容抜粋メモ】
わが国で出版されている「ジュニアSF」には、大きく分けて3つの種類がある
「ジュニアSF」というジャンルは、一般的には、主人公が読者と同年齢で
ストーリーが理解できる範囲内で、あまり残酷なシーンは避けるよう配慮されている
だが、読者と同じ年齢でなければならないのかは難しい問題だ
最近は、学生が社会人向けの小説を抵抗もなく読んだり
逆に中学生向きの小説を大学生が熱心に読む場合もある
もともと小説は読みたいものを読めばいいわけで、「ジュニアSF」という言葉も意味がない
3つの種類とは
1.読者の生活に密着したムードを持つ ストーリーは現世界にとどまる
2.ジュニア向けのスペースオペラ
3.海外の「ジュニアSF」の翻訳
2.については、最近はテレビのアニメのノベライゼーションが積極的に読まれたりして
スペースオペラが厚い読者層をもっているため、「ジュニアSF」というとスペースオペラだと思う人も多い
3.については、SFの歴史の古いアメリカ、ヨーロッパには、優れたSFものがたくさんある
1.の種類は、O社やG社の学習雑誌がしばしば連載し、
作家もほぼ顔ぶれが決まっていて、手馴れた手法を発揮している
日常生活の描写や細かな心理描写も必要で、小説の完成度を要求され
SF好みの強くない読者にも満足してもらうため
難解な科学知識やSF用語の使用も制約されるので
このジャンルを手がける作家は比較的少ないようだ
眉村さんは1961年に登場して以来、一貫してSFを書き続けてきた
根底には厳しい文明批判がある
限られた体制の中で、いかに自分の良心に忠実に生きるか苦悩する人間を描き、
現代に生きるわれわれが疎かにしてしまっていることを正面からとらえ
復権させようとする強い意志がある
「ジュニア小説」は大人向けに比べて、簡単なものと考える作家、編集者がいて
実際、そういう作品さえ見かけるが、長く読み続けられるものは、
作者自身が完全燃焼していなければ生み出されないものだ
眉村さんは、俳人としても有名
SF作家にはスポーツの得意な人が多いが、眉村さんは柔道の有段者
眉村さんの最初の長編小説を刊行したのは昭和38年の『燃える傾斜』
これは実は私たちSF作家の中で、最初に単行本を出した作家だ