■『総合的な学習にやくだつ ここまできた!環境破壊1 環境ホルモン汚染』(ポプラ社)
奈須紀幸/監修
ここまできた!環境破壊2『ダイオキシンの恐怖』、『くらしにあふれる危険な電磁波』と同シリーズの1巻目。
【内容抜粋メモ】
************************************環境ホルモンとは
北海で約2万頭のゴマフアザラシが大量死した/クロスビル(くちばしが変形した)ミミヒメウ
●正式名は「内分泌かく乱化学物質」
外の環境から体内に入り、ほんもののホルモンのように作用する化学物質。
北ヨーロッパではオットセイの流産が増えたり、アメリカのフロリダ沿岸などでは、イルカやアザラシが大量に死んだ例もある。
ヒトがより便利な生活を求めて数多くの化学物質を作ったのが原因ではないかと言われる。
現在、約70種類の化学物質に「内分泌かく乱化学物質」の疑いがあるとされる。
大きく分けると、除草剤・殺虫剤などと、工業用の薬品がある。
70種のうち約2/3が農薬、その他、衣類の防虫剤、園芸用の殺虫剤などがある。
●入口は口と鼻
環境ホルモンを含むといわれる生活用品
環境ホルモンは、食事や呼吸から体内に入る。
海や川が汚染されると「食物連鎖」「生物濃縮」をへて蓄積されてゆく。
食器などに使われる「ポリカーボネート」というプラスチック、缶詰のコーティングに使われる「ビスフェノールA」、
ラップ類に使われる「アジピン酸」なども口に入る。
●異常は水中の動物からおこる
野生動物の中でも、まず、魚や貝などに現れる可能性が高い。水中では化学物質から逃げられないため。
オスが減り、メスが増えるという現象は環境ホルモンの大きな特徴のひとつ。
これらの異変は、先進国の沿岸域にある化学工業地帯の近くで起こっている。
千葉県の京葉工業地帯
●『沈黙の春』レイチェル・カーソン著
「化学物質」とは、おもに石油化学工業によって作られた生物に害をおよぼすものを指す。
最初に世界に訴えたのはアメリカの海洋生物学者レイチェル・カーソン著『沈黙の春』。
五大湖
●『奪われし未来』シーア・コルボーン著
イギリスのカワウソの激減、五大湖の1つオンタリオ湖のセグロカモメの異常を分析した結果、
DDTという農薬が影響していると気づいた。
カルフォルニア州のブドウ園でヘリコプターを使って農薬を散布するようす
************************************ホルモンのはたらき
●3つのはたらき
1.性を決めたり、男らしさ、女らしさを特徴づける。「ステロイドホルモン」
2.知能の発達、体温調節する。「甲状腺ホルモン」
3.成長をコントロールする。「ペプチドホルモン」
レセプターという受容体と結びつくことで命令を伝えることができる。
環境ホルモンはレセプターのカギ穴に合鍵をさしこみ、本物のホルモンのように思い込ませる。
ニセモノの司令官がおかしな命令を出すと、正しいホルモンバランスが崩れてしまう。
化学物質によっては、ほんのわずかな量でも作用することが分かった。
●生殖機能の異常
男性性器は「アンドロゲン」という男性ホルモンから作られる。
環境ホルモンにより、体は男なのに、脳は女性のまま発育したりする。
精子は「セルトリ細胞」により作られる。
環境ホルモンによりメス同士でつがいになるカモメ、精巣が異常に小さいコイなどメス化する現象が起きている。
甲状腺ホルモンが不足すると、記憶力が低下したり、成長が遅れる。
ホルモンのような内分泌系は、神経系や免疫系と密接に関係する。
環境ホルモンにより、まず内分泌系がかく乱され、結果、免疫力が弱まり、感染症につながる。
「アトピー性皮膚炎」「キレる」という行動にも関与が疑われている。
************************************環境ホルモンの歴史
ベトナム戦争で枯葉剤がまかれ、マングローブ林の40%が壊滅した
枯葉剤に含まれるダイオキシンに汚染され、水頭症にかかった女の子
環境ホルモンの研究が本格化したのは、1990年に入ってから。
●「雌雄同体」
オスとメスの生殖器を同時に持つ体。
イギリスのローチ(コイの一種)に見つかった。原因は、上流の羊毛洗浄工場から流れ込む業務用の合成洗剤。
油をおとすための界面活性剤が疑われた。
●アメリカのワニの卵の孵化率の低下
●フロリダピューマの減少
精子の減少、質の低下の原因は、エサとなるアライグマが汚染された魚を食べていたためだった。
その他、ヒトによる捕獲、交通事故、水銀汚染など。
●日本における公害の被害
「水俣病」新日本窒素肥料という会社が流した排水に水銀がまざっていた。
「イタイイタイ病」三井金属鉱業から流れたカドミウムが原因。
「カネミ油症事件」カネミ倉庫が製造した米ぬか油の中毒。
どんな化学物質が悪影響を与えるかは、生物に異変が起こるまで分からないことが多い。
PCB、DDT、ダイオキシンなどの有機塩素系化合物は使うほど環境に蓄積されてゆく。
DDT:
1938年、マラリアを媒介する蚊を撲滅するために大量に使われ「夢の農薬」と言われた。
発見したスイスのミューラーは1948年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
その後、ニワトリが卵を産めなくなったり、産んでも孵化しなくなった。
PCB(ポリ塩化ビフェニール):
1929年に登場し、工業で広く使われ「夢の化学物質」と呼ばれた。
ダイオキシン:
急性の毒性としてサリンの2倍、青酸カリの千倍〜1万倍とも言われる。
イワシ、アジ、サバの内臓や脂部分に蓄積する。
●イボニシのメスのオス化
トリブチルスズ、トリフェニルスズという「有機スズ化合物」が原因。
フジツボや海藻が船につかないようにする塗料に含まれている。
トリブチルスズは毒性が強い。
「インポセックス」
もともとメスだったものに、オスの生殖器があらわれる現象。
いったんあらわれると正常に戻らない。
●精子をつくらない多摩川のコイ
付近の下水処理場から出される排水には「ビスフェノールA」や「ノニルフェノール」などが含まれる。
有機スズ化合物は日本では使用禁止されているが、まだ禁止されていない国が多い。
日本は世界でも有数の海洋国であることから、有機スズ化合物の禁止条約をつくろうと呼びかけている。
************************************ヒトへの影響
成人男性の精子濃度が低くなっているようす
●「停留精巣」
精巣が陰嚢の中におりてこずに、お腹の中や股のつけねにとどまってしまうこと。
治療を受けないと、精子が減るばかりでなく、精巣がんになることもある。
その他、女性の「子宮内膜症」、新生男児の「尿道下裂」(尿のでる位置が正常より後方にある異常)が増えている。
●最初の犠牲は野生生物から
水俣湾では、背骨の曲がった魚が目立ちはじめ、その魚を食べた猫にも異常が出た。
「野生生物に起こる異常は、ヒトに起こる前触れである」と考える必要がある。
●これまでヒトが合成した化学物質は1700万種類
身近には約8万種類の化学物質があると推定される。
そのすべての環境ホルモンの毒性を調べるだけでも4年以上かかると思われる。
その調査のために多くのネズミを犠牲にするのは許されるべきではない。
素早く、費用のかからない判定方法「スクリーニング」が開発されはじめている。
OECD(経済協力開発機構)では、化学物質の悪影響を今後どう調べたらいいか試験法をつくっている。
環境ホルモンの疑いのある物質一覧
●予防の原則
ひとつひとつの化学物質を調べるほか、他の化学物質と混ざった場合、
どんな複合作用を起こすかなどの解明にはまだまだ時間がかかる。
「疑わしい物質」は使用しないようにする必要がある。
1997年「マイアミ宣言」(こどもの環境保健に関する宣言書)が採択された。
「ポリ塩化ビニール」製のおもちゃの使用を制限する。
予防対策
・プラスチック製容器を使わない。
・ポリ塩化ビニール製品は使わない。
・電子レンジにはラップではなく、耐熱ガラス、陶磁器の器を使う。
・農薬、添加物が使用されていない食品を選ぶ。
・防虫剤・合成洗剤を使わない。
・プラスチックは燃やさない。などなど
●国境のない環境ホルモン
北極にすむアザラシ、化学物質を使わないイヌイット族の体内にも高濃度の汚染物質が蓄積されている。
国際的な共同行動がとても大切になっている。
●日本の対策
環境庁が中心となり、1998年「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」を発表した。
67の物質の影響について初めて大規模な全国一斉調査が実施された。
しかし、「ポリ塩化ビニール」製のおもちゃの規制は何も行われていない。
●PRTR(観光汚染物質排出・移動登録)法の制定(1999年
【編集者メッセージメモ】
20世紀後半、人工化学物質の生産が桁外れに増えた。
健材、家具、パソコン、電気器具、衣類などにも使われて、大きな経済活動、雇用を支えている。
私たちは、化学物質を全面的に否定することはできない。
しかし、便利さに慣れすぎて、必要以上に便利さを求めた結果が環境汚染につながっている。
いま問われるのは、化学物質を安全に使う技術、社会のありかた。
・汚染食品を避けること。
・特定の食品を食べ過ぎないよう、バランスのとれた食事。
・化学物質の使いすぎをやめる。ムダに使われている化学物質が多い。
奈須紀幸/監修
ここまできた!環境破壊2『ダイオキシンの恐怖』、『くらしにあふれる危険な電磁波』と同シリーズの1巻目。
【内容抜粋メモ】
************************************環境ホルモンとは
北海で約2万頭のゴマフアザラシが大量死した/クロスビル(くちばしが変形した)ミミヒメウ
●正式名は「内分泌かく乱化学物質」
外の環境から体内に入り、ほんもののホルモンのように作用する化学物質。
北ヨーロッパではオットセイの流産が増えたり、アメリカのフロリダ沿岸などでは、イルカやアザラシが大量に死んだ例もある。
ヒトがより便利な生活を求めて数多くの化学物質を作ったのが原因ではないかと言われる。
現在、約70種類の化学物質に「内分泌かく乱化学物質」の疑いがあるとされる。
大きく分けると、除草剤・殺虫剤などと、工業用の薬品がある。
70種のうち約2/3が農薬、その他、衣類の防虫剤、園芸用の殺虫剤などがある。
●入口は口と鼻
環境ホルモンを含むといわれる生活用品
環境ホルモンは、食事や呼吸から体内に入る。
海や川が汚染されると「食物連鎖」「生物濃縮」をへて蓄積されてゆく。
食器などに使われる「ポリカーボネート」というプラスチック、缶詰のコーティングに使われる「ビスフェノールA」、
ラップ類に使われる「アジピン酸」なども口に入る。
●異常は水中の動物からおこる
野生動物の中でも、まず、魚や貝などに現れる可能性が高い。水中では化学物質から逃げられないため。
オスが減り、メスが増えるという現象は環境ホルモンの大きな特徴のひとつ。
これらの異変は、先進国の沿岸域にある化学工業地帯の近くで起こっている。
千葉県の京葉工業地帯
●『沈黙の春』レイチェル・カーソン著
「化学物質」とは、おもに石油化学工業によって作られた生物に害をおよぼすものを指す。
最初に世界に訴えたのはアメリカの海洋生物学者レイチェル・カーソン著『沈黙の春』。
五大湖
●『奪われし未来』シーア・コルボーン著
イギリスのカワウソの激減、五大湖の1つオンタリオ湖のセグロカモメの異常を分析した結果、
DDTという農薬が影響していると気づいた。
カルフォルニア州のブドウ園でヘリコプターを使って農薬を散布するようす
************************************ホルモンのはたらき
●3つのはたらき
1.性を決めたり、男らしさ、女らしさを特徴づける。「ステロイドホルモン」
2.知能の発達、体温調節する。「甲状腺ホルモン」
3.成長をコントロールする。「ペプチドホルモン」
レセプターという受容体と結びつくことで命令を伝えることができる。
環境ホルモンはレセプターのカギ穴に合鍵をさしこみ、本物のホルモンのように思い込ませる。
ニセモノの司令官がおかしな命令を出すと、正しいホルモンバランスが崩れてしまう。
化学物質によっては、ほんのわずかな量でも作用することが分かった。
●生殖機能の異常
男性性器は「アンドロゲン」という男性ホルモンから作られる。
環境ホルモンにより、体は男なのに、脳は女性のまま発育したりする。
精子は「セルトリ細胞」により作られる。
環境ホルモンによりメス同士でつがいになるカモメ、精巣が異常に小さいコイなどメス化する現象が起きている。
甲状腺ホルモンが不足すると、記憶力が低下したり、成長が遅れる。
ホルモンのような内分泌系は、神経系や免疫系と密接に関係する。
環境ホルモンにより、まず内分泌系がかく乱され、結果、免疫力が弱まり、感染症につながる。
「アトピー性皮膚炎」「キレる」という行動にも関与が疑われている。
************************************環境ホルモンの歴史
ベトナム戦争で枯葉剤がまかれ、マングローブ林の40%が壊滅した
枯葉剤に含まれるダイオキシンに汚染され、水頭症にかかった女の子
環境ホルモンの研究が本格化したのは、1990年に入ってから。
●「雌雄同体」
オスとメスの生殖器を同時に持つ体。
イギリスのローチ(コイの一種)に見つかった。原因は、上流の羊毛洗浄工場から流れ込む業務用の合成洗剤。
油をおとすための界面活性剤が疑われた。
●アメリカのワニの卵の孵化率の低下
●フロリダピューマの減少
精子の減少、質の低下の原因は、エサとなるアライグマが汚染された魚を食べていたためだった。
その他、ヒトによる捕獲、交通事故、水銀汚染など。
●日本における公害の被害
「水俣病」新日本窒素肥料という会社が流した排水に水銀がまざっていた。
「イタイイタイ病」三井金属鉱業から流れたカドミウムが原因。
「カネミ油症事件」カネミ倉庫が製造した米ぬか油の中毒。
どんな化学物質が悪影響を与えるかは、生物に異変が起こるまで分からないことが多い。
PCB、DDT、ダイオキシンなどの有機塩素系化合物は使うほど環境に蓄積されてゆく。
DDT:
1938年、マラリアを媒介する蚊を撲滅するために大量に使われ「夢の農薬」と言われた。
発見したスイスのミューラーは1948年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。
その後、ニワトリが卵を産めなくなったり、産んでも孵化しなくなった。
PCB(ポリ塩化ビフェニール):
1929年に登場し、工業で広く使われ「夢の化学物質」と呼ばれた。
ダイオキシン:
急性の毒性としてサリンの2倍、青酸カリの千倍〜1万倍とも言われる。
イワシ、アジ、サバの内臓や脂部分に蓄積する。
●イボニシのメスのオス化
トリブチルスズ、トリフェニルスズという「有機スズ化合物」が原因。
フジツボや海藻が船につかないようにする塗料に含まれている。
トリブチルスズは毒性が強い。
「インポセックス」
もともとメスだったものに、オスの生殖器があらわれる現象。
いったんあらわれると正常に戻らない。
●精子をつくらない多摩川のコイ
付近の下水処理場から出される排水には「ビスフェノールA」や「ノニルフェノール」などが含まれる。
有機スズ化合物は日本では使用禁止されているが、まだ禁止されていない国が多い。
日本は世界でも有数の海洋国であることから、有機スズ化合物の禁止条約をつくろうと呼びかけている。
************************************ヒトへの影響
成人男性の精子濃度が低くなっているようす
●「停留精巣」
精巣が陰嚢の中におりてこずに、お腹の中や股のつけねにとどまってしまうこと。
治療を受けないと、精子が減るばかりでなく、精巣がんになることもある。
その他、女性の「子宮内膜症」、新生男児の「尿道下裂」(尿のでる位置が正常より後方にある異常)が増えている。
●最初の犠牲は野生生物から
水俣湾では、背骨の曲がった魚が目立ちはじめ、その魚を食べた猫にも異常が出た。
「野生生物に起こる異常は、ヒトに起こる前触れである」と考える必要がある。
●これまでヒトが合成した化学物質は1700万種類
身近には約8万種類の化学物質があると推定される。
そのすべての環境ホルモンの毒性を調べるだけでも4年以上かかると思われる。
その調査のために多くのネズミを犠牲にするのは許されるべきではない。
素早く、費用のかからない判定方法「スクリーニング」が開発されはじめている。
OECD(経済協力開発機構)では、化学物質の悪影響を今後どう調べたらいいか試験法をつくっている。
環境ホルモンの疑いのある物質一覧
●予防の原則
ひとつひとつの化学物質を調べるほか、他の化学物質と混ざった場合、
どんな複合作用を起こすかなどの解明にはまだまだ時間がかかる。
「疑わしい物質」は使用しないようにする必要がある。
1997年「マイアミ宣言」(こどもの環境保健に関する宣言書)が採択された。
「ポリ塩化ビニール」製のおもちゃの使用を制限する。
予防対策
・プラスチック製容器を使わない。
・ポリ塩化ビニール製品は使わない。
・電子レンジにはラップではなく、耐熱ガラス、陶磁器の器を使う。
・農薬、添加物が使用されていない食品を選ぶ。
・防虫剤・合成洗剤を使わない。
・プラスチックは燃やさない。などなど
●国境のない環境ホルモン
北極にすむアザラシ、化学物質を使わないイヌイット族の体内にも高濃度の汚染物質が蓄積されている。
国際的な共同行動がとても大切になっている。
●日本の対策
環境庁が中心となり、1998年「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」を発表した。
67の物質の影響について初めて大規模な全国一斉調査が実施された。
しかし、「ポリ塩化ビニール」製のおもちゃの規制は何も行われていない。
●PRTR(観光汚染物質排出・移動登録)法の制定(1999年
【編集者メッセージメモ】
20世紀後半、人工化学物質の生産が桁外れに増えた。
健材、家具、パソコン、電気器具、衣類などにも使われて、大きな経済活動、雇用を支えている。
私たちは、化学物質を全面的に否定することはできない。
しかし、便利さに慣れすぎて、必要以上に便利さを求めた結果が環境汚染につながっている。
いま問われるのは、化学物質を安全に使う技術、社会のありかた。
・汚染食品を避けること。
・特定の食品を食べ過ぎないよう、バランスのとれた食事。
・化学物質の使いすぎをやめる。ムダに使われている化学物質が多い。