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『重力地獄』 眉村卓/著(角川文庫)

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■『重力地獄』 眉村卓/著(角川文庫)
眉村卓/著 カバー/木村光佑(昭和53年初版)

「作家別」カテゴリーに追加しました。

[カバー裏のあらすじ]
それは予想もできなかった衝撃であった。
宇宙船ポイントゲッターはすさまじい引力の津波に巻き込まれ、嵐の中の木の葉のように宇宙空間を押し流されていった。
ようやく緊急着陸したのは、強力な重力をもち、貧相な植物の群生する奇怪な惑星だった。
そしてその茂みの中に、卵型の胴体にめり込んだような首を持つ四足動物を見かけた時、乗組員は新発見に驚喜した。
が、その時の彼らには、自分たちを待ち受ける恐るべき運命を知ることはできなかった・・・。
戦慄と興奮を呼ぶ、眉村卓の<宇宙もの><異種生命もの>SF11篇を収める秀作集。


これまでの宇宙ものは、人間が他の時空間や星に行く話だったけれども、
本書には、宇宙人から見た人間がおかしな生命体に見える話が多くて新鮮だった


▼あらすじ(ネタバレ注意

級アイデアマン
アイデアマンの登用試験に合格し、教育を受けて、極東に配属されて3ヶ月
気づいたら水星第四基地にいた

アイデアマンとは、自分のアイデアを提供するだけで高い報酬を得られるが
恐るべき制約を受けていることは知られていない
イデこそ本当のアイデアマンで、我々サグを統率している
サワイアキラはサグCで、もうやり直しはきかないのだ

辺地に派遣される人々は協調性が高く、アイデアマンを初めて迎えたスタッフはみな屈託なく接してくれた
定例報告が済むと、ミタムラ・イデに呼び出され「アイデアマンは、常に現状の習慣化を警戒すべし」と小言を言われた
行住坐臥(日常の立ち居振る舞いのこと)、仕事を作り、休むことは例外が原則なのだ

「仕事をするんだ、仕事を」

基地で働いているのはアンドロイドではなく、旧式のロボットでゾッとした
ロボット法と関係ないロボットは殺人も可能なのだ

外は350度を超える世界
クスダ博士はロボットが一体足りないことに気づく
辺境用の作業ロボットは、作業ができなくなれば致命的障害が起きるようにできている
クスダ博士「いよいよあなたに助けてもらわなくちゃなりませんね」

ロボットが反乱を起こし、活動を止めてしまった
博士とアキラは、昔、地球から打ち出されたロケットに向かった
アキラ「ロボットは逃げたんじゃなく、何か敵ができて捕らわれたんだと思う」

そこに奇妙な物体が現れた 羽根をひろげたぞうり虫のようだ
アキラ「水星から生まれた生物だ」

基地に帰り、耐熱車を調べると生物が射った液体があたり、鉛の塊がついている
彼らはロボットを見本として捕え、分析したが、作業から離されたロボットは支障を起こして止まる
その繰りかえしで他のロボット回路も歪んだ
彼らは低温地域には来られないと推測した

ミタムラからお褒めの言葉を期待したが、「なぜ強力な手を打たないんだ」と激怒された
ミタムラがアンドロイドを送り込んできて、アキラはぎょっとした

アキラ「アンドロイドは多目的に作られているため、異種の生命体に遭遇したら、目的を放棄する傾向があります」
司令官「きみのアイデアマンとしての特権は、一時的に停止されている」

アキラは地球送還となった
宇宙空港の大テレビで、アンドロイドがロボット群を倒してゆく光景を中継していた
この壮観な見世物を、どこかの大企業が買い、全太陽系ネットで流したのだ

「ヴァルカン人に対するアンドロイドの攻撃は失敗し、多数が捕虜となりました」

非常事態緊急対策会議にアキラも呼び出された
僕は空港のヘリカーへ走り出していた
これから水星に行くよう申請するのだ

変質を遂げてまで作業を続けようとするあの作業ロボット
ぶきっちょで頑固な姿に自分が似ていることに初めて気づいたからだった



悪夢と移民
最近、ヤスモトはずっと同じ悪夢を見る
サソリが飛び掛ってくるが、そばには何の道具もない
おまけに下着のままで、刺されればそれまでで悲鳴をあげて目を覚ます
道具がなければ、僕たちはそんなに無力なのだろうか?

宇宙船の第8ブロックの当直室に入るとクラタがいる
「また移民の連中が騒いでるんだよ」

ブロック内の巡視を嫌がるクラタのかわりに行くことにした
小さな居室群の1つには、移民たちが家族単位で入っていて、新地に着くまで過ごしている

彼らの生活にまるで規範がないことにうんざりする
お喋りしたり、ゲームをしたり、中にはまったく何もしていない奴もいるのだ
彼らの面倒をみて、統制する仕事だが、僕は軽蔑の目で見た
要するに彼らは、わがままな落伍者なのだ

今は人口が増大し、次々と新惑星に移民を運び、植民の基礎技術を教えて帰る
この一員になる資格を得るために、僕はどれほど苦労したことだろう

地球資源が減少しつづけ、生活レベルを下げないようにしているのはそういう専門家なのだ
専門家は彼らを支配し、君臨していいはずなのだ

移民のひとり、シズエは、何年間か専門家のコースを経験したことがあるため、いくらか会話が通じる
「あと10日の辛抱よ この船に乗って180日以上たった いい加減待ちくたびれたわ
 原住民がいるんですってね」

「原住民というべきか ウサギに似ていて、調査団にかなり強い敵意を示したが、すぐに制圧できるだろう」

シズエが絵を描いていると聞いて
「あの塗料をつけた道具でものの形を描くというあれか? 写真があるのに、ムダだと思うがね」

シズエに悪夢の話をすると
「心が訴えているのね 潜在的な恐れが口を開いているんだわ」

僕には理解不能で、意味があるとも思えなかった

船は新惑星につき、専門家は30日間とどまり、移民に知識を教え、あとは自由にさせる
ロボットによる建設が始まり、金属製の巨大ドームが何十と並んだ

2週間後、初めて船を出て周囲を見渡すと、まったく想像もしないものだった
カプセルシュートなどのパイプが空間を走る地球を見慣れた目には恐ろしく映った
樹が密集した森なのだ これが“自然”というものなのか?
しかし、ここは征服すべき世界だ

副長「移民は、我々の理念を無視し、彼らのやり方があると言って従わないんだ これはよくあることだが」

その時、副長の腕に矢が刺さった 身長1mもあるウサギが現れた

ヤスモト「原住民など皆殺しにしてしまえばいいんだ!」

副長「移民の権限を忘れたか? どうせ毒もない 我々の医学ではすぐに治る
   それより、君たちには移民たちの実態を調べてほしい なぜ我々の指示通りにしないのか」

ドームに行くと、中はからだった 移民たちは森に木を組み上げて小屋を作っている
シズエに自堕落で野蛮だと言うと

「私たちは、ここに自分たちのための豊かな文明を生み出すつもりよ
 あなたがたの豊かさとは何? どの世界にも既成の考え方を押し通しているだけでしょ?
 そのレーザーガンがなければ、どうしようもないんじゃない?
 あなたの夢のように、ハダカでは何もできないのよ
 私たちが始めようとしているのは、ハダカこそ一番強い世界なのよ
 絵画も詩も演劇もないあなたがたに分かりはしないわ」

シズエが口笛で妙なメロディを奏でると、あのウサギに似た原住民が現れ、おとなしくなった
「分かった? 結局、通じ合わないのね」

帰途の船内で討議したが、理解を絶した 要するに白痴なのだ
そして僕は、帰途も悪夢を見続けた



正接曲線
コバ「地球を出る時は、いちばん幸福な調査船などと言われたのに」

クリフが調査指示書を見ると、どう見てもそのまま植民地になる条件だ
第一次探査隊は10年前ここに着陸し、10時間過ごした

スクリーンに映る原住民のポグ人を見て隊員たちは立ちすくんだ
「防護服着用意! 言語分析装置作動!」

クリフ「我々は征服しに来たのではない 調査して、故郷に帰るだけだ」

ポグ人「ジユウニ シラベロ シカシ キミタチノウチ ヒトリヲ
    ワレワレノ スマイニ ツレテユク ドウグヤブキヲ シリタイ」

クリフは、環境生物学者のコバに一緒に暮らすよう言い渡した

しばらくして、隊員からポグ人がもう地球語を喋っていると報告を受けた
なにか教えると覚えるのがとても早いという
「心配なのはコバのことです あんまり熱心に教えすぎているんじゃないかと・・・」

コバから2、3日連絡が来ていない 熱心に武器を教えていたらとギクリとした
細分化された専門作業、ぎっしりと詰め込まれたスケジュールの罪だ
私たちはポグ人がどう暮らしているかも知らなかった

森の奥に進むと、大規模な構造の建物の廃墟がある
夜の闇に銑鉄を生産する高炉を発見した まさか!
コバ「ポグたちは実に物覚えが良い あの高炉は、たった1週間で完成させたんですよ」

ポグ星は、未開の土地と思っていたが、我々の手にもおえない高度の合金も発見された
ポグ人は、1人に教えたことが、種族全部の体験になるという

「彼らは一人ひとりが全部で、全部が個人でもあるんです」

「我々の駐在期間は1年だ 1年もあれば、奴らは我々を追い越してしまう
 逃げるんだ ここにいては、我々は動物園に入れられてしまう」

その数日後、彼らは爆薬を使っていた コバは拘禁状態にされた
やがて近代的なビルが建ち、そしてついに原爆をつくり始めた

惑星ポグを離れた船内で、クリフになにか考えがまとまろうとしていた
少し離れた場所からスクリーンに映る様子を見ていると
いたる所で爆発が起こり、噴き出したガスで、すべてのポグ人は眠り込んだ

「おそらく、彼らはこのまま長く眠りつづけるだろう
 このガスは、彼らのすべての記憶を失わせる作用をもっているのだろう
 このまま放っておけば、必ず全宇宙を征服してしまう
 誰かが、それを知っていて、制御できなくなる前にガスを大気中にぶちこみ
 再び、長い進歩のコースをスタートから始めさせようとしたのだろう

 つまり、彼らはあたかも正接曲線と同じだ 無限大に達する寸前にやりなおさねばならない」

コバ「我々も、いつ、そうされるか分からないぜ」



使節
10日間の任務を終え、船内に戻り、彼らから託された惑星間友好の金属製の箱を見て

乗員「シーク人のように礼儀正しい種族は見たことがない そのくせ我々よりずっと進んだ文明を持っているんだ」

ジョー「彼らの身体に挿入された板状物質は何だ?」
キタ「あれこそ、科学の勝利さ 彼らは胞子として過ごし、急速に成長するが
   その時、知識などを板に入れて挿入する」

船長「“使節”なる箱につめられた胞子にも挿入されているんだな」

5日目、箱が自動的に開いて、中には塊状の物質がいっぱいあった
塊は少しずつ大きくなり、体長1mくらいの怪物になった

使節「ミズヲタクサンノミタイ デナイト キミタチノカラダノスイブンヲ トルゾ
   コレカラハ ワタクシガ メイレイスル」

あと1時間ほどで太陽系に着く
ほとんどの乗員が気力だけで立っている状態だった

使節
「サンソチュウドクニナリソウダ キミタチハサンソヲスッテ タンサンガスヲダスノダロウ
 ウンドウシロ ソシタラミズヲワケテヤル タベモノモ ヤル」

全員が歯を食いしばって踊りはじめ、シーク人の許可を得て、散乱した食べ物と水にとびついた

宇宙空港ホテルに入った乗員は
「今までで最悪の航行だろうな 船長は宇宙省の連中とあのシーク人を連れて行ったんだろう」

船長
「宇宙省の専門家の話では、きわめて温順で、知性の高い生命体だそうだよ
 船内は無重力状態だろう? 地球では日照時間、引力の条件は、我々より厳しいと考えられないか?
 宇宙省の連中は何と言ったと思う? 彼は寝ぼけていたというんだ」



重力地獄
かつてない大規模なファイ波により、船はとんでもない惑星につかまった
文明形態学者のタムラは、船長・技術ロボットのエストカにわめいた
環境生物学者のレイクマンも気づくと、見慣れない植物がスクリーンに映し出されている

エストカ
「ファイ波は、万有引力とは別の重力です 今回のは規模が大き過ぎた
 ひとまず着陸し、駆動期間の修理が先だと判断しました」

茂みから変な動物が現れた 卵形の胴体の四足動物だ
全部で10匹ほど、船の近くまで来て、胴体にめりこんだ首を振っている

レイクマン
「これは10年前の植民用惑星探索隊によって報告された星だ
 彼らは不測の事故に遭い、消息を絶っている
 3.5Gの大重力で暮らす生物はまだ発見されていない
 オレたちは驚くべき発見をした 早速調べないと」

エストカは機関監視質にいて、仕事の手を休めなかった
外部に動き回る小さな半思考型機器は、エストカの手足だ
それが脱落したり、衝突し合って壊れたりするのが見えた

エストカ
「私はこの作業を済ませなければという衝動と、それを抑止する欲求も感じています」
タムラは気になったが、レイクマンは「自分で始末ぐらいできるさ」と片付けた

レイクマンは卵型生物たちからモールス信号を受け取った
「ワレワレハニンゲンダ・・・」

タムラ「奴らは模倣性の強い生物なのさ 探索隊の真似をしてるんだ」

船内のGが変動している
技術ロボットが壊れたとどうしても信じられなかった
船長、技師、サービスボーイの技術ロボットがあるからこそ
宇宙船などろくに知らない専門家を安全に運ぶことができるのだ

エストカ
「私は機械として最高の存在です ちょうどあなたがたが有機的生命体の頂点に位置するように
 あなたがたは生命の尊厳を信じているように、私は私より低級な無機生命を殺しつづけることはできない」

Gの振幅はますます大きくなり、身体が変調をきたしてきた
不意に揺れが止まり、誰かがエアロックを開いて外気を入れたことが分かった

エストカ
「私はついに自分との闘いに打ち勝ち、正しい結論に達しました
 今後、人間のための奴隷労働を拒否します
 あなたがたを死なせるのは気の毒なので、船室にいることを許し、水槽も建設してあげます」

「それじゃ、オレたちはまともに3.5Gを受けることになるじゃないか」

エストカ
「私の計算では修理に5、6年かかるはずでした
 本船にはそれだけの食料は積んでいません
 いくら手を尽くしても助からないことははじめから分かっていたのです」

タムラはハッとした 卵の化け物 3.5Gでも生きているあの生物
夜が明けて、スクリーンを見ると、一夜で建物が並んでいた
そこには地球語が書かれていた

「われわれは地球人だ 人間のなれのはてだ
 ここに到着して、適合した身体にかわりだしたのだ
 出てきたまえ 苦しいのははじめの1年ぐらいだけだ」

タムラ「僕は行くぞ」
レイクマン「オレだって行くとも」



エピソード
宇宙船が着陸したところは見渡すかぎり草原だった
「基地を作る必要があるだろうか」

母船のそばには、もう仮屋が築かれた
どこからか、かすかに焦りのような感情が流れ込んできた それに憎しみ、嫉妬・・・
(われわれと違う思考に影響されているらしい)

外に雨が降り、故郷に似ていると思った
この星の自転周期は24時間で、彼らの故郷よりはずっと短い

サーファがいないのに気づき、普段は心理交信している彼らだが
激しく渦巻く憎悪、狂気の思念に影響されまいと心を閉ざして、声を出して喋った

武器を持ち、一列に仮屋を出たが、みな頭を抱えて痛みに耐えている
不意にナーパーは「みんな未知思念に抵抗するな」と叫んだ
すると、痛みは消えた

この導きが何かは知らないが、我々を呼びたがっている 乱立する塔状石の中を進み
構築物の玄関らしい所にサーファが転がっていた

(ここの生命体はもう滅んでだいぶになるようだ
 ここにあるのは、彼らの思念を記録し、再現させる装置ではないかと思う
 論理的なものはまったくなく、あるのはただ感情ばかり それも焦り、恨み、呪いに近い)

(テレパシー社会が統制と結びつくと、こうした装置になる
 つまり、あの石塔は、その伝達網だったのだ)

(自分の死んだ所に、誰もかも連れ込みたかったんだな いつか我々も・・・)

「破壊しよう 我々が帰るために あるいは、ここの生命体は、無意識にそれを望んでいたかもしれない」

だしぬけに、かれがハッキリとそれを望んでいる思考を捉えた

振り向くと、建物が崩壊するのが見えた
長い開発のために、地殻熱を利用していたバランスが崩れ、噴火が起こった

船内に戻り、長い間、その星に触れる者はなかった
たぶん、それほど咎めを受けることはないだろう
たかが辺境の惑星ひとつの調査が不十分なだけでは
どうせ生命体の住む星は無限にあるのだ



わがパキーネ
“人間は、自分に似たものにのみ、恐怖を感じる”

パキーネはユーカロ族の高等生命体に属する
風船以上に肥え、蒼白い肌、巨きな眼を持つ 平均寿命は40年と短い
他の種族より冷遇されている理由はそれに尽きるのではないか
一層耐え難いのは、彼らが人間に冷遇されていることに何の不満も抱いていないことだった

パキーネはユーカロからの留学生の1人で、これから6ヶ月間、いっしょに住まねばならない
住居を提供すれば、外務省から相当な手当がもらえる
私の生活がもう少し楽ならけして預からなかっただろう

私は彼女を痩せさせようともくろみ、強烈な作用を持つ体重コントロール食品を食べ物に混入した
2ヵ月後、パキーネは痩せ、今や私は彼女の中に美しさを見つけることができる

4ヵ月後 完璧だ パキーネこそ、世界最高の美人だ
私は彼女に愛情を感じているのではないかと思う
恋とはすべてを与えることだ 私はパキーネにすべてを与えたい
私たちの間には、ただ精神の結合があるだけなのだ

あと1時間で迎えのクルマがくる
今や猛然と孤独感が湧き上がった

「記念に立体写真を撮ろう」

人の心は、いつまでも同じ感情を保持できない
いつか悲哀が感傷に変わり、思い出となり果てるのを感じた

ある日、街でユーカロ族のたるみきった豚のような姿を見て、私は嘔吐を感じた
家に戻り、この数ヶ月間、見ることすら惜しんでいた写真を見た

私は吐いた 何度も身体を折り曲げて吐いた
立体写真に映っているのは、記憶のパキーネではなかった
張り裂けるほど太り、青白い、ぬらっとした化け物だった
私は騙されていたのだ 幻影を作り上げ、美女だと思いこんでいた

ユーカロ族は、長時間接触する相手に対して、好意を持たせる力を持っているのだ
コントロール食品を止めて、もとに戻りつつある時も
私は、自分の審美眼が彼らの見方と同じであるために気づかなかったのだ

私は、本当らしく見えるものより、自分の信じるままに行動しようと決心した
ポストに何か落とされた 留学生試験の通知だ
ユーカロ留学試験は割合に楽なのだ



フニフマム
フニフマムは、感覚部を過去へとすべらせていった
またプルテラとキャキョ2種族の華々しい決戦を眺めるためだ

先に何が起きるかは分かっている
プルテラ族が全面的な勝利をおさめるが、別の一隊が到着し、
争いの末、強力な爆弾で両方とも死に絶える

2000年間にわたるいろんな時点を、彼はすべて知っているわけではない
彼の身体は、あちこちの時点で同族と空間的に接触し、核を交換すると
そこから分岐した別の時間の中へ、彼の後継者が伸びていく

ハニコミナは、中でもいちばん過去の時点で接触していたが、しばしば核の交換をする
彼は感覚部をぎりぎりの過去まで走らせ、狼狽した 接触がなくなっている

ハニコミナは彼よりも若く、まだ500年ほどの身体しか持っていない
いつかこうなる時があることを予期していたが空しさが吹き込んだ

彼はまだ成長を続けているのか、消滅に向かおうとしているのか
感覚部をためらいがちに未来へと走らせると、予想よりも道は続いている

そこに小型の宇宙船を見つけた ひどく傷んでいる
2つの生物が現れた 初めて見る形だ
円柱から、上部と下部にも一対の太い触手が伸びていて、
上部のは加工に、下部は移動用に使われるらしかった
(宇宙服を着たヒトだねw

フニフマムは彼らのテレパシーを捕捉した

(もうダメ 助からないわ 船は穴だらけだし、残された酸素は
 この宇宙服のボンベにあるだけ あと30分ともたないわ
 脱走兵に対する宇宙軍のゾッとするような刑で死ぬなら、このまま窒息するほうがマシよ!)

そこに宇宙軍の追跡隊がきた

(非常離脱用のタイムマシンを使うんだ)

(そうね! ひょっとしたらここに植物が生まれ、大気に酸素が含まれる可能性があるわ)

(死ぬのも生きるのも・・・2人いっしょだよ)
(このタイムマシンの動力がつづく限りの未来へ!)

フニフマムは、明らかに少し感動していた
今まで想像したこともない生物の結びつきを目的したためのものか

あの生物がどうなったか知りたくて、感覚部を共有させたが、そこまでだった
その存在は、たしかにまだ先へ続いているのだが、彼の感覚部はそれ以上進めない 先端部に達したのだ

自分がもっと成長すれば、この先を見届けることができる
あの行く末がどうなるか知るまでは成長しつづけねばならない
気長に待てばいいのだ それから眠った

(なぜだか、これを読んで泣けた
 フニフマムは意識だけを自由に飛ばして、映画を観るように過去を鑑賞していたのが
 彼にも肉体の期限はあるようで、親しい者との接点を見失ったところで、未来に飛び
 ヒトのカップルに出会い、2人の行く末が知りたいと思う こんなアイデアを他に誰が思いつくだろう?



時間と泥
高い知能のカポンガ文明は崩壊した
少し前に来た異形生命が知らずにバラまいた病菌が原因だった

カポンガの身体は、思考部位、自律部位、本能部位に分かれるが
思考部位とほかをつなぐ神経束孔に病菌がとりつき、意識と行動が分離してしまった

身体は泥の中の微生物を食べている
自殺することさえ出来ないのだ

そこに宇宙船が来た もっとよく見たかったが、身体は勝手に逃げ出していた
目が覚めると、未開拓地に宇宙船があり、密集した仲間が廃液を漁っている

宇宙船の乗組員の心に訴えたが、この生物には交意能力がない なんということだ

「原住民だな タコそっくりだ」
「我々の汚物やゴミを溶かして食べている 眼ひとつと、赤い布きれ なんと気味の悪い」

彼らはそれぞれ別の名で呼び合っていることにショックを受けた
カポンガは、種族全体でカポンガなのだ
彼らに憐れみさえ感じた 宇宙旅行を行いながら、本当の通信手段を持たない

かつて厳重に仕切られた猟区では乱獲が始まった
あの頃は、本能をいかに捨てるかが最高の命題だったのに

過去の栄光などは、結局、錯覚だったのではなかろうか
カポンガ文明の急速な没落を見て、あらゆる文化は何の役にもたたなかった

人間たちはカポンガにヘルメットをかぶせて操縦していた
彼は心を閉じた 目が覚めてもけして眼を開くまいと誓った

しかし、長い迷いの末、眼を開くと、自分もヘルメットをかぶっていた
激しい何かが飛び込んできて、忍耐も不可能だった
水盤にはカポンガが一人ずつ入れられている

「妙だな やはりこいつらの思考と行為は別らしいよ」
「とにかくこの神経をつないでみよう」
「面白い ちょっとした手術になるぞ」

彼は、再びわがものとなった肌を感じた
人間たちの心の中に恐怖心と、好奇心を読み取った

再び、撹乱に耐えかねて、容器を破壊してしまった
武器を持っていた人間は、顔に吸着した彼を引き剥がそうとして、
やがて頭部を侵食されて倒れた(『エイリアン』!
カポンガの攻撃本能が生の形で露出され、彼らの身体は濃密なたんぱく質の塊を求めていたのだ

まず、人間をカポンガ世界から追放すること
戦闘用の発射装置のボタンを押してみた 激しい震動が起きた
スクリーンを見ると、他の宇宙船は逃げていった

彼はカポンガ復興のため、仲間に手術をしてやらねばならない
しかし、カポンガ社会が完成したら、あんな野蛮な行為をしたカポンガは
抹殺されるのではという恐怖が意識下にあった

手術は終わった
突然、彼の心は爆発した それは歓喜だった

仲間もまた、彼と同じように暗黒の中で自己の意識を追求していた
過去を再現させず、自分たちの存在意識を残した世界を作りたいと思っている

彼は仲間の心に囁きかけた 「はじめよう」



養成所教官
四百数十あまりの種族をまとめる連邦職員養成所の一員は不死の寿命をもらっている

連邦職員のジェクミンドロが発言した

「自分たちが教えた教官たちが、なぜいつまでたっても中枢部に配属されないのか
 我々のほとんど収奪としか言いようのない生活形態がすべての原因だ
 贅沢な環境を前提とする生命体が、資源の相互活用を重要視する銀河連邦内で嫌われないはずがない」

ジェクミンドロの修習生は、何百体ものロボットを使って、小型の開拓基地を造る作業に没頭していた

今期入った修習生の記録を見ると、とんでもない遠隔星域にあるテラと呼ばれる第三惑星の
やっと20ほどの植民星をもつ三流種族だ
炭素・酸素系生命体で、テレパシーが欠けていることは致命的な欠陥だ

会ってみると、言われて気づいたが、自分に酷似していた
「君にテレパシーがないのは残念だ こちらとしても、君の知らないうちに心理を読むのは
 僕のモラルにとって耐え難い盗みにあたるからね」

テラに催眠装置のついた心理探査ベッドに寝てもらい、
連邦職員になるためにもっとも重要な、自己の種族への忠誠心がないかどうかを調べると
憎悪と復讐に沸き返る地獄の様相に声をたてそうになった

彼の心象風景には、彼の住む植民地を常に監視する宇宙船がある
物心がつかないうちに全身を粉にして働いても
武力をもつ宇宙船に絶えず収奪されていく 恐るべき圧制と恐怖の世界

テラは平等に虐げられていた
銀河連邦の寛容だが老獪な干渉を受けながら支配されていて、本質的にかわりない

(充分だ・・・充分すぎる
 この男なら、下級職員しか生み出せなかった教育屋の自分のもとでも
 連邦の中枢部に食い込めるのではないか?)

ジェクミンドロは、スケジュールに従い、十数名の修習生を仕込んだ
あらゆる機械類の扱い方から、各種族の弱点などに至るまで

テラはまっすぐ教官に向かって言った
「我々、炭素・酸素系生命体は、銀河連邦成立の時は完全に疎外されていた それゆえの今の冷遇でしょう?
 だが、いずれは我々も珪素生物などの主流派並みにもっと惑星を与えてもらえるよう頑張らなければ」

この鈍感さは致命的だ
自分でも教え屋的な安全すぎる考え方を承知していたが、
それでエキスパートとしての評価を得たのだ テラへの希望は日ごとに薄れていった

すべてのスケジュールを終え、お別れパーティ後は、
修習生を連邦本部に送って査定を受け、配属先を知らせてもらう

アルカロイド飲料などを飲んで、あたりは次第に乱痴気騒ぎとなった
連邦戦士になった昔の教え子から声をかけられた

「今は一兵卒ですが ここしばらくは、ちゃんと戦争が始まって、手当はいいです ちゃちな戦争ですがね
 テラとかいったけ お粗末な体制を連邦に修正されて、植民星のいくつかを割譲しろという
 当然の勧告を拒否したんです へ、へ!

テラは黙っていたが、徐々にその面上に薄笑いが浮かんだ

就寝まぢかな時刻にジェクミンドロは修習生を集めたが、テラだけいない
部屋にはメモが残されていた

「馬鹿馬鹿しさはよく判っています でも、僕は結局、加害者になれなかったんです」

宇宙船のひとつが浮かび上がり去って行った

彼はテレパシーを持たなかったからこそ、仲間を捨て去れなかったのだ
相手の本心が分からない制限のもとでは、形態の同じ連中と、違う連中のどちらを選ぶかの
結論は最初から出ていたのではないか?

ジェクミンドロ自身の種族が、銀河連邦の巧妙な挑発にのって
絶望的な反抗を試み、滅亡した時のことがよみがえってきた
ジェクミンドロだけがひとり生き残ったのだ

あれからずっと連邦職員はそうでなければならぬと、自分を納得させていた
連邦職員・・・養成所教官・・・エキスパート 帰ってこない同胞たち

「任官を目前にして 馬鹿者! 死ぬまで戦うんだぞ!」



かれらと私
ここは時間も距離もないようだった
エア・カーに乗ったゴブトンに声をかけると、また白昼夢にふけっている
年季奉公で地球軍団の一員になった人間にとって、過去など雪の結晶のようだ

森から急に鹿が出てきた
将校「追え! 撃つんんだ ミタ、ゴブトン 駐屯地まで運ぶんだ」

ミタ「・・・あり得ないことだ」
ゴブトン「なぜ考える? 狂うために考えるのか?」

彼の言う通り、あるがまま受け入れるべきかもしれない

数時間前、私は減感剤を腕にセットして、歪んだ空間の最短距離を突破する
「オーバードライヴ」の軍事実験に参加していた 一挙に50光年ほど駆け抜けようというのだ

「オーバードライヴの間、我々はどこにいるのか」と技術将校に訊ねると
「亜空間としか言いようがない」と言われた

なぜそんな真似までして宇宙を飛び回るのか
人類の絶対優位を確保するためだ
今のところ、人類に匹敵する力をもつ高等生命は発見されていない

出発後すぐ床は激しく上下し、艦内重力はゼロになった
全航行装置をフルに駆動させても、船体は地表に軟着した
濃い霧の湿地に、何十という艦隊が到着していた

エア・カーが艦隊に着くと、肉色をした円盤が動いている
将校「ここの生物だな」

駐屯地には、艦隊にいるはずのない女性がたくさんいて、軍団員は飲み食いし、乱痴気騒ぎしている

「艦隊は解散しました 全員、自由です さっき、艦隊司令がそう言い渡したんですよ」

ゴブトンはまだ白昼夢を見ている 思考停止の状況が彼自身を守っているのはたしかだ
筋道を通して説明をつけようとするから、気が狂うのだ 考えちゃいけない

エア・ロックを開くと艦長がいたが、片手で女を抱き寄せ、アルカロイド飲料のグラスをかかげている
「うるさいことはやめて、みんなで楽しくやろう」

「何をしてるか! そいつは何だ!」 もう一人の艦長が現れた

「全員、目を覚ませ 我々の前にいるのは、人間そっくりに変身した敵なのだ!」

通り過ぎたエア・カーには3人目の艦長が乗っている
1人目の艦長は黒焦げにされ、2人目の艦長は落下して地面に叩きつけられた

林の間から銀色に光る機械の大群が殺到してきた
私、ゴブトン、将校のほか大勢がエア・カーに乗り込んで飛んだ
下は湿地ではなく砂地だ 太陽のない砂漠がどこまでもどこまでも続いている

気づくと寝ていた ゴブトンは
「燃料がなくなって、みんな先にある都市へ行ったのさ さあ、出かけようじゃないか」

長いこと森を歩いていると、クルマらしきものが迫ってきて急停止した
「乗らないかね、あなたたち」

安堵したが、機械類の横には、巨大なもやしに手足をつけたような生物が何匹もいて
きいきい言うと、部屋にある自動言語変換機が翻訳した

「あなたたちは新顔だね 体つきからするとオリジナルのようだが、そうなんだろうね?
 オーバードライヴを小刻みにやらずに、一気に長距離を飛びぬけようっとしたんだろ?
 エネルギーが足りずに、亜空間に入り、出られなくなったんだよ
 ここはまるで性質が違う 科学的方法そのものが成立しないのかもしれない

 あなたたちは、極めて若い種族だ あなたたちの単位で10万年は若い
 ここでは、時間は恐ろしくゆっくり過ぎている
 我々の種族は、もうとうに滅亡しているそうだよ
 ここには銀河系諸生物の種族はみんないる」

「我々を襲ったのは、お前たちだったのか!」

「それはあなたたちが生み出したのだ この空間では意識ある生物は次々と何かを生み出す
 生み出された生物も、また何かを作り出す だからオリジナルかと訊ねたのだ
 ここではすべてを信じながら、すべてを信じられないということになるんだ
 厄介なのは、そうした者も、都市へ来たがる・・・それが生物の宿命なのかもしれないな」

都市には、およそ得体の知れない妙な生物が大勢行き来している
そこに、地球にある街角があった ゴブトンだなと直感した
「行こうか」

1軒のレストランに向かいながら考えた
ゴブトンと将校は果して本物だろうか どこかで私自身が生み出したのでは そして・・・あるいは私自身も・・・
それ以上は考えられなかった

映画『惑星ソラリス』を思い出す ある意味、天国かも
 何にも縛られず、自分の想像したものが現実化するなら



【柴野拓美解説 内容抜粋メモ】
眉村さんの人物像、作品解説は、すでに石川喬司氏など論じ尽くされている
眉村さん自身の抱負は、『SFマガジン』に出た「矢野徹インタビュウ、この人との一時間」(第四回)がある

なにより、18年前に知り合った思い出話をするのが、私の役柄だろう
『SFマガジン』元編集長の森優氏が、同誌発刊後、半年ほどの1960年のこと
短篇2篇読んでみてほしいと言った

アイデア・ストーリー系列の原型で、福島正美氏のお気に召さないのも分かる感じだったが
私の同人誌『宇宙塵』にも書いてもらえないかと誘いの手紙を出した
今考えると後にも先にも初めてだ

『宇宙塵』に寄せた最初の作品は「その夜」と題する短篇で1961.11月に載った
私の知るかぎり、どの短編集にもまだ入っていない

ストーリーの裏にハッキリ見てとれるのは、登場する救いのない人々に注がれる作者の視線の温かさだ
温かくかつ厳しい視線の延長上に眉村SF路線があり、その創作姿勢は現在も小ゆるぎもない

1961年に初めてお会いし、早川書房にご一緒し、星新一宅で開かれた『宇宙塵』の月例会に出席
眉村さんは初対面に等しい私に身の上話をし、私は眉村さんを家に泊めた

商業誌へのデビューは、宝石社『ヒッチコック・マガジン』あたりで
本書収録の「下級アイデアマン」が『SFマガジン』の第1回コンテストで第二席入選
同誌の1961.10月号に掲載された

その後多忙になっても眉村さんは、一銭にもならないばかりか
選りすぐりの読者の辛らつな批評を浴びせられる『宇宙塵』への寄稿をずっと続けてくれ、32篇に及んだ
これは戸倉正三氏に次ぐ点数で、連載長編を数えればトップ

中篇「文明考」は、のちの東都書房の原田裕氏の目にとまり
長編に改作され、1963年に同社から『燃える傾斜』として発表された

眉村さんの作品群すべてに共通する要素として挙げられるのは、無数の「細かいアイデアの冴え」だ
ミステリー作家でトリック案出数の一番多いのが、短篇作家のチェスタートンという分析に相通じる→この人かな?

誰が言ったか

「戦争を描くのに、“戦記もの”と“戦争文学”の2つの道がある
 前者は大局に目を向け、後者はその中の個人に焦点を合わせるが
 当然それぞれ死角ができる

 古代中国の戦史文学は、指揮官たちの人物像に照明をあてて、1つの妥協点を見出したが
 SFは何かよりよいポイントをおさえうるのではないか」

今思えば、その新たなポイントへの最短距離にあるのが眉村さんの一貫した創作路線ではないか
学生や若年層より、組織内の社会人に多くのファンを擁していることも関連づけられ
眉村さんの真骨頂が浮かびあがるかもしれない




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