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『1億3000万人の自然エネルギー』(講談社)

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『1億3000万人の自然エネルギー』(講談社)
飯田哲也/著

福島原発事故になにか有意義な意味があったとすれば、
世界中に原発の怖さを証明して見せ、減らす、または全廃するキッカケを助長したことかもしれない。

大きな文字は簡潔に、小さい文字はより詳しい説明文を載せてメリハリをつけたレイアウト。
小さい文字が小さすぎで読みにくく、写真も小さいから、カラーで大きいほうがよかった気がする。


【内容抜粋メモ】

世界はいま、農業革命、産業革命、IT革命につぐ自然エネルギーによる「第四の革命」を迎えている。
自然エネルギーの御三家は、風力、太陽光、バイオマス。

今、世界のエネルギー消費量は、石油に換算して122億t/年。
日本は世界で5番目に多くCO2を排出している。

日本は化石燃料、ウランなど96%を輸入。世界2位の輸入依存度。

「いつなくなるか」より「生産ピークはいつか」が大切。
生産ピークによって、価格が急激に高くなって、経済や政治に影響するから。

石油エネルギーの8割は、電力以外の産業、運輸、化学工業などで使われている。


●高い目標が、実現を早める
政府は2020年までに自然エネルギーを電力量の20%にする計画を立てたが、先進国の目標としては低すぎる。
欧州では2050年までに100%自然エネルギーを目指す。


●グリーン・ジョブ
自然エネルギーの雇用は、化石燃料の雇用の2〜8倍。


●RPS法
2003年施行。電気事業者に一定量の新エネルギー導入を義務付けた。
制度上の欠陥から、自然エネルギーの促進どころか抑制法になっているのが実態。

電力会社が一方的に設けた制約(送電網につなげる連系可能量の制限)で風車導入希望者が増えているにも関わらず、
抽選や入札とされるなど参入が阻まれている。


*********************************太陽光、太陽熱

2005年までは日本が生産能力で世界のトップだったが、2010年は世界4位。
自然エネルギーの中でも雇用創出の規模が大きい。

国内企業のものより海外のほうが2〜3割安いため、太陽光パネルの輸入が急増。
次世代型の本命とされる「有機系太陽電池の実用化計画」が進んでいる。

「パッシブ・ソーラーハウス」
暖房、給湯に使われる熱エネルギーを太陽熱でまかなう。

「ソーラーオブリゲーション」
スペインで立法化。新築の建築物には、一定比率の太陽熱利用を義務付ける。


*********************************小水力

出力1万kw以下の「流れ込み式」「水路式」。
小水力が有利な点は、河川、砂防ダム、農業用水路、浄水下水、ビルの循環水、工業用水など、さまざまな水のエネルギーが使えること。
地域分散型で昼夜年間を問わずに稼動できる。

農業に関しては、水利権の問題を解決することが必要。


*********************************地熱、地中熱&燃料

現在、17の地熱発電所があり、全体の発電量の0.23%。

●「地熱バイナリー発電」が開発中
高温だけでなく、低温の温泉水でも発電できる。

「温泉が枯渇するのではないか」という心配があるが、
発電に利用するのは蒸気で、熱水は地中に戻すから影響がない。

摂氏150度以上の熱水資源の約8割は国立・国定公園特別保護地区・特別地域内にあるという問題を抱える。


*********************************海洋

海流・潮流を利用する「海流発電」、波を利用する「波力発電」、
潮の満ち引きの高低差を利用する「潮汐発電」、海の表面温度と深いところの温度差を利用した「海洋温度差発電」などがある。

海洋エネルギーに恵まれた日本では、波の力だけで国内の消費電力の1/3をまかなえると考えられている


*********************************風力発電

●「匿名組合」
ある組織が特定の事業を行うにあたり出資者から投資を募り、事業終了後に事業の損益を分配する契約。
出資者は多いものの、電力会社が導入量に制限をかけて「くじ引き」によって事業者を決め、競争率が極めて高いのが問題。


*********************************原子力発電

世界の原子力発電所の平均寿命は22年。福島原発は40年目。
原子力発電所は40年で廃炉することが想定されている。日本の原発の耐用年数は残り少ない。

イタリアはチェルノブイリ原発事故後、国民投票で原発を廃止した。
ドイツは2022年、スイスは2034年までに原発を止める計画。
デンマークは1980年代に原発を導入しないと決めた。
中国でも福島の原発事故の影響で、原発政策がスローダウンしている。今では世界一風力発電を使っている。


●自家発電
日本の原子力発電の設備は5000万kw。
企業が持っている自家発電は6000万kw。東京電力1社分と同じくらい。


発電所で燃やすエネルギーを100%とすると、
60%は廃熱、
5%は送電中に失われ、
35%が電気として利用される。


*********************************たとえば・・・

日本の土地の5%に太陽光発電を置くだけで、全国の電力量をまかなえます。
風力発電の潜在力をフルに活かせば、100万kwの原発500基分の電力があります。
地熱発電なら、原発23基分あります。


●東北地方
自然エネルギーのポテンシャルが非情に高く、とくに有望と言われる。


サハラ砂漠の1%の面積に集中太陽熱発電を建設すれば、欧州の全電力がまかなえる。
すでに40兆円もの投資が呼びかけられている。

スコットランドには、無尽蔵の海洋エネルギーがある
例:「オイスター」と呼ばれる潮流発電。

カルフォルニア州モハベ砂漠の太陽熱発電計画に、アメリカのエネルギー省は21億ドルの融資をした。


家庭のアンペア数を2割下げると、電力量を10%下げられる。
50アンペア→40アンペアにすると、約2500万kwの家庭の最大電力量のうち、10%分を引き下げられる。

非効率な電気暖房機、電気温水器、旧型エアコン・冷蔵庫を省エネタイプに買い替えるのも節電。
白熱電球→LEDに替える。
窓をペアガラスにする。

●近年、薪ストーブの需要が伸びている
薪ストーブは、CO2を吸収した木を燃やすため、CO2を出しても排出量の収支はゼロになる。
薪には、間伐材や、余った木材を再利用し、木質ペレットの利用も増えてきた。


*********************************もうはじまっている

●デンマーク
サムソ島は、自然エネルギー100%。主力産業になっている。
「地域オーナーシップ」:地域の人々がエネルギーを所有し管理する。

日本で風力発電を作る際、問題となるのは「低周波」「鳥への悪影響」「景観」。
デンマークではこうした反対運動はほとんど見られない→「土地利用計画(ゾーニング)」があるから。

エネルギーの消費を半減させながら「豊かな社会」を作り上げた。
物質的なものでなく、人間同士、自然との共生に重きを置く「成熟社会」と言える。


●ドイツ
自然エネルギーによる電気を電力会社が定価で全量買い取る「固定価格買取制度」を導入。
太陽光発電などは7〜10年で投資が回収できる。

温熱政策に該当する暖房は「輻射」が原則。
輻射:エアコンのように空気を温めるのではなく、建物や調度品を温める。

日本の暖房は(電気+ガス+石油)×(エアコン+ストーブ+ファンヒーター)が主流。
「エクセルギー」が高く、燃料のほぼすべてが輸入で、環境負荷が大きい枯渇性の資源。
エクセルギー:有効仕事量。質を伴うエネルギー価値。


高知県梼原町
エネルギー自給率100%を目指す環境モデル都市。

●瀬戸内海の祝島
100%自然エネルギー島の試みがスタート。

●岩手県葛巻町
風力発電所12基をたて、年間の発電量は5400万kw時(町が消費する電力の200%
酪農がさかんなため、家畜の糞尿を有機肥料としてリサイクルしている。

●京都の小中学校の大半は「小型風力発電」
マイクロ風力発電:1kw程度以下のもの。

●新丸ビル@東京
自然エネルギーでほぼ全電力をまかなっている。

「生グリーン電力」
青森県・北海道の風力発電所などでつくられた電気が「託送」によって直接ビルに送られてくる。

「特定規模電気事業者(PPS)」
2000年からスタートした電力の自由化の一例。
50kw以上の需要のある会社・工場等に地方で作られた電力が小売できる。


●長野県飯田市「おひさまエネルギーファンド」
太陽光発電、風力発電などへの投資ファンド。

●千葉県柏市「柏の葉キャンパスシティ」

●神奈川県藤沢市「Fujisawaサスティナブル・スマートタウン」

●山手線・中央線などは自家発電で走っている
JR東日本は、電力の60%を自給している。


*********************************解決に向けて

●発送電の分離
先進国のほとんどでは、発電と送電が分離されている。
新たな電気会社が参入しやすく、競争によって電気料金も安くなる。

日本では東西が50と60サイクルに分かれていて、技術的な問題から100万kwしか送電できないと思われている。
電力会社が地域独占なために、「鎖国的な電力市場」を形成してきた。


●スマートグリッド(次世代電力網)
電力を送る側と使う側でバランスをとって送受電する。
需要側の電力情報を「見える」ようにやりとりできるようになった。
一部の発電所にトラブルがあっても、一方的な「計画停電」などすることなく電力の需給の最適化が行われる。

●スマートメーター(次世代電力計)
スマートグリッドに必要な双方向の通信機能。
イタリアでは全世帯の85%にスマートメーターが設置されている。

●バーチャル発電所
複数の小型発電施設をネットワークでつなぎ、大型発電所のように見立てる。
発電量の変動が大きい発電施設に、安定供給が可能なバイオマス発電や、「コージェネレーション・システム」などを組み合わせ、
ネットワーク化すという考え方。

コージェネレーション:電気と熱を同時に供給するシステム。
この30年で70%増えた家庭のエネルギー消費のうち、50%以上を占めるのが給湯・暖房。
大型発電所で発電する際、発電される電気の倍以上のエネルギーのムダ、温排水が出る。
この熱で給湯・冷暖房をまかなうのがコージェネレーション・システム。


日本のエネルギー政策は、エネルギーを供給する人たちのために作られている。
「電気事業法」「ガス事業法」「石油業法」という3業法を束ねた「エネルギー事業者施策」。
これらはエネルギー産業の視点から、各事業者を育成・拡大しようとする施策。
さらに、電力会社の独占、つまり送電線の独占が、新しい電力事業者の参入を阻んでいる。


高エネルギー社会とは、物質的な生産と消費が拡大していく社会。
低エネルギー社会とは、社会的公正や人々との交際、ゆとりなどに価値を見いだす社会。


太陽、風、水、森、大地、生きものたちとともに生きて、
よりよい、安全で、公正な、だれもが幸福なかたちをしっかりと思い描くことで
エネルギーの姿も変わっていきます。


【あとがき抜粋メモ】

これからのエネルギー問題は、密室での議論ではなく、国民の間で広く議論することが必要。
多様な意見をさまざまな手段で反映する議論のプロセスを「熟議民主主義」と呼ぶ。
従来の政党政治、代議制民主主義は、専門性においても、政治システムから見ても、完全に行き詰っている。

エネルギーのあり方を問うことは、経済のあり方を問うことであり、
その先にある豊かさのあり方、幸福のあり方を問うことでもある。

遠い発電所から一方的に送られてくる電力ではなく、
地域で、必要なだけ電力をつくって共有しあう。
エネルギーをみずから選択、生産、管理する。
そうした「エネルギー・デモクラシー」が地域に根付くことが求められている。



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