■世界と日本の人口問題『ふえる人口 へる人口』(文研出版)
鬼頭宏/監修
私の母は、いつも発展途上国のニュースを見ると、「貧しいのに、どうしてあんなに子どもばっかり作るのかね」ってフシギがっている。
識字率99%の日本では、男女が平等に義務教育を受けて、病院も雇用も困らない環境で育つと、
世界にはそれが当たり前に受けられない、明日の命もどうなるか分からない暮らしが実際どうゆうものなのか想像できないでいる。
けれども、日本にもそんな貧しい時代があったし、祖父母の世代は7〜8人子どもを産むのが平均的だったし、
貧困と出生率の関係がまったく分からないのもおかしな話だな、と私は思うんだけど。
問題や現象には、必ず理由がある。複雑にからみあった背景を知って、
自分たちとは違った価値観、暮らしぶりがあることをキチンと知った上で、お互いを理解する必要があると思う。
【内容抜粋メモ】
動物は、食料が充分にあり、安全な環境のほうが、長生きでき、安心して子どもを育てることができ、人口が増えやすい。
だが、現代社会では、先進国の人口は減り、開発途上国の人口は増える傾向にある。
人口を調整することができれば、経済は成長し、安定した社会をつくることができる。
人口の増減の研究は、世界各国の重要なテーマになっている。
●小家族化
1700年終わり頃の産業革命以前は、農業が中心で、子どもは貴重な労働力であり、
家業を引き継ぎ、親を養うことがふつうだった。
少子化に伴い、先進国では、世帯規模が小さくなる「小家族化」が進んだ。
小家族で育った子どもは、大人になっても小家族の家庭をつくると言われている。
世帯=住居と家計をともにする家族構成の単位。
●子育てにかかる費用
日本では、子ども1人が成人するまでに必要な教育費+養育費の合計は、約2800〜4000万円だと言われる。
そして今、もっとも大きな負担になっているのは、老後の生活費。
●高くなる結婚年齢
・開発途上国の結婚年齢の平均は21歳。
・先進国の結婚年齢の平均は26歳。
婚姻率=人口1000人あたりの婚姻件数。先進国は婚姻率が年々下がっている。
日本の1人目の子どもを出産する平均年齢は30.1歳(2011年)。
女性の出産適齢期は20〜25歳とされていて、高くなるほど妊娠の可能性が低くなり、母体や子どもの危険度が増す。
●出産する平均年齢が上がった背景
・大学への進学率が上がり、就職年齢も上がり、仕事や貯蓄が安定してから結婚しようという考えが増えた。
・豊かな先進国では、消費が活発で、レジャーも多様化し、生活の価値観が変わった。
●結婚しないという選択
ヨーロッパの婚姻率は、年間3.4〜4.0と、とても低い。日本も5.5で開発途上国の半分以下。
フランス、イタリアなどカトリックは、離婚が認められにくいため、慎重になる人が増えている。
日本は第二次世界大戦後「第一次結婚ブーム」、1970年頃に「第二次結婚ブーム」が起きた。婚姻率10以上。
今は、結婚しない男性約16%、女性9%。
その背景には、1972年「男女雇用機会均等法」による女性の社会進出がある。
●仕事×育児の難しさ
日本では、女性の60%が出産前後に仕事を辞めてしまう。
「育児休業」に前向きでない企業が多いため。仕事を続けるために出産を諦める女性も少なくない。
●日本企業は、女性の幹部職への起用が進まない
日本の民間企業での女性幹部の割合は10.6%。アメリカは43%、。フランスは38.7%。
「育児休業」をとると昇進のさまたげになるのが現状。
共働きでも、男性の育児参加が少ない。
●戦後の産児制限
1948年「優生保護法」が制定/驚
「優生保護法」
母親の生命・健康を保護する目的で、不妊手術・人工妊娠中絶について定めた。1996年「母体保護法」となった。
「第二次ベビーブーム」の1974年、世界の人口爆発による資源不足・食料不足の不安から「静止人口」が望まれた。
「静止人口」
人口が増えることも減ることもなく一定を維持する「人口ゼロ成長」の状態。
人口増加の危機意識から、出生率が減少したと言われる。
**************************開発途上国の人口増加
●短い平均寿命
深刻な食料不足、栄養不足により、伝染病への抵抗力が低く、アフリカには平均寿命が50歳未満の国が多い。
「新生児死亡率」
1000人中40人亡くなる国が13カ国(2012年)ある。日本は1000人中1人。
理由は、干ばつなどの天候だけでなく、民族同士の紛争、権力争いで、住民は難民となり、
戦争が終わっても、荒れた農地で作物を育てるのは難しい。
●労働力としての子ども
開発途上国における18歳未満の児童労働者数は、世界で1億6800万人。うち約8500万人が15歳未満。
人体に有毒な農薬を扱ったり、有害物質の出る鉱山での採掘等、危険な仕事についている。
『児童労働 働かされる子どもたち』(リブリオ出版)参考。
国際的な支援により乳幼児の死亡率が下がり「多産少死」になりつつあるが、
子どもを多く産まないと不安だという気持ちはすぐには変化せず、それが人口増加につながっている。
●識字率の低さ
もっとも識字率が低いのは、アフリカのマリ26.2%。成人の4人に3人が読み書きできない。
交通標識が分からず事故が起きたり、工事などでもトラブルや事故が起きる。
国連は、後開発途上国における「家族計画」を進めている。
後開発途上国=開発途上国の中でも、とくに開発の遅れている国。
家族計画=家族にとってちょうどいい数の子どもを、適切な時期、間隔で作る計画性を持とうという考え方。
文書で知らせても識字率の低さから浸透していかない。
労働力を確保できなくなる不安から、家族計画を理解しても受け入れにくい問題がある。
5歳頃から働きはじめ、学校に通わず成人する。
とくに「女子には教育は必要ない」と学校に行かせてもらえないため、非識字者の2/3は女性といわれる。
その子どもが親になると、その子は同じ教育環境に置かれるという悪循環がつづく。
●進まない女性の地位向上
水汲みは女性の仕事。水場が遠いため、学校に行く時間がない
働く子どもの比率は、女子のほうが多い。
後開発途上国では、12〜15歳で強制的に結婚させられる。
未成熟な体で妊娠・出産するため、命を落とすことも多い。30万人/年間。
『くらべてわかる世界地図3 ジェンダーの世界地図』(大月書店)参考。
●仕事がない若者
開発途上国には、生産年齢人口(15〜64歳)の受け皿となる産業がない。
不満を爆発させてしばしば暴動が起きる
仕事を求めて、都市の人口が急速に増加し、生活設備や都市機能が追いつかない。
仕事のない若者が路上生活者となり、犯罪が多発する。
●開発途上国の高齢化
平均寿命の差は、年々小さくなり、後開発途上国の高齢化が心配されている。
社会保障費がかさみ、介護に必要な体力のある人材の確保がむずかしい。
1950年 1人の高齢者に対し、12人の労働人口がいた。
2050年 1人の高齢者に対し、わずか3人にまで減るといわれる。
**************************人口ボーナス
●人口ボーナスとは?
生産年齢人口の割合が高いと生産力・消費力が高まり、
年少人口+老年人口の割合が低いと、社会保障費などが抑えられ、経済成長にプラスにはたらく。
年少人口=0〜14歳
老年人口=65歳以上
ボーナス=余剰利益
●1960年代の高度経済成長は、人口ボーナスのおかげ
先進国の多くは第二次世界大戦後に人口ボーナスの恩恵を受けてきた。
●アメリカは人口減少が起きていない
・「移民政策」により、ヒスパニック系が増えている。
・産児制限の反対意見が多い。
ヒスパニック系=アメリカに住む、スペイン語を話すラテンアメリカ系住民。メキシコ、キューバ、プエルトリコからの移民が多い。
●中国
急速に人口増加し、人件費の低さを武器に、国内に工場・支社をつくるよう外国企業にはたらきかけた結果、
世界から20万もの企業が進出し「世界の工場」と呼ばれた。
2010年以降、中国経済が好調になり、より人件費の安い東南アジア(インド、ブラジル)に移転するようになった。
1979年の「一人っ子政策」で、2012年以降、生産年齢人口が減り、人口ボーナのスピークは過ぎたといわれる。
資源豊富なアフリカに進出したが、現地の労働力は使わず、中国人を労働者として移住させているという批判もある。
●開発途上国
インド、マレーシア、インドネシアは、2025年頃から人口ボーナスがはじまると予測されている。
ブラジルは、世界第5位の広大な国土をもち、良質な鉄鋼資源等がある。
ペルー、アルゼンチンなど周辺国家により、巨大な共同市場があり、
“つくって、売れる”消費市場としても注目される。
ブラジルの大規模農場によって大量生産される大豆畑
**************************人口オーナス
●人口オーナスとは?
人口構成が経済成長にマイナスにはたらくこと。「オーナス」=負担。先進国はほぼこの状態。
これまで蓄えた豊富な資金+技術力を若い世代に伝えることで、成長の可能性がある。
鬼頭宏/監修
私の母は、いつも発展途上国のニュースを見ると、「貧しいのに、どうしてあんなに子どもばっかり作るのかね」ってフシギがっている。
識字率99%の日本では、男女が平等に義務教育を受けて、病院も雇用も困らない環境で育つと、
世界にはそれが当たり前に受けられない、明日の命もどうなるか分からない暮らしが実際どうゆうものなのか想像できないでいる。
けれども、日本にもそんな貧しい時代があったし、祖父母の世代は7〜8人子どもを産むのが平均的だったし、
貧困と出生率の関係がまったく分からないのもおかしな話だな、と私は思うんだけど。
問題や現象には、必ず理由がある。複雑にからみあった背景を知って、
自分たちとは違った価値観、暮らしぶりがあることをキチンと知った上で、お互いを理解する必要があると思う。
【内容抜粋メモ】
動物は、食料が充分にあり、安全な環境のほうが、長生きでき、安心して子どもを育てることができ、人口が増えやすい。
だが、現代社会では、先進国の人口は減り、開発途上国の人口は増える傾向にある。
人口を調整することができれば、経済は成長し、安定した社会をつくることができる。
人口の増減の研究は、世界各国の重要なテーマになっている。
●小家族化
1700年終わり頃の産業革命以前は、農業が中心で、子どもは貴重な労働力であり、
家業を引き継ぎ、親を養うことがふつうだった。
少子化に伴い、先進国では、世帯規模が小さくなる「小家族化」が進んだ。
小家族で育った子どもは、大人になっても小家族の家庭をつくると言われている。
世帯=住居と家計をともにする家族構成の単位。
●子育てにかかる費用
日本では、子ども1人が成人するまでに必要な教育費+養育費の合計は、約2800〜4000万円だと言われる。
そして今、もっとも大きな負担になっているのは、老後の生活費。
●高くなる結婚年齢
・開発途上国の結婚年齢の平均は21歳。
・先進国の結婚年齢の平均は26歳。
婚姻率=人口1000人あたりの婚姻件数。先進国は婚姻率が年々下がっている。
日本の1人目の子どもを出産する平均年齢は30.1歳(2011年)。
女性の出産適齢期は20〜25歳とされていて、高くなるほど妊娠の可能性が低くなり、母体や子どもの危険度が増す。
●出産する平均年齢が上がった背景
・大学への進学率が上がり、就職年齢も上がり、仕事や貯蓄が安定してから結婚しようという考えが増えた。
・豊かな先進国では、消費が活発で、レジャーも多様化し、生活の価値観が変わった。
●結婚しないという選択
ヨーロッパの婚姻率は、年間3.4〜4.0と、とても低い。日本も5.5で開発途上国の半分以下。
フランス、イタリアなどカトリックは、離婚が認められにくいため、慎重になる人が増えている。
日本は第二次世界大戦後「第一次結婚ブーム」、1970年頃に「第二次結婚ブーム」が起きた。婚姻率10以上。
今は、結婚しない男性約16%、女性9%。
その背景には、1972年「男女雇用機会均等法」による女性の社会進出がある。
●仕事×育児の難しさ
日本では、女性の60%が出産前後に仕事を辞めてしまう。
「育児休業」に前向きでない企業が多いため。仕事を続けるために出産を諦める女性も少なくない。
●日本企業は、女性の幹部職への起用が進まない
日本の民間企業での女性幹部の割合は10.6%。アメリカは43%、。フランスは38.7%。
「育児休業」をとると昇進のさまたげになるのが現状。
共働きでも、男性の育児参加が少ない。
●戦後の産児制限
1948年「優生保護法」が制定/驚
「優生保護法」
母親の生命・健康を保護する目的で、不妊手術・人工妊娠中絶について定めた。1996年「母体保護法」となった。
「第二次ベビーブーム」の1974年、世界の人口爆発による資源不足・食料不足の不安から「静止人口」が望まれた。
「静止人口」
人口が増えることも減ることもなく一定を維持する「人口ゼロ成長」の状態。
人口増加の危機意識から、出生率が減少したと言われる。
**************************開発途上国の人口増加
●短い平均寿命
深刻な食料不足、栄養不足により、伝染病への抵抗力が低く、アフリカには平均寿命が50歳未満の国が多い。
「新生児死亡率」
1000人中40人亡くなる国が13カ国(2012年)ある。日本は1000人中1人。
理由は、干ばつなどの天候だけでなく、民族同士の紛争、権力争いで、住民は難民となり、
戦争が終わっても、荒れた農地で作物を育てるのは難しい。
●労働力としての子ども
開発途上国における18歳未満の児童労働者数は、世界で1億6800万人。うち約8500万人が15歳未満。
人体に有毒な農薬を扱ったり、有害物質の出る鉱山での採掘等、危険な仕事についている。
『児童労働 働かされる子どもたち』(リブリオ出版)参考。
国際的な支援により乳幼児の死亡率が下がり「多産少死」になりつつあるが、
子どもを多く産まないと不安だという気持ちはすぐには変化せず、それが人口増加につながっている。
●識字率の低さ
もっとも識字率が低いのは、アフリカのマリ26.2%。成人の4人に3人が読み書きできない。
交通標識が分からず事故が起きたり、工事などでもトラブルや事故が起きる。
国連は、後開発途上国における「家族計画」を進めている。
後開発途上国=開発途上国の中でも、とくに開発の遅れている国。
家族計画=家族にとってちょうどいい数の子どもを、適切な時期、間隔で作る計画性を持とうという考え方。
文書で知らせても識字率の低さから浸透していかない。
労働力を確保できなくなる不安から、家族計画を理解しても受け入れにくい問題がある。
5歳頃から働きはじめ、学校に通わず成人する。
とくに「女子には教育は必要ない」と学校に行かせてもらえないため、非識字者の2/3は女性といわれる。
その子どもが親になると、その子は同じ教育環境に置かれるという悪循環がつづく。
●進まない女性の地位向上
水汲みは女性の仕事。水場が遠いため、学校に行く時間がない
働く子どもの比率は、女子のほうが多い。
後開発途上国では、12〜15歳で強制的に結婚させられる。
未成熟な体で妊娠・出産するため、命を落とすことも多い。30万人/年間。
『くらべてわかる世界地図3 ジェンダーの世界地図』(大月書店)参考。
●仕事がない若者
開発途上国には、生産年齢人口(15〜64歳)の受け皿となる産業がない。
不満を爆発させてしばしば暴動が起きる
仕事を求めて、都市の人口が急速に増加し、生活設備や都市機能が追いつかない。
仕事のない若者が路上生活者となり、犯罪が多発する。
●開発途上国の高齢化
平均寿命の差は、年々小さくなり、後開発途上国の高齢化が心配されている。
社会保障費がかさみ、介護に必要な体力のある人材の確保がむずかしい。
1950年 1人の高齢者に対し、12人の労働人口がいた。
2050年 1人の高齢者に対し、わずか3人にまで減るといわれる。
**************************人口ボーナス
●人口ボーナスとは?
生産年齢人口の割合が高いと生産力・消費力が高まり、
年少人口+老年人口の割合が低いと、社会保障費などが抑えられ、経済成長にプラスにはたらく。
年少人口=0〜14歳
老年人口=65歳以上
ボーナス=余剰利益
●1960年代の高度経済成長は、人口ボーナスのおかげ
先進国の多くは第二次世界大戦後に人口ボーナスの恩恵を受けてきた。
●アメリカは人口減少が起きていない
・「移民政策」により、ヒスパニック系が増えている。
・産児制限の反対意見が多い。
ヒスパニック系=アメリカに住む、スペイン語を話すラテンアメリカ系住民。メキシコ、キューバ、プエルトリコからの移民が多い。
●中国
急速に人口増加し、人件費の低さを武器に、国内に工場・支社をつくるよう外国企業にはたらきかけた結果、
世界から20万もの企業が進出し「世界の工場」と呼ばれた。
2010年以降、中国経済が好調になり、より人件費の安い東南アジア(インド、ブラジル)に移転するようになった。
1979年の「一人っ子政策」で、2012年以降、生産年齢人口が減り、人口ボーナのスピークは過ぎたといわれる。
資源豊富なアフリカに進出したが、現地の労働力は使わず、中国人を労働者として移住させているという批判もある。
●開発途上国
インド、マレーシア、インドネシアは、2025年頃から人口ボーナスがはじまると予測されている。
ブラジルは、世界第5位の広大な国土をもち、良質な鉄鋼資源等がある。
ペルー、アルゼンチンなど周辺国家により、巨大な共同市場があり、
“つくって、売れる”消費市場としても注目される。
ブラジルの大規模農場によって大量生産される大豆畑
**************************人口オーナス
●人口オーナスとは?
人口構成が経済成長にマイナスにはたらくこと。「オーナス」=負担。先進国はほぼこの状態。
これまで蓄えた豊富な資金+技術力を若い世代に伝えることで、成長の可能性がある。