■『透光の樹』(2004)
原作:高樹のぶ子 監督:根岸吉太郎
出演:秋吉久美子、永島敏行、吉行和子、戸田恵子、村上淳 ほか
音楽:日野皓正
石川県鶴来町(現白山市)を舞台にした恋愛ドラマ。
秋吉さんと、永島さんの、濃密な大人の恋愛に酔いしれた
千桐が話す言葉のイントネーションに地方の温かみが感じられる。
セリフ1つ1つが刺激的で、成熟した魅力に溢れていて、
私はもともと記録魔だけど、今作ばかりは、全セリフを書き留めておきたい衝動に駆られた。
ときどき入る日野皓正さんのスモーキーなサックスが一段とシーンを盛り上げる
▼story
テレビ局の仕事を請け負う会社社長・今井郷は、自ら挨拶周りのため地方に行ったついでに
ADの駆け出しの頃、取材した有名な刀鍛冶・山崎火峯家を訪ねる。
火峯の娘・千桐が高校生の頃、巨木の杉に座った写真を撮った思い出話をする。
「覚えていないでしょうね」「覚えてますよ」
千桐は結婚して、中学生の娘・眉がいて、その後離婚した。
父・火峯は病床にあり、認知症もあって介護の日々、多額の借金もあるという。
今井には息子が2人いると話した。
家に招かれ、神棚の上の天井に「雲」という書がある理由を聞くと、
「2階で何をしても神さまに叱られん、そうゆうルールなんです」
再び杉を見に行く2人。借金で困っているなら力になるという今井に、
「テレビの仕事はお金持ちなんですね」
「バケツの水を右から左に移す時、少しこぼれる。それで喉を潤す。そうゆう世界です。
ウチの中がどうなっているか、怖くてウチに帰れない。
3ブロック先のフランス料理より、目の前の牛丼に飛びつく、女だって、金だってそうです」
(女性を牛丼に例えるなんて、ずいぶん乱暴だな
東京に戻った今井は、チギリに電話する。
「借金の返済をさせて下さい。目的は決まってるでしょう。あなたが目当て。
目的はあなたしかいない。・・・怒らせてしまいましたね。酒が入ってるんです」
「よろしくお願いします。私でよかったら」
カタクリの花が咲き乱れるという寺に案内するチギリ。
今井「化粧品の香りしない?」
チギリ「化粧品でなくて女そのものや。食べれるんですよ」
今井「実をつける前の花を食っちゃいけないな」
チギリ「この辺は春が一気にやってくるから、みんな狂ってしまう」
従妹がやっている宿に泊まるように言う。「チギリちゃんも泊まるでしょ?」
今井はチギリにお金を渡す。
「困るわ、こんな大金。私、そんな値打ちない」
「謝られると困る」
「引き返しますか?」
「いいえ! 約束ですから
私、決めとったんです。郷さんの娼婦になるって」
その後もホテルの喫茶店で再会する。
もらったお金で父を病院に入れることができたと、しきりに感謝するチギリ。
今井は気をきかせて、叔父の見舞いに行くと喫茶店を出るが、追うチギリ。
「お金で買えた女から何、期待してるんやろ?」
「君を追い詰めたくなかったから、ああ言わなきゃ君をホテルから帰せなくなった。
君は金と父に縛られて動けないんだ」
オフィスに留守録が入っていて、かけ直す今井。
「僕はお金で縛ろうとしていないのに、あなたが縛られたがってる。僕たちズレてる。
今の仕事が終わったら、また行きます。夜まで付き合って欲しい、今度は」
「分かっとります」
「・・・分かってないんだよ」
チギリは、パート先の寿司屋の主人らに釣りに誘われて行くと、元夫に再会する。
夫の浮気で離婚に至ったが、もとはチギリを征服できなかったからだという。
「お前が一度でも手を触れたもんは、こっぴどく汚されて立ち直れんがや!
チギリを抱きながら、チギリを捕まえられん。俺は狂った!」
ホテルで会う今井とチギリ。
「(渓流釣りで)フラーっとフライが落ちてきて誘うんや。あれは渓流を舞台にした狩りなんや」
「とことん潜り込んでみたい気持ちは分かる。今日は追い詰めるよ」
「覚えときます、ちゃんと。
今、分かりました。あなたが、どんなに一杯こんなことなさってきたかって」
会社の同僚と飲み、トイレで倒れる今井。
病院に行くと、末期の大腸がんだと告げられる。手術しても余命は短い。
医師「その少しばかりの時間が大切なのではないですか、人生では?」
今井は手術をやめて、投薬治療を選ぶ。
今度は、チギリが東京のオフィスを訪ねる。
「フシギだな。そんな快楽を残してみんな消えてゆく。感動してるんだよ。
こんなスゴイことは続きはしないんだ」
その後、高校生のチギリを撮ったブレた写真と手紙を送る今井。
「僕はレンズ越しに欲情してしまい、シャッターが押せなかった。
今、気づいた。僕は25年前、セーラー服のあなたを見てからずっと欲情していたんだ」
チギリの父が亡くなり、お焼香に来た今井。
「火峯さんの前では悪いな・・・抱きに来た」
同僚に社長の座を譲り、カラオケ屋で送別会をする。
(♪マイ・ウェイ歌ってた!
再び2人で温泉宿に泊まる。
「私、本当に郷さんの半分になってしまった」
帰りの電車を待つ2人。チギリはドアが閉まる寸前に飛び乗る。
「一緒に生きられんのやったら、一緒に死なせて! そやかて1人で生きられん!」
「あなたの体の半分は僕なんだ。勝手に殺したりしないでくれ」
「そやね、ココに郷さんがおるんやね」
「さよなら。次の駅で降りなさい。ありがとう」
*********************************
長生きだけが幸せじゃない場合だってあるよね。
それなのに「自分の分まで生きてくれ」と頼むのは、ある意味、残酷でもある。
大人の恋愛。一般的には「不倫」とも言うけど、性愛もここまで突き詰めると純粋な愛。
『マディソン郡の橋』も思い出した。
“撮影当初、今井郷役は萩原健一が担当していたが、監督やスタッフ・共演者に対して
暴言や暴行を繰り返したことにより製作サイドの意向で途中降板となった。”(ウィキ参照
結果的には、秋吉久美子さん×永島敏行さんで大正解
このベテラン2人が、一番脂ののった時期に、こんなラヴストーリーを残せたのも運命的。
濃密なラヴシーンを自然かつ情熱的に演じられる役者さんて意外と少ないんじゃないかな?
実際には周囲にカメラマンさんはじめ何十人ものスタッフに囲まれて、真剣に見つめられている中で、
2人きりの親密な空気を出すのは、想像以上に技術が必要だと思う。
原作:高樹のぶ子 監督:根岸吉太郎
出演:秋吉久美子、永島敏行、吉行和子、戸田恵子、村上淳 ほか
音楽:日野皓正
石川県鶴来町(現白山市)を舞台にした恋愛ドラマ。
秋吉さんと、永島さんの、濃密な大人の恋愛に酔いしれた
千桐が話す言葉のイントネーションに地方の温かみが感じられる。
セリフ1つ1つが刺激的で、成熟した魅力に溢れていて、
私はもともと記録魔だけど、今作ばかりは、全セリフを書き留めておきたい衝動に駆られた。
ときどき入る日野皓正さんのスモーキーなサックスが一段とシーンを盛り上げる
▼story
テレビ局の仕事を請け負う会社社長・今井郷は、自ら挨拶周りのため地方に行ったついでに
ADの駆け出しの頃、取材した有名な刀鍛冶・山崎火峯家を訪ねる。
火峯の娘・千桐が高校生の頃、巨木の杉に座った写真を撮った思い出話をする。
「覚えていないでしょうね」「覚えてますよ」
千桐は結婚して、中学生の娘・眉がいて、その後離婚した。
父・火峯は病床にあり、認知症もあって介護の日々、多額の借金もあるという。
今井には息子が2人いると話した。
家に招かれ、神棚の上の天井に「雲」という書がある理由を聞くと、
「2階で何をしても神さまに叱られん、そうゆうルールなんです」
再び杉を見に行く2人。借金で困っているなら力になるという今井に、
「テレビの仕事はお金持ちなんですね」
「バケツの水を右から左に移す時、少しこぼれる。それで喉を潤す。そうゆう世界です。
ウチの中がどうなっているか、怖くてウチに帰れない。
3ブロック先のフランス料理より、目の前の牛丼に飛びつく、女だって、金だってそうです」
(女性を牛丼に例えるなんて、ずいぶん乱暴だな
東京に戻った今井は、チギリに電話する。
「借金の返済をさせて下さい。目的は決まってるでしょう。あなたが目当て。
目的はあなたしかいない。・・・怒らせてしまいましたね。酒が入ってるんです」
「よろしくお願いします。私でよかったら」
カタクリの花が咲き乱れるという寺に案内するチギリ。
今井「化粧品の香りしない?」
チギリ「化粧品でなくて女そのものや。食べれるんですよ」
今井「実をつける前の花を食っちゃいけないな」
チギリ「この辺は春が一気にやってくるから、みんな狂ってしまう」
従妹がやっている宿に泊まるように言う。「チギリちゃんも泊まるでしょ?」
今井はチギリにお金を渡す。
「困るわ、こんな大金。私、そんな値打ちない」
「謝られると困る」
「引き返しますか?」
「いいえ! 約束ですから
私、決めとったんです。郷さんの娼婦になるって」
その後もホテルの喫茶店で再会する。
もらったお金で父を病院に入れることができたと、しきりに感謝するチギリ。
今井は気をきかせて、叔父の見舞いに行くと喫茶店を出るが、追うチギリ。
「お金で買えた女から何、期待してるんやろ?」
「君を追い詰めたくなかったから、ああ言わなきゃ君をホテルから帰せなくなった。
君は金と父に縛られて動けないんだ」
オフィスに留守録が入っていて、かけ直す今井。
「僕はお金で縛ろうとしていないのに、あなたが縛られたがってる。僕たちズレてる。
今の仕事が終わったら、また行きます。夜まで付き合って欲しい、今度は」
「分かっとります」
「・・・分かってないんだよ」
チギリは、パート先の寿司屋の主人らに釣りに誘われて行くと、元夫に再会する。
夫の浮気で離婚に至ったが、もとはチギリを征服できなかったからだという。
「お前が一度でも手を触れたもんは、こっぴどく汚されて立ち直れんがや!
チギリを抱きながら、チギリを捕まえられん。俺は狂った!」
ホテルで会う今井とチギリ。
「(渓流釣りで)フラーっとフライが落ちてきて誘うんや。あれは渓流を舞台にした狩りなんや」
「とことん潜り込んでみたい気持ちは分かる。今日は追い詰めるよ」
「覚えときます、ちゃんと。
今、分かりました。あなたが、どんなに一杯こんなことなさってきたかって」
会社の同僚と飲み、トイレで倒れる今井。
病院に行くと、末期の大腸がんだと告げられる。手術しても余命は短い。
医師「その少しばかりの時間が大切なのではないですか、人生では?」
今井は手術をやめて、投薬治療を選ぶ。
今度は、チギリが東京のオフィスを訪ねる。
「フシギだな。そんな快楽を残してみんな消えてゆく。感動してるんだよ。
こんなスゴイことは続きはしないんだ」
その後、高校生のチギリを撮ったブレた写真と手紙を送る今井。
「僕はレンズ越しに欲情してしまい、シャッターが押せなかった。
今、気づいた。僕は25年前、セーラー服のあなたを見てからずっと欲情していたんだ」
チギリの父が亡くなり、お焼香に来た今井。
「火峯さんの前では悪いな・・・抱きに来た」
同僚に社長の座を譲り、カラオケ屋で送別会をする。
(♪マイ・ウェイ歌ってた!
再び2人で温泉宿に泊まる。
「私、本当に郷さんの半分になってしまった」
帰りの電車を待つ2人。チギリはドアが閉まる寸前に飛び乗る。
「一緒に生きられんのやったら、一緒に死なせて! そやかて1人で生きられん!」
「あなたの体の半分は僕なんだ。勝手に殺したりしないでくれ」
「そやね、ココに郷さんがおるんやね」
「さよなら。次の駅で降りなさい。ありがとう」
*********************************
長生きだけが幸せじゃない場合だってあるよね。
それなのに「自分の分まで生きてくれ」と頼むのは、ある意味、残酷でもある。
大人の恋愛。一般的には「不倫」とも言うけど、性愛もここまで突き詰めると純粋な愛。
『マディソン郡の橋』も思い出した。
“撮影当初、今井郷役は萩原健一が担当していたが、監督やスタッフ・共演者に対して
暴言や暴行を繰り返したことにより製作サイドの意向で途中降板となった。”(ウィキ参照
結果的には、秋吉久美子さん×永島敏行さんで大正解
このベテラン2人が、一番脂ののった時期に、こんなラヴストーリーを残せたのも運命的。
濃密なラヴシーンを自然かつ情熱的に演じられる役者さんて意外と少ないんじゃないかな?
実際には周囲にカメラマンさんはじめ何十人ものスタッフに囲まれて、真剣に見つめられている中で、
2人きりの親密な空気を出すのは、想像以上に技術が必要だと思う。