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『HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア』(小学館)

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あなたのたいせつなものはなんですか?『HIV/エイズとともに生きる子どもたち ケニア』(小学館)
山本敏晴/写真・文

図書館巡りで見つけた1冊。

子どもが描く絵は自由だから、私は大好き

さまざまな違った文化や環境のもとで暮らす子どもたちに
「あなたのたいせつなものはなんですか?」と絵に描いてもらったら、
そこには、日本に住んで、豊かな暮らしを意識せずに送っている私たちには想像もできない厳しい現状が見えてくる。
と同時に、写真に撮られている彼らの笑顔は、日本の子どもたちよりも輝いて見えるのはなぜだろう?

無数の命を奪うエイズだけれども、実は、人々が抱く差別や偏見をなくすために生まれた病だったのかもしれないなと感じた。


【内容抜粋メモ】

[写真絵本]
もし、世界中のみんなが、大事なものの絵を見せっこできたら、
少しだけ理解し合えるようになり、争いを減らすことができ、
少しだけ、幸せに近づけるかもしれません。




「わたしのたいせつなものは、薬です。生き続けるために必要だと、母から言われました」

HIVは、免疫力である「リンパ球」に感染し、破壊するため、
免疫力が下がり、肺炎、下痢、結核、ある種のがんなどに罹りやすくなる。
たくさんの病気を発症した状態を「エイズ(後天性免疫不全症候群)」という。
HIVとともに生き続ける薬は、毎日たくさん、長期間飲み続けなければならない。

子どもたちのほとんどは「母子感染」。
すでに両親がエイズで亡くなっている子もたくさんいる。



「ぼくのたいせつなものは、ケニアです。今、ぼくが生きている場所だから」



主食は「ウガリ」。他に牛、鶏、ヤギなどを飼っている。
HIV予防に欠かせないのは、バランスの良い食事。



「わたしのたいせつなものは、病院です。毎月、3時間以上かけて通っています」

感染者は、リンパ球が減っていないか、半年に1回、血液検査を受ける。
減ってなくても、感染予防の抗生物質+ビタミン混合薬を飲む。
一定数以下になったら、さらに3種類の「抗HIV薬」を飲む。
副作用が出ることが多いため、毎月、診察して、薬の調整が必要。



「ぼくのたいせつなことは、将来、医師になることです」

ケニアでは、医師の数が少なく、ほとんどの病院で、診察を看護師がやっている。


HIV感染の3つの原因
・性行為
・母子感染(妊娠・出産時、授乳)
・血液感染(輸血など)


「VCT(自発的相談と検査)センター」
無料で検査を受けられる。夫婦やカップルで受けることがすすめられる。



「わたしのたいせつなものは、教会です。賛美歌を歌うのが好きだから」

ケニアには、40以上の民族がいて、その60%はプロテスタントのキリスト教徒。
昔は民族ごとに独自の「神」を信じていた(キリスト教の布教率も相当なものだね/驚



「わたしのたいせつなものは、家です。知らない人から見られる恐怖から守ってくれるから」



病院内にある「包括的治療センター(CCC)」で感染者は診察を受ける。
「CCC」という抽象的な名前は、周囲の偏見から守るため。
今では「CCCに行っている人は、HIV感染者だ」と知られ、診察に行きにくくなってしまった。

偏見の原因は、迷信や誤解。


「神は審判の日に、ひどい悪行を積んだ者を地獄に落とす。それがエイズ。エイズは神がかけた呪いだ。
 エイズ患者に近づくと、自分も呪われるから近づくな」
(ずいぶん冷たい神さまだね・・・

同性愛者、セックスワーカー(性行為を職業とする人)の間で広がった経緯があったため、
偏見がもたれ、「差別」が行われているため、治療に行くことができない。



「ぼくのたいせつなものは、川です」

「世界保健機関(WHO)」などの提言では、「1人あたり、1日最低15リットルの水が必要」とされている。
日本人は1日350リットル以上使っている(恵まれているんだなあ!



最近、ケニアでは、雨が減り、水不足が深刻。地球温暖化が原因といわれている。
水が足りないと、手洗いが出来ず、微生物に感染しやすい。
薬の副作用で下痢になった場合、「下痢による脱水」で死亡することが多い。

母親が感染者の場合、母乳から子どもに感染することがあるため、先進国では、ミルク(人工乳)を飲ませる。
ケニアでは、ミルクを溶かす「安全な水」がないため、生後半年間は母乳でも良いとされている。

安全でない水を飲んで、下痢などで死亡する子どもが、エイズの死亡率より高い。
そもそも高額なミルクを買うお金もない。



「ぼくのたいせつなものは、マタトゥ(乗り合いのバン)です」

ケニアの田舎には、バスなどの交通機関がない。道路の舗装もされずデコボコ。
患者もマタトゥで、片道3時間以上かけて病院にくる。その交通費は高額。


[ある家族の経済事情]
庭の畑でとれるトウモロコシが、1年で3袋。
1袋は約4000KES(日本円で約5千円)で売れる。
これが唯一の収入で、食事に使う塩、野菜を買う。2袋は自家で食べる。

病院にマタトゥで行くと、往復200KES(約200円)かかる。
毎月通うと、1年で年収の半分以上になってしまう。だから、病院に通えない。


「キベラ・スラム」

ケニアにあるアフリカ最大級のスラム。エイズ問題は「貧困」とも深く結びついている。



「わたしのたいせつなものは、家族です。心の支えだから」

毎日たくさんの薬を飲み続けるのは精神的な負担が大きいため、周りの励ましが必要。
薬を止めると、耐性ができ、耐性化したウイルスが世界に広がれば大問題となる。


「わたしのたいせつなことは、普段の生活を続けること。これにまさる幸せはありません」



「わたしのたいせつなことは、コミュニティーです。バナナの皮などを使って、カバンや帽子などを作っています。
 患者同士が助け合って、生活費、学費を稼ぐ。仲間がエイズで亡くなったら、その孤児たちを育てようと思っています」



「わたしは、一番たいせつなことは、教育だと思います。いっぱい勉強して、将来は大臣になりたい。
 困っている人に、水と食べ物を与え、道路を造って、みんなが病院に来られるようにします」


[HIVと日本]
世界には今、約3300万人が感染している。半数以上がアフリカ、特に多いのが南アフリカ。
近年は、インドや中国など、人口が10億人以上の国々で増加している。

日本には、約12000人いる。
しかし、エイズのように隠したがる病気は、実際の統計の10倍以上感染者がいるといわれる。

日本は、先進国で、唯一、感染者数が増加している国。



[わたしたちに出来ること]

HIV/エイズに対して正しい知識を持ち、偏見・差別をなくすこと。

「VCT(自発的相談と検査)」を受けるよう啓発すること。とくに、新しい性的パートナーをもった場合は検査が望まれる。
 母子感染を防ぐには、まず母親、できれば夫婦・カップルで検査を受けること。
 もし、HIV陽性で妊娠中でも、抗HIV薬を飲み、出産時に必要な処置を行い、ミルクを飲ませれば防げる。

性行為にはコンドームを使用すること。


[途上国の感染者を助けるには]

HIV/エイズに対して正しい知識を持ち、偏見・差別をなくすこと。
 アフリカでは、性行動の開始年齢が早いため、小学校から性教育・性行為感染症について教えることになっている。

途上国では、とくに女性で文字の読めない人が多いため、初等教育が大切。

途上国では、医師・看護婦が足りない。医療従事者を育てる学校・教師の育成が必要。

通院、安全なミルクをつくるために、道路・上水道などインフラの整備が必要。

交通機関があっても、貧しい人々は病院に行けない。コミュニティーを通して、職業訓練、商品づくり、売る方法を確立すること。

これらのことに、日本の青年海外協力隊も参加している。
病院内に「遊び部屋」をつくり、子どもたちに「痛くて怖い所」ではなく「楽しい所」と思ってもらうことは大切な仕事。
偏見・差別などでイジメられた場合は、悩み相談にも応じている。


[著者紹介]
山本敏晴
特定非営利活動法人(NPO法人)宇宙船地球号の代表者。
その他の著書に、『世界で一番いのちの短い国』『世界と恋するおしごと 国際協力のトビラ』などがある。


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